Chlamydia属細菌のうち,3つの菌種がヒトにおいて性感染症や呼吸器感染症などの疾患を引き起こす。診断方法は菌種により異なり,培養,核酸増幅検査(NAAT),または血清学的検査を行うことがある。治療は妊娠中でない患者にはドキシサイクリンで,妊娠中の女性にはアジスロマイシンで行う。
クラミジアは非運動性の偏性細胞内寄生細菌である。DNA,RNA,およびリボソームをもち,タンパク質や核酸を自ら合成する。しかし,4種類のヌクレオシド三リン酸のうち3種類を宿主細胞に依存しており,クラミジアタンパク質の合成に宿主のアデノシン三リン酸(ATP)を利用する。
Chlamydia属には現在12の菌種があり,そのうち次の3菌種がヒトの疾患を引き起こす:
Chlamydia trachomatis
Chlamydia pneumoniae
Chlamydia psittaci
クラミジアは持続感染を引き起こす可能性があるが,その多くは不顕性である。
Chlamydia trachomatis
C. trachomatisは免疫学的に定義された18種類の血清型に分類される:
血清型A,B,Ba,Cは眼疾患であるトラコーマを引き起こす。
血清型D~Kは粘膜表面に限局した性感染症(STI)を引き起こす。
血清型L1,L2,L3は侵襲性リンパ節感染症(鼠径リンパ肉芽腫)につながるSTIを引き起こす。
米国において,C. trachomatisは以下のようなSTIの最も頻度の高い原因細菌である:
C. trachomatisの母子感染は,新生児結膜炎および新生児肺炎の原因となる。妊娠女性に対して出生前のスクリーニングおよび治療を広く実施することにより,米国では乳児のC. trachomatis感染症の発生率が大幅に減少した(1)。
菌は成人(通常は男性と性行為をする男性[men who have sex with men:MSM])の直腸および咽喉から分離することができる。L2株による直腸感染は,HIV陽性のMSMにおける急性炎症性腸疾患と類似した重症の直腸結腸炎を引き起こすことがある。
Chlamydia pneumoniae
肺炎クラミジア(C. pneumoniae)は,肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)による肺炎と臨床的には鑑別できない肺炎を引き起こすことがある(特に小児および若年成人)。肺炎クラミジア(C. pneumoniae)感染患者の一部では,肺炎,嗄声,および咽頭痛に続いて咳嗽がみられ,咳嗽が遷延して気管支攣縮を併発することもある。
市中肺炎症例の約6~19%が肺炎クラミジア(C. pneumoniae)によるものである。肺炎クラミジア(C. pneumoniae)による肺炎のアウトブレイクは,集団生活環境(例,介護施設,学校,軍事施設,刑務所)の中にある人々にとって特に大きなリスクとなる。発生の季節変動は観察されていない。
肺炎クラミジア(C. pneumoniae)はまた反応性気道疾患に対する感染性の誘発因子であることが示唆されている。
Chlamydia psittaci
(米国疾病予防管理センター[Centers for Disease Control and Prevention:CDC]のPsittacosis: For Clinicians and Laboratoriansも参照のこと。)
C. psittaciはオウム病を引き起こす。ヒト疾患を引き起こす菌株は通常,オウムをはじめとするオウム類から感染し,肺炎を特徴とする疾患を引き起こす。患者には重度の頭痛や肝機能検査値異常がみられることがある.
オウム病はまれな感染症である。2010年以降,CDCに報告されている症例数は基本的に年間10例未満で推移している(CDCのPsittacosisも参照)。しかしながら,軽症例もあることから,オウム病は過小診断されている可能性がある。例えばペットの鳥の飼い主,獣医師,家禽産業の労働者など,疫学的な曝露歴が非常に重要である。これまでに,家禽処理施設で七面鳥やアヒルを取り扱う作業者の間でアウトブレイクが複数回発生している。
総論の参考文献
1.Kohlhoff S, Roblin PM, Clement S, et al: Universal prenatal screening and testing and Chlamydia trachomatis conjunctivitis in infants.Sex Transm Dis 48(9):e122–e123, 2021. doi: 10.1097/OLQ.0000000000001344
クラミジアの診断
C. trachomatisには核酸検査
肺炎クラミジア(C. pneumoniae)には培養または核酸検査
C. psittaciには血清学的検査またはPCR検査(利用可能な場合)
(CDCの2021 Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines: Chlamydial Infectionsも参照のこと。)
C. trachomatisによるSTIは,性器から採取した検体の核酸増幅検査(NAAT)で最も確実に同定できるが,その理由は,この種の検査の方が細胞培養より感度が高く,検体操作の条件が厳格ではないためである。現在では,成人および青年の性器および尿検体の検査にNAATが利用できる。性器感染症に対するNAATは,患者または医師が採取した尿または腟スワブ検体を用いて実施することができる。いくつかの市販のNAATが性器外感染症(例,直腸または咽頭の感染症)に対して承認されている。
血清学的検査は,鼠径リンパ肉芽腫やオウム病の診断を除いて,有用性は限られている。
肺炎クラミジア(C. pneumoniae)は気道検体の培養またはNAAT検査により診断する。肺炎クラミジア(C. pneumoniae)に対するNAATは2つあり,複数の呼吸器病原体を同時に検査するパネルの一部として利用可能である。
C. psittaci感染症の診断における最も重要な手がかりは鳥類との濃厚接触であり,典型的にはオウムやインコなどのペットの鳥であるが,獣医師や七面鳥およびアヒルの食肉加工工場の従業員も対象に含まれる。診断は血清学的検査により確定される。培養は一般に利用できない。C. psittaciに対する市販のNAATはないが,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)と一部の専門検査施設でPCRが実施可能である。(CDCのDifferent methods for diagnosing psittacosisも参照のこと。)
診断に関する参考文献
1.Kohlhoff S, Roblin PM, Clement S, et al: Universal prenatal screening and testing and Chlamydia trachomatis conjunctivitis in infants.Sex Transm Dis 48(9):e122–e123, 2021. doi: 10.1097/OLQ.0000000000001344
スクリーニング
クラミジアの性器感染は頻度が高く,一方で無症状のことや軽度ないし非特異的な症状しか引き起こさないことが多い(特に女性の場合)ことから,STIのリスクが高い無症状の個人を対象としたルーチンのスクリーニングがCDCによって推奨されている(2021 Sexually Transmitted Diseases Treatment Guidelines: Screening Recommendations and Considerations Referenced in Treatment Guidelines and Original Sources: Chlamydiaを参照)。
スクリーニングに関する推奨の要約については,クラミジアのスクリーニングも参照のこと。
クラミジアの治療
妊娠中でない患者にはドキシサイクリン
妊娠中の女性にはアジスロマイシン
妊娠中でない青年および成人の泌尿生殖器クラミジア感染症に対しては,ドキシサイクリン100mg,経口,1日2回,7日間が推奨される治療法である(1)。泌尿生殖器クラミジア感染症の治療についてドキシサイクリンとアジスロマイシンを比較したランダム化試験のレビューにより,男性患者ではドキシサイクリンよりもアジスロマイシンで微生物学的治療の失敗が多いことが明らかにされた(2)。この推奨はまた,男性と性行為をする男性の直腸感染症の治療において7日間のドキシサイクリン投与がアジスロマイシンの単回投与より優れていることを示した研究結果にも基づいている(3)。女性では直腸感染症のスクリーニングがルーチンに行われていないことから,ドキシサイクリンの使用に関する推奨は女性にも拡大された。
別の治療選択肢としてアジスロマイシン1g,経口の単回投与がある。 アジスロマイシンは,コンプライアンスの問題が想定されるか,7日間にわたるドキシサイクリンの反復投与に耐えられない可能性がある集団において有用となりうる。
妊娠中の女性にはアジスロマイシン1g,経口の単回投与のみが可能である。
現在のセックスパートナーも治療すべきである。患者は自身とパートナーが1週間以上治療を受けるまで性交を控えるべきである。
淋菌感染症が判明していて,クラミジア感染症が除外されていない場合(淋菌感染症に対して現在利用可能なNAATはいずれもC. trachomatisに対する検査も兼ねているため,まれなケースである)には,同時に淋菌感染症に対する治療が推奨される。
妊婦のスクリーニングおよび治療は,結膜炎や肺炎などの新生児クラミジア感染症を予防する最も効果的な方法である。エリスロマイシンまたはその他の製剤による新生児の眼感染予防では,新生児のクラミジア結膜炎は予防できない。
アジスロマイシンおよびドキシサイクリンは,肺炎クラミジア(C. pneumoniae)感染症およびオウム病に対する第1選択の抗菌薬である。
具体的な感染症については,本マニュアルの別の箇所で考察している:鼠径リンパ肉芽腫および尿道炎,骨盤内炎症性疾患,精巣上体炎,反応性関節炎,新生児結膜炎,新生児肺炎,トラコーマ,および封入体結膜炎。
治療に関する参考文献
1.Centers for Disease Control and Prevention: Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021: Chlamydial Infections: Chlamydial Infection Among Adolescents and Adults.Accessed 03/30/2023.
2.Páez-Canro C, Alzate JP, González LM, et al: Antibiotics for treating urogenital Chlamydia trachomatis infection in men and non-pregnant women. Cochrane Database Syst Rev 1(1):CD010871, 2019.doi: 10.1002/14651858.CD010871.pub2
3.Dombrowski JC, Wierzbicki MR, Newman LM, et al: Doxycycline versus azithromycin for the treatment of rectal chlamydia in men who have sex with men: A randomized controlled trial.Clin Infect Dis 73(5):824–831, 2021.doi: 10.1093/cid/ciab153
要点
C. trachomatisはトラコーマまたはSTIを引き起こし,母子感染は新生児結膜炎や新生児肺炎の原因となりうる。
肺炎クラミジア(C. pneumoniae)は肺炎を引き起こすことがある(特に小児および若年成人と閉鎖環境下の集団)。
C. psittaciは通常,オウムをはじめとするオウム類から感染し,まれに肺炎(例,オウム病)を引き起こす。
C. trachomatisおよび肺炎クラミジア(C. pneumoniae)感染症は核酸増幅検査により診断する。
無症状の高リスク患者には,クラミジアによる性感染症のスクリーニングを実施する。
妊娠中でない患者はドキシサイクリンで治療し,妊娠中の女性はアジスロマイシンで治療する。
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
Centers for Disease Control and Prevention (CDC): 2021 Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines: Chlamydial Infections
CDC: 2020 Recommendations for Providing Quality Sexually Transmitted Diseases Clinical Services
CDC: Psittacosis
Avian Chlamydiosis: A resource providing information about zoonotic risk of avian chlamydiosis