クラミジアおよびマイコプラズマによる粘膜感染症

執筆者:Sheldon R. Morris, MD, MPH, University of California San Diego
レビュー/改訂 2023年 1月
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非淋菌性STDとしての尿道炎,子宮頸管炎,直腸炎,および咽頭炎は,主にクラミジアが原因であるが,まれにマイコプラズマによることもある。クラミジアは,卵管炎,精巣上体炎,肝周囲炎,新生児結膜炎,および乳児肺炎も引き起こすことがある。未治療のクラミジア卵管炎は慢性化し,引き起こす症状は最小限であるが,重篤な転帰を招く。診断は培養,抗原の免疫測定法,または核酸検査による。治療は通常,ドキシサイクリンまたはアジスロマイシンによる。

性感染症の概要も参照のこと。)

複数の病原体が非淋菌性STDの原因となり,女性では子宮頸管炎,男女で尿道炎,直腸炎,および咽頭炎が生じることがある。これらの病原体には以下のものがある:

  • Chlamydia trachomatis鼠径リンパ肉芽腫症[まれ],非淋菌性尿道炎の症例の約50%,および粘液膿性子宮頸管炎の症例の大半の原因となる)

  • Mycoplasma genitaliumおよびM. hominis(女性では泌尿生殖器感染症を引き起こすが,男性では引き起こさない)

  • 腟トリコモナス(Trichomonas vaginalisトリコモナス症

「非特異的尿道炎」という不正確な用語が使用されることもあるが,検査でクラミジアおよび淋菌が陰性で他の病原体が特定されない場合にのみ使用できる。

クラミジアおよびマイコプラズマは,トラコーマおよび新生児結膜炎(クラミジア)や肺炎(クラミジアおよびマイコプラズマ)など,性感染によらない感染症も引き起こす。

クラミジアの症状と徴候

男性は7~28日間の潜伏期後に症候性の尿道炎を発症し,通常軽度の排尿困難,尿道不快感,および透明ないし粘液膿性の分泌物により始まる。分泌物はわずかで,症状は軽度のことがあり,早朝にはより著明となる場合が多い;その後,外尿道口がしばしば赤くなり,乾燥した分泌物により塞がれ,下着を汚すこともある。ときに発症がより急性かつ重症で,重度の排尿困難,頻尿,および淋菌性尿道炎に類似した多量の膿性分泌物を伴うことがある。感染が進行して精巣上体炎を来す場合もある。感染者との直腸または口腔性器接触の後に,直腸炎または咽頭炎が発生することがある。

女性では通常は無症状に経過するが,帯下,排尿困難,頻尿および切迫尿意,骨盤痛,性交痛,ならびに尿道炎の症状が起こりうる。黄色の粘液膿性滲出液と子宮腟部びらん(赤い頸管内上皮が頸部の腟表面上まで拡大した状態)を伴う子宮頸管炎が特徴的である。骨盤内炎症性疾患(PID;卵管炎および骨盤腹膜炎)は下腹部不快感(典型的には両側性)のほか,腹部,付属器,および子宮頸部を触診されたときに著しい圧痛を引き起こすことがある。PIDの長期的影響としては,異所性妊娠や不妊症などがある。フィッツ-ヒュー-カーティス症候群(肝周囲炎)では,右上腹部痛,発熱,および嘔吐が生じることがある。

クラミジアは,眼に移動し急性結膜炎を引き起こすことがある。

性器および腸管感染症に対する免疫反応による反応性関節炎は,成人におけるクラミジア感染症のまれな合併症である。反応性関節炎は,皮膚病変(膿漏性角化症[keratoderma blennorrhagicum]),眼病変(結膜炎およびぶどう膜炎),非感染性再発性尿道炎,または亀頭炎を合併する。

クラミジア反応性関節炎の画像
クラミジア反応性関節炎における膿漏性角皮症
クラミジア反応性関節炎における膿漏性角皮症

    クラミジア反応性関節炎患者の少数では,関節炎,足の皮膚変化(膿漏性角皮症),結膜炎,および尿道炎または亀頭炎から成る症候群がみられる。

Image courtesy of Susan Lindsley via the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.

クラミジア反応性関節炎における結膜炎
クラミジア反応性関節炎における結膜炎

クラミジア反応性関節炎患者の少数は,関節炎に伴って足の皮膚変化(膿漏性角化症),結膜炎,ぶどう膜炎,尿道炎,または亀頭炎がみられる症候群を呈する。

Image courtesy of Joe Miller via the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.

クラミジア反応性関節炎における亀頭炎
クラミジア反応性関節炎における亀頭炎

    クラミジア反応性関節炎患者の少数では,関節炎,足の皮膚変化(膿漏性角皮症),結膜炎,および尿道炎または亀頭炎から成る症候群がみられる。

Image courtesy of Drs. Weisner and Kaufman via the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.

クラミジア子宮頸管炎の女性から生まれた乳児は,クラミジア肺炎または新生児眼炎(新生児結膜炎)を発症することがある。

クラミジアの診断

  • 子宮頸部,尿道,咽頭,または直腸滲出液もしくは尿の核酸検査

尿道炎,卵管炎,子宮頸管炎,または原因不明の直腸炎を有する患者ではクラミジアまたはマイコプラズマ感染症が疑われるが,淋菌感染症でも類似の症状が生じうる。

尿道炎の臨床所見は明確でないが,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)の2021 Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelinesによると,以下のいずれかをもって尿道炎と確認することができる:

  • 診察で粘液性,粘液膿性,または膿性の分泌物を認める

  • 遠心分離後の早朝尿中に強拡大で1視野当たり10個以上の白血球を認める

  • 早朝尿の検査で白血球エステラーゼが陽性となる

  • グラム染色した尿道分泌物中の白血球数が油浸で1視野当たり2個以上である

クラミジアの有無を確認するため,子宮頸部もしくは腟の擦過検体,または男性の尿道もしくは直腸滲出液を採取する。子宮頸部または尿道検体の代わりに尿検体を使用することもできる。咽頭や直腸の感染症を検査するには,これらの部位の拭い液が必要になる。

市販の核酸増幅検査(NAAT)はクラミジアへの感度および特異度が極めて高く,自己採取した尿または腟分泌物の検体でも検査ができるため,尿道または子宮頸部の不快なスワブを行う必要がない。ポイントオブケアで行えるNAATのプラットフォームが利用可能であり,当日中に結果(same-visit results)を得ることができる。一般に,咽頭および直腸から採取した検体での検査は,これらの部位に対するこの種の検査の利用について妥当性を確認した施設でのみ行われるべきである。

他のSTI(特に淋菌感染症)がしばしば併存するため,症状を伴う尿道炎がある患者には淋菌の検査も行うべきである。淋菌またはクラミジア感染症と診断された全ての患者は,梅毒およびHIVを含めて,他のSTIの検査を受けるべきである。

Mycoplasma genitaliumは市販のNAAT検査を用いて検出できるが,広く利用できない場合もある。

米国では,クラミジア感染症,淋菌感染症,および梅毒の確定症例は,公衆衛生機関に報告しなければならない。

クラミジアのスクリーニング

尿検体または自己採取された腟スワブ検体を用いるNAAT検査は,性器の診察を行う必要がないため,無症状ながらSTIのリスクが高い個人のスクリーニングに特に有用である。スクリーニングの推奨は性別,年齢,性習慣,および状況により変化する。以下の記載はCDCのSexually Transmitted Infections (STI) Treatment Guidelines, 2021に基づくものである:

女性には,25歳未満で性的に活動的であるか,25歳以上で性的に活動的かつ以下の危険因子を少なくとも1つ有する場合,年1回のスクリーニングを行う:

  • STIの既往がある

  • 高リスクの性行動をとっている(例,新たなセックスパートナーもしくは複数のセックスパートナーをもつ,風俗業に従事している,または互いに唯一のセックスパートナーでない相手との性行為にコンドームを一貫して使用していない)

  • STIに罹患しているか高リスク行動をとるパートナーがいる(例,セックスパートナーに同時に複数のパートナーがいる)

  • 刑務所に入所していたことがある

25歳未満または25歳以上で危険因子が少なくとも1つある妊婦には,初回の妊婦健診時にスクリーニングを行い,リスクが高いままであれば第3トリメスターにも再度スクリーニングを行う。

American College of Obstetrics and Gynecology(ACOG)は,全ての妊婦に対して妊娠初期にクラミジアの検査を行い,危険因子を有する女性には第3トリメスターに再検査を行うことを推奨している。ACOGはまた,25歳以下の妊婦と淋菌感染症がよくみられる地域の居住者に対して淋菌感染症の検査を推奨している。(ACOG: Routine Tests During Pregnancyを参照のこと。)

異性間で性的に活動的な男性には,クラミジア感染の有病率が高い臨床状況(例,青年クリニック,STI外来,矯正施設)を除いて,ルーチンにスクリーニングは実施しない。

男性と性行為をする男性には,過去1年間に性的に活動的であった場合,コンドームの使用の有無にかかわらず,少なくとも年1回のスクリーニングを実施する(挿入側の場合は尿スクリーニング検査,受け側の場合は直腸拭い液,口腔性交の場合は咽頭拭い液)。リスクが高い個人(例,HIVに感染している,抗レトロウイルス薬による曝露前予防を受ける,複数のセックスパートナーがいる,自身のパートナーに複数のパートナーがいる)には,より頻回に(3~6カ月間隔)スクリーニングを行うべきである。

トランスジェンダーおよびジェンダーダイバースの個人には,性的に活動的であれば,性習慣と解剖学的状況に基づいてスクリーニングを行う(例,25歳未満で子宮頸部を有する全ての人に年1回のスクリーニングを行う;25歳以上で子宮頸部を有する人はリスクが高い場合,年1回のスクリーニングを行うべきである;性行動および曝露についての患者報告に基づき直腸拭い液を採取する)。

(US Preventive Services Task Forceのクラミジア感染症のスクリーニングに関する推奨の要約も参照のこと。)

クラミジアの治療

  • 経口抗菌薬(アジスロマイシンが好ましい)

  • 除外されていない場合は,淋菌感染症に対する経験的治療

  • セックスパートナーの治療

合併性を伴わないクラミジア感染症が証明されているか疑われる場合は,以下のいずれかにより治療する:

  • アジスロマイシン1g,経口,単回

  • ドキシサイクリン100mg,経口,1日2回,7日間

  • レボフロキサシン500mg,経口,1日1回,7日間

アジスロマイシン(単回投与で済む)は,7日間の反復投与を要する薬剤より望ましいが,直腸クラミジアにはドキシサイクリンの方が望ましい可能性を示唆したエビデンスもある(1)。

妊婦には,アジスロマイシンを1g,経口,単回で使用すべきである。妊婦に対する代替選択肢としてアモキシシリン500mg,経口,1日3回,7日間がある。妊婦は治療開始から4週間後に治癒判定の検査を受け,3カ月以内に再検査を受けるべきである。

マイコプラズマに対して望ましい治療は,ドキシサイクリン100mg,経口,1日2回,7日間に続いて,アジスロマイシンへの感受性が不明またはアジスロマイシン耐性が判明している患者ではモキシフロキサシン400mg,経口,1日1回,7日間の投与を行う(2)。アジスロマイシンへの感受性が判明している場合の治療は,ドキシサイクリン100mg,経口,1日2回,7日間に続けて,アジスロマイシン1g,経口,初回投与,さらに500mg,経口,1日1回,3日間の投与を行う。

これらのレジメンでは,クラミジア感染症患者の多くに併存する淋菌感染症を確実に治療することができない。したがって,淋菌感染症が除外されていない場合は,セフトリアキソン500mg,筋注(体重150kg以上の患者には1g,筋注)の単回投与を治療に含めるべきである。

再発する患者(約10%)は,通常はクラミジアに対する治療法に反応しない病原体に同時感染しているか,治療後に再感染したと考えられる。

クラミジア感染症と淋菌感染症のほか,可能であればマイコプラズマ感染症およびトリコモナス症の検査も行うべきである。

トリコモナス症の流行地域では,PCR検査によって患者がトリコモナス症陰性であることがわかっている場合を除き,メトロニダゾールによる経験的治療が推奨される。

現在のセックスパートナーも治療すべきである。患者は自身とパートナーが1週間以上治療を受けるまで性交を控えるべきである。

クラミジア性器感染症は無治療で放置しても,症状および徴候は約3分の2の患者で4週間以内に消失する。しかしながら,女性では無症候性の子宮頸部感染症が持続することがあり,慢性子宮内膜炎,卵管炎,または骨盤腹膜炎ならびにそれらの続発症(骨盤痛,不妊,異所性妊娠リスクの増加)を来す。クラミジア感染症は,症状が軽度またはない時でさえ,女性では長期的に重篤な結果を招きうるため,女性の感染症を発見し,患者およびセックスパートナーを治療することは極めて重要である。

治療に関する参考文献

  1. 1.Kong FYS,  Tabrizi SN,  Fairley CK, et al: The efficacy of azithromycin and doxycycline for the treatment of rectal chlamydia infection: a systematic review and meta-analysis.J Antimicrob Chemother 70: 1290–1297, 2015.doi: 10.1093/jac/dku574 

  2. 2.Centers for Disease Control and Prevention: Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021: Mycoplasma genitalium.Accessed June 27, 2022.

要点

  • 性感染症としてのクラミジアおよびマイコプラズマ感染症は,尿道,子宮頸部,子宮付属器,咽頭,または直腸を侵すことがある。

  • 核酸増幅検査により診断する。

  • 淋菌感染症,梅毒,HIV感染症など,他のSTIの同時感染がないかも検査する。

  • 無症状の高リスク患者には,クラミジア感染症のスクリーニングを行う。

  • 淋菌感染症が除外されていない場合は,淋菌感染症に治療効果のある抗菌薬レジメンを使用する。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. US Preventive Services Task Force: Chlamydia and Gonorrhea: Screening: A review of evidence that screening tests can accurately detect chlamydia and gonorrhea

  2. Centers for Disease Control and Prevention: Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021: Diseases Characterized by Urethritis and Cervicitis: Clinical guidance on treatment of STIs, prevention strategies, and diagnostic recommendations

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