ナトリウムは細胞外液中で浸透圧活性をもつ主要なイオンであるため,体内総ナトリウム量が細胞外液量を規定する。体内総ナトリウム量の不足または過剰により,細胞外液量の減少または過剰が生じる。血清ナトリウム濃度は必ずしも体内総ナトリウム量を反映しない。(水とナトリウムの平衡も参照のこと。)
食事摂取および腎排泄により体内総ナトリウム量が調節される。総ナトリウム量および細胞外液量が少ない場合,腎臓はナトリウム保持を増加させる。総ナトリウム量および細胞外液量が多い場合,ナトリウム排泄(ナトリウム利尿)が増加して細胞外液量は減少する。
腎臓のナトリウム排泄はナトリウム摂取に応じて幅広く調節される。腎臓でのナトリウム排泄には,まずナトリウムが腎臓に到達している必要があるため,排泄は腎血流量および糸球体濾過量(GFR)に依存する。したがって,不十分なナトリウム排泄は,慢性腎臓病または心不全にみられるような腎血流量の減少に続発することがある。
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系は,腎臓でのナトリウム排泄の主要な調節機構である。体液量が減少した状態では,GFRおよび遠位ネフロンへの塩素イオンの輸送が減少しレニンが放出される。レニンはアンジオテンシノーゲン(レニン基質)を切断してアンジオテンシンIを生成する。次にアンジオテンシン変換酵素(ACE)がアンジオテンシンIを切断してアンジオテンシンIIに変換する。アンジオテンシンIIは以下の作用を有する:
ナトリウムの濾過量を減少させ近位尿細管からのナトリウム再吸収を増強することによってナトリウム保持量を増加させる
血圧を上昇させる(昇圧作用を有する)
口渇を増強する
水分排泄を直接的に障害する
副腎皮質を刺激してアルドステロンを分泌させ,腎臓の複数の機序を介してナトリウム再吸収を増加させる
アンジオテンシンIはアンジオテンシンIIIにも変換され,これは昇圧作用は弱いがアンジオテンシンIIと同程度にアルドステロン放出を刺激する。アルドステロンの分泌は高カリウム血症によっても刺激される。
その他のナトリウム利尿因子
ほかにいくつかのナトリウム利尿因子が同定されており,この中には心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP),脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)などがある。
ANPは心房組織によって分泌される。濃度は,細胞外液過剰(例,心不全,慢性腎臓病,腹水を伴う肝硬変)や原発性アルドステロン症に反応して,または原発性高血圧患者の一部で上昇する。ネフローゼ症候群を有し,細胞外液減少があると考えられる患者群では低下する。濃度が高値であれば,血圧が低い場合でもナトリウム排泄が増加しGFRが上昇する。
BNPは主として心房および左室で合成され,ANPと類似の誘発作用や作用を有する。BNP測定は簡便に利用できる。BNP濃度高値が体液量過剰の診断に用いられる。
CNPは,ANPおよびBNPとは異なり,主として血管拡張作用をもたらす。