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低ナトリウム血症

執筆者:James L. Lewis III, MD, Brookwood Baptist Health and Saint Vincent’s Ascension Health, Birmingham
レビュー/改訂 2021年 9月
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低ナトリウム血症とは,血清ナトリウム濃度が136mEq/L(136mmol/L)未満に低下することであり,溶質に対する水分の過剰が原因である。一般的な原因としては,利尿薬の使用,下痢,心不全,肝疾患,腎疾患,抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)などがある。特に急性低ナトリウム血症では,臨床症状は主として神経学的なものであり(浸透圧によって水分が脳細胞内に移動し,浮腫を引き起こすことが原因),頭痛,錯乱,および昏迷などがみられる;痙攣発作や昏睡が生じることがある。診断は血清ナトリウムの測定による。血清および尿の電解質や浸透圧,ならびに循環状態の評価が原因の解明に有用である。治療として,水分摂取制限,水分排出促進,欠乏しているナトリウムの補充,および基礎疾患の是正などを行う。

水とナトリウムの平衡も参照のこと。)

低ナトリウム血症の病因

低ナトリウム血症は,体内の総ナトリウム量に対する体内総水分量(TBW)の過剰を意味する。細胞外液量の状態が体内の総ナトリウム量を反映するため,低ナトリウム血症では細胞外液量の状態も考慮しなければならない:つまり,細胞外液量が減少しているのか(hypovolemia),正常であるのか(euvolemia),過剰であるのか(hypervolemia)ということである(低ナトリウム血症の主な原因の表を参照)。細胞外液量は有効血漿量と同じでないことに注意する。例えば,有効血漿量の減少は細胞外液量の減少とともに認められる場合もあるが(利尿薬の使用や出血性ショックのときなど),細胞外液量が増加しても生じることがある(例,心不全,低アルブミン血症,または毛細血管漏出症候群)。

ときに,水とナトリウムの不均衡ではなく,特定の物質(例,ブドウ糖,脂質)が血中に過剰にあることによって血清ナトリウムの値が低く出ることがある(高浸透圧性低ナトリウム血症[translocational hyponatremia],偽性低ナトリウム血症)。

表&コラム
表&コラム

細胞外液量減少型(hypovolemic)の低ナトリウム血症

体液量減少も参照のこと。)

体内総水分量および体内の総ナトリウム量の欠乏が共に生じるが,水分よりもナトリウムの方が相対的に多く失われている状態であり,ナトリウム欠乏が細胞外液量の減少を引き起こす。細胞外液量減少型の低ナトリウム血症では,血清浸透圧が低下し血液量も減少する。浸透圧の低下にもかかわらず,血液量を維持するためにバソプレシン(抗利尿ホルモン[ADH])の分泌が亢進する。その結果生じる水の貯留が,血漿の希釈および低ナトリウム血症を助長する。

腎外性の水分喪失(長引く嘔吐,重度の下痢,またはサードスペースへの体液の隔絶[体液の組成の表を参照]などでナトリウムを含む液体を喪失することによって生じる)は,低ナトリウム血症を引き起こすことがあるが,これは一般に真水もしくは低ナトリウム飲料水の摂取(ナトリウムの概算含有量の表を参照)または低張液輸液による補充が行われた場合に発生する。細胞外液の著明な喪失もバソプレシンの分泌を引き起こし,その結果腎臓により水が保持され,低ナトリウム血症が持続または悪化する場合がある。体液量減少に対する正常な腎臓の反応はナトリウム保持であるため,細胞外液量減少の原因が腎外性であれば,尿中ナトリウム濃度は典型的には10mEq/L(10mmol/L)未満となる。

表&コラム
表&コラム
表&コラム
表&コラム

細胞外液量減少型の低ナトリウム血症に結果的につながる腎性の体液喪失が,ミネラルコルチコイド欠乏症,サイアザイド系利尿薬の使用,浸透圧利尿,または塩類喪失性腎症に伴って生じることがある。塩類喪失性腎症は,尿細管機能障害を主な特徴として大まかに定義される1群の内因性腎疾患である。この疾患群には,間質性腎炎髄質嚢胞性疾患,部分的な尿路閉塞,およびときに多発性嚢胞腎が含まれる。

細胞外液量減少型の低ナトリウム血症の腎性の原因は,通常は病歴によって腎外性の原因と鑑別できる。腎性の体液喪失が進行中の患者は,尿中ナトリウム濃度が不適切に高い(> 20mEq/L[> 20mmol/L])ことによっても,腎外性の体液喪失患者と鑑別できる。代謝性アルカローシス(長引く嘔吐などに伴って生じる)が存在し,大量の重炭酸が尿中に流出し,電気的中性を維持するために強制的にナトリウムが排泄される場合には,尿中ナトリウム濃度が鑑別に役立たない可能性がある。代謝性アルカローシスでは,体液量減少の原因が腎性か腎外性かを尿中クロール濃度によってしばしば鑑別できる。

利尿薬も細胞外液量減少型の低ナトリウム血症を引き起こすことがある。サイアザイド系利尿薬は特に,腎臓の希釈能を低下させ,ナトリウム排泄量を増加させる。一旦体液量減少が生じると,非浸透圧刺激によるバソプレシン分泌によって水の貯留が生じ,低ナトリウム血症が悪化する。随伴する低カリウム血症は,細胞内にナトリウムを移動させることによりバソプレシン分泌を増加させ,その結果さらに低ナトリウム血症が悪化する。サイアザイド系利尿薬のこの作用は,投薬中止後も最大2週間持続する可能性がある;しかし,不足したカリウムや体液を補充するとともに薬物の作用が消失するまで水分摂取を適切にモニタリングすれば,低ナトリウム血症は通常それに反応する。高齢患者はナトリウム利尿が増加している可能性があり,特にサイアザイド系利尿薬による低ナトリウム血症を起こしやすく,とりわけ腎臓の自由水排泄能にすでに障害がある場合にこれが当てはまる。まれに,こうした患者は,サイアザイド系利尿薬の開始後数週間以内に,生命を脅かす重度の低ナトリウム血症を発症する。ループ利尿薬が低ナトリウム血症を引き起こすことははるかに少ない。

細胞外液量正常型(euvolemic)の低ナトリウム血症

細胞外液量が正常な(希釈性)低ナトリウム血症は,体内の総ナトリウム量,および細胞外液量が正常またはほぼ正常であるが,TBWが増加している状態である。

心因性多飲症は,水分摂取が腎臓の水排泄能を上回った場合にのみ,低ナトリウム血症の原因となりうる。正常な腎臓は1日に最大25Lの尿を排泄できるため,多飲症を原因とする低ナトリウム血症は専ら大量の水分摂取または自由水排泄能の障害がある場合にのみ発生する。これが生じる患者は精神症患者,またはより軽度の多飲症に加えて腎機能不全を有する患者である。

細胞外液量が正常な低ナトリウム血症は,アジソン病甲状腺機能低下症,または非浸透圧刺激によるバソプレシン分泌(例,ストレス,術後,クロルプロパミド,トルブタミド,オピオイド,バルビツール酸系,ビンクリスチン,クロフィブラート,またはカルバマゼピンなどの薬剤の使用)の存在下での過剰な水分摂取に起因することもある。術後の低ナトリウム血症は,最も一般的には,非浸透圧刺激によるバソプレシン分泌および術後の低張液の過剰輸液が組み合わさって生じる。ある種の薬剤(例,シクロホスファミド,非ステロイド系抗炎症薬,クロルプロパミド)は腎臓に対する内因性バソプレシンの作用を増強するが,腎臓にバソプレシン様の作用を直接及ぼす薬剤(例,オキシトシン)もある。3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA,[エクスタシー])中毒は,過剰な飲水とバソプレシン分泌の亢進を促すことにより,低ナトリウム血症をもたらす。水排泄の不足がこれら全ての病態において一般的にみられる。利尿薬は,別の要因が水貯留または過剰な水分摂取を引き起こしている場合,細胞外液量が正常な低ナトリウム血症を引き起こすか,それに寄与する可能性がある。

ADH不適合分泌症候群(SIADH)は,細胞外液量が正常な低ナトリウム血症のもう1つの原因である。

細胞外液量増加型(hypervolemic)の低ナトリウム血症

細胞外液量増加型の低ナトリウム血症は体内の総ナトリウム量(したがって細胞外液量)および体内総水分量の両方の増加を特徴とし,相対的には体内総水分量の増加の方が大きい状態である。心不全肝硬変を含む様々な浮腫性疾患が細胞外液量増加型の低ナトリウム血症を引き起こす。まれに,ネフローゼ症候群で低ナトリウム血症が生じるが,脂質の上昇がナトリウム値に干渉して偽性低ナトリウム血症が生じている可能性もある。これらの各疾患では,有効循環血漿量の減少により,結果としてバソプレシンおよびアンジオテンシンIIが放出される。以下の因子が低ナトリウム血症に寄与する:

  • 腎臓に対するバソプレシンの抗利尿作用

  • アンジオテンシンIIによる,腎臓の水排泄の直接的減少

  • 糸球体濾過量(GFR)の減少

  • アンジオテンシンIIによる口渇刺激

尿中ナトリウム排泄は通常10mEq/L(10mmol/L)を下回り,血清浸透圧と比較して尿浸透圧が高い。

抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)

ADH(バソプレシン)不適合分泌症候群の原因はバソプレシンの過剰分泌にある。SIADHは,心臓,肝臓,腎臓,副腎,および甲状腺の機能が正常な患者において,体液量の減少または過剰,精神的ストレス,疼痛,利尿薬投与,バソプレシン分泌を刺激する他の薬剤(例,クロルプロパミド,カルバマゼピン,ビンクリスチン,クロフィブラート,抗精神病薬,アスピリン,イブプロフェン)の使用がいずれもない状態で,血漿浸透圧が低値(低ナトリウム血症)であるにもかかわらず尿が最大に希釈されない状態と定義される。SIADHは種々の疾患に伴って生じる(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群を合併する疾患の表を参照)。

AIDSの低ナトリウム血症

50%を上回る入院中のAIDS患者で低ナトリウム血症が報告されている。多数の可能性のある寄与因子としては以下のものがある:

  • 腎臓の水排泄を障害する薬物の投与

  • 低張液輸液

  • 腎機能障害

  • 血管内容量減少の結果生じる非浸透圧刺激によるバソプレシン分泌

さらに,サイトメガロウイルス性副腎炎,抗酸菌感染症,またはケトコナゾールによる副腎でのグルココルチコイドおよびミネラルコルチコイドの合成障害の結果,AIDS患者では副腎皮質機能低下症が一般的になりつつある。併存する肺感染または中枢神経系感染が原因でSIADHを呈することもある。

中枢性塩喪失症候群(CSW)

脳震盪,頭蓋内出血,脳炎,髄膜炎,および中枢神経系腫瘍などの脳病変を有する患者では,低ナトリウム血症が高頻度に発生する。これは,最も一般的にはSIADHによるものであり,頻度は下がるがグルココルチコイド欠乏によるものもある。中枢性塩喪失症候群はこのような患者の小集団,特にくも膜下出血の患者に影響を及ぼす独立した疾患単位であるとの認識がある。中枢性塩喪失症候群は,交感神経系の機能低下または腎におけるナトリウム再吸収を低下させる循環因子の分泌のいずれかによるものと考えられている。血清ナトリウム低値と血漿浸透圧低値および尿浸透圧高値(100mOsm/L[mmol/L]を超え,しばしば300を超える)を特徴とする。尿中ナトリウムは通常,40mEq/L(40mmol/L)を上回り,血清尿酸値は低値となる。中枢性塩喪失症候群は生理食塩水に対する反応によってSIADHと鑑別される;中枢性塩喪失症候群は等張食塩水で解消する傾向があるが,SIADHは解消しない。

低ナトリウム血症の症状と徴候

症状は主に中枢神経系の機能障害である。しかし,低ナトリウム血症に体内の総ナトリウム量の異常を伴う場合には,細胞外の体液量減少または体液量過剰の徴候も生じる。一般に,高齢で慢性的な低ナトリウム血症患者は,ほかには異常のない若年患者よりも多くの症状を呈する。また,低ナトリウム血症の発症が速いほど,症状はより重度である。一般に有効血漿浸透圧が240mOsm/kg(240mmol/kg)未満に低下すると症状が現れる。症状は軽微な場合もあり,パーソナリティの変化,嗜眠,錯乱など,主として精神状態の変化から成る。血清ナトリウム濃度が115mEq/L(115mmol/L)を下回ると,昏迷,神経筋の興奮性亢進,反射亢進,痙攣,昏睡が生じ,死に至ることもある。

急性低ナトリウム血症を呈する閉経前女性では重度の脳浮腫が生じることがあるが,これはおそらくエストロゲンおよびプロゲステロンが脳のNa+,K+-ATPaseを阻害し脳細胞からの溶質排出が低下するためである。続発症には,視床下部および下垂体後葉の梗塞,ときに浸透圧性脱髄症候群または脳幹ヘルニアがある。

低ナトリウム血症の診断

  • 血清および尿の電解質および浸透圧

  • 体液量の臨床的評価

  • 腎臓,副腎,甲状腺,肝臓,および心臓の機能の評価

低ナトリウム血症は,神経学的異常を有し,リスクのある患者でときに疑われる。しかし,所見が非特異的であることから,低ナトリウム血症はしばしば,血清電解質を測定して初めて認識される。

高浸透圧性低ナトリウム血症(translocational hyponatremia)および偽性低ナトリウム血症の除外

重度の高血糖(または外から投与されたマンニトールもしくはグリセロール)により浸透圧が上昇し,水分が細胞内から細胞外液に移動した場合,血清ナトリウムが低値になる場合がある。血清血糖値が正常範囲から100mg/dL(5.55mmol/L)上昇する毎に,血清ナトリウム濃度は約1.6mEq/L(1.6mmol/L)低下する。この状態は,細胞膜を通過する水の移動(translocation)により引き起こされるため,しばしば,高浸透圧性低ナトリウム血症(translocational hyponatremia)と呼ばれる。

血清浸透圧正常の偽性低ナトリウム血症が,重度の高脂血症(最も一般的には高トリグリセリド血症)または,多発性骨髄腫でときにみられるような極度の高タンパク血症で生じることがあるが,これは分析用に採取した血清中で脂質またはタンパク質が容積を占めることによるもので,血清ナトリウム濃度自体は影響を受けていない。多くの臨床検査施設の自動分析装置は,このようなアーチファクトの影響を受ける。イオン選択性電極を用いた直接法で血清電解質を測定することによってこの問題は回避される。一部の病院の検査室では,イオン選択性電極を用いた直接法は特別なリクエストで利用可能であるが,ベッドサイドで用いられる大半のポイントオブケア分析装置でもこの方法が採用されている。偽性低ナトリウム血症を除外するためにこのような分析装置を使用できる。こういった異常がナトリウム測定値に及ぼす影響を推定する公式が存在する。

高浸透圧性低ナトリウム血症(translocational hyponatremia)および偽性低ナトリウム血症の除外のための計算ツール

原因の同定

低ナトリウム血症の原因の同定は複雑な場合がある。ときに病歴から原因が示唆される(例,嘔吐または下痢による著明な体液喪失,腎疾患,強迫性の水分摂取,バソプレシン分泌を刺激するまたはバソプレシン作用を増強する薬物の服用)。

体液量の状態は,特に明らかな体液量の減少または過剰がある場合,特定の原因を示唆する(体液量減少の一般的な原因の表を参照)。

  • 明らかに細胞外液量が減少している患者には,通常は体液喪失の明らかな原因があり,典型的には低張液の補充による治療が行われてきた。

  • 明らかに細胞外液量が増加している患者では,通常は心不全,肝疾患,腎疾患など容易に認識される病態がある。

  • 細胞外液量が正常な患者および体液量の状態が不明瞭な患者では,原因を同定するためにさらなる臨床検査が必要である。

臨床検査には,血清および尿の浸透圧および電解質測定を含めるべきである。細胞外液量が正常な患者では甲状腺および副腎の機能も検査すべきである。細胞外液量が正常な患者の低浸透圧は大量の希釈尿(例,浸透圧100mOsm/kg[100mmol/kg]未満,比重1.003未満)の排泄につながる。血清ナトリウム濃度および血清浸透圧が低く,その低い血清浸透圧に対し尿浸透圧が不適切に高ければ(120~150mmol/L[120~150mOsm/kg]),体液量過剰,体液量減少,SIADH,または中枢性塩喪失症候群が示唆される。体液量過剰体液量減少は臨床的に鑑別される。

医学計算ツール(学習用)

体液量過剰および体液量減少のいずれの可能性も低いと考えられる場合は,SIADHが考慮される。SIADH患者は通常,循環血液量が正常またはわずかに増加している。BUN(血中尿素窒素)およびクレアチニンの値は正常範囲内であり,血清尿酸値は一般に低い。尿中ナトリウム濃度は通常30mEq/L(30mmol/L)を超え,ナトリウム排泄率は1%を上回る(計算については腎疾患患者の評価を参照)。

細胞外液量が減少している患者で腎機能が正常の場合,ナトリウム再吸収の結果,尿中ナトリウム濃度は20mEq/L(20mmol/L)未満となる。細胞外液量が減少している患者で尿中ナトリウム濃度が20mEq/L(20mmol/L)を上回れば,ミネラルコルチコイド欠乏症または塩類喪失性腎症が示唆される。高カリウム血症は副腎皮質機能低下症を示唆する。

低ナトリウム血症を呈し,尿中ナトリウムが40mEq/L(40mmol/L)を超え,外傷性脳損傷または中枢神経系の手術を最近受けた患者では,中枢性塩喪失症候群を考慮すべきである。

低ナトリウム血症の治療

  • 細胞外液量が減少している場合,生理食塩水

  • 細胞外液量が増加している場合,水分制限,ときに利尿薬,場合によってはバソプレシン拮抗薬

  • 細胞外液量が正常の場合,原因の治療

  • 重度の,急速に発症するまたは症状が顕著な低ナトリウム血症では,高張(3%)食塩水による部分的かつ急速な是正

低ナトリウム血症は生命を脅かす恐れがあるため,迅速な認識と適切な治療が必要である。低ナトリウム血症を急激に補正すると,浸透圧性脱髄症候群などの神経系の合併症のリスクが生じる。そのため重度の低ナトリウム血症がみられる患者であっても,最初の24時間で血清ナトリウム濃度を8mEq/L(8mmol/L)を超えて上昇させるべきではない。また,重度の低ナトリウム血症の治療開始後数時間を除いて,ナトリウムは0.5mEq/L/時(0.5mmol/L/時)を上回る速さで是正すべきではない。低ナトリウム血症の程度,発症速度と持続,患者の症状を参考に,最も適切な治療を判定する。

細胞外液量の減少がみられるが副腎機能は正常な患者では,生理食塩水の輸液によって通常は低ナトリウム血症および細胞外液量減少の両方が是正される。血清ナトリウム濃度が120mEq/L(120mmol/L)未満の場合,血管内容量が回復しても低ナトリウム血症が完全には是正されないことがある;その場合自由水の摂取量を24時間で500~1000mLに制限する必要が生じうる。

細胞外液量の増加がみられる患者で,低ナトリウム血症が腎臓のナトリウム保持(例,心不全肝硬変ネフローゼ症候群)および希釈に起因する場合は,基礎疾患の治療を組み合わせた水分制限が必要になる。心不全患者では,アンジオテンシン変換酵素阻害薬とループ利尿薬の併用により難治性低ナトリウム血症を是正できる。その他の患者で,単純な水分制限が無効である場合は,用量を漸増しながらループ利尿薬を使用でき,ときに生理食塩水の静注を併用する。尿中に失われたカリウムおよびその他の電解質を補充しなければならない。低ナトリウム血症がさらに重度で利尿薬に反応しない場合は,生理食塩水を静注し低ナトリウム血症を是正すると同時に,細胞外液量を調節するために間欠的または持続的な血液濾過が必要になる場合がある。重度または難治性の低ナトリウム血症は,一般に心疾患または肝疾患が末期に近いときにのみ生じる。

細胞外液量が正常の場合は,治療は原因(例,甲状腺機能低下症,副腎皮質機能低下症,利尿薬投与)に向けられる。SIADHが存在する場合,厳格な水分制限(例,250~500mL/24時間)が一般に必要である。さらに,細胞外液量増加型の低ナトリウム血症の場合と同様に,ループ利尿薬を生理食塩水の静注と併用することがある。是正された状態が持続するかは基礎疾患の治療が成功するかによる。転移性のがんのように基礎疾患が是正できず,厳格な水分制限を患者が許容できない場合は,デメチルクロルテトラサイクリンの投与(300~600mg,経口,12時間毎)により腎臓の濃縮異常を誘導することが助けになる場合がある。しかしながら,デメチルクロルテトラサイクリンは薬剤性の急性腎障害を引き起こす恐れがあるため,広く使用されてはいない。バソプレシン受容体拮抗薬であるコニバプタンの静脈内投与は,電解質を尿中に大量に喪失することなく効果的な水利尿をもたらすため,入院患者の難治性低ナトリウム血症の治療に使用できる。経口トルバプタンは,コニバプタンと同様の作用をもつ別のバソプレシン受容体拮抗薬である。トルバプタンは肝毒性を有する可能性があるため30日未満の使用に限り,肝疾患または腎疾患のある患者では使用すべきでない。

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軽度から中等度の低ナトリウム血症

軽度から中等度の無症候性の低ナトリウム血症(すなわち,血清ナトリウムが121Eq/L以上135Eq/L未満[121mmol/L以上135mmol/L未満])では,わずかな補正で通常は十分であるため水分摂取制限が行われる。利尿薬による低ナトリウム血症では,利尿薬を中止すれば十分であろう;一部の患者ではナトリウムやカリウムの補充がいくぶん必要となる。同様に,水排泄障害のある患者に不適切な低張液輸液を行って生じた軽度の低ナトリウム血症であれば,輸液療法の変更だけで十分であると考えられる。

重度の低ナトリウム血症

無症状の患者では,重度の低ナトリウム血症(血清ナトリウム濃度121mEq/L[121mmol/L]未満;有効浸透圧240mOsm/kg[ 240mmol/kg]未満)は,厳格な水分摂取制限によって安全に治療できる。

神経症状のある患者(例,錯乱,嗜眠,痙攣,昏睡)の治療については議論が分かれている。争点は主に,低ナトリウム血症を是正する速度および程度に関するものである。専門家の多くは,一般的に,血清ナトリウムの是正速度は1mEq/L/時(1mmol/L/時)を超えるべきでないとしている。しかしながら,痙攣発作のある患者または顕著な意識変容のある患者では最初の2~3時間の補充速度として最大2mEq/L/時(2mmol/L/時)が提唱されている。いずれにせよ,最初の24時間の上昇幅は8mEq/L(8mmol/L)以下とすべきである。それよりも急激に補正すると,浸透圧性脱髄症候群が突然発生するリスクがある。

急速に発症する低ナトリウム血症(rapid-onset hyponatremia)

急速に(すなわち,24時間以内に)発症したことがわかっている急性低ナトリウム血症は特殊なケースである。このような急速な発症は以下の場合に起こりうる:

  • 急性の心因性多飲症

  • レクリエーショナルドラッグであるエクスタシー(MDMA)の使用

  • 術中に低張液を投与された術後患者

  • 汗による喪失を低張液で補充するマラソン選手

急速に発症する低ナトリウム血症が厄介なのは,細胞内浸透圧と細胞外浸透圧の均衡をとるために利用される細胞内浸透圧物質の一部を中枢神経系の細胞が除去する時間がないためである。そのため,細胞内環境が血清に比べて比較的高張になり,その結果細胞内へ液体が急速に移動して脳浮腫を引き起こし,脳幹ヘルニアや死亡につながる恐れがある。そのような患者では,たとえ神経症状が軽度(例,もの忘れなど)であっても,低張食塩水による急速な是正が適応となる。痙攣発作などのより重度の神経症状があれば,高張食塩水によるナトリウム4~6mEq/L(4~6mmol/L)の急速な是正が適応となる。患者は集中治療室でモニタリングし,血清ナトリウムの値は2時間毎にモニタリングすべきである。ナトリウムの上昇値が当初の目標(4~6mEq/L)を達成すれば,是正速度を下げ,最初の24時間での血清ナトリウム値の上昇幅が8mEq/L(8mmol/L)を超えないようにする。

高張食塩水

高張(3%)食塩水(ナトリウム513mEq/L[513mmol/L]を含有)を使用する場合は,頻繁な(2時間毎)電解質の測定が必要である。場合によっては,高張食塩水がループ利尿薬と併用されることもある。所定量の高張食塩水に対するナトリウムの反応の予測に役立つ方程式が利用できるが,そうした公式は大まかな目安に過ぎず,電解質の頻繁なモニタリングは依然として必要である。例えば,細胞外液量減少型の低ナトリウム血症では,水分が補給されるとナトリウム値の正常化が極めて急速に生じて細胞外液量減少によるバソプレシン分泌刺激がなくなるため,腎臓から大量の水が排泄される。

別の推奨として,デスモプレシン1~2μgを8時間毎に高張食塩水と同時に投与することなどがある。デスモプレシンは予期せぬ水利尿を予防するが,これは低ナトリウム血症の基礎疾患が是正されて内因性バソプレシンが突然正常化した後に起こることがある。ナトリウムを適切な速度で24時間かけて是正した後に,デスモプレシンを中止する。その後,高張食塩水を中止できるが,もし低ナトリウム血症の是正を継続するために必要であれば継続も可能である。

急速に発症する低ナトリウム血症と神経症状がある患者では,100mLの高張食塩水を15分かけて静注することで急速な是正を行う。それでも神経症状が残る場合は,同用量を再度投与してもよい。

痙攣または昏睡を来しているが低ナトリウム血症の発症が緩徐な場合は,血清ナトリウム濃度を4~6mEq/L(4~6mmol/L)上昇させるのに十分な量の高張食塩水を100mL/時以下で4~6時間かけて投与する。この量(単位はmEqまたはmmol)は,下記のナトリウム欠乏量の式を用いて算出できる:

equation

ここで,TBWは男性では0.6 × 体重(kg),女性では0.5 × 体重(kg)とする。

例えば,体重70kgの男性でナトリウム濃度を106から112mEq/Lへ上昇させるために必要なナトリウム量は,以下のように算出できる:

equation

高張食塩水には513mEq/L(mmol)のナトリウムが含まれるため,ナトリウムを106mEq/Lから112mEq/L(mmol/L)へ上昇させるにはおよそ0.5Lの高張食塩水が必要である。是正速度を1mEq/L/時とするには,この0.5Lを約6時間かけて点滴することになる。

点滴速度は血清ナトリウム濃度に基づいて調整する必要があり,血清ナトリウム濃度は治療開始後数時間,慎重にモニタリングする。痙攣,昏睡,または精神状態の変化を来している患者には,痙攣に対する気管挿管,機械的人工換気,およびベンゾジアゼピン系薬剤の投与(例,ロラゼパム1~2mg,必要に応じて5~10分毎に静注)を含む支持療法が必要である。

中枢性塩喪失症候群の基準を満たす患者では,水分制限によって脳血管の攣縮が引き起こされる可能性があるため,水分制限を行うべきではない。等張食塩水によって低ナトリウム血症の原因が是正されるはずであるが,実際にSIADHが存在する場合には,高張食塩水の使用は,より重度の低ナトリウム血症を予防するために推奨される。

選択的バソプレシン受容体拮抗薬

選択的バソプレシン(V2)受容体拮抗薬であるコニバプタン(静注)およびトルバプタン(経口)は,重度または難治性の低ナトリウム血症に対する治療選択肢である。これらの薬剤は,血清ナトリウム濃度を急速に是正することがあるため,危険な可能性がある;そのため典型的には,重度(121mEq/L[121mmol/L]未満)かつ/または症候性の低ナトリウム血症で,水分制限による是正に抵抗を示す場合にのみ使用される。水分制限による場合と同じ補正速度(24時間で8mEq/L以下)を用いる。これらの薬剤は,細胞外液量減少型の低ナトリウム血症または肝疾患もしくは進行した慢性腎臓病の患者には使用すべきでない。

コニバプタンは,細胞外液量増加型の低ナトリウム血症および細胞外液量が正常な低ナトリウム血症の治療に適応となる。患者の状態,体液バランス,および血清電解質を綿密にモニタリングする必要があるため,使用は入院患者に限定される。負荷量を投与し,続いて最長4日間にわたる持続点滴を行う。進行した慢性腎臓病(推算糸球体濾過量が30mL/min未満)の患者には推奨されず,無尿が存在する場合には使用すべきでない。中等度から重度の肝硬変では注意が勧められる。

トルバプタンは,細胞外液量増加型の低ナトリウム血および細胞外液量が正常な低ナトリウム血症の治療に適応となる,1日1回投与の錠剤である。綿密なモニタリングが推奨される(特に投与開始時と用量変更時)。トルバプタンは肝毒性のリスクがあるため,30日未満の使用に限られる。また,トルバプタンは進行した慢性腎臓病または肝疾患のある患者には推奨されない。口渇の亢進により有効性が制限される可能性がある。値段が高いこともトルバプタンの使用が制限される理由の1つである。

これらの薬剤はいずれも強力なCYP3A[チトクロムP450ファミリー3,サブファミリーA]阻害薬であるため,多剤併用による薬物相互作用を有する。他の強力なCYP3A阻害薬(例,ケトコナゾール,イトラコナゾール,クラリスロマイシン,レトロウイルスプロテアーゼ阻害薬)は避けるべきである。治療の試行開始前に,患者が服用中の他の薬剤とV2受容体拮抗薬の間で生じうる危険な相互作用について検討すべきである。

慢性低ナトリウム血症

SIADHの患者は通常,低ナトリウム血症に対する長期的な治療を必要とする。水分制限だけでは低ナトリウム血症の再発予防に不十分であることが多い。塩(NaCl)の内服錠は,用量を調節しつつ,このような患者の軽度から中等度の慢性低ナトリウム血症の治療に使用できる。

経口尿素は低ナトリウム血症に対する非常に効果的な治療であるが,味の問題があり忍容性が低い。嗜好性を向上させるために尿素の新しい経口製剤が開発されている。

浸透圧性脱髄症候群

浸透圧性脱髄症候群(以前は橋中心髄鞘崩壊症と呼ばれた)が低ナトリウム血症の性急な是正に続発する可能性がある。脱髄は橋にみられるのが典型的であるが,脳の他の領域に起こることもある。病変は,アルコール使用症低栄養,またはその他の慢性消耗性疾患の患者でより一般的にみられる。低ナトリウム血症のエピソードの後,数日または数週間かけて弛緩性麻痺,構音障害,嚥下困難が発生する可能性がある。古典的な橋病変は背部に広がって感覚神経路を巻き込み,「閉じ込め」症候群(患者は覚醒し感覚もあるが,全身性の運動神経麻痺のため,橋より上で制御される垂直眼球運動による合図を除いて意思疎通を図れない)をもたらすことがある。損傷はしばしば恒久的である。ナトリウムの急速すぎる補充により(例,> 14mEq/L/8時間[> 14mmol/L/8時間])神経症状が出現し始めた場合は,高張液を中止してそれ以上血清ナトリウム濃度を上昇させないことが極めて重要である。このような場合は,低張液を用いて低ナトリウム血症を誘発することで恒久的な神経学的損傷の発生を軽減しうる。

要点

  • 低ナトリウム血症は,細胞外液量が正常でも,増加していても,減少していても生じる場合がある。

  • 一般的な原因は,利尿薬の使用,下痢,心不全,肝疾患,腎疾患である。

  • 低ナトリウム血症は,生命を脅かす危険性がある。低ナトリウム血症の程度,持続,および症状によって,血清ナトリウムの是正速度が決まる。

  • 治療は体液量の状態によって異なるが,浸透圧性脱髄症候群を回避するため,いずれの場合も血清ナトリウムを緩徐に(24時間で8mEq/L[8mmol/L]以下の速さで)是正すべきである;しかし,重度の神経症状をなくすためには,高張食塩水を使って最初の数時間のうちに4~6mEq/L上昇させるというかなり急速な是正が必要になることが多い。

  • 浸透圧性脱髄症候群が低ナトリウム血症の性急な是正に続発する可能性がある。

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