糖尿病の薬物療法

執筆者:Erika F. Brutsaert, MD, New York Medical College
レビュー/改訂 2022年 9月
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全ての患者に対する糖尿病の一般的な治療として,食事や運動などの生活習慣の改善に努めるべきである。血糖値の適切なモニタリングは,糖尿病の合併症を予防する上で不可欠である。(糖尿病も参照のこと。)

1型糖尿病患者は,食生活の変更と運動のほかに,インスリンで治療する。

2型糖尿病患者の治療は,食生活の変更と運動によって開始することが多い。この方法で血糖値をコントロールできない場合,経口血糖降下薬,グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬の注射用製剤,インスリン,またはこれらの組合せを処方することがある。

一部の糖尿病患者には,糖尿病合併症を予防するための薬剤が投与される。そうした薬剤には,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害薬(アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬[ARB]),スタチン系薬剤,アスピリンなどがある。

インスリン

インスリンは,1型糖尿病患者の全患者に必要であり(インスリンなしではケトアシドーシスが引き起こされるため),多くの2型糖尿病患者の管理にも役立つ。

1型糖尿病におけるインスリン補充は,基礎および食事時の必要量をまかなうことで,β細胞機能を再現することを理想とする(生理的補充またはbasal-bolus投与)。選択肢としては,2種類の皮下インスリンを1日複数回注射する方法,またはインスリンポンプを用いて超速効型もしくは速効型インスリンを基礎インスリン分泌速度で投与し,さらに食事時や高血糖を是正するために追加のボーラス投与も行う方法などがある。どちらの戦略でも,食事および運動,ならびにインスリンの投与タイミングおよび用量に細心の注意を払う必要がある。

2型糖尿病患者にインスリンが必要な場合,基礎インスリンと非インスリン系血糖降下薬を組み合わせることにより,血糖値をコントロールできることが多いが,一部の患者では食事時インスリンが必要になることがある。

入院患者に投与されるレギュラーインスリンの静注を除き,インスリンはほぼ常に皮下投与される。

自己注射を好まない患者には,インスリンの吸入製剤も利用可能である。これは超速効型インスリンの皮下注射に比べて,作用の発現がわずかに速い。

インスリン製剤

現在では大半のインスリン製剤は遺伝子組換えヒトインスリンであり,インスリンが動物から抽出されていた頃には一般的であった薬剤に対するアレルギー反応は実質的になくなっている。いくつかのインスリンアナログも利用できる。これらのアナログは,ヒトインスリン分子を修飾して吸収速度ならびに持続および作用発現までの時間を変化させたものである。

インスリンの種類は,一般的に作用発現時間および持続時間によって分類される(ヒトインスリン製剤の作用発現,ピーク,および持続時間の表を参照)。しかし,様々な因子(例,注射部位,注射技術,皮下脂肪量,注射部位の血流)に依存して,これらのパラメータは患者内および患者間で異なる。

表&コラム
表&コラム

超速効型インスリンにはリスプロおよびアスパルトなどがあり,1対のアミノ酸を置換することでインスリン分子の2量体や多量体形成が阻害されるため,迅速に吸収される。これらのインスリンは大抵15分以内に血漿血糖値を低下させ始めるが,作用持続時間は短い(4時間未満)。これらのインスリンは食事時に利用するのが最適であり,食後の血漿血糖値の急上昇を制御する。吸入レギュラーインスリンは,食事の際に投与する超速効型インスリンである。ニトロプルシドは,超速効型インスリンの皮下注射と比べて作用の発現がわずかに速いが,用量の柔軟性が低く,定期的な肺機能検査が必要である。

レギュラーインスリンはリスプロおよびアスパルトよりも作用発現にやや時間がかかるが(30~60分),長時間持続する(6~8時間)。これは静脈内投与できる唯一のインスリン製剤である。

中間型インスリンには,イソフェンインスリン(Neutral protamine Hagedorn:NPH)およびレギュラー(U-500)などがある。イソフェンインスリンの作用発現は注射後約2時間であり,作用のピークは注射後4~12時間に得られ,作用持続時間は18~26時間である。レギュラーインスリンの濃縮製剤であるU-500は,同様のピークと作用持続時間で(ピークは4~8時間後,持続は13~24時間),1日2~3回投与できる。

持効型インスリンである,インスリングラルギン,インスリンデテミル,およびU-300インスリングラルギンなどは,NPHと異なり,作用のピークが識別できず,24時間一定の基礎効果をもたらす。インスリンデグルデク(別の持効型インスリン)は,作用持続時間が40時間以上とさらに長い。毎日投与し,また定常状態に至るまでに3日間かかるものの,投与のタイミングは比較的緩い。

混合型には,NPHとレギュラーインスリン配合剤,およびインスリンリスプロとリスプロプロタミン(リスプロに修飾を加えNPH様に作用するようにしたもの)の配合剤があり,あらかじめ混合された製剤として利用できる(ヒトインスリン製剤の作用発現,ピーク,および持続時間の表を参照)。その他の混合製剤として,アスパルトプロタミン(アスパルトに修飾を加えNPH様に作用するようにしたもの)とインスリンアスパルトの配合剤,およびデグルデクとアスパルトの配合剤などがある。

異なる種類のインスリンを同じ注射器で吸い上げて注射することは可能であるが,製造業者以外がインスリンを容器内であらかじめ混合してはならない。ときにインスリンの混合,特に使用する1時間より前に混合することがインスリン吸収速度に影響し,そのため効果にばらつきが生じて血糖コントロールが予測しにくくなる。インスリングラルギンは,他のいかなるインスリンとも決して混合すべきではない。

バイアルおよび注射器を使用する従来法の代わりに,インスリンをあらかじめ充填したペン型装置が多数利用できる。ペン型インスリンは自宅以外で使用する際により便利で,視力または手先の器用さに限界のある患者に望ましい可能性がある。注射に恐怖心を抱いている患者では,ばね式の自己注射装置(注射器と使用する)がときに有用であり,視力の低下した患者には注射器用拡大鏡がある。「スマート」インスリンペンは,スマートフォンアプリと通信して,投与されたインスリン用量を追跡し,推奨用量を決定する。

インスリンポンプ

リスプロまたはアスパルトは,インスリンポンプを用いて持続的に投与することもできる(1)インスリン抵抗性を有する人では,ときにより高濃度のU500が使用される。インスリン皮下持続注入ポンプの使用により,毎日何度も注射する必要がなくなり,食事をいつでも自由な時間に行える上,血糖値の変動を大幅に抑制できる。欠点には,費用,機械の故障によるインスリン供給の中断,体外に装置を装着することによる不便さがなどある。インスリンポンプを安全かつ効果的に使用するためには,慎重な自己血糖測定を頻回に行うこと,およびポンプ機能に細心の注意を払うことが必要である。

Sensor-augmented pump(センサー付きポンプ)は持続血糖測定器と通信を行い,血糖値が低下したときにインスリン投与を中止する。さらに,ハイブリッドクローズドループインスリン送達システム(自動インスリン投与システム)が利用可能である。クローズドループシステム(いわゆる「人工膵臓」)とは,持続血糖測定器および規定のアルゴリズムからの入力に基づいて装置がインスリン投与量を自動で計算し,インスリンポンプから薬剤が投与されるシステムである。しかし,現在利用可能な装置では,まだ利用者からの食事時のボーラス投与量の入力が必要である。

インスリンポンプに関する参考文献

  1. 1.Kravarusic J, Aleppo G: Diabetes Technology Use in Adults with Type 1 and Type 2 Diabetes.Endocrinol Metab Clin North Am 49(1):37–55, 2020. doi: 10.1016/j.ecl.2019.10.006

インスリン治療の合併症

最も頻度の高い合併症は以下の通りである:

まれな合併症としては以下のものがある:

  • 低カリウム血症

  • 局所アレルギー反応

  • 全身性アレルギー反応

  • 局所的な脂肪の萎縮または肥大

  • 循環血液中の抗インスリン抗体

低血糖インスリン治療の最も頻度の高い合併症であり,患者が厳格な血糖コントロールをしようと試み正常血糖に近づくにつれて,あるいは血糖値が適切にモニタリングされていない場合によくみられる。軽度または中等度の低血糖症状としては,頭痛,発汗,動悸,ふらつき,霧視,不穏,錯乱などがある。より重度の低血糖でみられる症状としては,痙攣発作や意識消失などがある。高齢者では,低血糖は失語や不全片麻痺など脳卒中様の症状を引き起こすことがあり,脳卒中,心筋梗塞,突然死を起こす可能性がより高くなる。

患者には低血糖症状を認識するように指導すべきである。罹病期間の長い1型糖尿病患者はもはや自律神経症状を経験しないため,低血糖エピソードに気づかない場合がある(無自覚性低血糖)。

インスリンまたは血糖降下薬(例,スルホニル尿素薬)による治療を受けている患者では,血糖値が70mg/dL(3.9mmol/L)未満になった場合を低血糖とみなし,その場合,さらなる血糖値の低下および低血糖の影響を回避するための治療を行うべきである。低血糖症状は通常,糖の摂取に急速に反応する。

低血糖の治療は,ある種の糖(経口グルコースもしくはショ糖または静注ブドウ糖)および/またはグルカゴンもしくはダシグルカゴン(dasiglucagon)の投与による。低血糖のリスクがある患者は,グルカゴンまたはダシグルカゴン(dasiglucagon)を家に用意しておき,外出時は携帯すべきであり,また家族および信頼できる者に対して,低血糖による緊急事態への対応方法を指導しておくべきである。

就寝前のインスリン量が過剰であると高血糖が生じることがあるが,これはインスリンによって血糖値が下がって拮抗反応が刺激され,早朝の血糖値が上がるためである(ソモジー効果)。しかし,原因不明の早朝高血糖の原因としてより多いのは,早朝の成長ホルモン上昇である(暁現象)。この場合は,夕方のインスリンを増量するか,持続時間のより長い製剤に変更するか,またはより遅い時間に注射を行うべきである。

インスリンによってナトリウム-カリウムポンプが刺激されてカリウムが細胞内に移動し,低カリウム血症が生じる場合があるが,まれである。急性期ケアの場で体内のK貯蔵量が不足している可能性があるときにインスリンの静脈内投与が行われる場合に,低カリウム血症がより生じやすい。

インスリン注射部位における局所アレルギー反応はまれであり,ヒトインスリンを使用する場合は特に起こりにくいが,バイアルの栓には天然ゴムラテックスが含まれるため,ラテックスアレルギー患者では依然として局所アレルギー反応が生じる可能性がある。局所アレルギー反応では疼痛または灼熱感が即時に生じ,紅斑,そう痒,および硬結がそれに続き,硬結はときに数日間持続する。大半の反応は数週間注射を継続した後に自然消退し,特別な治療は不要であるが,抗ヒスタミン薬により症状が緩和することがある。

ヒトインスリンによる全身性のアレルギー反応は極めてまれであるものの,治療中断後にインスリンが再開されたときに生じる可能性がある。症状は注射の30分~2時間後に生じ,蕁麻疹,血管性浮腫,そう痒,気管支攣縮,およびアナフィラキシーなどがある。抗ヒスタミン薬による治療で大抵は十分であるが,アドレナリンやグルココルチコイドの静注が必要になることもある。全身性アレルギー反応後にインスリン治療が必要であれば,一連の精製インスリン製剤を用いた皮膚テストおよび脱感作を行うべきである。

局所的な脂肪組織の肥大(lipohypertrophy)は,インスリンの脂質生成作用によって引き起こされる一般的な反応である。Lipohypertrophyはインスリン吸収の変動につながる可能性があり,注射部位をローテートすることで回避できる。脂肪萎縮症(lipoatrophy)はまた別の病態であり,インスリン製剤の成分に対する免疫反応に起因すると考えられている。これはヒトインスリンが使用できるようになって非常にまれになったが,ステロイドで治療できる。

循環血液中の抗インスリン抗体は,インスリン抵抗性の非常にまれな原因であり,いまだに動物由来のインスリンを使用している患者や,ときにヒトインスリンやアナログインスリンを使用している患者にも発生する。循環血液中の抗インスリン抗体によるインスリン抵抗性は,ときにインスリン製剤を変更すること(例,動物インスリンからヒトインスリンへ)で治療でき,また必要に応じてコルチコステロイドまたは免疫抑制剤を投与するほか,ときにプラズマフェレーシスを行うことで治療できる。

1型糖尿病に対するインスリン投与レジメン

レジメンには,1日2回のsplit-mixed療法(例,超速効型インスリンと中間型インスリンの用量を分割)から,1日に複数回の注射またはインスリンポンプを用いたより生理的なbasal-bolus療法(例,持効型インスリンの固定[基礎]用量を単回投与,および超速効型インスリンの用量を調節しながら食後[ボーラス]投与する)まで,様々なものがある。強化インスリン療法とは,1日4回以上血糖をモニタリングし,1日3回以上のインスリンの注射または持続静注をすることと定義され,糖尿病網膜症腎症神経障害を予防する上で従来の治療(1日1~2回のインスリン注射,血糖モニタリング併用または非併用)よりも効果的である。しかし,強化療法では低血糖および体重増加がより頻繁に起こる可能性があり,積極的な自己管理能力があり,それを望む患者においてより効果的である。

一般に,大半の1型糖尿病患者では,総インスリン量0.2~0.8単位/kg/日から開始できる。肥満患者ではさらに高用量を要する場合がある。生理的補充は,基礎必要量として1日のインスリン量の40~60%を中間型製剤または持効型製剤でまかない,残りを超速効型製剤または速効型製剤として投与し,食後の必要量の増加分を補う。このアプローチをとる場合,食前血糖値および予定食事内容に応じて超速効型または速効型のインスリンの用量を調節すると最も効果的である。補正係数(correction factor)またはインスリン感受性因子とは,インスリン1単位が2~4時間のうちに下げる血糖値のことである;超速効型インスリンを使用する場合,補正係数は「1800ルール」を用いて計算されることが多い(1800/1日のインスリン用量)。レギュラーインスリンの場合は,「1500ルール」を使うことができる。補正用量(現在の血糖値 - 目標血糖値/補正係数)とは,血糖値を目標範囲にまで下げるのに必要なインスリン用量である。この補正用量を食事時のインスリン用量に追加し,食事時のインスリン用量は,食事中の炭水化物量に応じて,炭水化物対インスリン比(CIR)を用いて計算する。CIRは「500ルール」(500/1日の総用量)を用いて計算されることが多い。

例えば,昼食時の用量を計算するために,以下の値を仮定する:

  • 指先採血での食前血糖値:240mg/dL(13.3mmol/L)

  • 1日のインスリン総用量:基礎インスリン30単位 + 食事ごとにインスリンボーラス10単位 = 計60単位/日

  • 補正係数(インスリン感受性因子):1800/60 = 30mg/dL/単位(1.7mEq/L/単位,または1.7mmol/L)

  • 次の食事に含まれると予想される炭水化物の量:50g

  • 炭水化物:インスリン比(CIR):500/60 = 8:1

  • 目標血糖値:120mg/dL(6.7mmol/L)

食事時のインスリン用量 = 炭水化物50gを8g/インスリン単位で除した値 = 6単位

補正用量 =(240mg/dL - 120mg/dL)/補正係数30 = 4 単位([13.3mmol/L - 6.7mmol/L]/1.7 = 4)

この食事前の総用量 = 食事時の用量 + 補正用量 = 6 + 4 = 10単位の超速効型インスリン

患者は食事を抜いたり食事時間をずらしても正常な血糖値を維持できるため,このような生理的レジメンにより生活習慣の自由度が高まる。また上記の推奨は治療開始時を対象とするものである;したがって,どのレジメンを選択するかは一般に生理反応および患者や医師の嗜好によって決まる。炭水化物対インスリン比(CIR)および感受性因子は,患者のインスリンへの反応に応じて細かく調整する必要がある。この調整には,糖尿病専門医との緊密な連携が必要である。

2型糖尿病に対するインスリン投与レジメン

2型糖尿病に対するレジメンも多様である。多くの患者の血糖値は生活習慣の改善と非インスリン血糖降下薬で十分にコントロールされるが,薬剤を3剤以上用いても血糖コントロールが不十分であり,インスリン欠乏が疑われる患者,または血糖値が非常に高い患者には,インスリンを加えるべきである。まれであるが,成人型1型糖尿病が原因である場合がある。ほとんどの場合,妊娠女性ではインスリン以外の血糖降下薬をインスリンに切り替えるべきである。

併用療法を支持する根拠が最も強いのは,インスリンと経口ビグアナイド薬およびインスリン抵抗性改善薬との併用に関するものである。レジメンは,持効型または中間型インスリンの1日1回注射(通常は就寝時)から1型糖尿病患者に用いられる頻回注射レジメンまで多様である。一般に,最も簡便で効果的なレジメンが選択される。インスリン抵抗性が存在するため,一部の2型糖尿病患者は極めて大量のインスリンを必要とする(> 2単位/kg/日)。一般的な合併症は体重増加であり,この大部分は尿中へのブドウ糖排泄の低下および代謝効率の改善に起因する。

経口血糖降下薬

経口血糖降下薬(経口血糖降下薬の特徴の表を参照)は,グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬の注射製剤と並んで,2型糖尿病治療の柱である。経口血糖降下薬は,以下の機序で作用する:

  • 膵臓のインスリン分泌を亢進させる(分泌促進薬)

  • 末梢組織のインスリン感受性を増強させる(抵抗性改善薬)

  • 消化管からのブドウ糖吸収を阻害する

  • 糖尿を促す

作用機序の異なる薬物は相乗的に働く場合がある。

表&コラム
表&コラム

グルカゴン様ペプチド1[GLP-1]受容体作動薬に関する情報は以下を参照のこと。)

スルホニル尿素薬

スルホニル尿素薬(例,グリベンクラミド,グリピジド,グリメピリドはインスリン分泌促進薬である。SU薬は,膵β細胞のインスリン分泌を刺激することで血漿血糖値を低下させ,糖毒性を軽減することで末梢および肝臓のインスリン感受性を二次的に改善させると考えられる。第1世代のスルホニル尿素薬(アセトヘキサミド,クロルプロパミド,トラザミド,トルブタミド)は有害作用が起こる可能性がより高く,ほとんど使用されていない。いずれのスルホニル尿素薬も高インスリン血症および2~5kgの体重増加を引き起こし,これはやがてインスリン抵抗性を増強する可能性があるため有用性に限界がありうる。また,いずれのSU薬も低血糖を引き起こす恐れがある。危険因子には,年齢65歳以上,長時間作用型の薬剤の使用(特にクロルプロパミド,グリベンクラミド,またはグリピジド),誤った食事および運動,腎機能不全,肝機能不全などがある。

長時間作用型の薬剤による低血糖は治療中止後も数日間持続する可能性があり,ときに恒久的な神経障害を引き起こし,致死的となる恐れもある。これらの理由から,低血糖患者,特に高齢者は入院させる医師もいる。クロルプロパミドはADH不適合分泌症候群も引き起こす。スルホニル尿素薬のみを使用する患者の大半では,正常血糖に到達するために最終的に薬剤の追加が必要になり,スルホニル尿素薬がβ細胞機能を疲弊させる可能性が示唆される。しかし,インスリン分泌低下およびインスリン抵抗性の増悪は,治療に使用される薬剤の特性というよりはおそらく糖尿病自体の特性である。

速効型インスリン分泌促進薬

速効型インスリン分泌促進薬(レパグリニド,ナテグリニド)は,スルホニル尿素薬と類似の機序でインスリン分泌を刺激する。しかし,速効型インスリン分泌促進薬はより短時間で作用が発現し,食事中にインスリン分泌を最も刺激する。したがって,食後高血糖の軽減に特に効果的で,低血糖のリスクを下げると考えられる。ある程度の体重増加をもたらす可能性があるが,スルホニル尿素薬と比較すると程度は低いと考えられる。他の経口薬(例,スルホニル尿素薬,メトホルミン)に反応しなかった患者がこの種の薬剤に反応する可能性は低い。

ビグアナイド薬

ビグアナイド薬(メトホルミン)は肝臓でのグルコース糖産生(糖新生およびグリコーゲン分解)を抑制することによって血漿血糖値を低下させる。ビグアナイド薬は末梢インスリン抵抗性改善薬とみなされるが,ビグアナイド薬による末梢でのグルコース取り込み刺激は,肝臓への作用によりグルコースが減少したことの単なる結果であると考えられる。ビグアナイド薬は脂質濃度も低下させるほか,消化管からの栄養吸収を抑制したり,循環血液中のブドウ糖に対するβ細胞の感受性を亢進させたりする可能性がある。メトホルミンは米国で利用できる唯一のビグアナイド薬である。血漿血糖降下において,メトホルミンは少なくともスルホニル尿素薬と同等に効果的であり,低血糖を引き起こすことはまれで,他の薬物やインスリンとも安全に併用できる。さらに,メトホルミンは体重を増加させず,食欲を抑制することによって体重減少を促進する可能性さえある。しかしながら,この薬剤は一般的に消化管の有害作用(例,ディスペプシア,下痢)を引き起こし,大半の場合は時間とともに消失する。頻度は低いものの,メトホルミンによりビタミンB12吸収不良を来すが,臨床的に有意な貧血はまれである。

メトホルミンが生命を脅かす乳酸アシドーシスの発生に寄与することは非常にまれであるが,アシデミアのリスクを有する患者(有意な腎機能不全,低酸素症または重症呼吸器疾患,アルコール使用症,その他の代謝性アシドーシス,または脱水のある患者を含む)では禁忌である。メトホルミンは,手術中,静注造影剤投与中,および何らかの重篤な疾患がある際には使用を控えるべきである。メトホルミン単剤療法を受けている患者の多くでは最終的に追加の薬剤が必要になる。

チアゾリジン系薬剤

チアゾリジン系薬剤(TZDーピオグリタゾン,ロシグリタゾン)は末梢インスリン抵抗性を低下させるが(インスリン抵抗性改善薬),具体的な作用機序については十分に解明されていない。この薬剤は,主として脂肪細胞内に存在し糖代謝および脂質代謝を制御する遺伝子の転写に関与する核内受容体(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体-γ[PPAR-γ])に結合する。また,TZDは高比重リポタンパク質(HDL)濃度を上昇させてトリグリセリドの濃度を低下させ,抗炎症作用および抗動脈硬化作用を有する可能性もある。TZDはスルホニル尿素薬やメトホルミンと同等のヘモグロビンA1C低下効果を示す。TZDは非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の治療に有益な可能性がある。

TZDの1つ(トログリタゾン)は急性肝不全を引き起こしたものの,現在利用できるTZDに肝毒性があることは証明されていない。しかし,肝機能を定期的にモニタリングすることが推奨される。TZDは,特にインスリン使用中の患者で末梢浮腫を引き起こす可能性があり,感受性の高い患者では心不全を悪化させる恐れがある。体液貯留および脂肪組織量の増加による体重増加がよくみられ,一部の患者ではそれがかなりの程度(> 10kg)となることもある。ロシグリタゾンは,心不全狭心症心筋梗塞脳卒中,および骨折のリスクを増大させる可能性がある。ピオグリタゾンは,膀胱癌(しかし対立するデータもある),心不全,および骨折のリスクを増大させる可能性がある。

α-グルコシダーゼ阻害薬

α-グルコシダーゼ阻害薬(アカルボース,ミグリトール)は食物中の炭水化物を加水分解する腸管の酵素を競合的に阻害する;炭水化物は消化・吸収がより緩徐になり,したがって食後血漿血糖値が低下する。血漿血糖降下において,α-グルコシダーゼ阻害薬は他の経口薬よりも効果的ではなく,ディスペプシア,鼓腸,下痢が生じることがあるため患者はしばしば薬剤を中止する。しかし,それ以外の点ではAGIは安全であり,他の全ての経口薬およびインスリンと併用可能である。

ジペプチジルペプチダーゼ4阻害薬

ジペプチジルペプチダーゼ4阻害薬(例,アログリプチン,リナグリプチン,サキサグリプチン,シタグリプチン)は,内因性グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分解に関与する酵素であるジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)を阻害することでGLP-1の作用を遷延させる。GLP-1は小腸で産生されるペプチドであり,インスリン分泌を刺激してグルカゴン分泌を阻害する;その作用を遷延させることで血漿血糖値を低下させる。DPP-4阻害薬は膵炎のリスクをわずかに高めるが,それ以外の点では安全で忍容性も高いと考えられている。DPP-4阻害薬によるヘモグロビンA1Cの減少は軽度である。

ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬

ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬(カナグリフロジン,ダパグリフロジン,エンパグリフロジン,エルツグリフロジン[ertugliflozin])は,腎臓の近位尿細管にあるSGLT2を阻害することでブドウ糖の再吸収を阻害するため,糖尿を促し,血漿血糖値を低下させる。SGLT2阻害薬は,軽度の体重減少および血圧低下を引き起こすこともある。SGLT2阻害薬は,心血管疾患のリスクが高い患者において,死亡率,主要心血管イベント,および心不全による入院を減少させることが示されている。さらに,SGLT2阻害薬は,糸球体濾過量の低下またはアルブミン尿のある糖尿病患者において慢性腎臓病の進行を予防することが示されている。

有害作用として最も多いのは,泌尿生殖器の感染症で,特に真菌感染症が多い。起立性の症状も生じることがある。SGLT2阻害薬は,1型糖尿病および2型糖尿病の患者のいずれにおいても糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)を引き起こす可能性があり,他の原因によるDKAよりも低い血糖値でケトアシドーシスが生じる可能性がある。SGLT2阻害薬による正常血糖DKAの診断は,血糖値が比較的低いために遅れることが多い。ある大規模研究では,カナグリフロジンによる下肢切断の増加が示された。

ドパミン作動薬

ブロモクリプチンはドパミン作動薬であり,未知の機序によりヘモグロビンA1Cを約0.5%低下させる。2型糖尿病に対して承認されているが,有害作用が生じる可能性があるため,一般的には使用されていない。

注射用血糖降下薬

インスリン以外の注射用血糖降下薬には,グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬,デュアルGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)/GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬(デュアルインクレチン作動薬),およびアミリン誘導体のプラムリンタイド(pramlintide)がある(インスリン以外の注射用血糖降下薬の特徴の表を参照)。これらの薬剤は,単独で使用されることもあれば,他の血糖降下薬と併用されることもある。

グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬

GLP-1受容体作動薬は,小腸で産生されるペプチドであるGLP-1に似た作用を有し,グルコース依存性インスリン分泌を増強し,胃内容排出を遅延させる。また,GLP-1作動薬は食欲を減退させて体重減少を促し,β細胞増殖を刺激する。例として,エキセナチド(インクレチンホルモン),リキシセナチド,リラグルチド,デュラグルチド,アルビグルチド,セマグルチドなどがある。1日2回,1日1回,および週1回投与用の製剤が利用できる。全てのGLP-1作動薬は皮下注射で投与されるが,セマグルチドは経口製剤も利用できる。GLP-1作動薬の最も頻度が高い有害作用は消化管に対するもので,特に悪心および嘔吐がよくみられる。GLP-1作動薬は,膵炎のリスクもわずかに高める。この薬剤は齧歯類で甲状腺髄様癌のリスクを高めることが確認されたため,このがんの病歴または家族歴がある患者には禁忌である。

デュアルインクレチン作動薬(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド[GIP]/グルカゴン様ペプチド-1[GLP-1]受容体作動薬)

チルゼパチドは,2型糖尿病の治療に初めて利用できるようになったGIP/GLP1受容体作動薬である。これは,GIP受容体およびGLP1受容体の両者に作動薬として作用するペプチドである。GIPおよびGLP-1は小腸内で産生されるインクレチンである。チルゼパチドは,グルコース依存性インスリン分泌を増加させ,グルカゴン分泌を減少させ,胃内容物の排出を遅延させる。食欲を減退させて体重減少を促す効果もある。

表&コラム
表&コラム

アミリン誘導体

アミリン誘導体であるプラムリンタイド(pramlintide)は,膵臓のβ細胞ホルモンであるアミリンに類似した構造をもち,食後血糖値の調節を助ける。プラムリンタイド(pramlintide)は,食後のグルカゴン分泌を抑制し,胃内容の排出を遅延させ,満腹感を促進する。プラムリンタイド(pramlintide)は注射により投与し,食事時にインスリンと併用する。1型糖尿病患者には食前に30~60μgを,2型糖尿病患者には120μgを皮下投与する。

糖尿病の補助薬物療法

糖尿病の合併症を予防または治療するため以下の薬剤を用いる方法(1–3)が極めて重要である:

  • アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)

  • アスピリン

  • スタチン系薬剤

ACE阻害薬またはARBは,高血圧がない場合でも早期の糖尿病性腎症(アルブミン尿)が証明されている患者に適応とされるほか,まだ明らかな腎障害がない糖尿病患者の高血圧治療にもよい選択である。

ACE阻害薬は,糖尿病患者において心血管イベントを予防することが示されている。動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)が判明している患者には,二次予防のためACE阻害薬またはARBによる治療が推奨される。

アスピリン81~325mg,1日1回の投与により心血管系が保護される。アスピリンはASCVDの病歴がある全ての患者の二次予防に推奨される。確立した心血管疾患がない患者におけるアスピリンの便益(すなわち,一次予防効果)はあまり明らかではない。アスピリンは,出血のリスクが高くない50歳以上の糖尿病患者において,ASCVDの危険因子を少なくともあと1つ有する場合に,一次予防として検討されることがある。70歳以上の患者では,出血リスクが一次予防の便益を上回ることがある。

スタチン系薬剤は現在,American Heart Association/American College of Cardiologyのガイドラインにより,40~75歳の全ての糖尿病患者に対して推奨されている。中強度から高強度のスタチン療法を行うが,ASCVDリスクの高い患者には高強度スタチン療法が推奨される。ASCVDが確定している,またはASCVDのリスクが非常に高い全ての糖尿病患者では,最大耐容量のスタチン系薬剤に加えて,必要に応じてエゼチミブまたはプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK-9)阻害薬を追加することにより,低比重リポタンパク(LDL)値70mg/dL未満を目標とすることも妥当である。また,スタチン療法に耐えられない患者には,エゼチミブまたはPCSK-9阻害薬による治療を行うべきである。(脂質異常症におけるASCVD予防のためのスタチン系薬剤の表を参照)。40歳未満または75歳以上の患者にスタチン系薬剤を投与する場合,リスク・ベネフィット比および患者の希望を個別に評価する。2型糖尿病患者はトリグリセリド高値,小型高密度LDL高値,およびHDL低値を示す傾向がある;これらの患者には積極的な治療を行うべきである。

補助薬物療法に関する参考文献

  1. 1.Fox CS, Golden SH, Anderson C, et al: AHA/ ADA Scientific Statement: Update on prevention of cardiovascular disease in adults with type 2 diabetes mellitus in light of recent evidence.Circulation 132: 691–718, 2015.

  2. 2.Garber AJ, Handelsman Y, Grunberger G, et al: Consensus statement by the American Association of Clinical Endocrinologists and American College of Endocrinology on the comprehensive type 2 diabetes management algorithm--2020 executive summary.Endocrine Practice 26:107–139, 2020.

  3. 3.Grundy SM, Stone NJ, Bailey AL, et al: 2018 AHA/ACC/AACVPR/AAPA/ABC/ACPM/ADA/AGS/APhA/ASPC/NLA/PCNA Guideline on the Management of Blood Cholesterol: Executive Summary: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines.J Am Coll Cardiol 73(24):3168–3209, 2019.doi: 10.1016/j.jacc.2018.11.002

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American Diabetes Association: Standards of Medical Care in Diabetes: provides comprehensive guidelines for clinicians

  2. Davies MJ, D'Alessio DA, Fradkin J, et al: Management of Hyperglycemia in Type 2 Diabetes, 2018.A Consensus Report by the American Diabetes Association (ADA) and the European Association for the Study of Diabetes (EASD).Diabetes Care 41(12): 2669–2701, 2018.

  3. Endocrine Society: Clinical Practice Guidelines: provides guidelines on evaluation and management of patients with diabetes as well as links to other information for clinicians

  4. Powers MA, Bardsley J, Cypress M, et al: Diabetes Self-management Education and Support in Type 2 Diabetes: A Joint Position Statement of the American Diabetes Association, the American Association of Diabetes Educators, and the Academy of Nutrition and Dietetics.Diabetes Care 38(7):1372–1382, 2015.

  5. US Preventive Services Task Force, Mangione CM, Barry MJ, et al: Statin Use for the Primary Prevention of Cardiovascular Disease in Adults: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement. JAMA 328(8):746–753, 2022.doi:10.1001/jama.2022.13044

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