糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)

執筆者:Erika F. Brutsaert, MD, New York Medical College
レビュー/改訂 2022年 9月
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糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は糖尿病の急性代謝性合併症で,高血糖,高ケトン血症,および代謝性アシドーシスを特徴とする。高血糖は浸透圧利尿を引き起こし,体液と電解質の有意な減少をもたらす。DKAは主に1型糖尿病で生じる。悪心,嘔吐,および腹痛を引き起こし,脳浮腫,昏睡,および死亡に進展する恐れがある。DKAの診断は,高血糖の存在下で高ケトン血症およびアニオンギャップ増大を伴う代謝性アシドーシスを検出することによる。治療は循環血液量の増量,インスリン補充,および低カリウム血症の予防である。

糖尿病および糖尿病の合併症も参照のこと。)

糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は1型糖尿病患者に発生し,2型糖尿病患者では比較的まれである。これは,インスリン濃度が体の基礎代謝所要量に及ばなくなったときに発生する。少数の患者ではDKAが1型糖尿病の初発症状である。インスリン欠乏には,絶対的なもの(例,外因性インスリン投与の中断中)と相対的なもの(例,生理的ストレスが高じて通常のインスリン用量が代謝必要量に満たないとき)とがある。

DKAの誘因となりうる一般的な生理的ストレスには以下のものがある:

DKAの発生に関与する薬剤の例としては以下のものがある:

  • コルチコステロイド

  • サイアザイド系利尿薬

  • 交感神経刺激薬

  • ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬

DKAは2型糖尿病ではより頻度が低いが,異常な生理的ストレス下では生じうる。Ketosis-prone type 2 diabetesは,肥満患者にときに発生する2型糖尿病の亜型で,多くの場合アフリカ系(アフリカ系アメリカ人,アフロ-カリブ系を含む)の祖先をもつ人に発生する。Ketosis-prone type 2 diabetes(Flatbush糖尿病と呼ばれることもある)の患者は,高血糖によるβ細胞機能の障害が著しいため,有意な高血糖の発生時にDKAになる可能性がより高い。

SGLT2阻害薬は,1型糖尿病および2型糖尿病の両方でDKAの発生に関与していることが確認されている。妊婦およびSGLT2阻害薬を服用している患者では,血糖値が比較的低いとき,あるいは正常範囲内にあるときでさえDKAが発生することがある。正常血糖DKAは,アルコール乱用または肝硬変でも生じる可能性がある。

DKAの病態生理

インスリンが欠乏し,その拮抗調節ホルモン(グルカゴン,カテコラミン,コルチゾール)が増加すると,生体はブドウ糖の代わりにトリグリセリドおよびアミノ酸を代謝してエネルギーを得るようになる。脂肪分解が亢進するためグリセロールや遊離脂肪酸の血清中濃度は上昇する。筋肉の異化によりアラニンの濃度も上昇する。グリセロールおよびアラニンは肝での糖新生の基質となり,インスリンが欠乏するとグルカゴンが過剰になり糖新生を刺激する。

グルカゴンはミトコンドリアにおける遊離脂肪酸からケトン体への変換も刺激する。正常ではインスリンがミトコンドリア基質への遊離脂肪酸誘導体の輸送を抑制するため,ケトン体生成が阻害されるが,インスリンがない場合にはケトン体生成が進行する。産生される主要なケト酸であるアセト酢酸およびβヒドロキシ酪酸は,代謝性アシドーシスを引き起こす強有機酸である。アセト酢酸の代謝に由来するアセトンは血清中に蓄積し,呼吸によって緩徐に処理される。

インスリン欠乏による高血糖は,浸透圧利尿を引き起こし,尿からの水分および電解質の著明な喪失につながる。尿中へのケトン体排泄により,ナトリウムおよびカリウムがさらに喪失される。血清ナトリウム値はナトリウム利尿によって低下するか,または大量の自由水の排泄によって上昇する。カリウムも大量に失われる。アシドーシスに反応して細胞外へとカリウムが移動するため,体内の総カリウム量が有意に欠乏しているにもかかわらず初期の血清カリウム値は通常正常か上昇している。インスリン療法はカリウムを細胞内に移動させるため,カリウム値は一般には治療中にさらに低下する。血清カリウム値のモニタリングおよび必要に応じた補充が行われなければ,生命を脅かす低カリウム血症が生じる恐れがある。

DKAの症状と徴候

糖尿病性ケトアシドーシスの症状および徴候は,高血糖の症状に悪心,嘔吐,および―特に小児では―腹痛が加わったものである。嗜眠や傾眠は,より重度の代償不全の症状である。患者は脱水やアシドーシスによる低血圧および頻脈を呈する場合がある;アシデミアを代償するために,患者は速く深く呼吸をする(クスマウル呼吸)。呼気中のアセトンが原因で果物のような香りのする息を呈することもある。発熱はDKA自体の徴候ではなく,発熱が存在するならば基礎に感染症があることを意味する。適時に治療が行われなければ,DKAは昏睡や死亡へと進行する。

急性脳浮腫はDKA患者の約1%に生じる合併症であり,主に小児にみられ,より頻度は低いが青年や若年成人でも認められる。一部の患者では急性脳浮腫の前兆として頭痛および意識レベルの変動を認めることもあるが,呼吸停止が初発症状である患者もいる。原因は十分に解明されていないが,血清浸透圧のあまりに急速な低下または脳虚血と関連している可能性がある。これは,5歳未満の小児でDKAが糖尿病の初発症状であるときに起こる可能性が最も高い。受診時にBUN(血中尿素窒素)が極めて高く,PaCO2が極めて低い小児は最もリスクが高いと考えられる。低ナトリウム血症の是正の遅れとDKA治療中の重炭酸の使用は,付加的な危険因子となる。

DKAの診断

  • 動脈血pH

  • 血清ケトン体

  • アニオンギャップの算出

糖尿病性ケトアシドーシスが疑われる患者では,血清電解質,血中尿素窒素(BUN)およびクレアチニン,グルコース,ケトン体,ならびに浸透圧を測定すべきである。尿中のケトン体を検査すべきである。重篤な容態の患者およびケトン体が陽性の患者では,動脈血ガス測定を行うべきである。

DKAの診断は,動脈血pH < 7.30かつアニオンギャップ > 12で,血清中にケトン体を認めることによる。DKAの診断基準に含めるべき具体的な血糖値については,各ガイドラインで相違がある。血糖値 > 200mg/dL(11.1mmol/L)または > 250mg/dL(13.8mmol/L)との記載が最も多いが,DKAは血糖値が正常であるか軽度にしか上昇していない患者にも起こりうることから,一部のガイドラインでは具体的な血糖値が記載されていない(1, 2)。尿検査で尿糖および尿ケトン体が陽性であれば,DKAの診断が推定されることがある。尿試験紙や一部の血清ケトン体検査では,アセト酢酸は検出されるが,通常主要なケト酸であるβ-ヒドロキシ酪酸は検出されないため,ケトーシスの程度が過小評価されることがある。血中β-ヒドロキシ酪酸を測定してもよいが,血清または尿中ケトン体が低値であれば,臨床的な疑いとアニオンギャップ増大を伴うアシドーシスの存在に基づいて治療を開始できる。

適切な検査(例,培養,画像検査)により誘因となる疾患の症状および徴候を探索すべきである。急性心筋梗塞のスクリーニングのため,成人には心電図検査を施行し,血清カリウム値の重症度を判断材料とする。

その他の臨床検査値異常としては以下ものがある:

  • 低ナトリウム血症

  • 血清クレアチニン高値

  • 血漿浸透圧高値

高血糖は希釈性低ナトリウム血症を引き起こすことがあるため,血清血糖値が100mg/dL(5.6mmol/L)を超える場合,100mg/dL(5.6mmol/L)の上昇毎に血清Naの測定値に1.6mEq/L(1.6mmol/L)を加算することで補正する。例えば,血清ナトリウムが124mEq/L(124mmol/L)で血糖値が600mg/dL(33.3mmol/L)の患者の場合,1.6 ×([600 100]/100)= 8mEq/L(8mmol/L)であり,これを124に加算すると血清ナトリウムの補正値は132mEq/L(132mmol/L)となる。

アシドーシスが是正されると,血清カリウム値も低下する。初期カリウム値4.5mEq/L(4.5mmol/L)未満は著明なカリウム欠乏を示し,迅速なカリウム補充を要する。

血清アミラーゼや血清リパーゼは,膵炎(アルコール性ケトアシドーシス患者および高トリグリセリド血症を併発する患者にみられる場合がある)がなくてもしばしば上昇している。

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診断に関する参考文献

  1. 1.Buse JB, Wexler DJ, Tsapas A, et al: 2019 Update to: Management of Hyperglycemia in Type 2 Diabetes, 2018.A Consensus Report by the American Diabetes Association (ADA) and the European Association for the Study of Diabetes (EASD).Diabetes Care 43(2):487–493, 2020. doi: 10.2337/dci19-0066

  2. 2.Garber AJ, Handelsman Y, Grunberger G, et al: Consensus statement by the American Association of Clinical Endocrinologists and American College of Endocrinology on the comprehensive type 2 diabetes management algorithm--2020 executive summary.Endocrine Practice 26:107–139, 2020.

DKAの予後

糖尿病性ケトアシドーシスによる全死亡率は1%未満であるが,高齢者や生命を脅かす他の病態がある患者では死亡率がより高くなる。入院時のショックまたは昏睡は予後不良を示す。主な死因は,循環虚脱,低カリウム血症,および感染症である。臨床的に明らかな脳浮腫のある小児を対象とした比較的前の研究では,約4分の1の患者が死亡し,15~35%の患者に神経学的後遺症が残った(1, 2)。別の研究では,神経学的後遺症が残った患者の割合および死亡率はそれより低かった。

予後に関する参考文献

  1. Edge JA, Hawkins MM, Winter DL, Dunger DB: The risk and outcome of cerebral oedema developing during diabetic ketoacidosis.Arch Dis Child 85(1):16-22, 2001.doi:10.1136/adc.85.1.16

  2. Marcin JP, Glaser N, Barnett P, et al: Factors associated with adverse outcomes in children with diabetic ketoacidosis-related cerebral edema.J Pediatr 141(6):793-797, 2002.doi:10.1067/mpd.2002.128888

DKAの治療

  • 生理食塩水の静注

  • 低カリウム血症の是正

  • インスリンの静注(血清カリウム 3.3mEq/L[3.3mmol/L]である場合)

  • まれに,炭酸水素ナトリウムの静注(治療後1時間の時点でpH < 7の場合)

糖尿病性ケトアシドーシスの治療において最も緊急性の高い目標は,血管内容量の急速な補充,高血糖およびアシドーシスの是正,ならびに低カリウム血症の予防である(1, 2)。誘発因子の同定も重要である。

初期には臨床所見や臨床検査による評価を1~2時間毎に行い,治療を適宜調整する必要があるため,治療は集中治療室で行うべきである。

血管内容量の補充

血圧を上昇させ,糸球体の灌流を確保するため,血管内容量を速やかに回復させるべきである;血管内容量が一旦回復したら,残る体内総水分量の不足はより緩徐に,通常は約24時間かけて是正する。一般に,成人での初期の補液は,最初の1時間で1~1.5Lの生理食塩水を急速点滴静注し,その後250~500mL/時で生理食塩水を点滴する。血圧を上昇させるために,追加のボーラス投与または投与速度の加速が必要になる場合がある。心不全患者または体液量過剰のリスクがある患者では,より遅い速度で投与しなければならない可能性がある。血清ナトリウム濃度が正常または高値であれば,生理食塩水で初期の大量輸液を行った後は,0.45%食塩水に置き換える。血漿血糖値が200mg/dL(11.1mmol/L)未満に低下したら,輸液を変更すべきであり,0.45%食塩水に5~10%ブドウ糖を追加できる。

小児の場合,水分欠乏量は30~100mL/kg体重と推定される。小児への維持輸液(進行中の喪失に対する)も行わなければならない。初期の輸液療法では生理食塩水(10mL/kg)を1~2時間かけて投与し(これを繰り返してもよい),その後,血糖値が300mg/dL未満に低下し,血圧が安定し,尿量が十分になった時点で,0.45%食塩水に切り替える。残存する水分欠乏量は24~48時間かけて補充すべきであり,通常,脱水の程度に応じて約2~5mL/kg/時の速度での輸液(維持輸液も含む)を必要とする。

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高血糖およびアシドーシスの補正

高血糖の補正には,レギュラーインスリン0.1単位/kgをまず静注でボーラス投与し,次に生理食塩水に混注して0.1単位/kg/時で持続静注する。インスリンは血清カリウム値が3.3mEq/L(3.3mmol/L)以上になるまで控えるべきである。静注管にインスリンが吸収されることで作用にむらがでる恐れがあるが,これは静注管にインスリン液をあらかじめ流しておくことによって最小限に抑えられる。血漿血糖値が最初の1時間で50~75mg/dL(2.8~4.2mmol/L)低下しなければ,インスリンの用量を2倍にすべきである。小児には,0.1単位/kg/時以上のインスリン持続静注と場合によりボーラス投与を行うべきである。

十分量のインスリンが投与されれば,ケトン体は数時間以内に消失し始める。しかし,ケトン体のクリアランスは遅れることがあり,これはアシドーシスが消失するにつれてβ-ヒドロキシ酪酸がアセト酢酸(大半の病院の検査室で測定される「ケトン体」である)に変換されるためである。血清のpHおよび重炭酸濃度も迅速に改善するはずであるが,血清重炭酸濃度が正常値まで回復するには24時間かかる場合がある。重炭酸は急性脳浮腫の発生につながる可能性があるため(主に小児において),ルーチンに投与すべきではない。重炭酸を使用する場合は,pH < 6.9となってから開始すべきであり,50~100mEq(50~100mmol)を2時間かけて投与することでpHのごくわずかな上昇を試みるべきであり,投与後は動脈血pHおよび血清カリウムを繰り返し測定すべきである。

成人で血漿血糖値が200mg/dL未満(11.1mmol/L未満)になったときには,5~10%ブドウ糖を輸液に加えて低血糖のリスクを低減すべきである。ブドウ糖濃度は調整することができ,インスリンは血糖値150~200mg/dL(8.3~11.1mmol/L)を維持するレベルに減量できるが,レギュラーインスリンの持続静注は,2回連続で行った検査でアニオンギャップが減少しており,血液および尿のケトン体が持続的に陰性となるまでは継続すべきである。SGLT2阻害薬の使用に関連するDKAでは,インスリンおよびブドウ糖による治療期間の延長が必要になる場合がある。

患者の状態が安定し食事ができるようになれば,典型的なsplit-mixed法またはbasal-bolus療法によるインスリン投与レジメンを開始する。初回のインスリン皮下投与後もインスリン静注を1~4時間継続すべきである。小児では,インスリン皮下注射が開始されpHが7.3を上回るまで0.05単位/kg/時のインスリン静注を継続すべきである。

低カリウム血症の予防

低カリウム血症の予防では,血清カリウム値を4~5mEq/L(4~5mmol/L)に維持するために輸液1Lにつき20~30mEq(20~30mmol)のカリウム補充が必要である。血清カリウム値が3.3mEq/L(3.3mmol/L)未満であれば,インスリンを中止して,血清カリウム値が3.3mEq/L(3.3mmol/L)以上になるまでカリウムを40mEq/時で投与すべきである;血清カリウム値が5mEq/L(5mmol/L)を上回ればカリウムの補充を中止できる。

初期は血清カリウム濃度が正常または上昇していることがあるが,これは細胞内貯蔵カリウムがアシデミアに反応して細胞外に移動したことを反映しており,糖尿病性ケトアシドーシス患者のほぼ全員が有する真のカリウム欠乏を隠蔽している。インスリン補充により急速にカリウムが細胞内に移動するため,治療の初期段階ではカリウム濃度を1~2時間毎に確認すべきである。

その他の対策

DKAの治療中には低リン血症がしばしば発生するが,大半の症例において,リンの補充に便益があるかは不明である。適応がある場合(例,横紋筋融解症,溶血,または神経機能の悪化がみられる場合)は,リン酸カリウム(リン1~2mmol/kg)を6~12時間かけて静注できる。リン酸カリウムを投与した場合,血清カルシウム濃度は通常低下するため,モニタリングすべきである。

脳浮腫が疑われる際の治療は,過換気,コルチコステロイド,およびマンニトールであるが,こうした処置は呼吸停止発生後はしばしば無効である。

治療に関する参考文献

  1. 1.Gosmanov AR, Gosmanova EO, Dillard-Cannon E: Management of adult diabetic ketoacidosis. Diabetes Metab Syndr Obes 7:255–264, 2014.doi:10.2147/DMSO.S50516

  2. 2.French EK, Donihi AC, Korytkowski MT: Diabetic ketoacidosis and hyperosmolar hyperglycemic syndrome: review of acute decompensated diabetes in adult patients.BMJ 365:l1114, 2019.doi: 10.1136/bmj.l1114

要点

  • 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は糖尿病の急性代謝性合併症で,高血糖,高ケトン血症,および代謝性アシドーシスを特徴とする。

  • DKAは,1型糖尿病患者において,急性の生理的ストレス因子(例,感染症,心筋梗塞)がアシドーシス,グルコースの中等度上昇,脱水,およびカリウムの重度喪失を誘発することで発生しうる。

  • 高血糖の存在下で,動脈血pH < 7.30でアニオンギャップ > 12であり,血清中にケトン体を認めることにより診断する。

  • アシドーシスは通常輸液およびインスリンにより是正され,治療開始後1時間の時点で著明なアシドーシス(pHが7未満)が持続している場合にのみ,重炭酸の投与を考慮する。

  • 血清カリウムが3.3mEq/L(3.3mmol/L)以上になるまでインスリンは控える。

  • 急性脳浮腫はまれ(約1%)であるが致死的な合併症であり,主に小児にみられ,より頻度は低いが青年や若年成人でも生じる。

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