ヒトには6種類の多量ミネラル（マクロミネラル）がグラム単位で必要である。
1日当たりの必要量は0.3～2.0gである。骨，筋肉，心臓，および脳の機能が，これらの多量ミネラルに依存している。
（水とナトリウムの平衡も参照のこと。）
ヒトには以下の9種類の微量ミネラル（ミクロミネラル）がごく少量必要である：
クロム
銅
フッ素
ヨウ素
鉄
マンガン
モリブデン
セレン
亜鉛
微量ミネラルに関する食生活指針が定められている（微量ミネラルの1日当たり摂取量のガイドラインの表を参照）。微量ミネラルはいずれも高濃度で毒性を示し，一部のミネラル（クロム）は発がん物質である可能性がある。クロムを必須（必要な）微量元素とみなすべきかどうかは明らかではない(1)。
微量ミネラルの欠乏症（ヨウ素，鉄，および亜鉛を除く）は，普通の食事を摂取している成人に自然発生的に生じることはあまりない；乳児は成長が早く摂取量が様々であるため，より罹患しやすい。
微量ミネラルの不均衡が，遺伝性疾患（例，ヘモクロマトーシス，ウィルソン病），腎透析，静脈栄養，先天性代謝異常症患者に処方する食事制限，または様々かつ一般的な食事計画によって生じることがある。
微量ミネラル
栄養素 | 主要供給源 | 機能 | 欠乏症および中毒の主な影響 |
|---|---|---|---|
クロム | レバー，加工肉，全粒粉シリアル，ナッツ類 | 耐糖能の促進 | 欠乏症：耐糖能異常の可能性 中毒：職場での6価クロム（CrO3）への曝露による皮膚，肺，および消化管の刺激；鼻中隔穿孔や肺癌が生じることがある |
銅 | 内臓肉，貝類・甲殻類，ナッツ類，乾燥豆，乾燥果実，全粒粉シリアル，えんどう豆，ココア，キノコ，トマト製品 | 酵素成分，造血，骨形成 | 欠乏症：低栄養の小児における貧血；メンケス（縮れ毛）症候群において認められることがある 中毒：銅中毒；ウィルソン病において認められることがある |
フッ素 | 魚介類，茶，フロリデーション水（フッ化ナトリウム1.0～2.0ppm） | 骨および歯の形成 | 欠乏症：齲歯の素因，骨粗鬆症の可能性 中毒：フッ素症，永久歯の斑状化とくぼみ形成，脊椎の外骨腫 |
ヨウ素 | 魚介類，ヨウ素添加塩，卵，チーズ，飲料水（含有量は様々） | サイロキシン（T4）およびトリヨードサイロニン（T3）合成，胎児の発育 | 欠乏症：単純性（コロイド，地方病性）甲状腺腫，聾唖を伴う先天性甲状腺機能低下症，胎児成長障害および脳発達障害（クレチン症） 中毒：甲状腺機能亢進症または甲状腺機能低下症 |
鉄 | 多数の食物（乳製品を除く）―大豆粉，牛肉，腎臓，レバー，魚，鶏肉，豆類，貝類，糖蜜，栄養強化穀類およびシリアル（供給源の植物により生物学的利用能は様々） | ヘモグロビンおよびミオグロビン生成，チトクロム酵素，鉄硫黄タンパク質 | 欠乏症：貧血，異食症，舌炎，口角炎 中毒：肝硬変，糖尿病，皮膚の色素沈着；ヘモクロマトーシスにおいて認められることがある |
マンガン | 全粒粉シリアル，パイナップル，ナッツ類，茶，豆類，トマト | 健常な骨構造 マンガン特異的酵素の成分：グリコシルトランスフェラーゼ，ホスホエノールピルビン酸カルボキシナーゼ，マンガンスーパーオキシドジスムターゼ | 欠乏症：疑わしい 中毒：パーキンソニズムまたはウィルソン病の症状に類似した神経症状 |
モリブデン | 牛乳，豆類，全粒粉パンおよびシリアル，濃い緑色の野菜 | 亜硫酸酸化酵素，キサンチンデヒドロゲナーゼ，およびアルデヒドオキシダーゼの，補酵素の成分 | 欠乏症：頻脈，頭痛，悪心，意識障害（亜硫酸塩中毒） |
セレン | 肉類，魚介類，ナッツ類，植物由来の食物（セレンの含有量は土壌中濃度により異なる） | グルタチオンペルオキシダーゼおよび甲状腺ホルモンヨード化酵素の成分 | 欠乏症：克山病（ウイルス性心筋症），筋力低下 中毒：脱毛，爪の異常，悪心，皮膚炎，末梢神経障害 |
亜鉛 | 肉，レバー，牡蠣，魚介類，栄養強化シリアル，ピーナッツ，全粒穀物（供給源の植物により生物学的利用能は様々） | 酵素成分，皮膚の完全性，創傷治癒，成長 | 欠乏症：成長障害および性的成熟の遅れ，性腺機能低下症，味覚低下 中毒：小赤血球症，好中球減少症，免疫障害 |
微量ミネラルの1日当たり摂取量のガイドライン
カテゴリー | 年齢（歳*）または期間 | クロム（μg） | 銅（μg） | フッ素（mg） | ヨウ素（μg） | 鉄（mg） | マンガン（mg） | モリブデン（μg） | セレン（μg） | 亜鉛（mg） |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1日当たりの推奨摂取量 | ||||||||||
乳児 | 0.0～6カ月 | 0.2 | 200 | 0.01 | 110 | 0.27 | 0.003 | 2 | 15 | 2 |
7カ月～1歳 | 5.5 | 220 | 0.5 | 130 | 11 | 0.6 | 3 | 20 | 3 | |
小児 | 1～3 | 11 | 340 | 0.7 | 90 | 7 | 1.2 | 17 | 20 | 3 |
4～8 | 15 | 440 | 1 | 90 | 10 | 1.5 | 22 | 30 | 5 | |
男性 | 9～13 | 25 | 700 | 2 | 120 | 8 | 1.9 | 34 | 40 | 8 |
14～18 | 35 | 890 | 3 | 150 | 11 | 2.2 | 43 | 55 | 11 | |
19～30 | 35 | 900 | 4 | 150 | 8 | 2.3 | 45 | 55 | 11 | |
31～50 | 35 | 900 | 4 | 150 | 8 | 2.3 | 45 | 55 | 11 | |
51+ | 30 | 900 | 4 | 150 | 8 | 2.3 | 45 | 55 | 11 | |
女性 | 9～13 | 21 | 700 | 2 | 120 | 8 | 1.6 | 34 | 40 | 8 |
14～18 | 24 | 890 | 3 | 150 | 15 | 1.6 | 43 | 55 | 9 | |
19～30 | 25 | 900 | 3 | 150 | 18 | 1.8 | 45 | 55 | 8 | |
31～50 | 25 | 900 | 3 | 150 | 18 | 1.8 | 45 | 55 | 8 | |
51+ | 20 | 900 | 3 | 150 | 8 | 1.8 | 45 | 55 | 8 | |
妊娠14～18 | 29 | 1000 | 3 | 220 | 27 | 2.0 | 50 | 60 | 12 | |
妊娠19～30 | 30 | 1000 | 3 | 220 | 27 | 2.0 | 50 | 60 | 11 | |
妊娠31～50 | 30 | 1000 | 3 | 220 | 27 | 2.0 | 50 | 60 | 11 | |
授乳期14～18 | 44 | 1300 | 3 | 290 | 109 | 2.6 | 50 | 70 | 13 | |
授乳期19～30 | 45 | 1300 | 3 | 290 | 9 | 2.6 | 50 | 70 | 12 | |
授乳期31～50 | 45 | 1300 | 3 | 290 | 9 | 2.6 | 50 | 70 | 12 | |
*別に記載されている場合を除く。 | ||||||||||
注：推奨量（RDA）を通常のフォントで示す。RDAは集団の97～98％の人の必要量を満たすように設定されている。 目安量（AI）を太字のフォントで示す。健康な母乳栄養児では，AIは平均摂取量である。他の集団にとって，AIは集団の全員の必要量を満足すると考えられている量であるが，データ不足のため，カバーされる人の割合を確固として特定することはできない。 | ||||||||||
NR = 推奨されない；ND = データ不足のため確定不能，そのため摂取源は食物に限るべきである。 | ||||||||||
参考文献
1.Vincent JB: New evidence against chromium as an essential trace element. J Nutr 147(12):2212–2219, 2017.doi:10.3945/jn.117.255901
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし，本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
U.S. Department of Agriculture: General resources on vitamins and minerals provided by the National Agricultural Library.
