遺伝性痙性対麻痺は,まれな一群の遺伝性疾患であり,進行性,脊髄性,非髄節性の下肢の痙性不全麻痺を特徴とし,ときに知的障害,痙攣,その他の脊髄外の障害を伴う。診断は臨床的に行い,ときに遺伝子検査を利用する。治療は痙縮を緩和する薬剤などによる対症療法である。
(脊髄疾患の概要も参照のこと。)
遺伝性痙性対麻痺の遺伝学的基盤は多様であり,多くの病型で不明である。
いずれの病型でも,下行性皮質脊髄路,および程度は小さいが後索と脊髄小脳路の変性が起こり,ときに前角細胞の消失を伴うこともある。
発症はあらゆる年齢(0歳から高齢まで)に及び,個々の遺伝型によって異なる。遺伝性痙性対麻痺は男女ともにみられる。
遺伝性痙性対麻痺の症状と徴候
遺伝性痙性対麻痺の症状・徴候としては,痙性不全麻痺,それに伴う進行性の歩行困難,反射亢進,クローヌス,バビンスキー徴候などがある。通常,感覚および括約筋機能は保たれる。上肢が侵されることもある。障害は1つの脊髄髄節に限局しない。
一部の型では,脊髄外の神経脱落症状(例,脊髄小脳症状,眼症状,錐体外路症状,視神経萎縮,網膜変性,知的障害,認知症,多発神経障害)もみられる。
遺伝性痙性対麻痺の診断
臨床的評価
ときに遺伝子検査
遺伝性痙性対麻痺は家族歴と痙性対麻痺の何らかの徴候から示唆される。
遺伝性痙性対麻痺の診断は,他の原因を除外することによるが,ときに(例,原因不明の場合)遺伝子検査を行うこともある。遺伝カウンセラーへのコンサルテーションが推奨される。
遺伝性痙性対麻痺の治療
対症療法(痙縮を緩和するための薬剤など)
遺伝性痙性対麻痺の治療は,いずれの病型も対症療法である。痙縮にはバクロフェンを10mg,経口,1日2回で投与し,必要に応じて最大40mg,経口,1日2回まで増量する。代替薬としては,ジアゼパム,クロナゼパム,ダントロレン,ボツリヌス毒素(A型ボツリヌス毒素またはB型ボツリヌス毒素),チザニジンなどがある。
理学療法と運動は,歩行能力と筋力を維持し,可動域と耐容能を高め,疲労を軽減し,攣縮を予防するのに役立つ可能性がある。患者によっては副子,杖,または松葉杖の使用が有益となる。
要点
いずれの病型の遺伝性痙性対麻痺でも,下行性皮質脊髄路,および程度は小さいが後索と脊髄小脳路の変性が起こる。
進行性の歩行困難を伴う下肢の痙性不全麻痺,反射亢進,クローヌス,伸展性足底反応がみられる;脊髄外の神経脱落症状を引き起こす病型もある。
痙性不全麻痺の家族歴および徴候がみられる患者では遺伝性痙性対麻痺を疑い,他の原因を除外し,それでも診断が不明確な場合は,遺伝子検査を考慮する。
症状を治療する(例,痙縮に対してバクロフェン,理学療法)。