自律神経反射障害(autonomic dysreflexia)は,自律神経系の調節異常を来す疾患であり,脊髄損傷の患者に生じ,生命を脅かす高血圧につながる可能性がある。
脊髄損傷の1カ月後から1年後に,20~70%の患者で発症する。
脊髄損傷は通常T6より上にあり,T10より下の損傷後に反射障害が起こる可能性は低い。生命を脅かす高血圧は,脊髄損傷部位より下位の侵害刺激によって誘発され,約85%の患者では膀胱拡張や尿路感染症などの泌尿器疾患がそうした刺激となる。最大85%の症例では,膀胱拡張が原因であり,それらは多くの場合,膀胱カテーテルの閉塞に起因する。2番目に頻度の高い原因は腸管の拡張と宿便であり,全症例の13~19%を占める。
自律神経反射障害の病態生理
脊髄損傷部位より下位の内臓または皮膚が刺激されると,反射による交感神経活動が誘発される結果,びまん性の血管収縮と血圧の上昇を来す。正常では,血圧の上昇により副交感神経の代償機構が刺激され,血管拡張と血圧の是正が生じる。しかしながら,脊髄が損傷すると,副交感神経の反応が脊髄病変部より下に伝達されなくなり,血管収縮が持続する結果,組織損傷を伴って高血圧が持続するようになる。T10より下位に病変があると,内臓血管床の神経支配は損なわれないため,その領域では副交感神経による代償性の拡張が機能する。誘発刺激としては,管腔臓器(例,腸管または膀胱)の拡張,褥瘡,尿路感染症,骨折,内科的または外科的処置,さらには性交などがある。
自律神経反射障害の症状と徴候
自律神経反射障害の症状は様々で,間欠的である。通常は突然発症する。具体的には,頭痛,悪心・嘔吐,視覚障害,鼻閉,不安感,破滅感などがある。脊髄損傷部位より上位では大量の発汗,紅潮,および立毛がみられ,損傷部位より下位では皮膚の乾燥および蒼白化を伴う血管収縮がみられる。
高血圧から高血圧クリーゼを来すこともあり,その場合は肺水腫,頭蓋内出血,痙攣発作,網膜剥離,および心筋梗塞がみられ,死に至ることもある。
自律神経反射障害の診断
臨床的評価
T6より高位の脊髄損傷に加えて重度の高血圧と交感神経活動の亢進(特に管腔臓器の拡張により誘発される場合)がみられる患者では,自律神経反射障害を疑うべきである。
T6以上に脊髄病変がある患者が頭痛を訴えている場合は,自律神経反射障害を疑うべきである。そのような患者では,血圧を直ちに測定し,必要に応じて是正すべきである。脊髄損傷のない患者で疼痛や不快感を引き起こす刺激(例,褥瘡,陥入爪)は,脊髄損傷のある患者に生じると,自律神経反射障害につながることがある。徹底的な医学的評価が必要になることがある。
自律神経反射障害の治療
誘発刺激の管理
血圧のコントロール
自律神経反射障害の治療にはバイタルサインの綿密なモニタリングが必要である。誘発刺激は是正および/または除去すべきである。重度の高血圧は,硝酸薬やヒドララジン,ラベタロール,ニフェジピンなど速効性の薬剤で直ちに治療する。
妊婦には専門的な産科ケアが必要になることがある。
自律神経反射障害の予防
A型ボツリヌス毒素を用いる膀胱の化学的神経遮断(chemodenervation)は,適切に(すなわち,他の全ての予防法が無効に終わった状況で)用いれば,自律神経反射障害の予防に役立つことが示されている。
膀胱カテーテルを交換する前にリドカインの膀胱内注入を行うことで,膀胱拡張の頻度を低減できる可能性がある。
要点
自律神経反射障害は,脊髄損傷後に発生し,生命を脅かす高血圧につながる可能性がある。
症状としては,頭痛,悪心・嘔吐,視覚障害,鼻閉,不安感,破滅感などがあり,脊髄損傷部位より上位では大量の発汗,紅潮,および立毛がみられ,損傷部位より下位では皮膚の乾燥および蒼白化を伴う血管収縮がみられる。
T6レベルより上位の脊髄損傷に加えて重度の高血圧と交感神経活動の亢進がみられる患者では,特に管腔臓器の拡張(しばしば膀胱カテーテルの閉塞により引き起こされる)によって誘発される場合は,自律神経反射障害を疑う。
可能であれば原因を是正し,重度の高血圧は速効性の薬剤で治療する。