一過性脳虚血発作 (TIA)

執筆者:Andrei V. Alexandrov, MD, The University of Tennessee Health Science Center;
Balaji Krishnaiah, MD, The University of Tennessee Health Science Center
レビュー/改訂 2023年 7月
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一過性脳虚血発作(TIA)は,一過性の神経脱落症状を突然引き起こす局所的な脳虚血で,永続的な脳梗塞を伴わない(例,MRIの拡散強調画像で陰性)ものである。診断は臨床的に行う。頸動脈内膜剥離術またはステント留置術,抗血小板薬,および抗凝固薬は,特定の病型のTIA後に生じうる脳卒中のリスクを低下させる。

TIAは,症状の持続時間が通常は1時間未満(大半のTIAは5分未満)である点を除けば,虚血性脳卒中と同様である。障害が1時間以内に消失する場合,梗塞の可能性は非常に低い。MRIの拡散強調画像やその他の検査法で示されるように,障害が1時間後から24時間後までに自然消失する場合は,しばしば梗塞を伴うため,もはやTIAとはみなされない。

TIAは中年および高齢者で最も多くみられる。TIAは脳卒中のリスクを著しく増大させ,そのリスクは最初の24時間から始まる。

TIAの病因

危険因子は虚血性脳卒中のそれと同じである。

是正可能な危険因子としては以下のものがある:

是正できない危険因子としては以下のものがある:

  • 脳卒中の既往

  • 高齢

  • 脳卒中の家族歴

  • 男性

大半のTIAは塞栓(通常は頸動脈または椎骨動脈由来)によって生じるが,虚血性脳卒中の原因の大半がTIAの原因にもなる。

まれに,重度の低酸素血症,血液酸素運搬能の低下(例,著明な貧血一酸化炭素中毒),または血液粘稠度の増大(例,重度の赤血球増多症)による灌流障害によってTIAが引き起こされることがあり,特に狭窄がすでに存在している脳動脈で起こりやすい。体循環の血圧低下は,重度であるか動脈狭窄がすでに存在するのでない限り,脳虚血の原因となることは通常なく,これは,収縮期血圧が広い範囲で変動しても脳血流量は自己調節能によりほぼ正常な水準に保たれるためである。

鎖骨下動脈盗血症候群では,椎骨動脈起始部より近位で生じた鎖骨下動脈の狭窄が原因で,運動中に上肢への血液が供給される際,本来は椎骨動脈に送られるべき血液が鎖骨下動脈に「盗まれ」(椎骨動脈では血流が逆向きになる),椎骨脳底動脈系の虚血徴候が生じる。

ときに,塞栓をもたらす重度の心血管疾患を有する小児,または慢性低酸素血症によるヘマトクリット高度上昇を呈する小児にもTIAがみられる。

TIAの症状と徴候

神経脱落症状は脳卒中の場合と同様である(主な脳卒中症候群の表を参照)。眼動脈が侵されると,一過性黒内障(一過性の単眼失明)が生じることがあり,その持続時間は通常5分未満である。

表&コラム
表&コラム

TIAの症状は突然始まり,通常は2~30分持続した後,完全に消失する。TIAは1日に数回起こることもあれば,数年間で2~3回にみのこともある。連続する頸動脈発作では通常は症状が類似するが,連続する椎骨脳底動脈発作では,いくらかの変動がみられる。

TIAの診断

  • 1時間以内に消失する脳卒中様症状

  • 脳画像検査

  • 原因を同定するための評価

ある動脈領域の虚血で説明できる突然の神経脱落症状が1時間以内に消失した場合は,後ろ向きに一過性脳虚血発作と診断する。

単独の末梢性顔面神経麻痺,意識消失,または意識障害からはTIAは示唆されない。TIAは,類似の症状を引き起こす以下のような他の原因と鑑別しなければならない:

  • 低血糖

  • 片頭痛の前兆

  • 発作後(トッド)麻痺(発作焦点の対側にみられる一過性の神経脱落症状[通常は筋力低下])

臨床所見からは梗塞や小出血,さらには腫瘤病変さえ除外できないため,脳画像検査が必要である。通常はCTが直ちに施行できる可能性が最も高い検査である。しかしながら,CTでは発生後24時間超にわたり梗塞を同定できない場合がある。MRIでは,通常は数時間以内に進行性梗塞を検出できるようになる。MRIの拡散強調画像は,TIAと推定される患者で梗塞を除外する上で最も正確な検査画像であるが,常に撮影可能とは限らない。

TIAの原因検索は虚血性脳卒中の原因検索と同様に進めるが,その評価法としては,頸動脈狭窄,心原性塞栓源,心房細動,および血液学的異常に対する検査や,脳卒中の危険因子に対するスクリーニングなどがある。虚血性脳卒中が続発するリスクが高く,差し迫っていることから,通常は入院下で迅速に評価を進める。救急診療部から安全に帰宅させることができる患者(いると仮定した場合)の条件は不明である。TIAまたは軽度脳卒中に続いて脳卒中が発生するリスクは最初の24~48時間が最も高いため,いずれかの疑いがある場合は,典型的には患者を入院させてテレメトリーによるモニタリングと評価を行う。

ABCD2スコアが4を超える患者は,TIAのリスクが高い。

ABCD2スコアは,TIA後の脳卒中のリスク推定に用いられ,以下の値を加算して算出される:

  • A(age[年齢]):≥ 60 = 1

  • B(blood pressure[血圧]):収縮期血圧 ≥ 140mmHgまたは拡張期血圧 > 90mmHg = 1

  • C(clinical feature[臨床的特徴]):筋力低下 = 2,筋力低下を伴わない発話障害 = 1

  • D(TIA duration[TIAの持続時間]):60分以上 = 2,10~59分 = 1,10分未満 = 0

  • D2(diabetes[糖尿病])= 1

ABCD2スコアに基づく2日以内の脳卒中のリスクは以下の通りである:

  • スコア6~7:8%

  • スコア4~5:4%

  • スコア0~3:1%

TIAの既往がある患者には,全例で頸動脈および脳血管系のCT血管造影,MRアンギオグラフィー(MRA),または拡散強調MRIが必要である。

TIAの治療

一過性脳虚血発作の治療は,脳卒中の予防を目的とし,抗血小板薬とスタチン系薬剤が使用される。頸動脈内膜剥離術または動脈形成術 + ステント留置術は,一部の患者,特に神経脱落症状はないが脳卒中リスクが高い(同側の頸動脈狭窄が70%を超える)患者で有用となりうる。心臓に塞栓源が存在する場合は,抗凝固薬の適応となる。

可能であれば,脳卒中の危険因子を是正することで脳卒中を予防できる場合がある。

要点

  • 1時間以内に消失する局所神経脱落症状は,ほぼ常に一過性脳虚血発作である。

  • 虚血性脳卒中に対する検査を行う。

  • 虚血性脳卒中の二次予防と同じ治療法を用いる(例,抗血小板薬,スタチン系薬剤,ときに頸動脈内膜剥離術または動脈形成術 + ステント留置術)。

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