感染性の屈筋腱腱鞘炎は,屈筋腱腱鞘内の急性感染症である。診断はKanavel徴候により示唆され,X線により確定する。治療は外科的ドレナージおよび抗菌薬投与による。
(手疾患の概要および評価も参照のこと。)
感染性の屈筋腱腱鞘炎における通常の原因は,腱鞘の穿通および細菌の播種である。
感染性の屈筋腱腱鞘炎の診断
Kanavel徴候
X線
排膿または外科的に採取した検体の培養
感染性の屈筋腱腱鞘炎はKanavel徴候を引き起こす:
安静位の指の屈曲
紡錘状の腫脹
屈筋腱腱鞘に沿った圧痛
指の他動的伸展に伴う痛み
隠れた異物を検出するためにX線撮影を行うべきである。急性の石灰沈着性腱炎および関節リウマチは,動きを制限し,腱鞘に痛みを引き起こすことがあるが,より緩徐な発症とKanavel徴候の一部が欠けていることにより,通常は感染性の屈筋腱腱鞘炎と鑑別することができる。播種性淋菌感染症は,腱鞘炎を引き起こすことがあるが,複数の関節を侵すことが多く(特に手関節,手指,足関節,および足趾の関節),しばしば最近の発熱,発疹,多発性関節痛の既往があり,多くの場合,性感染症の危険因子がみられる。腱鞘の感染症には非結核性抗酸菌が関与することがあるが,そのような感染症は通常,進行がより緩徐であり,特に易感染性患者でその傾向が強い(1)。
診断に関する参考文献
1.Kazmers NH, Fryhofer GW, Gittings D, et al: Acute deep infections of the upper extremity: The utility of obtaining atypical cultures in the presence of purulence.J Hand Surg Am 42(8):663.e1-663.e8, 2017.doi: 10.1016/j.jhsa.2017.05.004.Epub 2017 May 25.PMID: 28550986.
感染性の屈筋腱腱鞘炎の治療
外科的排膿および抗菌薬
感染性の屈筋腱腱鞘炎の治療は外科的排膿による(例,カニューレを片側の端から挿入し,灌流液が腱鞘に沿ってもう一方の端まで流れるようにして,腱鞘を灌流する,またはより重篤な感染症に対して広範な切開を行う)。
抗菌薬療法(経験的にセファロスポリン系薬剤で開始)および培養も必要となる。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)が蔓延している地域では,セファロスポリン系薬剤の代わりに,トリメトプリム/スルファメトキサゾール,クリンダマイシン,ドキシサイクリン,またはリネゾリドを用いるべきである。