原発性悪性骨腫瘍は転移性骨腫瘍よりはるかに頻度が低く,特に成人でその傾向がある。原発性悪性骨腫瘍としては,多発性骨髄腫,骨肉腫,アダマンチノーマ,軟骨肉腫,脊索腫,骨のユーイング肉腫,線維肉腫および未分化多形肉腫,骨のリンパ腫,悪性巨細胞腫などがある。(骨と関節の腫瘍の概要および白血病の概要も参照のこと。)
これらの腫瘍の病期分類に最も広く用いられているシステムは以下の2つである:
American Joint Committee on Cancer(AJCC)のCancer Staging Manual,第8版:骨肉腫,軟骨肉腫,およびユーイング肉腫については,病期分類は明確な腫瘍カテゴリー,組織学的悪性度,大きさ,リンパ節転移,および遠隔転移(TNM分類)に基づく。このマニュアルは腫瘍を4つの病期に分類しており,がんデータの報告に用いられている。
Musculoskeletal Tumor Society(MSTS)の病期分類システム:腫瘍整形外科医が組織学的悪性度に基づいて使用する(例,I期-低悪性度の組織型およびII期-高悪性度の組織型,腫瘍が完全に骨内にあるか(A)または骨皮質を破り周囲の軟部組織に進展しているか(B),およびIII期の転移)。転移を伴わず軟部組織腫瘤を伴う典型的な(通常の)骨肉腫は,MSTS分類でIIB期である。
多発性骨髄腫
多発性骨髄腫は最も一般的な原発性悪性骨腫瘍であるが,造血系由来であるため,原発性骨腫瘍というよりも骨内の骨髄細胞の腫瘍であるとみなされることが多い(多発性骨髄腫も参照)。多発性骨髄腫を造血器腫瘍と考えた場合でも,同定された骨格異常を他の骨腫瘍と鑑別する必要がある。
多発性骨髄腫は大半が高齢者に発生する。
腫瘍の発生および進行は通常は多中心性であり,しばしば骨髄を非常にびまん性に侵すため骨髄穿刺が診断に有用である。転移性の病変とは異なり,骨シンチグラフィーでは病変が確実に示されない場合があり,全身骨X線検査を行うべきである。全身骨X線検査では,境界明瞭な融解性病変(打ち抜き病変)またはびまん性の脱灰が認められる。まれに,病変が硬化像またはびまん性の骨減少症として現れることがあり,特に椎体でその可能性が高い。全身性の骨髄病変がない孤立性で単独の骨髄腫病変を形質細胞腫と呼ぶ。
Image courtesy of Michael J. Joyce, MD, and Hakan Ilaslan, MD.
特定の骨病変は放射線療法に非常によく反応する。
骨肉腫(骨原性肉腫)
骨肉腫は最も一般的な原発性悪性骨腫瘍であり(骨髄腫を原発性骨腫瘍ではなく骨髄細胞の腫瘍と考える場合),非常に悪性である。いずれの年齢でも発生しうるが,10~25歳で最も多い。発生率には2つのピークがある;発生率は青年および非常に若年の成人で最も高く(青年期の成長スパートと一致する),2番目のピークは高齢者(60歳以上),特にパジェット病,骨梗塞,および何年も前に別のがんに対して高線量放射線療法を受けたことのある骨領域などの危険因子を有する高齢者でみられる。遺伝的素因があり,特に遺伝性網膜芽細胞腫の遺伝子(RB1遺伝子の変異)およびリ-フラウメニ症候群の遺伝子(TP53遺伝子)を保有する小児にその傾向がみられる。
骨肉腫は腫瘍の骨細胞から悪性の類骨を生じる。骨肉腫は,通常膝関節周囲(脛骨近位部より大腿骨遠位部に多い)または他の長管骨(特に骨幹端-骨幹部分)に発生し,転移することがある(通常は肺または他の骨に)。痛みおよび腫脹が通常の症状である。
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画像検査上の所見は様々であり,硬化性または融解性の特徴を有することがある。骨肉腫の診断には生検を必要とする。肺転移を検出するために胸部X線およびCTが,骨転移を検出するために骨シンチグラフィーが必要である。異時性病変があれば検出するために,患肢全体のMRIを行う。PET-CTによって遠隔転移または異時性病変を認めることがある。
骨肉腫の治療は化学療法と手術の組合せである。アジュバント化学療法により5年生存率が20%未満から65%超に上昇する。外科的切除の前にネオアジュバント化学療法を開始する。X線写真上の末梢軟部組織腫瘍の腫瘍量減少または石灰化の増加,痛みの程度の低下,および血清アルカリホスファターゼ値の低下はいくらかの反応を示唆するが,望ましい反応は病理医による切除標本の組織学的マッピングで95%を超える腫瘍壊死である。数コースの化学療法(数カ月にわたる)の後,患肢温存手術および患肢再建を行える。ときに,fungating tumorに対して,化学療法の開始前に外科的切断術を施行する。目標は,病期診断のための画像検査で認められなくとも存在が想定される,早期の微小転移巣を治療することである。
患肢温存手術では,周囲にある全ての反応性の組織および周囲の正常組織の縁を含め,腫瘍を一括切除する;腫瘍細胞が顕微鏡レベルでこぼれるのを避けるため,腫瘍は傷つけない。85%を超える患者は,長期生存率を下げることなく患肢温存手術で治療できる。
手術後の化学療法の継続が必要である。術前化学療法によりほぼ完全な腫瘍壊死(約95%)が認められる場合,5年生存率は90%を超える。肺に限定された転移巣は,ときに開胸手術および肺病変の楔状切除によって治療する。
通常型骨肉腫とは異なる非常に発生頻度が低い骨肉腫の亜型には,傍骨性骨肉腫および骨膜性骨肉腫などの,骨表面の皮質病変がある。傍骨性骨肉腫は大半が大腿骨遠位部の後部皮質を侵し,通常は分化がよく進んでいる。低悪性度の傍骨性骨肉腫の治療では,外科的切除の前の化学療法は必要ない。傍骨性骨肉腫には外科的な一括切除が必要であるが,切除標本の組織像で腫瘍が高分化型であると確認されれば,化学療法は不要である。
骨膜性骨肉腫はどちらかと言えば軟骨基質表面の腫瘍であり,骨基質も含み,悪性である。大腿骨骨幹部中1/3に位置することが多く,X線上ではsunburstとして現れる。骨膜性骨肉腫の転移の可能性は分化が進んだ傍骨性骨肉腫よりもはるかに高いが,典型的な骨肉腫よりもいくぶん低い。ほとんどの場合,骨膜性骨肉腫は通常型骨肉腫と同様に化学療法および外科的な一括切除で治療する。
アダマンチノーマ
アダマンチノーマはまれであり(悪性骨腫瘍の1%未満),脛骨に発生することが最も多い。通常は青年および20代の人々に発生するが,あらゆる年齢層で起こりうる。アダマンチノーマは緩徐に増殖し,しばしば疼痛および触知可能な膨満を呈する。
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病変は典型的には脛骨の前縁に現れ,X線では「シャボン玉」様の骨溶解像が認められる。組織学的所見では,上皮組織と骨線維性組織の二相性のパターンを示す。病変は,前脛骨皮質の骨線維性異形成(これは良性である)と混同されることがある。一部の医師は,前脛骨皮質の骨線維性異形成はアダマンチノーマの前駆病変である可能性があるが,後に悪性化の原因となる上皮成分が存在しないと考えている。
転移は起こる(主に肺へ)が,まれである。
アダマンチノーマの治療は,異常部分の広範囲切除および再建から成る。ときに,切断術が必要となる。
軟骨肉腫
軟骨肉腫は軟骨の悪性腫瘍である。臨床的に骨肉腫と異なり,また治療および予後の面でも異なる。軟骨肉腫の90%は原発性腫瘍である。軟骨肉腫は他の既存疾患(特に多発性骨軟骨腫および多発性内軟骨腫症[例,Ollier病およびMaffucci症候群])においても発生する。軟骨肉腫は高齢者に生じる傾向がある。扁平骨(例,骨盤,肩甲骨)に発生することが多いが,あらゆる骨のあらゆる部位に発生する可能性があり(長管骨の中では大腿骨および上腕骨が最も多い),周囲の軟部組織を侵す軟部組織腫瘍の成分を有することがある。
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X線で点状の石灰化が明らかになることが多い。軟骨肉腫は,加えて骨皮質の破壊および正常な骨梁の消失を呈することが多い。MRIによって軟部組織の腫瘤を認めることがある。骨シンチグラフィーも行うことがある。軟骨肉腫に対しては組織診断が必要であり,それにより腫瘍の悪性度(転移の可能性)も判定できる。針生検で十分な組織検体が得られるであろう。
画像検査,およびときには組織像によっても,低悪性度の軟骨肉腫を内軟骨腫と鑑別するのは困難なことが多い。
低悪性度の軟骨肉腫(grade1)では,アジュバント療法(しばしば液体窒素による凍結,アルゴンビーム,メチルメタクリレートの熱,ラジオ波,またはフェノール)を用いて病変内治療(広範囲の掻爬)を行うことが多い。一部の外科医は,再発のリスクを減らすために低悪性度の腫瘍に対して外科的な一括切除を選択する。より悪性度の高い腫瘍は外科的な一括切除により治療する。機能を温存する外科的切除が不可能な場合は,切断術が必要になることがある。腫瘍を定着させる可能性があるため,生検中または手術中は軟部組織に腫瘍細胞をこぼさないよう,細心の注意を払わなければならない。腫瘍細胞を取り残すと再発は避けられない。腫瘍細胞のこぼれがなければ,治癒率は腫瘍の悪性度に依存する。低悪性度の腫瘍は,十分な治療によりほぼ全て治癒する。この腫瘍は血管分布が限られるため,化学療法および放射線療法にはほとんど効果がない。
脊索腫
脊索腫はまれであり,初期の脊索の遺残から発生する。脊柱の末端に発生する傾向があり,通常は仙骨の中央部または頭蓋底付近に発生する。仙尾骨部の脊索腫は,ほぼ持続的な痛みを生じる。頭蓋底の脊索腫は,脳神経に障害を引き起こすことがある(眼に向かう神経が最も多い)。
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診断がつくまでに脊索腫の症状が数カ月ないし数年続いていることがある。
画像検査では,脊索腫は軟部組織の腫瘤を伴うこともある破壊性の骨病変として現れる。生検を行う。
仙尾骨部の脊索腫は根治的な一括切除により治癒することがある。頭蓋底の脊索腫は通常,手術では到達不可能であるが,放射線療法に反応することがある。腫瘍切除後の局所再発率が高い。一般的ではないが,転移が起こることがある。
骨のユーイング肉腫
骨のユーイング肉腫は,10~20歳の間に発生率のピークがある青色小型円形細胞の骨腫瘍である。ユーイング肉腫は,現在ではユーイング肉腫ファミリーの一部と考えられている末梢性原始神経外胚葉性腫瘍(PNET)および胸壁のAskin悪性小細胞腫瘍と近縁の腫瘍である。大半が四肢に発生するが,いずれの骨にも発生しうる。ユーイング肉腫は広範囲に及ぶ傾向があり,ときに骨幹全体を侵す(骨幹部が最も多い)。約15~20%が骨幹端部の周囲に発生する。痛みおよび腫脹が最も一般的な症状である。
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骨融解性の破壊像(特に明瞭な境界のない浸透状[permeative]の浸潤パターン)が画像検査での最も一般的な所見であるが,骨膜下の反応性骨新生の複数の層がタマネギの皮(onion-skin)様の見た目を呈することがある。X線では通常,骨病変の範囲が完全には明らかにならず,通常は軟部組織の大きな腫瘤が罹患骨を取り囲んでいる。MRIでは疾患の範囲がより明確になり,その情報が治療方針の決定に役立つことがある。
その他の多くの良性および悪性の腫瘍が非常に類似して見えることがあるため,ユーイング肉腫の診断は生検により行う。ときにこのタイプの腫瘍は感染症と混同されることがある。正確な組織学的診断は細胞遺伝学的検査および分子マーカーの同定により得られる(典型的なクローン性の染色体異常についての評価など)。ユーイング肉腫ファミリー腫瘍における分子的所見は,22番染色体上のユーイング肉腫遺伝子(EWS)が関与する明確でノンランダムな染色体転座である。異なる融合遺伝子パターンにおける18の異なる構造的転座が同定されている。
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ユーイング肉腫の治療には,手術,化学療法,および放射線療法の多様な組合せが含まれる。現在,原発性の限局したユーイング肉腫患者の60%以上がこの集学的アプローチによって治癒する可能性がある。転移例であってもときに治癒が可能である。外科的な一括切除と化学療法の併用は,適用可能な場合,放射線療法と化学療法の併用と比較して良好な長期治療成績をもたらすことが多い。
線維肉腫および未分化多形肉腫(かつての骨悪性線維性組織球腫)
線維肉腫および未分化多形肉腫は骨肉腫と同様の特徴を有するが,(骨の腫瘍細胞ではなく)線維性の腫瘍細胞を作り,同じ年齢層に発生して,同様の問題をもたらす。
高悪性度の病変に対する治療および転帰は骨肉腫と同様である。
骨のリンパ腫
骨のリンパ腫(以前は細網肉腫として知られていた)は成人(通常40~50歳代)に発生する。通常,これはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫である。いずれの骨にも発生しうる。この腫瘍は小円形細胞から成り,しばしば細網細胞,リンパ芽球,およびリンパ球の混在を伴う。骨のリンパ腫は,孤立性の原発性骨腫瘍として,もしくは他の組織の同様の腫瘍と関連して,または既知の軟部組織のリンパ腫性の疾患からの転移として発生しうる。痛みおよび腫脹が骨のリンパ腫の通常の症状である。病的骨折がよくみられる。
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画像検査で骨破壊が明らかになり(パターンはまだら状[mottled]もしくは斑状[patchy],または浸潤性で浸透状[permeative]のことさえある),しばしば臨床的および放射線学的に大きな軟部組織の腫瘤を伴う。進行例では,罹患骨の全体の輪郭が消失することがある。生検も行う。
孤立性の原発性の骨のリンパ腫の5年生存率は50%以上である。
骨のリンパ腫の典型的な治療は,全身化学療法である。放射線療法は一部の症例でアジュバント療法として用いられることがある。病的骨折を予防するために長管骨の安定化が必要となることが多い。切断術は,それ以外では管理が不可能である病的骨折または広範な軟部組織の病変のために機能が失われている場合に,まれにのみ適応となる。
悪性巨細胞腫
悪性巨細胞腫はまれであり,通常は長管骨の最も端に生じる。
X線では悪性骨破壊の典型的な特徴(主に骨融解性の破壊,骨皮質の破壊,軟部組織への進展,および病的骨折)が明らかになる。以前は良性であった巨細胞腫に発生した悪性巨細胞腫は,放射線抵抗性であることが特徴的である。MRIおよび生検を行う。
悪性巨細胞腫の治療は骨肉腫のそれと同様であるが,治癒率は低い。