喘息に対する薬物治療

執筆者:Victor E. Ortega, MD, PhD, Mayo Clinic;
Manuel Izquierdo, DO, Wake Forest Baptist Health
レビュー/改訂 2022年 3月
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    喘息および喘息増悪の治療に一般的に用いられる主要な薬剤の種類は以下の通りである:

    • 気管支拡張薬(β2作動薬,抗コリン薬)

    • コルチコステロイド

    • ロイコトリエン修飾薬(leukotriene modifier)

    • 肥満細胞安定化薬

    • メチルキサンチン類

    • 免疫調節薬

    これらの薬剤(慢性喘息に対する薬物治療の表を参照)は吸入,経口,皮下注射または静脈内注射で投与される;吸入薬には霧状および粉末状のものがある。霧状の吸入薬使用時にスペーサーまたはチャンバーを用いることで,薬剤が咽頭よりも気道に沈着しやすくなる;細菌汚染を防ぐために,スペーサーは使用毎に洗って乾かすよう患者に指示する。また,霧状の吸入薬では,吸入器の作動(薬剤の供給)と患者の吸入が同調して行われる必要がある;粉末状の吸入薬では,患者が思い切り吸入した時のみ薬剤が供給されるため同調の必要性が減少する。

    喘息および喘息の急性増悪に対する治療も参照のこと。)

    表&コラム
    表&コラム

    β作動薬

    β2アドレナリン受容体作動薬およびβ作動薬は気管支平滑筋を弛緩させ,肥満細胞の脱顆粒およびヒスタミン放出を減少させ,気道への微小血管からの漏出を抑制し,粘膜線毛クリアランスを高める。β2作動薬の製剤には,短時間作用型,長時間作用型,または超長時間作用型がある(慢性喘息に対する薬物治療および喘息増悪に対する薬物治療の表を参照)。

    短時間作用型β2作動薬(例,サルブタモール)は急性の気管支収縮の緩和および運動誘発喘息予防のために選択すべき薬剤であり,必要に応じて4時間毎に2パフ投与する。これは慢性の喘息の長期管理に単独で用いるべきではない。数分以内に効果が現れ,持続時間は薬剤によって6~8時間である。頻脈および振戦は,吸入β作動薬の最も一般的な急性の有害作用であり,その発生は用量に関連する。軽度の低カリウム血症がまれに生じる。レバルブテロール(levalbuterol)(サルブタモールのR-異性体を含む溶液)の使用は,理論的には有害作用を最小化するが,長期的な効力および安全性は証明されていない。経口β作動薬は全身作用がより強いため,一般には避けるべきである。

    長時間作用型β作動薬(例,サルメテロール)は最長12時間作用が持続する。これらは中等症および重症の喘息に用いられるが,決して単独療法として用いるべきではない。これらは吸入コルチコステロイドと相乗的に作用し,コルチコステロイドの用量を減量できる。

    超長時間作用型β作動薬(例,インダカテロール)は最長24時間作用が持続し,長時間作用型β作動薬と同様,中等症から重症の喘息に用いられるが,決して単独療法として用いるべきではない。これらは吸入コルチコステロイドと相乗的に作用し,コルチコステロイドの用量を減量できる。

    β作動薬を長期にわたり常用することの安全性は,複数のランダム化比較試験およびメタアナリシスによって確認されており,その中には,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)が黒枠警告を削除するきっかけとなった大規模な安全性国際試験も含まれている(1)。長時間作用型β作動薬の安全性と有効性は吸入コルチコステロイドとの併用でのみ実証されているため,全ての長時間作用型および超長時間作用型のβ作動薬は,その他の喘息コントロール薬(例,低~中用量の吸入コルチコステロイド)では病態が十分コントロールできない患者,または明らかに追加の維持療法を必要とする重症度の患者に対し,必ず吸入コルチコステロイドとの併用にて使用すべきである。短時間作用型β作動薬の日常的使用もしくは効果の減弱,または1カ月に1缶以上の使用は,喘息コントロールが不十分であり,他の治療法の開始または強化が必要であることを示唆する。

    抗コリン薬(抗ムスカリン薬)

    抗コリン薬は,ムスカリン性(M3)アセチルコリン受容体を競合的に阻害することにより気管支平滑筋を弛緩させる。イプラトロピウムは,短時間作用型β2作動薬との併用で相加効果がみられることがある。有害作用としては,散瞳,霧視,口腔乾燥などがある。チオトロピウムのソフトミスト吸入器による投与(1.25μg/パフ)は,喘息患者に使用できる24時間作用型の吸入抗コリン薬である。喘息患者では,複数の臨床試験においてチオトロピウムに吸入コルチコステロイドまたは吸入長時間作用型β2作動薬とコルチコステロイド併用のいずれかを追加した場合,肺機能の改善および喘息増悪の減少が示されている。

    コルチコステロイド

    コルチコステロイドは,気道の炎症を阻害し,β受容体のダウンレギュレーションを解除し,サイトカインの産生および接着タンパク質の活性化を阻害する。コルチコステロイドは,吸入アレルゲンに対する遅延反応を阻止する(しかし早期反応は阻止しない)。投与経路には経口,静注,および吸入がある。喘息の急性増悪では,全身投与コルチコステロイドの早期使用により,しばしば増悪が回避され,入院の必要性が減少し,再発が予防され,かつ回復が早まる。経口投与と静脈内投与は,同等の効果がある。

    吸入コルチコステロイドは,急性増悪における有用性はないが,炎症および症状の長期抑制,コントロール,および回復に適応がある。吸入コルチコステロイドは,経口コルチコステロイドによる維持療法の必要性を大幅に減少させる。吸入コルチコステロイドの局所的な有害作用としては,発声障害や口腔カンジダ症などがあるが,スペーサーの使用,コルチコステロイド吸入後のうがい,またはその両方を患者に指導することにより,予防または最小化できる。全身性の有害作用は全て用量に関連し,経口および吸入の両方で起こる可能性があり,吸入によるものの場合には主に> 800μg/日で発生する。有害作用には副腎-下垂体系の抑制,骨粗鬆症白内障,皮膚萎縮,過食症,および紫斑ができやすいことなどが含まれる。吸入コルチコステロイドが小児の成長を抑制するかどうかは不明である。吸入コルチコステロイドによる治療を受ける小児の大半は,最終的には予測された成人身長に達する。潜在性結核がコルチコステロイドの全身投与によって再活性化しうる。

    肥満細胞安定化薬

    肥満細胞安定化薬は肥満細胞からのヒスタミン放出を阻害し,気道反応性の亢進を軽減し,アレルゲンに対する早期反応および遅延反応を阻止する。運動誘発性およびアレルゲン誘発性の喘息の患者に対して,吸入により予防的に投与される。一旦症状が出現すると効果はない。全ての喘息治療薬の中で最も安全であるが,有効性は最も低い。

    ロイコトリエン修飾薬(leukotriene modifier)

    ロイコトリエン修飾薬(leukotriene modifier)は経口で投与され,軽症持続型から重症持続型の喘息患者において,長期コントロールおよび症状の予防に使用できる。主な有害作用は,肝酵素上昇(ジロートン[zileuton]で生じる)である。まれではあるが,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に類似した臨床症候群がみられることがある。

    メチルキサンチン類

    メチルキサンチン類は気管支平滑筋を弛緩させ(おそらくホスホジエステラーゼを阻害することによる),機序は不明であるが,心筋および横隔膜の収縮能を改善させる可能性がある。メチルキサンチン類はカルシウムの細胞内放出を阻害し,微小血管から気道粘膜への漏出を減少させ,アレルゲンに対する遅延反応を阻害すると考えられている。また,気管支粘膜への好酸球の浸潤および上皮へのT細胞の浸潤を減少させる。

    メチルキサンチン類の一種であるテオフィリンはβ2作動薬の補助薬として,喘息の長期コントロールに用いられる。徐放性テオフィリンは夜間喘息の管理に役立つ。テオフィリンは他の薬物に比べ有害作用および相互作用が多いため,使用されなくなっている。有害作用には頭痛,嘔吐,不整脈,痙攣発作,および胃食道逆流症の悪化(下部食道括約筋圧の低下による)などがある。

    メチルキサンチン類の治療域は狭く,また,多数の薬物(チトクロムP450経路により代謝される全ての薬物,例えば,マクロライド系抗菌薬)および病態(例,発熱,肝疾患,心不全)がメチルキサンチン類の代謝および排泄を変化させる。血清テオフィリン濃度を定期的にモニタリングし,濃度を5~15μg/mL(28~83μmol/L)に維持すべきである。

    免疫調節薬

    免疫調節薬には,抗IgE抗体であるオマリズマブ,IL-5に対する3つの抗体(ベンラリズマブ,メポリズマブ,レスリズマブ[reslizumab]),IL-4受容体αを遮断してIL-4およびIL-13のシグナル伝達を阻害するモノクローナル抗体(デュピルマブ)などがある。免疫調節薬は,ステップアップ療法(通常は高用量吸入コルチコステロイドと長時間作用型β2アドレナリン受容体作動薬の併用)に抵抗性を示す重症喘息の管理に用いられ,その主な特徴としてアレルギー性炎症のバイオマーカー(血清IgE,血中好酸球数)の上昇がある。薬物の選択は,投与経路,投与回数,費用,および付随するアトピー性疾患に基づいた各患者の臨床状況に合わせて個別に行うべきである。例えば,デュピルマブはアトピー性皮膚炎の患者にも使用されているため,アトピー性皮膚炎と喘息の両方がある患者にはデュピルマブの使用を考慮できる。

    オマリズマブは,重症のアレルギー性喘息があり,IgE値が上昇している患者に適応がある。オマリズマブは,喘息の増悪,コルチコステロイドの必要量,および症状を軽減する可能性がある。投与量は患者の体重およびIgE値に基づいた用量チャートから決定される。皮下注射で2~4週間毎に投与する。

    メポリズマブ,レスリズマブ(reslizumab),およびベンラリズマブは好酸球性喘息の患者に向けて開発されたもので,IL-5およびその受容体であるIL-5Rを阻害するモノクローナル抗体である。IL-5は気道内で好酸球性の炎症を促進するサイトカインである。

    メポリズマブは,慢性的なコルチコステロイドの全身投与に依存している患者において,増悪の頻度,喘息の症状,およびコルチコステロイドの全身投与の必要性を軽減する。臨床試験のデータに基づくと,血中好酸球の絶対数が > 150/μL(0.15 × 109/L)の場合に効果が認められている。長期的な全身コルチコステロイド療法を必要とする患者では,コルチコステロイドが血中好酸球数に及ぼす抑制作用のため,効力の閾値は不明であるが,メポリズマブによって全身コルチコステロイド療法の必要性が減少または排除されることが示されている。メポリズマブは4週毎に皮下に100mg投与する。

    レスリズマブ(reslizumab)も増悪の頻度と喘息の症状を軽減すると考えられている。臨床試験では,患者の血中好酸球の絶対数は約400/μL(0.4 × 109/L)であった。慢性的なコルチコステロイドの全身投与を受けている患者では,効果が得られる好酸球数の閾値は不明である。レスリズマブ(reslizumab)は3mg/kgを静注で20~50分かけて4週毎に投与する。

    ベンラリズマブはIL-5受容体に結合するモノクローナル抗体である。12歳以上の好酸球性表現型の患者における重症喘息の維持治療への追加薬として適応がある。これにより増悪の頻度が減少し,経口コルチコステロイドの使用を軽減および/または中止できることが証明されている。推奨用量として30mgを4週毎に計3回,その後30mgを8週毎に皮下注射で投与する。

    デュピルマブはIL-4R-αサブユニットを阻害するモノクローナル抗体であり,それによりIL-4およびIL-13のシグナル伝達を同時に阻害する。12歳以上の好酸球性表現型または経口コルチコステロイド依存性喘息の患者における中等度から重症喘息の維持治療への追加薬として適応がある。推奨用量として初回400mgとその後200mgを2週毎に皮下注射,または初回600mgとその後300mgを2週毎に皮下注射で投与する。同時に経口コルチコステロイドを必要とし,コルチコステロイドの全身投与量の減量および中止が目標である患者には,より高用量が推奨される。

    このような免疫調節薬を投与する医師は,アナフィラキシーまたはアレルギー性過敏反応を同定し治療できるよう備えておくべきである。デュピルマブ,ベンラリズマブ,オマリズマブまたはレスリズマブ(reslizumab)の投与後には,用量にかかわらずアナフィラキシーが起こる可能性があり,以前は耐えられていた用量でも起こる恐れがある。アレルギー性過敏反応はメポリズマブによるものが報告されている。メポリズマブの使用は帯状疱疹を伴うことがあるとされている;そのため,治療開始前に帯状疱疹ワクチンの接種を考慮すべきである。

    パール&ピットフォール

    • オマリズマブ,メポリズマブ,レスリズマブ(reslizumab),ベンラリズマブ,またはデュピルマブによる治療を受ける患者では,それまでにその治療に患者がどれだけ耐えられたかにかかわらず,アナフィラキシー反応またはアレルギー性過敏反応が起こる可能性に備えておくこと。

    その他の薬剤

    喘息治療での使用頻度は低いが,特定の状況下では他の薬剤も使用される。マグネシウムはしばしば救急診療部で使用されるが,慢性喘息の管理には推奨されない。

    症状がアレルギーにより誘発されていることが病歴から示唆されてアレルギー検査で確定されれば,免疫療法の適応となる場合がある。免疫療法は概して成人よりも小児において効果的であることが多い。24カ月経過するまでに症状に有意な改善がみられなければ,治療を中止する。症状が緩和すれば,少なくとも3年間は治療を継続すべきであるが,治療の最適継続期間は分かっていない。

    高用量経口コルチコステロイドへの依存を軽減するため,免疫系を抑制するその他の薬剤がときに用いられるが,これらの薬剤は毒性が生じるリスクが非常に高い。低用量メトトレキサート(5~15mg/週1回,経口または筋肉内投与)はFEV1を軽度に改善し,毎日の経口コルチコステロイドの使用量を若干減少させうる。金およびシクロスポリンもある程度効果的であるが,毒性およびモニタリングの必要性からその利用は限られている。

    慢性喘息を管理するためのその他の治療法としては,リドカインやヘパリンのネブライザー投与,コルヒチン,大量免疫グロブリン静注療法などがある。いずれの治療法も使用を支持するエビデンスは限られており,便益も証明されていないため,臨床でのルーチンの使用は現在のところ推奨されていない。

    治療に関する参考文献

    1. 1.US Food and Drug Administration: FDA Drug Safety Communication: FDA review finds no significant increase in risk of serious asthma outcomes with long-acting beta agonists (LABAs) used in combination with inhaled corticosteroids (ICS).April 15, 2011.Updated December 20, 2017.Accessed January 21, 2022.

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