リンパ脈管筋腫症(LAM)は,肺,肺血管,リンパ管,および胸膜に及ぶ平滑筋細胞の緩徐な増殖である。まれな疾患で,若年女性に起こる。症状は,呼吸困難,咳嗽,胸痛,および喀血である;自然気胸がよくみられる。症状および胸部X線所見に基づいて本症を疑い,高分解能CTで診断を確定する。予後は不明であるが,この疾患は緩徐に進行し,しばしば何年間もかけて患者に呼吸不全や死をもたらす。治療はシロリムスまたは肺移植による。
リンパ脈管筋腫症(LAM)はまれな疾患で,典型的には20~40歳の女性にみられる。白人女性は最もリスクが高い。LAMの発生率は < 1/100万人である。LAMは肺実質,脈管系,リンパ管,および胸膜など胸部全体における異型平滑筋細胞の増殖を特徴とし,肺構造の変形,嚢胞性気腫,および肺機能の進行性の悪化を引き起こす。
リンパ脈管筋腫症の病因
リンパ脈管筋腫症の原因は不明である。女性ホルモンが発生機序に何らかの役割を果たすという仮説は説得力があるが,まだ証明されていない。
LAMは通常自然に発生するが,結節性硬化症(TS)の肺所見と多くの類似点がある;LAMは,TS患者の一部に起こり,またTSの不完全型であると考える意見もある。LAM細胞および血管筋脂肪腫(平滑筋,血管,および脂肪から成る腎良性過誤腫)において,TSC-2(tuberous sclerosis complex-2)遺伝子の変異が報告されている。血管筋脂肪腫はLAM患者の最大50%に生じる。こうした報告から次の2つの可能性の内の1つが示唆される:
肺および腎臓内でのTSC-2遺伝子変異の体細胞モザイクによりこれらの組織において背景の正常細胞に重なる病巣が形成される(しかし,複数の別々の部位に病変が生じる可能性もある)。
LAMは,リンパ系を介して進展する低グレードかつ破壊的な転移性腫瘍(おそらく子宮起源)である。
リンパ脈管筋腫症の症状と徴候
リンパ脈管筋腫症の初期症状は,呼吸困難,ならびにより頻度は低いが,咳嗽,胸痛,および喀血である。疾患の徴候はほとんどないが,一部の患者では断続性ラ音および類鼾音が聴取される。多くの患者で自然気胸が生じる。また,乳び胸,乳び腹水,および乳び尿などのリンパ管閉塞症状を呈することがある。症状は妊娠中に悪化すると考えられる。
腎血管筋脂肪腫は通常無症状であるが,サイズが大きくなれば(例,> 4cm),通常は出血または側腹部痛などの症状を呈する。
リンパ脈管筋腫症の診断
胸部X線および高分解能 CT(HRCT)
VEGF-D検査
HRCTおよびVEGF-D検査で診断がつかない場合は肺生検
呼吸困難に加えて,胸部X線上の間質の変化(肺容量は正常または増加),自然気胸,または乳び胸腹水のある若年女性でリンパ脈管筋腫症を疑う。リンパ脈管筋腫症はしばしば間質性肺疾患と誤診される。
この疾患を有すると疑われる全ての患者でHRCTを行う;多発性かつびまん性に分布した小嚢胞は一般的にLAMに特有の所見である。
Image courtesy of Joyce Lee, MD, MAS.
血清VEGF-D(血管内皮増殖因子D)検査が推奨される。血清VEGF-D値は,LAMの女性の大半で上昇しており,他の形態の嚢胞性肺疾患を有する女性では正常である。VEGF-D値が高値であればLAMを確定できるが,正常値であったからといって診断を除外することはできない(1)。
HRCT所見およびVEGF-D検査で診断がつかないときにのみ生検(外科的)が適応となる。組織学的検査で嚢胞性変化を伴う平滑筋細胞の異常増殖(LAM細胞)がみられれば,診断が確定する。
肺機能検査は診断を裏付け,またモニタリングに特に有用である。典型的所見は,閉塞性パターン,または閉塞性および拘束性の混合パターンである。肺は,全肺気量(TLC)および胸郭内気量の増加により,通常過膨張している。エアトラッピング(残気量[RV]およびRV/TLC比の増加)がよくみられる。PaO2および肺拡散能(DLCO)は一般的に減少している。大半の患者で運動能力の低下が認められる。
診断に関する参考文献
1.McCormack FX, Gupta N, Finlay GR, et al: Official American Thoracic Society/Japanese Respiratory Society Clinical Practice Guidelines: Lymphangioleiomyomatosis Diagnosis and Management.Am J Respir Crit Care Med 194 (6):748–761, 2016.
リンパ脈管筋腫症の治療
シロリムス
肺移植
リンパ脈管筋腫症の標準治療は肺移植であるが,移植した肺でも再発しうる。
シロリムス(mTOR阻害薬)は,肺機能障害が中等度の患者(1秒量[FEV1]が予測値の < 70%)において肺機能の低下を止めるまたは遅らせる助けとなりうる。肺機能が異常であるか低下している患者には,シロリムスによる治療が推奨される。プロゲスチン,タモキシフェン,および卵巣摘除術によるホルモン操作などの代替治療は概して効果がなく,推奨されない。
気胸はしばしば再発し,両側性で,標準治療にあまり反応しないため,管理が困難なことがある。再発性の気胸は,胸膜擦過,タルクもしくは他の化学的刺激による胸膜癒着術,または胸膜切除術を必要とする。> 4cmの血管筋脂肪腫には出血予防のため塞栓術を考慮すべきである。
大半の患者は航空機による移動に耐えられる。
リンパ脈管筋腫症の予後
リンパ脈管筋腫症は非常にまれであり,またLAM患者の臨床経過は多彩であるため,本疾患の予後は不明である。一般的に,この疾患は緩徐に進行し,患者は最終的には呼吸不全および死亡に至る。推定される10年生存率にはばらつきがあるが,90%を超え,以前考えられていたよりも良好である(1)。患者には,妊娠中に進行が加速する可能性があることを忠告するべきである。
予後に関する参考文献
1.Gupta N, Lee HS, Ryu JH, et al.The NHLBI LAM Registry: Prognostic Physiologic and Radiologic Biomarkers Emerge From a 15-Year Prospective Longitudinal Analysis. Chest 2019;155(2):288-296.doi:10.1016/j.chest.2018.06.016
要点
リンパ脈管筋腫症(LAM)は間質性肺疾患に類似することがあるが,実際には,まれな,種々の臓器における平滑筋細胞の緩徐進行性増殖である。
説明のつかない呼吸困難に加え,胸部X線上の間質の変化(肺容量は正常または増加),自然気胸,または乳び胸腹水のある若年女性で,本症を考慮する。
高分解能CTおよびVEGF-D検査を行い,もし診断がつかない場合は,生検を行う。
肺機能異常または進行性の肺機能低下を伴うLAMにはシロリムスによる治療を考慮する。
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
LAM Foundation: Provides education and support for patients and has resources for clinicians and researchers