胸水

執筆者:Najib M Rahman, BMBCh MA (oxon) DPhil, University of Oxford
レビュー/改訂 2023年 8月
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胸水は胸膜腔(pleural space)内における体液の貯留である。胸水には複数の原因があり,通常は漏出液と滲出液に分類される。検出は身体診察,胸部X線,およびベッドサイドでの胸部超音波検査による。原因を同定するために,しばしば胸腔穿刺と胸水検査が必要になる。症状を伴わない両側性の漏出液は治療の必要はない。症状を伴う漏出液と大半の滲出液には,胸腔穿刺,胸腔ドレナージ,および抜本的な胸水管理(胸腔カテーテル留置,タルクによる胸膜癒着術,開胸手術,またはこれらの組合せ)が必要である。

正常では,タンパク質濃度が低いこと(< 1.5g/dL[< 15g/L])を除き血漿と類似の組成をした10~20mLの胸水が臓側胸膜と壁側胸膜の間に薄く広がっており,肺と胸壁の間の動きを円滑にしている。胸水は壁側胸膜に分布する体循環系の毛細血管から胸膜腔に入り,壁側胸膜の小孔およびリンパ管を経て排出される。胸水は最終的に右房に排出されるため,排液は毛細血管と部分的に右心系の圧に依存する。胸水は,液体の胸膜腔への流入が多すぎる場合,または,胸膜腔からの流出が少なすぎる場合に蓄積する。

胸水の病因

胸水は通常,以下のように分類される:

  • 漏出液

  • 滲出液

胸水の分類は,胸水の検査特性に基づく(滲出性胸水の同定基準の表を参照)。片側性か両側性かを問わず,漏出液は通常広範な評価を行わずに治療可能であり,一方で,滲出液は原因の精査を要する。原因は多数(50以上)存在する(胸水の主な原因の表を参照)。

漏出性胸水は,静水圧の上昇と血漿膠質浸透圧の低下が組み合わさることで生じる。心不全が最も一般的な原因であり,次いで,腹水を伴う肝硬変および低アルブミン血症(通常ネフローゼ症候群に起因する)が多い。

滲出性胸水は,毛細血管透過性の亢進を引き起こす局所的変化により,体液,タンパク質,細胞,およびその他の血清成分の滲出を来すことで生じる。原因は多数あり,最も一般的なものは肺炎,悪性腫瘍,肺塞栓症,ウイルス感染症,および結核である。

黄色爪症候群は慢性滲出性胸水,リンパ浮腫,および栄養障害性の黄色爪を引き起こすまれな疾患であり,全てはリンパ流出障害の結果と考えられている。

表&コラム
表&コラム

乳び胸水(乳び胸)はトリグリセリドを多く含む乳白色の胸水であり,胸管の外傷性あるいは腫瘍性(リンパ腫性が最も多い)の損傷により引き起こされる。乳び胸水は上大静脈症候群にも併発する。

乳び様(コレステロールまたは偽乳び)胸水は,乳び胸水に類似するがトリグリセリド値が低く,コレステロール値が高い。乳び様胸水は,肥厚した胸膜により胸水の吸収が遮断された際に,長期間貯留した胸水の中で溶解した赤血球および好中球からコレステロールが放出されることが原因と考えられている。最も一般的な原因はリウマチ性胸膜炎と慢性結核である。

血胸は,胸膜腔内の血性の体液(胸水のヘマトクリット > 末梢血のヘマトクリットの50%)で,外傷に起因して,または,まれに凝固障害の結果として,もしくは主要血管(大動脈または肺動脈など)の破裂の後に生じる。

膿胸は胸膜腔内の膿である。膿胸は,肺炎,開胸手術,膿瘍(肺,肝臓,または横隔膜下),または,感染症を続発する穿通性の外傷の合併症として生じることがある。胸壁穿通性膿胸は膿胸の軟部組織への拡大であり,胸壁感染および体外排液を引き起こす。

Trapped lungは,膿胸あるいは腫瘍によって生じた線維性の膜(fibrous peel)が肺を取り囲む状態である。肺が膨張できないため,胸腔内圧は正常より陰圧となり,壁側胸膜の毛細血管からの体液の漏出を増加させる。その体液は漏出液と滲出液の中間的な性状をもち,すなわち,生化学的検査値がLightの基準(滲出性胸水の同定基準の表を参照)のカットオフ値から15%以の範囲内となる。

医原性胸水は,栄養チューブの気管への移動または誤留置,あるいは中心静脈カテーテルによる上大静脈穿孔により,胸膜腔内に経管栄養または静注液が流入して生じることがある。

表&コラム
表&コラム

明らかな原因のない胸水は,しばしば,潜在性肺塞栓結核,または悪性腫瘍による(1)。一部の胸水は広範囲な検査を行っても病因が判明しないが(非特異的胸膜炎とも呼ばれる),そのような胸水の多くはウイルス感染によるものと考えられている。

病因論に関する参考文献

  1. 1.Roberts ME, Rahman NM, Maskell NA, et al.British Thoracic Society Guideline for pleural disease. Thorax 2023;78(Suppl 3):s1-s42.doi:10.1136/thorax-2022-219784

胸水の症状と徴候

胸水は無症状の場合があり,身体診察または胸部X線上で偶然発見されることがある。

多くの胸水は呼吸困難,胸膜性胸痛,またはその両方を引き起こす。胸膜性胸痛は,吸気時に悪化する漠然とした不快感または鋭い痛みであり,壁側胸膜の炎症を示唆する。痛みは通常炎症部位の上で感じられるが,関連痛もありうる。横隔胸膜の後部および周辺部は下位6本の肋間神経に支配されており,その部位への刺激は胸壁下部または腹部の痛みを引き起こし,腹腔内疾患と類似しうる。横隔神経によって支配されている横隔胸膜の中心部の刺激は,頸部および肩に関連痛を引き起こす。

身体診察では,触覚振盪音の消失,打診上の濁音,呼吸音の減弱が,胸水のある側に認められる。これらの所見は胸膜肥厚によっても生じることがある。多量の胸水がある場合,呼吸は通常速く浅い。

胸膜摩擦音は,頻度は低いものの古典的な身体徴候である。摩擦音は様々であり,断続性ラ音に類似しうる間欠的な音が若干聴取できるレベルから,完全に進行した粗く耳ざわりな,きしんだ,または革を擦るような音が吸気時および呼気時に呼吸と同期して聞こえるものまである。心臓近傍の摩擦音(胸膜心膜摩擦音)は心臓の拍動によって変化し,心膜炎の摩擦音と混同されることがある。心膜摩擦音は,第3および第4肋間胸骨左縁で最もよく聴取され,心拍動に同期したto and fro雑音を特徴とし,呼吸に大きく影響されない。胸水の検出に対し,身体診察の感度および特異度はおそらく低い。

オーディオ

胸水の診断

  • 胸部X線

  • 胸部超音波検査

  • 胸水検査

  • ときに静注造影剤によるCT,CT血管造影,またはその他の検査

胸水は,胸膜痛,説明のつかない呼吸困難,または示唆的徴候のある患者において疑われる。診断検査は胸水の存在を確定し,その原因を同定する目的で適応となる(胸水の診断の図を参照)。

胸水の存在

胸部X線は胸水の存在を実証するために行われる最初の検査である。胸水が疑われる場合,胸部X線の立位側面像を評価すべきである。立位画像では,75mLの胸水があれば後部肋骨横隔膜角が鈍化する。外側の肋骨横隔膜角の鈍化には,通常約175mLの胸水を要するが,多い場合は500mLを要する。より多量の胸水では,片側胸郭の一部が透過性を失い,縦隔偏位が生じうる;4Lを超える胸水では片側胸郭の透過性が完全に失われ,縦隔の対側への偏位も起こりうる。

被包化胸水は,胸膜癒着によって閉じ込められた,または肺の裂溝内に閉じ込められた胸水の集積である。X線上の陰影が液体なのか実質浸潤影なのかが不明な場合,または疑われる液体が被包化しているか流動性であるかが不明な場合は,さらなる画像検査(側臥位X線,胸部CT,または超音波検査)を行うべきであり,これらの検査は立位X線より感度が高く,少量の胸水も検出可能である。被包化胸水は,特に水平裂または斜裂に存在する場合,肺の充実性腫瘤と混同される可能性がある(偽腫瘍)。被包化胸水は,患者の体位および胸水の量の変化によって,形状および大きさが変化しうる。

胸部超音波検査は胸水の診断における標準検査と考えられており,放射線科での評価の必要性を回避するために,呼吸器科医やときに救急医がベッドサイドで施行する。少量の胸水の検出精度は非常に高く,追加の診断情報(例,隔壁形成,胸膜肥厚の有無)も得られる。

静注造影剤によるCTは,次の段階として,胸膜の造影や胸膜結節の形成について情報が得られる価値ある検査である。静注造影剤によるCTは,肺が胸水のために不明瞭な場合や被包化胸水と充実性腫瘤の鑑別に胸部X線では十分な情報が得られない場合に,その下にある肺実質での浸潤または腫瘤の評価に有用である。

胸水の原因

CT,超音波検査,または側臥位X線で厚さが10mm以上と測定される胸水,および新たな胸水または病因不明の胸水がある患者のほぼ全てに胸腔穿刺を行うべきである。一般に,胸腔穿刺を必要としないのは,左右対称の胸水があり胸痛および発熱がない心不全患者のみであり,このような患者では,利尿薬を試すことができ,胸水が3日以上持続する場合を除き胸腔穿刺を回避することができる。原因が判明していて,何の症状も引き起こしてない慢性胸水には,しばしば胸腔穿刺とその後の胸水検査は不要である。

胸腔穿刺は,手技の精度を高め,合併症を予防するため,全例で超音波ガイド下で施行すべきである。

パール&ピットフォール

  • 胸腔穿刺後の胸部X線撮影は,一般的に実施されてはいるものの,患者に気胸を疑う症状(呼吸困難または胸痛)がなく,また手技中に空気が胸腔内に入った可能性がなければ,繰り返し行う必要はない。

胸水検査を胸水の原因を究明するために行う。胸水の分析は目視による確認から開始し,それにより以下が可能である:

  • 血性胸水もしくは乳び(または乳び様)胸水をその他の胸水と鑑別する

  • 膿胸を強く示唆する膿性胸水を同定する

  • 一部の中皮腫の特徴である粘稠性の胸水を同定する

胸水は常に,総タンパク質,乳酸脱水素酵素(LDH),細胞数および細胞分画,グラム染色,ならびに好気性および嫌気性細菌培養のために検査室に送るべきである。胸水pHや好気性および嫌気性細菌培養,細胞診,胸水結核マーカー(アデノシンデアミナーゼまたはインターフェロンγ),アミラーゼ,抗酸菌および真菌の染色および培養,トリグリセリド,コレステロールなど,その他の検査は臨床状況に応じて用いられる。

胸水検査は漏出液を滲出液と鑑別するのに役立つ;複数の基準が存在するが,単独の基準でこの2つを完璧に鑑別できるものはない。Lightの基準(滲出性胸水の同定基準の表を参照)を用いる場合,血清LDHおよび総タンパク質の値は,胸水のそれと比較するために,可能な限り胸腔穿刺の直後に測定すべきである。Lightの基準はほぼ全ての滲出液を正確に同定するが,漏出液の約20%を滲出液と誤って同定する。漏出性胸水が疑われ(例,心不全または肝硬変による),かつ生化学的検査値にLightの基準のカットオフ値を< 15%で超えるものがない場合,血清と胸水のタンパク質濃度の差を測定する。その差が3.1g/dL(> 31g/L)より大きければ,その患者はおそらく漏出性胸水を有する。

画像検査が役立つ場合もある。胸水検査を行っても診断が明確にならない場合は,胸膜の造影,胸膜結節の形成,肺浸潤,または縦隔病変について調べる目的で静注造影剤によるCTの適応となる。CT肺血管造影は,肺塞栓の疑いを除外する目的で適応となる。肺塞栓症の所見は長期の抗凝固療法の必要性を示唆する。胸膜の結節形成および肥厚は胸膜生検(胸腔鏡または画像ガイド下)の必要性を示唆する。肺浸潤または肺病変の存在は,疑われる原因に応じて,気管支鏡検査または画像ガイド下肺生検の必要性を示唆する。

結核性胸膜炎が疑われる場合は,胸水中のアデノシンデアミナーゼを測定する。> 40U/L(667nkat/L)を基準とする場合,結核性胸膜炎の診断に対する感度および特異度が95%となるが(1),アデノシンデアミナーゼはがん患者でも陽性となる可能性がある。

胸水の診断

* 発熱,体重減少,がんの病歴,またはその他の示唆的症状の存在に基づく。

診断に関する参考文献

  1. 1.Roberts ME, Rahman NM, Maskell NA, et al.British Thoracic Society Guideline for pleural disease. Thorax 2023;78(Suppl 3):s1-s42.doi:10.1136/thorax-2022-219784

胸水の治療

  • 症状および基礎疾患の治療

  • 症状を伴う胸水には場合によりドレナージ

  • 肺炎随伴性および悪性胸水に対するその他の治療

胸水自体は,基礎疾患が治癒すれば(特に合併症のない肺炎,肺塞栓,および手術が原因の場合)自然に再吸収される場合が多いため,一般に無症状であれば治療の必要はない。胸膜痛は通常,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)またはその他の経口鎮痛薬によって管理できる。ときに,短期間のみ経口オピオイドが必要になる。

治療的胸腔穿刺は,症状を伴う胸水の多くに対して十分な治療法であり,再貯留する胸水には繰り返し行うことができる。除去できる胸水の量に特定の限度はない(1)。胸水の除去は,胸水が全て排出されるか,胸部圧迫感,胸痛,または重度の咳嗽が生じるまで継続することができる。

症状を引き起こす慢性および再発性の胸水は,胸膜癒着術またはカテーテル留置による間欠的ドレナージを用いて治療することがある。肺炎または悪性腫瘍による胸水には,追加で特別な治療が必要になることがある。

肺炎随伴性胸水および膿胸

予後不良因子(pH < 7.20,グルコース < 60mg/dL[< 3.33mmol/L],グラム染色または培養陽性,小房形成)がある場合は,胸腔穿刺または胸腔ドレナージにより胸水を完全に排出すべきである。完全なドレナージができない場合は,血栓溶解薬(例,アルテプラーゼ)とDNAse(例,ドルナーゼ アルファ)を胸腔内に投与することができる。胸腔内治療が不成功に終わった場合は,胸部外科的な介入の適応となる。通常は最初に胸腔鏡手術(VATS)を試みるが,開胸手術が必要になることもある。

悪性胸水

悪性胸水による呼吸困難が胸腔穿刺により緩和されるが,胸水および呼吸困難が再発する場合は,持続的(間欠的)ドレナージまたは胸膜癒着術が適応となる。無症状の胸水と,胸腔穿刺で緩和されない呼吸困難を引き起こす胸水は,追加処置は不要である。

悪性胸水の治療には,胸腔カテーテル留置と胸膜癒着術が同等に効果的である。選択は患者の希望による。どちらも呼吸困難を軽減し,生活の質を効果的に改善する。タルクによる胸膜癒着術には入院が必要であるが,長期合併症の頻度はカテーテル留置の方が高い。

胸膜癒着術は,癒着促進剤を胸膜腔内に注入し,臓側胸膜と壁側胸膜を融合させて間隙をなくすことによる。最も効果的で一般的に用いられる癒着促進剤は,タルク,ドキシサイクリン,およびブレオマイシンで,胸腔ドレーンまたは胸腔鏡によって投与される。胸腔ドレーンで完全に排液しても肺が膨張しない場合(trapped lung)は胸膜癒着術は禁忌であり,その場合は胸腔カテーテル留置の適応となる。

胸水を腹膜にシャントする手技(胸腔腹腔シャント)がまれに行われるが,これはtrapped lungの状態にある患者の選択肢である。

PS(performance status)が良好で予後も良好なtrapped lungの患者では,外科的治療(胸膜切除術または肺剥皮術)を考慮すべきである。

治療に関する参考文献

  1. 1.Feller-Kopman D, Berkowitz D, Boiselle P, et al: Large-volume thoracentesis and the risk of reexpansion pulmonary edema.Ann Thoracic Surg 84:1656–1662, 2007.

要点

  • 漏出性胸水は,静水圧の上昇と血漿膠質浸透圧の低下が組み合わさることで生じる。

  • 滲出性胸水は,毛細血管透過性の亢進が原因でタンパク質,細胞,およびその他の血清成分の滲出を来すことにより生じる。

  • 漏出性胸水の最も一般的な原因は,心不全,腹水を伴う肝硬変,および低アルブミン血症(通常ネフローゼ症候群による)である。

  • 滲出性胸水の最も一般的な原因は,肺炎,悪性腫瘍,肺塞栓,および結核である。

  • 評価には,胸水の存在を確認するための画像検査(通常は胸部X線と胸部超音波検査)と原因特定の参考にするための胸水検査が必要である。

  • X線上の陰影が胸水か実質浸潤影かが不明な場合,または疑われる胸水が被包化しているか流動性であるかが不明な場合は,側臥位X線,胸部CT,または超音波検査を行うべきである。

  • 症状を引き起こす慢性および再発性の胸水は,胸膜癒着術またはカテーテル留置による間欠的ドレナージを用いて治療することがある。

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