胸腔穿刺による胸水除去

執筆者:Rebecca Dezube, MD, MHS, Johns Hopkins University
レビュー/改訂 2022年 7月
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胸腔穿刺による胸水除去とは,針で胸水を吸引することである。

胸腔穿刺による胸水除去は,診断および/または治療のために行われる場合がある。

胸腔穿刺による胸水除去の適応

診断的胸腔穿刺

  • 新たな胸水または病因不明の胸水があり,CT,超音波検査,またはX線側臥位で厚みが10mm以上の貯留を認めるほぼ全ての患者に適応がある(胸水の診断を参照)。

通常,胸水の病因が明らかな場合(例,ウイルス性胸膜炎,典型的な心不全),診断的胸腔穿刺は不要である。

胸水の患者で一般的に行われる臨床検査の選択については,胸水で考察されている。

治療的胸腔穿刺

  • 大量の胸水による呼吸困難のある患者において,症状を緩和する。

治療的胸腔穿刺を何度か行っても,胸水がたまり続ける場合は,胸膜癒着術(胸腔に刺激性の物質を注入することで,胸腔を閉鎖する)により,再発を予防できることがある。代替法として,胸腔カテーテル留置により,在宅患者に対する胸水排液が可能となる。胸膜癒着術および胸腔カテーテル留置は,悪性胸水の管理のために行われることが最も多い。

胸腔穿刺による胸水除去の禁忌

絶対的禁忌

  • なし

相対的禁忌

  • 出血性疾患または抗凝固状態

  • 胸壁の解剖学的変化

  • 胸腔穿刺部位の蜂窩織炎または帯状疱疹

  • 肺疾患が重度であり,合併症により生命が脅かされる可能性がある

  • コントロール不良の咳嗽がある,または患者が非協力的である

胸腔穿刺による胸水除去の合併症

重大な合併症は以下の通りである:

  • 気胸

  • 出血(肺穿刺による喀血)

  • 再膨張性肺水腫かつ/または低血圧(1)

  • 肋間動静脈の損傷による血胸

  • 脾または肝穿刺

  • 血管迷走神経性失神

胸腔内に流出した血液からは速やかにフィブリンが除去されることから,胸水採取管の中で血性胸水が凝固しない場合は,胸腔内の血液が医原性に生じたものではないことを意味する。

胸腔穿刺による胸水除去で使用する器具

  • 局所麻酔薬(例,1%リドカイン10mL),25G針および20~22G針,ならびに10mLシリンジ

  • 消毒液とそれを塗布する器具,ドレープ,手袋

  • 胸腔穿刺用の針とプラスチックカテーテル

  • 三方活栓

  • 30~50mLシリンジ

  • 傷のドレッシング材

  • 患者がもたれかかるためのベッドサイドのテーブル

  • 臨床検査の検体液採取用の適切な容器

  • 治療的胸腔穿刺の際に,比較的大量の胸水を除去するためのバッグ

  • 超音波検査装置

胸腔穿刺による胸水除去に関するその他の留意事項

  • 胸腔穿刺による胸水除去は患者のベッドサイドまたは外来で安全に実施できる。

  • 局所麻酔薬を十分に使用する必要があるが,協力的な患者では鎮静をかける必要はない。

  • 胸腔穿刺の針を皮膚の感染部位(例,蜂窩織炎や帯状疱疹)に刺入してはならない。

  • 陽圧換気は合併症のリスクを高める。

  • 患者が抗凝固薬(例,ワルファリン)を投与されている場合,手技の前に新鮮凍結血漿またはその他の拮抗薬を投与することを考慮する。

  • 手技の前に凝固パラメータに異常がみられた患者であっても,超音波ガイド下胸腔穿刺後の出血性合併症はまれである(2)。

  • 胸腔内に流出した血液からは速やかにフィブリンが除去されることから,胸水採取管の中で血性胸水が凝固しない場合は,胸腔内の血液が医原性に生じたものではないことを意味する。

  • 状態が不安定な患者,および合併症による代償不全のリスクが高い患者に限り,モニタリング(例,パルスオキシメトリー,心電図検査)が必要である。

胸腔穿刺による胸水除去における重要な解剖

  • それぞれの肋骨の下縁には,肋間神経・動静脈の束がある。それゆえ,神経血管束の損傷を避けるために,針は肋骨の上縁から刺入しなければならない。

  • 呼気時には,肝臓が右の第5肋間,脾臓が左の第9肋間まで上昇しうる。

胸腔穿刺による胸水除去での体位

  • 胸腔穿刺は,座位で体幹を少し前傾させ,腕の下に支えを置いた姿勢を患者に取らせると,最もうまくいく。

  • 臥位または仰臥位での胸腔穿刺(例,人工換気下にある患者)も可能であるが,超音波またはCTガイド下の実施が最善である。

胸腔穿刺による胸水除去のステップ-バイ-ステップの手順

  • 胸部の打診により胸水の程度を確認し,画像検査を考慮する;気胸のリスクの減少と処置の成功率の上昇の両方を目的として,ベッドサイドでの超音波検査が推奨される(3)。

  • 胸水液面より肋間1つ下の肋骨上縁で肩甲骨中線上に針の刺入点を決める。

  • 刺入点に印を付け,クロルヘキシジンなどの消毒剤を塗布し,滅菌手袋をはめて滅菌ドレープをかける。

  • 25Gを使用して,刺入点に局所麻酔薬を注入して膨疹を作る。より太い針(20~22G)に持ちかえ,壁側胸膜に到達するまで深部に向けて麻酔薬を注入していく(壁側胸膜は敏感であるため,よく浸透させるべきである)。さらに針を進め,胸水が吸引され始めた地点で止めて,そこで針の深さを確認する。

  • 径の太い(16~19G)胸腔穿刺針付きのカテーテルに三方活栓を取り付け,コックの片方に30~50mLシリンジを,他方に排液チューブをつなぐ。

  • 針を所定の肋骨上縁から刺入し,吸引しながら胸水中へと進める。

  • 体液または血液が吸引されれば,カテーテル(外筒)と内針を胸腔内まで挿入し,内針を引き抜き,カテーテルは胸腔に残す。カテーテル挿入の準備をするとき,空気が胸腔に入るのを防ぐため,吸気中は内針を抜いたカテーテルの開口部を閉鎖しておく。

  • 30mLの胸水をシリンジに吸引し,検査のため胸水を適切なチューブやボトルに入れる。

  • それ以上の胸水を排出する必要がある場合は,コックを回し,胸水をバッグまたはボトルに排出する。あるいは,シリンジを使って胸水を吸引し,定期的にプランジャーの圧を開放する。

  • 大量(例,> 500mL)の胸水を抜く場合には,患者の症状と血圧をモニタリングし,胸痛,呼吸困難,または低血圧が現れたら排液を中止する。咳嗽は正常の反応であり,肺の再膨張を意味する。24時間以内に1.5Lを超える排液をしないように勧める医師もいるが,排液の量と再膨張性肺水腫のリスクが直接相関することを示すエビデンスはほとんどない(1)。動物実験のデータからは,長期間貯留した胸水を急速に排出すると,サーファクタントが減少して再膨張性肺水腫につながる可能性が示唆されている。しかし,経験を積んだ術者が適切なモニタリング下にある患者に対して処置を行う場合は,1回の処置で完全に胸水を除去するのが賢明かもしれない。

  • 患者が息を止めているか呼出している間にカテーテルを抜く。刺入部位に滅菌ドレッシング材を貼付する。

胸腔穿刺による胸水除去のアフターケア

  • ときに気胸を除外するための画像検査(通常は胸部X線または超音波検査)

  • 必要であれば経口の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)またはアセトアミノフェンによる鎮痛

  • 息切れや胸痛を少しでも感じたら報告するよう患者に伝える;胸水除去後の咳嗽は一般的であり,心配する必要はない。

気胸の除外,胸水除去量の記録,および除去前は胸水で不明瞭であった肺野の確認のため,胸腔穿刺後は胸部X線撮影を行うのが標準的手順であるが,エビデンスによると,無症状の患者では胸部X線をルーチンに行う必要はないことが示唆されている。また,超音波検査で複数のlung slidingを認めることでも気胸を除外できるが,超音波検査をルーチンに行う必要はない(4)。以下のいずれかに該当する場合,手技後の胸部画像検査が必要である:

  • 患者が人工呼吸器下にある

  • 空気が吸引された

  • 針を2回以上刺した

  • 気胸の症状と徴候が出現した

胸腔穿刺による胸水除去の注意点とよくあるエラー

  • 壁側胸膜を十分に麻酔すること。

  • 肋骨の下縁にある肋間動静脈と神経を避けるため,胸腔穿刺の針は肋骨の下縁からではなく上縁から刺入すること。

胸腔穿刺による胸水除去のアドバイスとこつ

  • 刺入点に印を付けるときは,スキンマーカーを使うか普通のペンでしっかり印を付け,消毒時に消えないようにする。

参考文献

  1. 1.Feller-Kopman D, Berkowitz D, Boiselle P, et al: Large-volume thoracentesis and the risk of reexpansion pulmonary edema.Ann Thoracic Surg 84:1656–1662, 2007.

  2. 2.Hibbert RM, Atwell TD, Lekah A, et al: Safety of ultrasound-guided thoracentesis in patients with abnormal preprocedural coagulation parameters. Chest 144(2):456–463, 2013. doi: 10.1378/chest.12-2374

  3. 3.Barnes TW, Morgenthaler TI, Olson EJ, et al: Sonographically guided thoracentesis and rate of pneumothorax.J Clin Ultrasound 33(9): 1656–1661, 2005.

  4. 4.Gervais DA, Petersein A, Lee MJ, et al: US-guided thoracentesis: requirement for postprocedure chest radiography in patients who receive mechanical ventilation versus patients who breathe spontaneously.Radiology 204(2):503–506, 1997.

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