QT短縮症候群(SQTS)は,先天性としては極めてまれな,また後天性としても非常にまれな心筋イオンチャネルの機能または調節障害により,心室筋細胞の活動電位持続時間が短くなる病態であり,心電図検査では心拍数で補正したQT間隔の短縮として現れる。
心筋イオンチャネルの機能障害には以下のいずれかが関与している:
再分極を促すカリウムチャネルの機能亢進
脱分極を促すナトリウムチャネルまたは脱分極を促すカルシウムチャネルの機能喪失
チャネル機能の変化(すなわち亢進か喪失か)がQT延長症候群でみられる変化と逆であるのに注目すること。
活動電位持続時間の短縮は心室心外膜で最も顕著であり,多形性心室頻拍(VT)または心室細動(VF)を引き起こすことがあり,しばしば突然死に至る。心室性頻拍性不整脈の可能性は,QTc間隔が短くなればなるほど増大する。SQTSの一部の患者は,心房細動にもなりやすい。
QT短縮症候群は,変異のある特定の遺伝子に基づいて分類される。異常がみられる遺伝子としては,KCNH2,KCNQ1,KCNJ2などがある。
心房細動またはVT/VFが発生しない限り患者は無症状であるが,発生すれば動悸,失神もしくは失神寸前状態,または心停止に至ることがある。
SQTSの診断
臨床および心電図所見に基づく特異的な診断基準
遺伝子検査
第1度近親者のスクリーニング
原因不明の心停止または失神がみられるか,家系内に構造的心疾患がないにもかかわらず原因不明の心停止または失神の既往を有する者がいる患者では,本症を考慮すべきである。他の理由で行われた心電図検査でQT短縮が判明した場合にも,本症を考慮すべきである。
診断は,心拍数で補正したQT間隔(QTc)の短縮を心電図検査で確認することにより下される。診断に必要とされるQTcの短縮の程度については議論があるが,長くて0.36秒未満,短くて0.33秒以下とされており,患者もしくは家族に既知の遺伝子変異,VT/VFの記録,または原因不明の心停止がある場合は,より長い基準を用いるのが妥当な可能性がある。遺伝子検査の検出率は低い(約20%)。一連の診断基準が提唱されている(1)。追加の検査としては,自由行動下心電図モニタリングや心臓画像検査などがある。
患者の第1度近親者には臨床的評価(不整脈を示唆する症状を検出する)および心電図検査を行うべきである。患者に変異が同定された場合は,家系員の遺伝子検査を行う。
診断に関する参考文献
1.Gollob MH, Redpath CJ, Roberts JD: The short QT syndrome: proposed diagnostic criteria.J Am Coll Cardiol 57:802–812.2011.doi: 10.1016/j.jacc.2010.09.048
SQTSの治療
VT/VFがあれば,その治療
ときにキニジン
通常,植込み型除細動器(ICD)
キニジン(QT間隔を延長させる)による治療が提唱されているが,症状のある患者の大半がICDの植込みを受ける。突然死の家族歴を有する無症状の患者にもICDを考慮してよいというのが専門家間のコンセンサスである(1)。
治療に関する参考文献
1.Priori SG, Wilde AA, Horie M, et al: HRS/EHRA/APHRS Expert Consensus Statement on the diagnosis and management of patients with inherited primary arrhythmia syndromes: : document endorsed by HRS, EHRA, and APHRS in May 2013 and by ACCF, AHA, PACES, and AEPC in June 2013.Heart Rhythm 10:1932–1963, 2013.doi: 10.1016/j.hrthm.2013.05.014