カテコラミン誘発性多形性心室頻拍は,心臓組織における細胞内カルシウム調節に影響を及ぼす遺伝性疾患である。患者は,心室性頻拍性不整脈(や,頻度は下がるが心房性頻拍性不整脈)および心臓突然死を起こしやすく,アドレナリン作用の増加時(例,運動時)に特に起こりやすい。診断は運動負荷試験による。治療には運動制限,β遮断薬のほか,ときに植込み型除細動器(ICD)を使用する。
カテコラミン誘発性多形性心室頻拍(CPVT)は,心臓における細胞内カルシウム調節(特に筋小胞体リアノジン受容体のアップレギュレーション)に関連するタンパク質に影響を及ぼす変異に起因する。この異常により,アドレナリン刺激に対する反応としての筋小胞体からのカルシウム放出量が増加する。結果として生じる心筋細胞のカルシウム過負荷により,遅延後脱分極が引き起こされ,心房性および/または心室性頻拍性不整脈の発生傾向が高まる。心臓突然死が起こることもある。
頻拍性不整脈は通常,身体的または精神的ストレスによるアドレナリン刺激によって誘発される。最も特徴的な心室性頻拍性不整脈は二方向性心室頻拍であり,心電図上では極性が反対のQRS波が交互に出現する。とはいえ,あらゆる多形性心室頻拍(VT)や心室細動(VF)が起こりうる。
CPVTの発生率は10,000人に約1人であり,男女で同程度である。通常は心臓のリアノジン受容体をコードする遺伝子の常染色体顕性(優性)変異として遺伝するが,心臓のカルセクエストリン(CASQ2)の常染色体潜性(劣性)変異として遺伝することもある。
CPVTの症状と徴候
一部の患者は無症状であり,家系員を対象としたスクリーニングで初めて同定される。症状がみられる場合,通常は若年期(すなわち,小児期または青年期)に現れる。頻拍性不整脈は動悸,失神,または心停止を引き起こすことがある。発作は典型的には精神的または身体的ストレスによって誘発される。
CPVTの診断
運動負荷試験
遺伝子検査
第1度近親者のスクリーニング
原因不明の心停止または失神がみられるか,家系内に構造的心疾患がないにもかかわらず原因不明の心停止または失神の既往を有する者がいる患者では,本症を考慮すべきである。
安静時心電図は正常である。診断は,患者の症状まで再現する多形性VT(特に二方向性VT)が運動負荷試験で誘発されることによって確定される。続いて,遺伝子検査を行うべきであり,その検出率は約50%である。
第1度患者家族には有意な疾患リスクがある。1~3年毎に臨床的評価(不整脈を示唆する症状を検出する)および運動負荷試験を行うべきである。発端者に原因変異が同定されている場合,その変異をもたない家系員にはそれ以上のフォローアップは不要である。
CPVTの治療
運動制限
β遮断薬
ときに植込み型除細動器(ICD)
まれに左心交感神経節切除
激しい運動(例,競技スポーツ)を避けることが全ての患者に勧められる。特に運動制限を受け入れない患者には,適切な注意(例,トレーニングや競技は自動体外式除細動器[AED]が使用可能な環境で行う)の必要性についてカウンセリングで説明すべきである。
症状(例,失神,心停止)の既往がある患者,またはVFもしくは持続性VTを呈したことのある患者への最初の治療は,長時間作用型β遮断薬の高用量投与であり,内因性交感神経刺激作用のないもの(例,ナドロール,徐放性プロプラノロール)が望ましい。β遮断が無効であれば,ナトリウムチャネルとリアノジン受容体の両方の遮断作用をもつフレカイニドが有用となる可能性がある。植込み型除細動器(ICD)は,心停止後に蘇生したCPVT患者,または抗不整脈薬療法にもかかわらずVTを呈するCPVT患者に使用される。治療抵抗例は,左心交感神経節切除および/または不整脈基質のアブレーションで治療する。
フォローアップでは,典型的には運動負荷試験を繰り返すが,適中率は高くない。
無症状の患者(遺伝子検査で同定された近親者を含む)も,過度の身体活動を控え,β遮断薬による治療を受けるべきである。