腎細胞癌

(腎腺癌)

執筆者:Thenappan Chandrasekar, MD, University of California, Davis
レビュー/改訂 2022年 1月
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腎細胞癌(RCC)は,最も頻度の高い腎癌である。症状としては,血尿,側腹部痛,触知可能な腫瘤,不明熱などがみられる。しかしながら,症状はしばしば認められないため,診断は通常所見の偶然の発見に基づいて疑われる。診断はCTまたはMRI,ときに生検により確定される。治療は早期疾患に対しては手術,進行した疾患に対しては分子標的療法,実験的プロトコル,緩和治療による。

RCCは腺癌であり,原発性悪性腎腫瘍の90~95%を占める。比較的頻度の低い原発性腎腫瘍としては,移行上皮癌,ウィルムス腫瘍(大半が小児),肉腫などがある。

米国では,RCCおよびその他の腎腫瘍が毎年新たに約76,080例発生し,13,780例が死亡している(2021年の推定値)。RCCの発生率は男性の方がわずかに高い(男女比が約3:2)。発症年齢は通常50~70歳である。危険因子としては以下のものがある:

RCCは,腎静脈で血栓形成を誘発する可能性があり,ときとして大静脈に進展する。腫瘍の静脈壁浸潤は,まれである。RCCは,ほとんどの場合リンパ節,肺,副腎,肝,脳,骨に転移する。

腎癌の症状と徴候

症状は通常後期まで出現せず,その時点で腫瘍はすでに拡大し転移している可能性がある。肉眼的または顕微鏡的血尿が最も頻度の高い臨床像であり,その次に側腹部痛,不明熱,触知可能な腫瘤が多い。その他の非特異的症状として,疲労,体重減少,早期満腹感などがある。ときに区域性虚血または腎茎圧迫のため高血圧がもたらされる。腫瘍随伴症候群が20%の患者で発生する。エリスロポエチンの活性亢進によって赤血球増多が生じる可能性がある。一方,貧血も起きることがある。高カルシウム血症がよくみられ,治療が必要になる場合がある。血小板増多症,悪液質,続発性アミロイドーシスが発生する可能性がある。

腎癌の診断

  • 造影CTまたはMRI

ほとんどの場合,腎腫瘤は他の理由で施行された腹部または脊椎の画像検査(例,CT,超音波検査,MRI)で偶然検出される。その他の場合には,診断は臨床所見から示唆され,放射線造影剤の注入前後の腹部CTまたはMRIにより確認される。(泌尿生殖器の画像検査を参照のこと。)放射線造影剤によって強調される腎腫瘤は腎細胞癌(RCC)を強く示唆する。CTおよびMRIでは,局所の進展ならびにリンパ節および静脈の関与に関する情報が得られる。MRIは腎静脈と大静脈への進展に関する詳しい情報が得られるため,下大静脈造影に取って代わっている。超音波検査および排泄性尿路造影では,腫瘤が描出されることはあるが,CTまたはMRIと比較して,腫瘤の特徴や病変の進展範囲について得られる情報は少ない。

しばしば,良性の腫瘤と悪性の腫瘤はX線撮影で鑑別できるが,ときに確定診断のために手術が必要となる。針生検は所見が不確かな場合には感度が十分ではないことから,その施行が推奨されるのは,分離した腫瘤ではなく浸潤性のパターンが存在する場合,腎腫瘤が別の既知のがんの転移である可能性がある場合,ときに転移性の腎腫瘤に対する化学療法または全身療法の前に診断を確定する目的で行う場合など,診断が治療の選択肢に影響を及ぼす場合のみである。

手術の前,特に腎温存手術の前には3次元CT,CT血管造影,またはMRアンギオグラフィーを施行し,RCCの性質を明確にし,存在する腎動脈の数をより正確に判定し,血管パターンを描写する。(泌尿生殖器の画像検査を参照のこと。)これらの画像検査技術は,大動脈造影および選択的腎動脈血管造影に取って代わっている。

胸部X線と肝機能検査は必須である。胸部X線が異常の場合,胸部CTを施行する。アルカリホスファターゼ値が上昇した場合は,骨シンチグラフィーが必要である。血清電解質,血中尿素窒素(BUN),クレアチニン,カルシウムを測定する。BUNおよびクレアチニンは,両腎が罹患した場合を除き,影響を受けない。

病期分類

評価で得られた情報から暫定的な病期診断が可能となる。TNM(tumor, node, metastasis)分類は最近,より正確なものへと洗練されている(腎細胞癌のAJCC/TNM病期分類および腎細胞癌のTNM分類の定義の各表を参照)。診断時には,RCCは全患者の45%で限局性,約33%で局所浸潤性であり,25%で遠隔臓器に転移している。

表&コラム
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腎癌の予後

5年生存率の範囲は,American Joint Commission on Cancer(AJCC)病期分類I期(T1 N0 M0)の約81%から,IV期(T4またはM1)の8%までである。転移性または再発腎細胞癌(RCC)患者の予後は,通常は治療しても治癒が得られないため不良であるが,症状の緩和に治療が有用となる場合がある。

腎癌の治療

  • 早期腎細胞癌(RCC)には手術治療,積極的サーベイランス,または熱焼灼

  • 進行RCCには緩和療法または実験的プロトコル

根治的治療

根治的腎摘出術(腎臓,腎周囲脂肪組織,Gerota筋膜 ± 同側副腎を切除する)は,限局性RCCに対する標準治療であり,一定以上の確率で治癒をもたらす。開腹手術と低侵襲手術の成績は同等であるが,回復は低侵襲手術の方が一般に迅速である。腎温存手術(腎部分切除術)が多くの患者で可能かつ適切である。腎部分切除術は,根治的腎摘出術と比較して慢性腎臓病の発生率が低いことから,選択されることが増えてきている。これは臨床病期T1a(cT1a,4cm未満)の腫瘍に対する標準治療であり,T1bまたはT2の患者とネフロン温存の絶対的適応(例,両側腎腫瘤,CKD,単腎)がある患者で考慮すべきである。対側腎正常かつ腎機能正常で,原発巣がより進展した(cT1b~cT4)患者では,根治的腎摘出術を考慮すべきである。凍結(凍結手術)または熱エネルギー(ラジオ波焼灼術)という手術以外の方法で腎腫瘍を破壊する治療は,しばしば経皮的に行われるものであり,3cm未満の腫瘍に対して考慮すべきである。小さな腎腫瘤に対しては,積極的サーベイランス(介入の延期を伴う)を第1選択の治療選択肢とみなすべきであり,積極的治療にリスクがあるか,重大な併存症がある場合は特にこれを考慮すべきである。治療に関する意思決定は複雑で,複数の因子が関係するため,典型的には共同での意思決定が行われる(1)。

腎静脈および大静脈が関与する腫瘍は,リンパ節または遠隔転移がない場合,手術によって治癒しうる。

両腎が侵されている場合は,技術的に可能ならば,両側の根治的腎摘出術よりも一側または両側の腎部分切除術の方が望ましい。

アジュバント療法としての分子標的療法は,複数の臨床試験で生存期間を延長しなかったが,S-TRAC試験においてアジュバント療法としてスニチニブを投与された患者で無病生存期間の改善がみられたことから,スニチニブは高リスク患者における切除後の使用が承認された(2)。その使用例は限られている。KEYNOTE-564試験(3)では,外科的治療を受けた再発リスクの高いRCC患者に対するアジュバント療法としてペムブロリズマブによる治療を受けた患者において,無病生存期間の延長が強く示された。

緩和治療

緩和治療としては,腎摘出術,腫瘍塞栓術,外照射療法,全身療法などがある。転移巣の切除は症状緩和をもたらし,転移巣の数が少ない場合には,一部の患者,特に初回治療(腎摘出術)から転移発生までの期間が長い患者において,生存期間の延長をもたらす。転移性RCCは従来,放射線抵抗性が特徴とされてきたが,RCCの転移がオリゴ転移である場合(特に骨転移している場合)には,放射線療法で症状緩和が得られる可能性がある。

全身療法はかつて転移性RCC患者の管理における主流であった。薬物療法は腫瘍を縮小させ,余命を延長する。約10~20%の患者はインターフェロンα-2bまたはIL-2に反応するが,持続的な反応が得られるのは5%未満である。スニチニブ,ソラフェニブ,ベバシズマブ,パゾパニブ,カボザンチニブ,アキシチニブ,およびレンバチニブ(チロシンキナーゼ阻害薬)や,mTOR(mammalian target of rapamycin)阻害薬であるテムシロリムスおよびエベロリムスなど,数多くの分子標的療法に進行がんに対する効力が示されている。

ただし,転移性RCCに対して利用可能な最新の全身療法は免疫チェックポイント阻害薬(ICI)である。それは抗PD-1または抗PD-L1モノクローナル抗体であり,腫瘍細胞と腫瘍浸潤T細胞の間で生じるPD-1/PD-L1の相互作用を阻害して,抗腫瘍免疫応答を含む免疫応答がPD-1経路を介して阻害される反応を遮断することによって作用を発揮する。低リスク,中リスク,高リスクのRCCに対する第1選択の治療法は併用療法(ICI ± 分子標的療法または2剤目のICI)であり,その組合せとしては,アキシチニブ + ペムブロリズマブ,カボザンチニブ + ニボルマブ,レンバチニブ + ペムブロリズマブ,イピリムマブ + ニボルマブなどがある。

その他の治療法は実験段階にある。具体的には造血幹細胞移植,その他のインターロイキン,血管新生阻害療法(例,サリドマイド),ワクチン療法などがある。従来法の化学療法薬の単独または併用投与,およびプロゲスチンは無効である。

全身療法前の腫瘍縮小腎摘除術(cytoreductive nephrectomy)については,腫瘍縮小腎摘除術 + その後のスニチニブをスニチニブ単独と比較したランダム化第III相試験であるCARMENA(Clinical Trial to Assess the Importance of Nephrectomy)において,スニチニブ単独で治療した場合でも生存期間が短縮しなかったことが示されてたことから,議論があるが(4),この試験にも患者選択に関して批判がある。

最新の推奨では,以下のいずれかの基準を満たす患者では腫瘍縮小腎摘除術を考慮することとされている:

  • 腎臓における腫瘍量が大きい

  • 原発腫瘍による症候性の出血または疼痛がみられる

  • 腫瘍随伴症候群がみられる

  • PS(performance status)が非常に良好で,対側腎の機能が正常である

RCCの遺伝学的亜型に関する知見が蓄積されるにつれて,管理の推奨はより特異的なものへと進化している。

治療に関する参考文献

  1. 1.Chandrasekar T, Boorjian SA, Capitanio U, et al: Collaborative review: Factors influencing treatment decisions for patients with a localized solid renal mass.Eur Urol ;80(5):575-588, 2021.doi: 10.1016/j.eururo.2021.01.021

  2. 2.Ravaud A, Motzer RJ, Pandha HS et al: Adjuvant sunitinib in high-risk renal-cell carcinoma after nephrectomy.N Engl J Med 8;375(23):2246-2254, 2016.doi: 10.1056/NEJMoa1611406

  3. 3.Choueiri TK, Tomczak P, Park SH, et al for the KEYNOTE-564 Investigators: Adjuvant pembrolizumab after nephrectomy in renal-cell carcinoma.N Engl J Med 385(8):683-694, 2021.doi: 10.1056/NEJMoa2106391

  4. 4.Mejean A, Ravaud A, Thezenas S, et al: Sunitinib alone or after nephrectomy in metastatic renal-cell carcinoma.N Eng J Med 379:417-427, 2018.doi: 10.1056/NEJMoa1803675

要点

  • RCCは腺癌であり,原発性悪性腎腫瘍の90~95%を占める。

  • 通常,症状(大半が肉眼的または顕微鏡的血尿)は腫瘍が増大または転移するまで出現しないことから,偶然発見されるのが一般的である。

  • RCCはMRIまたは造影CTにより診断し,さらに胸部X線,血液検査(肝機能検査を含む)を施行して病期を確定する。

  • 大半の限局性RCCは手術,積極的サーベイランス,または熱焼灼により治療する。

  • 進行RCCは併用免疫療法,分子標的療法,インターフェロンα-2bもしくはIL-2,緩和的放射線療法,および/または手術で治療する。

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