前立腺癌

執筆者:Thenappan Chandrasekar, MD, University of California, Davis
レビュー/改訂 2022年 1月
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前立腺癌は通常腺癌である。典型的には,腫瘍の増殖によって血尿や疼痛を伴う閉塞が引き起こされるまで,症状はみられない。診断は直腸指診または前立腺特異抗原(PSA)の測定により示唆され,経直腸的超音波生検によって確定される。スクリーニングについては議論があり,共同で意思決定を行うべきである。大部分の前立腺癌患者の予後は,特にがんが限局または局在する場合(通常は症状の発生前),非常に良好であり,前立腺癌で死亡する患者と比較してそれ以外の原因で死亡する前立腺癌患者の方が多い。治療は前立腺摘除術,放射線療法,緩和療法(例,ホルモン療法,放射線療法,化学療法),あるいは多くの高齢患者と慎重に選択した若年患者では積極的サーベイランスによる。

前立腺腺癌は,皮膚悪性腫瘍を除けば,米国の50歳以上の男性において最も頻度の高いがんである。米国では,毎年約248,530例が新規に発生し,約34,130例が死亡する(2021年推定)(1)。発生率は10歳毎に上昇し,剖検では60~90歳の男性の15~60%で前立腺癌が認められ,その頻度は年齢とともに上昇する。前立腺癌と診断される生涯リスクは6分の1である。診断時年齢の中央値は72歳で,前立腺癌の75%超は65歳以上の男性で診断される。リスクは黒人男性で最も高い。

前立腺の肉腫はまれであり,主に小児で発生する。未分化前立腺癌,扁平上皮癌,および導管由来の移行上皮癌もまれに発生する。前立腺上皮内腫瘍は,前がん性の組織学的変化の可能性があるとされている。

ホルモンは腺癌の経過に対しては影響するが,前立腺癌のその他の型には影響しないことがほぼ確実である。

総論の参考文献

  1. 1.American Cancer Society: Key statistics for prostate cancer.Accessed: 11/24/21.

前立腺癌の症状と徴候

前立腺癌は一般的に進行が遅く,進行以前に症状が出現することはまれである。進行例では,血尿および下部尿路閉塞の症状(例,腹圧排尿,排尿遅延,尿勢低下または尿線途絶,残尿感,終末時滴下)または尿管閉塞の症状(例,腎仙痛,側腹部痛,腎機能障害)が現れる場合がある。造骨性骨転移(一般的に骨盤,肋骨,椎体)により骨痛,病的骨折,または脊髄圧迫が生じる場合がある。

前立腺癌の診断

  • 直腸指診(DRE)および前立腺特異抗原(PSA)によるスクリーニング

  • 前立腺の針生検(最も一般的)または転移病変の生検による診断

  • 組織学的な悪性度分類

  • CT/MRIおよび骨シンチグラフィー,場合により前立腺特異膜抗原(PSMA)に基づくPET-CTによる病期分類

ときに,石状の硬結または小結節がDREにおいて触知可能であるが,診察ではしばしば正常であり,硬結と小結節はがんを示唆するものの,肉芽腫性前立腺炎,前立腺結石およびその他の前立腺疾患と鑑別しなくてはならない。精嚢への硬結の進展と腺の側方の固定は,局所進行前立腺癌を示唆する。DREで検出される前立腺癌は大きい傾向があり,50%以上が被膜を越えて進展する。

前立腺癌の診断には組織学的な確定診断が必要であり,最も一般的には経会陰超音波ガイド下針生検が用いられ,これは診察室で局所麻酔下または手術室で鎮静下で施行できる。低エコー領域はがんを反映している可能性が高い。ときとして,前立腺癌は前立腺肥大症の手術中に切除した組織から偶然診断されることがある。マルチパラメトリックMRIは,生検の必要性に関する患者のリスク層別化を可能とし,標的とすべき疑わしい領域を同定することができる。現在,過去の生検で陰性と判定された患者または積極的サーベイランスを受けている患者において,初回生検前に用いられている。

スクリーニング

現在では,前立腺癌の大半がPSA値(およびときにDRE)によるスクリーニングで発見されている。スクリーニングは,一般的には50歳以上の男性で年1回実施されるが,ときに高リスク男性(例,前立腺癌の家族歴を有する人および黒人男性)ではより早期に開始される。スクリーニングは通常,期待余命が10~15年未満の男性には推奨されない。異常所見について,経直腸的超音波(TRUS)ガイド下針生検または経会陰超音波ガイド下針生検によりさらに調べる。

スクリーニングにより罹病率や死亡率が低下するかどうか,あるいはスクリーニングによって得られる効果が無症状のがんを治療することで生じるQOLの低下を上回るかどうかは定かではない。スクリーニングは一部の専門家団体によって推奨され,他の組織では反対されている。ERSPC(European Randomized Study of Screening for Prostate Cancer)およびPLCO(Prostate, Lung, Colorectal, and Ovarian)試験のデータについての統合解析から,PLCO試験の対照群でコンタミネーションの頻度が高かったものの,スクリーニングの程度の差で調整した場合,どちらの試験でもスクリーニングにより前立腺癌死亡率の低下が得られたことが示唆された(1, 2)。その結果,United States Preventive Services Task Forceは2017年,前立腺癌スクリーニングに反対(レベルD)した2012年版の推奨を見直して,70歳未満の男性では有益となる可能性がある(レベルC)とした。新たに前立腺癌と診断された患者の大半は,DREが正常であり,血清PSA測定はスクリーニング検査としては理想的ではない。PSA値は前立腺癌患者の25~92%(腫瘍の大きさに依存)で上昇するが,中等度の上昇が前立腺肥大症患者の30~50%(前立腺の大きさおよび閉塞の程度に依存),一部の喫煙者,前立腺炎後の数週間でも認められる。

3ng/mL(3μg/L)以上が50歳以上の男性における生検の適応とされていることが多い。著しい高値は有意であり(腫瘍の被膜外進展または遠隔転移を示唆する),PSA値の上昇とともにがんの可能性が高まるが,その値を下回ればリスクがないと言えるカットオフ値は存在しない。

無症状患者でのがんの陽性適中率は,PSA値10ng/mL(10μg/L)超で67%,PSA値4~10ng/mL(4~10μg/L)で25%であり,最近のエビデンスから55歳以上の男性の前立腺癌有病率はPSA値4ng/mL(4 μg/L)未満で15%,PSA値0.6~1.0ng/mL(0.6~1.0μg/L)で10%であることが示唆されている。PSA低値の患者で認められるがんは小型で悪性度も低い傾向にあるが,悪性度の高いがん(Gleasonスコア7~10)はPSA値にかかわらず存在する可能性があり,PSA値4ng/mL(4μg/mL)未満で発生するがんのうち悪性度の高いがんはおそらく15%である。カットオフ値4ng/mL(4μg/L)では一部の重篤となりうるがんを見逃すようであるが,それらのがんを発見するために必要な生検数の増加による費用や合併症発生数は明らかではない。

生検を施行するかどうかの決定では,前立腺癌の家族歴がない場合にも,その他のPSA関連因子が有用と考えられる。例えば,PSAの変化率(PSA velocity)は0.75ng/mL/年未満(0.75μg/L/年;若年者ではより低値)であるべきである。PSA velocityが0.75ng/mL/年(0.75μg/L/年)を上回る場合は,通常は生検が推奨される。同様に,PSA density(前立腺体積に対するPSA値の比)も生検の必要性を判断する上で役立つことがあり,この値が0.15ng/mL/cc以上(またはときに0.10ng/mL/cc以上)の場合は,生検を考慮すべきである。

総PSAに対する遊離型PSAの比および複合型PSAを測定するアッセイは,標準的な総PSA測定と比較して腫瘍に対してより特異的であり,がんを有していない患者に対する生検の頻度を低下しうる。前立腺癌は遊離型PSAの低値と関連しており,標準的なカットオフ値は確立されていないものの,一般的に値が10~20%未満で生検が正当化される。その他のPSAアイソフォームや前立腺癌に対する新規マーカーの研究が進められている。こうしたPSAの他の利用法いずれをもってしても,過剰な生検につながる可能性に関する全ての懸念に答えることはできない。多くの新規検査(例,尿中PCA-3[prostate cancer antigen 3],Prostate Health Index,4Kscore,urinary SelectMDXなど)が市販されており,スクリーニングの実施を判断する際の有用な補助となる可能性がある。

PSA検査のリスクとベネフィットについて患者と話し合うべきである。患者によっては,どのような犠牲を払おうとも,進行や転移の可能性がどれだけ低くとも,がんが一切ない状態を望み,PSA検査を毎年受けることを望む場合もある。一方,患者によってはQOLを重視し,ある程度の不確かさを受容することができ,PSA検査の施行頻度を減らす(あるいは施行しない)ことを望む場合がある。

新たに前立腺癌と診断された男性に導管内浸潤の組織所見,転移性または高悪性度の限局性前立腺癌,前立腺癌の濃厚な家族歴,またはBRCA1/2変異/リンチ症候群/遺伝性乳癌および卵巣がんの既知の家族歴を認める場合は,生殖細胞系列遺伝子検査と遺伝カウンセリングを勧めるべきである。

悪性度および病期診断

悪性度分類は,腫瘍構造と正常な腺組織の類似に基づき,腫瘍の悪性度の定義に役立つ。悪性度分類では腫瘍の組織学的多様性を考慮する。一般的にはGleasonスコアが用いられる。最も頻度の高いパターンとその次に頻度の高いパターンをそれぞれ1~5のグレードで分類し,これら2つのグレードの合計を総スコアとする。大半の専門家は,スコア6以下を高分化,7を中分化,8~10を低分化としている。スコアが低いほど腫瘍の悪性度と浸潤性は低く,予後も良好である。限局性腫瘍に対しては,Gleasonスコアは被膜浸潤,精嚢浸潤,またはリンパ節転移の可能性を予測する上で有用である。Gleasonグレード1および2は現在は廃止されており,結果として実質的な最低スコア(3 + 3)は6となっている。しかしながら,Gleasonスコア6は以前の2~10のスケールでは低いようには聞こえない。

グレードグループは,これを患者に伝える際に役立ち,病理学的分類を平易にもする,より新しいスコアである。この新たなスコアリングシステムは2016年に世界保健機関(World Health Organization:WHO)に受け入れられた:

グレードグループ1 = Gleason 3+3

グレードグループ2 = Gleason 3+4

グレードグループ3 = Gleason 4+3

グレードグループ4 = Gleason 8

グレードグループ5 = Gleason 9および10

Gleasonグレードグループ,臨床病期,およびPSA値の併用(表またはノモグラムを使用)は,それぞれを単独で用いる場合と比較して,病理学的病期および予後の予測に優れている。

前立腺癌では,病期診断により腫瘍の進展範囲を明らかにする(前立腺癌のAJCC/TNM病期分類および前立腺癌のTNM定義の各表を参照)。前立腺の経直腸的超音波検査(TRUS)またはMRIでは,病期診断に必要な情報,特に被膜浸潤および精嚢浸潤に関する情報が得られる可能性がある。臨床病期がT1c~T2aで,Gleasonスコアが低値(7以下),かつPSA値が10ng/mL(10μg/L)未満の患者には,治療に進む前の追加の病期診断検査は通常行わない。骨シンチグラフィーは,PSA値が20ng/mL(20μg/L)を超えるかGleasonスコアが高値(すなわち,8以上または[4 + 3]以上)でない限り,骨転移の検出に役立つことはまれである(関節炎変化による損傷でもしばしば異常を示す)。Gleasonスコアが8~10でかつPSA値が10ng/mL(10μg/L)を超える場合,またはGleasonスコアにかかわらずPSA値が20ng/mL(20μg/L)を超える場合は,骨盤リンパ節および後腹膜リンパ節を評価するため,腹部および骨盤CT(またはMRI)がよく施行される。疑わしいリンパ節は,針生検を用いてさらに評価することができる。局所進行前立腺癌(T3)の患者では,MRIも腫瘍の局所的な進展範囲を判定する上で有用となりうる。病期診断におけるPSMA(前立腺特異的膜抗原)およびフルシクロビン (18F)(Fluciclovine F-18)PETの役割が確立されつつあるが,早期の限局例には明らかに不要である。

血清酸性ホスファターゼ高値,特に酵素活性測定での高値は,転移(特にリンパ節転移)の有無と良好に相関する。しかしながら,この酵素は前立腺肥大症,多発性骨髄腫ゴーシェ病,および溶血性貧血でも上昇する可能性があり,強い前立腺マッサージの後にも,わずかながら上昇する。現在では治療指針の決定や治療後のフォローアップを目的として使用されることはまれとなっており,これは特に,放射免疫アッセイ(通常用いられる方法)として行った場合の診断価値が確立されていないことに起因する。循環血中の前立腺癌細胞を検出する逆転写PCR法が病期診断と予後判定の手段として研究されている。

表&コラム
表&コラム
表&コラム
表&コラム

以下の場合には転移のリスクが低いと考えられている:

  • T2a以下

  • Gleasonスコアが6以下

  • PSA値が10ng/mL(10μg/L)以下

T2b-c,Gleasonスコア7,PSA値 > 10ng/mL(10μg/L)のいずれかに該当する場合は,大半の専門家が中等度のリスクがあると考えている。T3,Gleasonスコア8以上,PSA値 > 20ng/mL(20μg/L)のいずれか(または中等度の危険因子2つ)に該当する場合は,一般に高リスクである。

転移のリスクは,T分類,Gleasonスコア,およびPSA値から以下のように推定することができる:

  • 低リスク:T2a以下,Gleasonスコア6以下,かつPSA値10ng/mL(10μg/L)以下である

  • 中リスク:T2b-c,Gleasonスコア7,PSA値10ng/mL(10μg/L)以上20ng/mL(20μg/L)以下のいずれかに該当する

  • 高リスク:T3以上,Gleasonスコア8以上,PSA値20ng/mL(20μg/L)以上のいずれかに該当する

酸性ホスファターゼ値とPSA値は,どちらも治療後に低下し,再発により上昇するが,PSAはがん進行と治療に対する反応をモニタリングする上で最も感受性の高いマーカーであり,この目的ではほぼ完全に酸性ホスファターゼから置き換わっている。

診断に関する参考文献

  1. 1.European Randomized Study of Screening for Prostate Cancer. Accessed 12/21/21.

  2. 2.Shoag JE, Mittal S, Hu JC: Reevaluating PSA testing rates in the PLCO trial.N Engl J Med 374(18):1795-1796, 2016.doi: 10.1056/NEJMc1515131

前立腺癌の予後

大部分の前立腺癌患者の予後は,特に限局性または局所性の場合は極めて良好である。高齢の前立腺癌患者の期待余命は,年齢および併存症に依存するが,年齢をマッチさせた前立腺癌のない男性とほとんど変わらない可能性がある。多くの患者では,長期の局所コントロールだけでなく,治癒さえも可能である。治癒の可能性は,たとえ臨床的に限局がんであっても,腫瘍の悪性度および病期に依存する。早期治療を行わなければ,高悪性度の低分化癌患者の予後は不良である。未分化の前立腺癌,扁平上皮癌,および導管由来の移行上皮癌は,従来の治療法に対する反応が不良である。遠隔転移を来したがんは治癒しない。転移例における期待余命の中央値は1~3年であるが,一部の患者は何年も生存する。

前立腺癌の治療

  • 前立腺内に限局しているがんには,手術,放射線療法,または積極的サーベイランス

  • 前立腺外に進展したがんには,ホルモン療法,放射線療法,または化学療法による緩和療法

  • 低リスクのがんと診断された一部の患者には,無治療での積極的サーベイランス

治療では,前立腺特異抗原(PSA)値,腫瘍の悪性度および病期,年齢,併存疾患,期待余命,および患者の希望を指針とする。治療の目標は以下の可能性がある:

  • 積極的サーベイランス

  • 局所療法(治癒を目標とする)

  • 全身療法(腫瘍の進展範囲を低下または制限することを目標とする),余命の延長,および生活の質の改善

年齢にかかわらず,がんが生命を脅かしており,かつ治癒の可能性がある場合には,多くの患者が根治的な治療を望む。しかしながら,がんが前立腺の外に拡大した場合は治癒の可能性が低いことから,根治的ではなく緩和的な治療を行う。根治的治療が有益となる可能性が低い男性(例,高齢者,併存症あり)では,注意深い経過観察とすることが可能で,それらの患者では症状が現れた場合に緩和的処置で治療する。

積極的サーベイランス

積極的サーベイランス(active surveillance)は,低リスクまたは場合によっては中リスクの限局性前立腺癌を有するか,生命に関わる疾患を併発している無症状の患者では多くの場合に適切であり,そのような患者では,前立腺癌による死亡リスクと比較して他の原因による死亡リスクの方が大きい。このアプローチは,定期的な直腸指診(DRE),PSA測定および症状のモニタリングを必要とする。低リスクのがんと診断された健康な若年男性に対する積極的サーベイランスでは,生検も定期的に繰り返す必要がある。生検の至適な施行間隔はまだ確立されていないが,大半の専門家が1年以上としており,生検陰性が反復した場合はより少ない頻度で施行することに同意している。がんが進行した場合は,治療が必要である。積極的サーベイランスを受ける患者のうち,約30%は最終的に治療が必要となる。高齢男性では,積極的サーベイランスでの全体的な生存率は前立腺摘除術の場合と同じであるが,手術を受けた患者では,遠隔転移および疾患特異的死亡のリスクが有意に低くなる。

局所療法

局所療法は,前立腺癌の治癒を目標とし,そのため根治的治療と呼ばれることもある。主要な選択肢としては前立腺全摘除術,いくつかの形態の放射線療法,凍結療法がある。決定を下す上では,これらの治療法のリスクとベネフィットに関する慎重なカウンセリングと,患者毎の特徴(年齢,健康状態,腫瘍特性)の考慮が極めて重要である。

腫瘍が前立腺に限局している75歳未満の患者では,前立腺全摘除術(前立腺に加えて精嚢および所属リンパ節も切除する)がおそらく最善である。一部の高齢患者では,その期待余命,併存疾患,ならびに手術および麻酔に対する耐容性に基づき,前立腺摘除術が適切である。前立腺摘除術は,下腹部の切開を介して施行される。より最近では,ロボット支援腹腔鏡下アプローチが開発され,失血量および入院期間が最小限に抑えられているが,合併症発生率や死亡率の変化は示されていない。合併症は,尿失禁(全患者の約5~10%),膀胱頸部狭窄または尿道狭窄(約7~20%),勃起障害(約30~100%,年齢とその時点の機能に強く依存),直腸損傷(1~2%)などがある。神経温存前立腺全摘除術は勃起障害の可能性を低下させるが,常に施行可能というわけではなく,病期と腫瘍の位置に依存する。

凍結療法(前立腺癌細胞をクリオプローブにより凍結して破壊し,その後解凍)は十分に確立されておらず,長期の転帰は不明である。有害作用は,下部尿路閉塞,尿失禁,勃起障害,および直腸の疼痛または損傷などである。凍結療法は米国では一般的な第1選択療法ではないが,放射線療法が無効な場合に用いられることがある。

標準の外照射による放射線療法では,通常は70グレイ(Gy)を7週間で照射するが,この治療法は原体照射法による3次元放射線療法と強度変調放射線療法(IMRT)に取って代わられており,これらは80Gy近い線量を前立腺に安全に照射でき,局所制御率が(特に高リスク患者で)高いことがデータから示されている。少なくとも40%の患者では,勃起機能にいくかの低下がみられる。その他の有害作用は,放射線性直腸炎,膀胱炎,下痢,疲労などで,このほかに尿道狭窄の可能性があり,特に経尿道的前立腺切除術の手術歴を有する患者で認められる。外照射療法,前立腺全摘除術,および積極的なモニタリングの成績は,ProtecT試験で実証された(1)ように,限局性前立腺癌に対する治療から中央値で10年後の時点で同程度であることが示された。陽子線治療などの新しい形態の外照射療法は費用が高く,前立腺癌患者で得られるベネフィットは明確には確立されていない。外照射療法は,前立腺全摘除術後にがんが残存しているか,PSA値が手術後に上昇を開始し,転移が見つけられない場合にも役割を果たす。最近のエビデンスも,腫瘍量の少ない転移例(しばしばオリゴ転移と呼ばれる)では前立腺に対する放射線療法の施行を支持している。前立腺癌に対する放射線療法における最近の進歩として,照準を改善するために前立腺周囲に留置するマーカー(fiducial marker)の使用がある。直腸毒性の軽減に役立てるため,経直腸的に針を挿入してハイドロゲルスペーサーを留置することもできる。ハイドロゲルスペーサーは時間の経過とともに吸収される。寡分割照射(hypofractionation)は,放射線治療において進歩のみられる概念であり,総線量を複数の大きな線量に分割して,1日1回以下の頻度で治療を行うものである。寡分割照射による放射線療法は,標準的な放射線療法よりも短い期間(数日または数週間)で施行される。

密封小線源治療では,放射性シードを会陰を介して前立腺に埋め込む。これらのシードは限定された期間(通常3~6カ月間)にわたり放射線を群発的に放射し,その後,不活化する。中リスク患者に対して,高品質インプラントの単独療法としての使用か,あるいはインプラントと外照射療法の併用のどちらが優れているかは,研究プロトコルで調査が進められている。密封小線源治療も勃起機能を低下させるが,発症が遅くなる可能性があり,また患者のホスホジエステラーゼ5阻害薬に対する反応は,手術中に神経血管束の切除または損傷があった患者と比べて高いと考えられる。頻尿,尿意切迫,また頻度は低いものの尿閉が一般的にみられるが,通常は時間とともに軽減する。その他の有害作用としては,排便回数の増加,便意切迫,出血または潰瘍形成,前立腺直腸瘻などがある。

HIFU(高密度焦点式超音波療法)では,強力な超音波エネルギーを経直腸的に照射して,前立腺組織を焼灼する。これは欧州およびカナダで長年利用されており,米国では最近になって利用可能になった。前立腺癌の管理におけるこの技術の役割が確立されつつあり,放射線療法後に再発した前立腺癌に対して現時点で最適であると考えられる。

前立腺に限局しているがんが高リスクの場合,様々な治療法の併用が必要になることがある(例,外照射療法で治療された高リスク前立腺癌に対して,6カ月から2~3年のホルモン療法の追加)。

全身療法

がんが前立腺を越えて拡大した場合,治癒の可能性は低く,通常は腫瘍の進展範囲を縮小または抑制することを目標とする全身療法が施行される。

局所進行例と転移例では,去勢によるアンドロゲン遮断療法(ADT)が有益となることがあり,これは両側精巣摘除術による外科的方法,黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)作動薬(例,リュープロレリン,ゴセレリン,トリプトレリン[triptorelin],ヒストレリン[histrelin],ブセレリン)による内科的方法,または内科的方法と放射線療法の併用で行うことができる。LHRH拮抗薬(例,デガレリクス,レルゴリクス)も テストステロン値を低下させることが可能で,通常LHRH作動薬と比較して迅速である。LHRH作動薬およびLHRH拮抗薬は通常,血清テストステロン値を両側精巣摘除術とほぼ同程度にまで低下させる。アンドロゲン受容体を標的とする治療法(アビラテロン酢酸エステルとプレドニゾン,エンザルタミド,またはアパルタミドの併用)または化学療法(ドセタキセルによる)をADTと併用することが可能であり,治療法の選択は転移病変の体積と患者の併存症によって決まる。

これらのアンドロゲン除去療法はいずれも性欲減退と勃起障害を引き起こし,ホットフラッシュを引き起こすこともある。LHRH作動薬は,一時的にPSA値の上昇を引き起こすことがある。一部の患者ではアンドロゲン完全遮断のために抗アンドロゲン薬(例,フルタミド,ビカルタミド,ニルタミド[nilutamide],酢酸シプロテロン[米国では入手できない])の追加が有益である。併用アンドロゲン遮断療法とは,通常はLHRH作動薬と抗アンドロゲン薬の併用を指すが,LHRH作動薬(またはLHRH拮抗薬もしくは精巣摘除術)単独と比較した場合の有益性はごくわずかのようである。もう1つのアプローチは間欠的アンドロゲン遮断であり,これはアンドロゲン非依存性前立腺癌の発生を遅延させることを意図したもの,アンドロゲン遮断のいくつかの有害作用を制限する上で有用である。完全アンドロゲン除去療法は,PSA値が低下するまで(通常は検出限界未満まで)継続し,その後は中止する。PSA値が特定の閾値を超えて上昇した時点で治療を再開するが,理想的な閾値はまだ確立されていない。治療および治療休止期間の至適なスケジュールもまだ確立されておらず,施設間で大きなばらつきがある。

アンドロゲン遮断は,生活の質を大きく損なう可能性があり(例,自己像,がんとその治療に対する態度,活力),長期治療により骨粗鬆症,貧血,および筋肉量の減少をもたらす可能性がある。エストロゲン製剤は,心血管合併症および血栓塞栓性合併症のリスクを有するため,まれにしか使用されない。

転移性前立腺癌では,ホルモン療法は限られた期間のみ効果を示す。テストステロン値が去勢レベル(50ng/dL[1.74 nmol/L]未満)であるにもかかわらず進行するがん(PSA値の上昇により示唆される)は,去勢抵抗性前立腺癌に分類される。去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)は,さらにM0(非転移性)CRPCとM1(転移性)前立腺癌に分類できる。テストステロン値が低く,CTまたは骨シンチグラフィー上で病変がみられないにもかかわらずPSA値が上昇する場合は,遠隔転移のない前立腺癌である。転移のリスクが高い。アパルタミド,ダロルタミド,およびエンザルタミドは,現在利用可能であり,CRPCのM0からM1への進行を遅らせることができる。去勢抵抗性前立腺癌で生存期間を延期する治療法(多くが2010年以降に同定されている)としては以下のものがある:

  • ドセタキセル(タキサン系の化学療法薬)

  • シプロイセル-T(sipuleucel-T)(前立腺癌細胞に対して免疫を誘導するよう設計された患者由来のワクチン)

  • アビラテロン(精巣および副腎のみならず腫瘍内でのアンドロゲン合成を遮断する)

  • エンザルタミド,ダロルタミド,アパルタミド(アンドロゲンの受容体との結合を阻害する)

  • カバジタキセル(ドセタキセル耐性を獲得した腫瘍に活性を示す可能性があるタキサン系の化学療法薬)

  • ラジウム233(α線を放射し,CRPC患者において骨転移に起因する合併症を予防するとともに,生存期間も延長することが最近明らかにされた)

  • PARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)阻害薬(オラパリブ,ルカパリブ[rucaparib])はBRCA1/2変異を有するmCRPC患者で活性を示すようである。

一部のデータからは,CRPCの最初期の徴候がみられた時点でシプロイセル-T(sipuleucel-T)を使用すべきであることが示唆されている。一般的に,去勢抵抗性前立腺癌の治療は前立腺癌の経過の早期に試みられており,ホルモン感受性転移性前立腺癌におけるベネフィットが現在示されつつある。しかしながら,治療の選択には多くの因子が関与する可能性があり,結果を予測する上で援用できるデータはあまりないと考えられることから,患者の教育と共同での意思決定が推奨される。

骨転移に起因する合併症(例,病的骨折,疼痛,脊髄圧迫)の治療および予防の補助として,破骨細胞阻害薬(例,デノスマブ,ゾレドロン酸)を使用することが可能である。個々の骨転移巣の治療には,従来から外照射療法が用いられている。

治療に関する参考文献

  1. 1.Hamdy FC, Donovan JL, Lane JA, et al: 10-year outcomes after monitoring, surgery, or radiotherapy for localized prostate cancer.N Engl J Med 375(15):1415-1424, 2016.doi: 10.1056/NEJMoa1606220

要点

  • 前立腺癌は加齢とともに極めて一般的に発生するが,常に臨床的に重要なわけではない。

  • 症状はがんが拡大し,治癒がより困難となった後にのみ発生する。

  • 骨転移に起因する合併症は一般的であり,重要である。

  • 前立腺癌の診断は経直腸的超音波ガイド下の針生検による。

  • 50歳以上の男性で期待余命が10年または15年以上の場合は,スクリーニングの長所および短所について話し合いを行う。

  • 限局性前立腺癌では,局所の根治的治療(例,前立腺摘除術,放射線療法)と積極的サーベイランスを考慮する。

  • 前立腺を越えて広がったがんに対しては,全身療法(例,様々なホルモン療法,シプロイセル-T(sipuleucel-T),タキサン系化学療法)を考慮する。

  • 骨転移では,ラジウム233および破骨細胞阻害薬を考慮する。

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