横紋筋融解症

執筆者:Anna Malkina, MD, University of California, San Francisco
レビュー/改訂 2023年 3月
意見 同じトピックページ はこちら

横紋筋融解症は,骨格筋組織の分解が起きる臨床症候群である。症状および徴候として筋力低下,筋肉痛,赤褐色尿があるが,この三徴が全てみられる患者は全体の10%未満である。横紋筋融解症の診断は,病歴聴取と典型的には正常上限の5倍を超えるクレアチンキナーゼ(CK)高値の確認による。治療は支持療法であり,輸液のほか,誘因となる原因の治療と合併症があればその治療を行う。

重症例では生命を脅かす急性腎障害(AKI)や電解質平衡異常を合併する可能性があるため,横紋筋融解症は迅速な検出および治療が極めて重要である。

横紋筋融解症の病態生理

骨格筋の正常な機能は,電解質の適切な交換,アデノシン三リン酸(ATP)の十分な代謝,および筋細胞の正常な細胞膜機能に依存している。横紋筋融解症では,これらの過程に破綻が生じる結果として,骨格筋が分解される。骨格筋組織が破壊されることで,クレアチンキナーゼ(CK),ミオグロビン,様々な電解質など,筋細胞の細胞内成分が血漿中に放出される。ミオグロビン尿と電解質異常により,急性腎障害など末端臓器の合併症が引き起こされる。

横紋筋融解症の病因

理論上,あらゆる形態の筋損傷が横紋筋融解症につながりうる。最も一般的な病因は以下のものである:

比較的頻度の低い病因としては以下のものがある:

横紋筋融解症の症状と徴候

横紋筋融解症でみられる症状の古典的三徴は,筋肉痛,筋力低下,および赤褐色尿である。しかしながら,横紋筋融解症の全患者のうち,この三徴が全てみられる患者の割合は10%を下回る。

臨床像は一定でなく,多くの患者は筋症状を全く訴えない。筋肉痛がある場合は,肩,大腿,腰部,腓腹部などの近位筋群に生じる。高濃度で尿中に排泄されたミオグロビンは,尿を赤色ないし褐色に変色させ,尿試験紙法の潜血陽性(ミオグロビン尿による)で評価することができる。ただし,ミオグロビンの排泄が急速であるため,ミオグロビン尿や尿の変色がみられない場合でも横紋筋融解症は除外できない。

その他の症状と徴候は,誘因となる事象や合併症に応じて異なる(例,感染症患者では発熱があり,中毒の症例では精神状態の変化がみられる)。

急性腎障害は,横紋筋融解症の合併症の15~50%で報告され(1),脱水,敗血症,および15,000IU/L(250μkat/L)を超えるクレアチンキナーゼ高値が同時にみられる患者では頻度がより高くなる。

症状と徴候に関する参考文献

  1. 1.Chavez  LO, Leon M,  Einav S, et al: Beyond muscle destruction: A systematic review of rhabdomyolysis for clinical practice.Crit Care 20(1):135, 2016. doi: 10.1186/s13054-016-1314-5

横紋筋融解症の診断

  • 正常上限の5倍を上回る血清クレアチンキナーゼ(CK)高値

横紋筋融解症は病歴,臨床徴候,および症状に基づいて疑われる。確定診断は臨床検査でのCK高値による。カットオフ値は確立されていないが,典型的には正常上限の5倍を超えるCK値が診断の必要条件とされる。

裏付けとなるその他の臨床検査所見として尿中でのミオグロビンの検出があり,特に鏡検で赤血球を認めない場合に有用である。ミオグロビン尿は尿中ミオグロビン値が250μg/mLを超えると検出される。臨床検査上のその他の特徴としては,血清クレアチニン値の急速な上昇,高カリウム血症,高尿酸血症,低カルシウム血症高カルシウム血症高リン血症乳酸アシドーシス血小板減少などがある。

横紋筋融解症の治療

  • 支持療法

  • 基礎的な原因の治療

  • 合併症の治療

一般に,治療は支持療法であり,それとともに原因の治療と合併症があればその治療も行う。

支持療法としては,輸液による血管内容量増加に起因する急性腎障害の予防や,その他の支持療法がある(例,急性呼吸不全の症例で機械的人工換気)。炭酸水素ナトリウムによる尿のアルカリ化については,有益性を示す明確なエビデンスはなく,特にアルカローシスまたは低カルシウム血症がある症例では禁忌である。

誘因となる事象がコンパートメント症候群に起因する場合は,支持療法に加えて筋膜切開を早期に行う。感染は適切な抗菌薬で治療する。誘因となる可能性がある薬剤(例,スタチン系)は全て中止する。電解質異常を是正する。

急性腎障害などの合併症は,輸液のほか,ときに血液透析により治療する。播種性血管内凝固症候群は新鮮凍結血漿により治療する。

要点

  • 症状の古典的三徴(筋肉痛,筋力低下,および紅茶のような色の尿)がみられる割合は症例の10%未満である。

  • 典型的には正常上限の5倍を超えるCK高値が診断の必要条件とされる。

  • 治療は支持療法であり,輸液による水分補給のほか,誘因となる原因の治療と合併症があればその治療を同時に行う。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS