消化管出血の概要

執筆者:Parswa Ansari, MD, Hofstra Northwell-Lenox Hill Hospital, New York
レビュー/改訂 2023年 5月
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消化管出血は,口腔から肛門までのいずれの部位でも発生する可能性があり,顕性の場合と不顕性の場合がある。臨床像は出血部位および出血速度によって異なる。(静脈瘤および消化管の血管性病変も参照のこと。)

吐血は,鮮紅色の血液を吐出する症状であり,上部消化管出血を示唆し,その出血源は通常,消化性潰瘍血管病変,または静脈瘤である。コーヒー残渣様嘔吐では,コーヒーの出がらしに似た暗褐色で顆粒状の吐物がみられる。これは上部消化管出血のうち緩徐なものやすでに止血したものに起因し,赤色のヘモグロビンが胃酸によって褐色のヘマチンに変化したものである。

血便は,肛門から肉眼的な血液の排出がみられる症状であり,通常は下部消化管出血を示唆するが,激しい上部消化管出血で血液が腸管を急速に通過することで生じる場合もある。

黒色便は,黒色のタール便がみられる症状であり,典型的には上部消化管出血を示唆するが,小腸または右側結腸が出血源である場合もある。黒色便には約100~200mLの上部消化管出血が必要で,止血後も黒色便が数日間続くことがある。潜血が認められない黒い便は,鉄,ビスマス,種々の食物の摂取に起因すると考えられ,黒色便と間違えてはならない。

慢性的な潜在性出血は,消化管のいずれの部位でも生じる可能性があり,便検体の化学的検査で検出できる。

重度の急性出血もまた,消化管のいずれの部位でも生じる可能性がある。受診時にショックの徴候を認めることがある。基礎疾患として虚血性心疾患を有する患者は,出血による冠動脈血流の低下に起因する狭心症または心筋梗塞を発症することがある。

基礎疾患として肝疾患を有する患者で消化管出血が生じると,門脈大循環性脳症または肝腎症候群(肝不全に続発する腎不全)が誘発される可能性がある。

消化管出血の病因

可能性のある原因は数多くあり(消化管出血の一般的な原因の表を参照),それらは上部消化管(トライツ靱帯より上),下部消化管,および小腸に分けられる。

慢性肝疾患の患者(例,アルコール性肝疾患慢性肝炎),遺伝性凝固障害の患者,および特定の薬剤を使用している患者では,原因にかかわらず出血が起こりやすく,発生時の重症度も高くなる。

消化管出血に関連する薬剤として,抗凝固薬(例,ヘパリンワルファリンダビガトランアピキサバンリバーロキサバンエドキサバン),血小板機能に影響を及ぼす薬剤(例,アスピリン,その他の非ステロイド系抗炎症薬[NSAID],クロピドグレル,選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI]),粘膜防御に影響を及ぼす薬剤(例,NSAID)などがある。

表&コラム

消化管出血の評価

急性期の患者では,診断的評価の開始前から実施中にかけて気道管理,輸液,または輸血による安定化が不可欠となる。

病歴

現病歴の聴取では,出血の量と頻度を特定するよう努めるべきである。しかしながら,便器の水は少量(5~10mL)の血液でも不透明な赤色となり,また中等量の吐血でも不安な患者にとっては大量に見えることから,出血量の評価は難しい可能性がある。それでも多くの場合,筋状の血液の混在とスプーン数杯分の血液と凝血塊を区別することは可能である。

吐血した患者では,吐血が最初の嘔吐時から起きたのか,最初(もしくは数回)の非血性嘔吐の後に初めて起きたのかを尋ねるべきである。さらに,患者が吐血と喀血を混同している可能性もあるため,医師はこれら2つの症状を鑑別するために具体的な問診を行うべきである。

下血がみられた患者では,血液のみが出たのか,血液が便,膿,粘液と混ざっていたのか,単に便やトイレットペーパーに血液が付着していたのかを尋ねるべきである。血性下痢の患者では,旅行を始めとする消化管病原体への曝露の可能性について尋ねるべきである。

症状把握(review of symptoms)には,腹部不快感,体重減少,出血または皮下出血の傾向,過去の大腸内視鏡検査または各種内視鏡検査の結果,および貧血の症状(例,脱力,易疲労性,めまい)を含めるべきである。

既往歴の聴取では,消化管出血(診断または未診断)の既往,既知の炎症性腸疾患,出血性素因,肝疾患,および出血または慢性肝疾患の可能性を増加させる医薬品または薬物の使用(例,アルコール)について尋ねるべきである。

身体診察

全身状態の観察では,バイタルサインと他のショックまたは循環血液量減少(例,頻脈,頻呼吸,蒼白,発汗,乏尿,錯乱)および貧血(例,蒼白,発汗)の指標に焦点を置く。出血がそれほど重度でない患者では,軽度の頻脈(心拍数100超)がみられるだけの場合や何の徴候もみられない場合もある。

2単位以上の急性失血後には,しばしば起立時に脈拍(10回/分を超える変化)または血圧(10mmHg以上の低下)変化がみられる。しかしながら,重度の出血が起きた患者では,起立性変化の測定は,失神を引き起こす可能性があるため,賢明な手段ではなく,一般に循環血液量の尺度としては感度・特異度ともに低い(特に高齢患者の場合)。

出血性疾患の外部徴候(例,点状出血,斑状出血)がないか検討するとともに,慢性肝疾患の徴候(例,くも状血管腫,腹水,手掌紅斑)および門脈圧亢進症の徴候(例,脾腫,腹壁静脈拡張)がないか検討する。

便色,腫瘤,裂傷を調べるために直腸指診を行う必要がある。痔を診断するために肛門鏡検査を行う。肉眼的な血便がなければ,化学的便潜血検査を行って診察を完了する。

警戒すべき事項(Red Flag)

いくつかの所見は,循環血液量減少または出血性ショックを示唆する:

  • 失神

  • 低血圧

  • 蒼白

  • 発汗

  • 頻脈

  • 乏尿

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所見の解釈

約50%の患者では病歴聴取と身体診察で出血源が示唆されるが,それらの所見だけで診断に至ることはまれであり,確定診断のための検査が必要である。

食事または制酸薬で軽減する心窩部不快感は消化性潰瘍を示唆する。しかしながら,出血性潰瘍患者の多くは疼痛の既往がない。

体重減少および食欲不振は,便の変化の有無にかかわらず,消化器癌を示唆する。

肝硬変または慢性肝炎の既往は食道静脈瘤を示唆する。嚥下困難食道癌または食道狭窄を示唆する。出血発生前の嘔吐およびレッチングは,マロリー-ワイス症候群の食道裂傷を示唆するが,マロリー-ワイス症候群患者の約50%には,この病歴が認められない。

出血の既往(例,紫斑,斑状出血,血尿)は,出血性素因(例,血友病,肝不全)を示唆している可能性がある。

血性下痢,発熱,および腹痛は,虚血性大腸炎炎症性腸疾患(例,潰瘍性大腸炎クローン病)または感染性大腸炎(例,Shigella属,Salmonella属,Campylobacter属,アメーバ症)を示唆する。

血便は憩室症または血管異形成を示唆する。トイレットペーパーまたは有形便の表面にのみ付着する鮮血は内痔核または裂肛を示唆するのに対し,便と混在している血液はより近位の出血源を示唆する。便潜血は,結腸癌または結腸ポリープの最初の徴候である場合があり,特に45歳以上の患者ではその可能性がある。

鼻血または咽頭を伝わる血液は出血源として上咽頭を示唆する。

くも状血管腫,肝脾腫,腹水は,慢性肝疾患と一致することから,食道静脈瘤の可能性がある。動静脈奇形,特に粘膜の動静脈奇形は,遺伝性出血性毛細血管拡張症(Rendu-Osler-Weber症候群)を示唆する。皮膚の爪床および消化管の毛細血管拡張症は,全身性強皮症または混合性結合組織病を示唆している可能性がある。

検査

疑われる診断を確定するための補助として,いくつかの検査を行う:

  • 血算,凝固検査のほか,しばしばその他の臨床検査

  • 軽微な下血を除く全例に経鼻胃管

  • 上部消化管出血の疑いには上部消化管内視鏡検査

  • 下部消化管出血(原因が明らかに痔核の場合は除く)には大腸内視鏡検査

  • ときに上部および下部消化管出血に対して血管造影

大出血または潜血陽性がみられる患者には血算を行うべきである。より有意な出血を呈する患者には,凝固検査(例,血小板数,プロトロンビン時間[PT],部分トロンボプラスチン時間[PTT])および肝機能検査(例,ビリルビン,アルカリホスファターゼ,アルブミン,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[AST],アラニンアミノトランスフェラーゼ[ALT]も行う必要がある。出血が持続する場合は,血液型検査および交差適合試験を施行する。重度の出血がみられた患者では,ヘモグロビンおよびヘマトクリットの測定を最大6時間の間隔で繰り返してもよい。

上部消化管出血が疑われる患者(例,吐血,コーヒー残渣様吐物,黒色便,大量下血)には,全例で経鼻胃管吸引および洗浄を行うべきである。血液の混入した経鼻胃管吸引物は活動性の上部消化管出血を示唆するが,上部消化管出血患者の約10%では経鼻胃管吸引物中に血液の混入が認められない。コーヒー残渣様物質は,出血速度が遅いか,止血していることを示唆する。出血の徴候がなく胆汁が吸引される場合は経鼻胃管を抜去し,それ以外の場合は,持続性または再発性出血のモニタリングのためそのまま留置する。非出血性,非胆汁性の吸引物は診断に役立たないと考えられる。

上部消化管出血を調べるために,上部消化管内視鏡検査(食道,胃,十二指腸の検査)を行うべきである。内視鏡検査は診断に加えて治療にも使用できるため,有意な出血に対しては迅速に行うべきであるが,出血が止まった場合や極めて少ない場合には24時間延長してもよい。バリウムによる上部消化管X線撮影は,急性出血には有用ではないばかりか,使用した造影剤によって,その後に試みた血管造影が不明瞭になることがある。

痔出血に典型的な症状を有する患者で緊急に必要となるのは,S状結腸内視鏡検査および肛門鏡検査だけであると考えられる。それ以外の血便患者では全例に大腸内視鏡検査を行うべきであり,有意な持続性出血がある場合を除き,ルーチンの前処置後に待機的に施行できる。そのような患者では,迅速な前処置(ポリエチレングリコール溶液5~6Lを経鼻胃管または経口で3~4時間かけて投与する)で,しばしば十分な観察が可能になる。

大腸内視鏡検査で出血源を検出できず,相当量の出血(1分当たり0.5~1mL)が持続している場合は,出血源を同定するために血管造影を施行してもよい。血管造影の施行者によっては,検査の的を絞るために最初に核医学検査を行うこともあり,これは核医学検査と比較して血管造影の感度が低いためである。血管造影は,上部だけでなく下部消化管出血の診断にも有用であり,特定の治療手技(例,塞栓術,血管収縮薬の注入)を可能にする。American Journal of Gastroenterologyの急性下部消化管出血患者の管理に関する2023年版改訂ガイドライン)では,血行動態的に有意な血便が持続している患者への最初の診断的検査としてCT血管造影が推奨されている。最初の診断的または治療的検査として内視鏡検査または血管造影を行うか否かの判断は,患者の臨床状態に加えて,治療施設で利用できる専門スタッフおよびインフラに基づくべきである。

便潜血陽性は消化管のあらゆる部位からの出血で生じうることから,潜血の診断は困難になることがある。望ましい検査法は内視鏡検査であり,上部または下部消化管のいずれを最初に検査するかは症状によって決まる。大腸内視鏡検査を施行できない場合または患者が拒否した場合には,下部消化管に対して二重造影法による下部消化管造影およびS状結腸鏡検査を施行することができる。

上部消化管内視鏡検査および大腸内視鏡検査の結果が陰性で便潜血が持続している場合は,上部消化管造影と小腸造影,CTエンテログラフィー,小腸内視鏡検査(小腸鏡検査),カプセル内視鏡検査(錠剤様の小型カメラを飲み込んで用いる),ならびにテクネチウム標識コロイドまたは赤血球シンチグラフィー,血管造影を考慮すべきである。カプセル内視鏡検査の有用性は,活動性出血のある患者では限定的となる。

消化管出血の治療

  • 必要であれば気道確保

  • 輸液蘇生(fluid resuscitation)

  • 必要であれば輸血

  • ときに薬剤

  • 場合によっては,内視鏡下または血管造影下の止血術

(American College of Gastroenterology–Canadian Association of Gastroenterologyの2022 Clinical Practice Guideline: Management of Anticoagulants and Antiplatelets During Acute Gastrointestinal Bleeding and the Periendoscopic Period,American Journal of Gastroenterologyの2023 Management of Patients With Acute Lower Gastrointestinal Bleeding: An Updated ACG Guideline,American Journal of Gastroenterologyの2021 ACG Clinical Guideline: Upper Gastrointestinal and Ulcer Bleeding,およびAmerican Journal of Gastroenterologyの2015 ACG Clinical Guideline: Diagnosis and Management of Small Bowel Bleedingも参照のこと。)

吐血,血便,黒色便は緊急事態とみなすべきである。重度の消化管出血を起こした患者には,集中治療室などのモニタリング体制が整った環境での管理と消化器専門医および外科医の両者によるコンサルテーションが全例で推奨される。全般的治療は気道維持および循環血液量の回復に向けられる。止血および他の治療は出血の原因によって異なる。

気道

活動性上部消化管出血の患者における合併症および死亡の主な原因は,血液の誤嚥とそれに続く呼吸障害である。これらの問題を予防するために,咽頭反射が不十分な患者と意識消失を含む意識障害がある患者については,特に上部消化管内視鏡検査を行う場合,気管挿管を考慮すべきである。

輸液蘇生および血液製剤の輸注

静脈内アクセスを直ちに確保すべきである。中心静脈カテーテルには,太い(8.5 Fr)シースを用いていない限り,肘部静脈に短い大口径(例,14~16ゲージ)静脈カテーテルを用いるのが望ましい。循環血液量減少または出血性ショックを呈する患者の全例に,直ちに輸液を開始する(輸液蘇生[fluid resuscitation])。健康成人に対しては,循環血液量減少の徴候が緩和するまで生理食塩水500~1000mLずつを最大2Lまで静脈内投与する(小児に対しては20mL/kg,1回繰り返してもよい)。

さらに輸液蘇生を行う必要がある患者には,濃厚赤血球を輸血すべきである。輸血は,血管内容量が回復するまで継続し,その後,持続的な失血を補うために必要に応じて行う。高齢患者または冠動脈疾患患者に対する輸血は,症状がみられる場合を除き,ヘモグロビン値が8で安定していれば中止してもよい。若年患者または慢性出血患者に対する輸血は,ヘモグロビン値が7未満であるか,呼吸困難や冠動脈虚血などの症状がみられる場合を除き,通常は行わない。

血小板数を綿密にモニタリングすべきであり,重度出血では血小板輸血が必要になることがある。抗血小板薬(例,クロピドグレル,アスピリン)を服用している患者では血小板機能異常がみられ,しばしば出血量が増加する。これらの薬剤を服用している患者で重度の持続性出血が認められる場合は,血小板輸血を考慮すべきであるが,循環血中に残留した薬剤(特にクロピドグレル)によって輸血した血小板が不活化される可能性がある。最近生じた心血管系の異常を理由に患者が抗血小板薬または抗凝固薬を服用している場合は,可能であれば,その薬剤の中止,中和剤の投与,または血小板輸血の実施に先立って心臓専門医へのコンサルテーションを行うべきである。

大量の輸血が必要な場合は,施設の大量輸血プロトコルに従って新鮮凍結血漿および血小板も濃厚赤血球とともに輸血すべきである。患者に凝固障害がある場合は,新鮮凍結血漿,またはプロトロンビン複合体製剤による是正も考慮すべきである。

抗凝固療法または抗血小板療法に対して中和剤を使用する決定は,患者毎に出血リスクと血栓リスクを比較した評価に基づき判断すべきである。文献上のエビデンスが少ないことから,現在公表されているガイドラインでは,新鮮凍結血漿,プロトロンビン複合体製剤,またはその他の中和剤による治療について指針を示すことができていない(American College of Gastroenterology Canadian Association of Gastroenterologyの2022 Clinical Practice Guideline: Management of Anticoagulants and Antiplatelets During Acute Gastrointestinal Bleeding and the Periendoscopic Periodも参照)。

薬剤

上部消化管出血の可能性がある場合は,プロトンポンプ阻害薬(PPI)の静脈内投与を開始してもよく,出血源が胃十二指腸潰瘍であることが確認された場合は,これを使用すべきである。

静脈瘤出血が疑われる患者にはオクトレオチド(ソマトスタチンの合成アナログ)を使用する。オクトレオチドは,50μgの急速静注に続いて50μg/時で持続静注する。

止血

消化管出血は約80%の患者で自然に止血する。残りの患者には何らかの介入が必要となる。特異的治療法は出血部位によって異なる。死亡率を最小限に抑えるため,出血コントロールのための介入を早期に開始することが重要であり,高齢患者では特に重要となる。

消化性潰瘍では,持続性出血または再出血を内視鏡下の凝固止血(バイポーラ鉗子による電気凝固術,硬化剤注入療法,ヒータープローブ法,またはクリップ)により治療する(American Journal of Gastroenterologyの2021 ACG Clinical Guideline: Upper Gastrointestinal and Ulcer Bleedingを参照)。一時しのぎの方法として止血パウダーを使用することができ,特に消化性潰瘍やがんで使用される。潰瘍のクレーター内に出血を起こしていない血管が視認できる場合,これも治療する。内視鏡的治療で止血に至らない場合は,上部消化管内視鏡検査を再度施行すべきである。再度の介入も不成功に終わった場合は,血管造影下で出血血管の塞栓術を試みてもよいが,そうでなければ出血部位を縫合する外科手術が必要になる。血管造影による塞栓術は外科手術より再出血率が高いが,合併症の発生率が低く,入院期間も短いという利点がある。消化性潰瘍性疾患に対する内科的治療にもかかわらず,出血を繰り返している場合は,同時に胃酸分泌を減らすための外科的手技を行う。

活動性の静脈瘤出血は,内視鏡的結紮術,硬化剤注入療法,経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術(TIPS)で治療できる(1)。

憩室または血管腫に起因する重度かつ活動性の下部消化管出血は,ときに大腸内視鏡下でクリップ留置,電気焼灼,ヒータープローブによる凝固,または希釈アドレナリン溶液の注入を行うことでコントロールすることができる(American Journal of Gastroenterologyの2023 Management of Patients With Acute Lower Gastrointestinal Bleeding: An Updated ACG Guidelineを参照)。これらの方法が無効または実行不能の場合は,血管造影と塞栓術またはバソプレシン静注の併用が奏効することがある。しかしながら,腸管への側副血行路は限られているため,超選択的カテーテル挿入法を用いない限り,血管造影では腸管虚血または腸梗塞のリスクが有意に高くなる。大半の症例研究では,虚血性合併症の発生率は5%未満である。バソプレシン静注による止血成功率は約80%であるが,約50%の患者で出血が再発する。また,高血圧および冠動脈虚血のリスクもある。血管造影は,さらに出血源をより正確に特定するために用いることができる。

ポリープは,スネアまたは焼灼により切除できる。

下部消化管出血が持続する患者(6単位を超える輸血が必要な場合)には外科手術を施行してもよいが,出血部位の同定が非常に重要である。出血部位が同定できない場合は,結腸亜全摘術が推奨される。盲目的半結腸切除術(術前に出血部位を同定しない)は,特定された区域の切除よりも死亡リスクがはるかに高く,出血部位を切除できない可能性があり,再出血率は40%である。しかしながら,手術が不必要に遅延しないように評価を迅速に行う必要がある。10単位を超える濃厚赤血球輸血を受けた患者では,死亡率は約30%である。

内痔核の急性または慢性の出血は,ほとんどの場合,自然に止まる。難治性出血の患者は,肛門鏡検査によるゴム輪結紮術,注入療法,凝固止血,または外科手術で治療する。

治療に関する参考文献

  1. 1.Hwang JH, Shergill AK, Acosta RD, et al: The role of endoscopy in the management of variceal hemorrhage.Gastrointest Endosc 80(2):221–227, 2014.doi: 10.1016/j.gie.2013.07.023

老年医学的重要事項:消化管出血

高齢者における少量出血の最も一般的な原因は痔核大腸癌である。大出血の原因で最も頻度が高いものは,消化性潰瘍憩室性疾患,および血管異形成である。静脈瘤出血の頻度は若年患者と比べて低い。

大量の消化管出血は高齢患者には耐えられない可能性が高い。出血を繰り返しても耐えられる可能性が高い若年患者と比較して,より迅速な診断とより早期の治療開始が必要である。

要点

  • 下血は上部または下部消化管出血により生じる。

  • バイタルサインの起立性変化は,重篤な出血のマーカーとしては信頼できない。

  • 吐血,血便,黒色便は緊急事態とみなし,集中治療室などモニタリング体制が整った環境で管理すべきである。

  • 輸液蘇生(fluid resuscitation)を直ちに開始すべきであり,血液製剤の輸注が必要になることがある。

  • 約80%の患者で出血は自然に止まり,残りの患者では,様々な内視鏡的手技が通常第1選択である。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American College of Gastroenterology–Canadian Association of Gastroenterology: Clinical Practice Guideline: Management of Anticoagulants and Antiplatelets During Acute Gastrointestinal Bleeding and the Periendoscopic Period (2022)

  2. American Journal of Gastroenterology: Management of Patients With Acute Lower Gastrointestinal Bleeding: An Updated ACG Guideline (2023)

  3. American Journal of Gastroenterology: ACG Clinical Guideline: Upper Gastrointestinal and Ulcer Bleeding (2021)

  4. American Journal of Gastroenterology: ACG Clinical Guideline: Diagnosis and Management of Small Bowel Bleeding (2015)

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