義肢の概要

執筆者:Jan J. Stokosa, CP, American Prosthetics Institute, Ltd
レビュー/改訂 2021年 1月
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義肢は体の(通常は切断されたために)失われた部分の代わりとなる人工の四肢(腕や脚)です。

腕や脚の切断の主な原因は以下のものです。

  • 血管疾患(特に糖尿病末梢動脈疾患に起因するもの)

  • がん

  • けが(例えば、自動車事故、仕事上の事故、軍での戦闘)

  • 先天異常

米国では、約200人に1人が腕や脚を失って現在生活しており、毎日約500回の切断術が行われています。人口が高齢化し、糖尿病や血管疾患を発症する人が増えるため、この割合は上昇する可能性が高いと考えられます。

切断術を受けた人には、多くの場合、その部位の代わりとして義肢(人工の腕や脚)が推奨されます。少なくとも、義肢を使用することによって、他者の助けを借りることなく日常生活(歩く、食べる、服を着るなど)を快適に行うことができるようになります。最善の場合、義肢によって切断前と同等、またはそれに近い状態まで機能を回復できることがあります。

義肢の使用が成功する可能性が最も高いのは、担当の臨床チームに患者のニーズに応じた多様な専門家がいる場合です。少なくとも、チームの中心には外科医、義肢装具士、理学療法士が含まれます。義肢装具士は、使用者の全体的な機能上の能力を評価し、義肢を用いた治療計画を作成する専門家のことで、義肢の設計、適合、組み立て、調整のほか、義肢を維持したりケアに関するアドバイスや指示を行ったりするための生涯にわたるフォローアップケアを提供します。より複雑なケースでは、リハビリテーション医、作業療法士、ソーシャルワーカー、心理士、家族もチームに含まれることがあります。

義肢を装着して空港の金属探知機を通過することに関して懸念する人もいます。職員が義肢を外すよう求めることは一般的にはありません。これを求める場合は、通常は衣服を脱ぐ必要があるため、プライバシーの守られる状況で行わなければなりません。義肢に金属製やマイクロプロセッサーのコンポーネントがあることや、10~15分以上義肢を外したままにしておくと、断端の体液量が増えるため義肢を装着しなおすことが困難になる可能性があることを伝える文書を、義肢装具士に書いてもらうと役立つことがあります。

目標

目標は、単純な動作から、走ったりジャンプしたりといった衝撃の強い活動をできるようにすることまで様々です。義肢のコンポーネントは、それぞれの目標達成を助けるようにカスタマイズされています。緩衝材、義肢ソケットのデザイン、足部、足継手、膝継手、手部、手継手、肘継手のコンポーネント技術の進歩により、快適性と機能が大幅に改善しています。義肢の適合では、義肢装具士は、使用者が快適に安定して立ったり歩いたりできるようにし、それぞれの目標を達成できるようにします。

非常に意欲が高く、その他の点で健康な義肢装着者は、多くの驚くべき偉業(例えば、スカイダイビング、登山、トライアスロンの完走、スポーツ活動への本格的な参加、過酷な職場や軍役への復帰)を成し遂げることができます。義肢は、基本的な動作のためだけに使用する場合でも、より過酷な活動に使用する場合でも、精神的に大きな恩恵をもたらし、生活の質を向上させることができます。

義肢使用の成功は、以下のことによって左右されます。

  • 他の医学的状態

  • 身体能力と認知能力

  • 断端の特徴

  • 義肢ソケットが体に適合し体の一部となっている度合い

義肢の適合は専門的な技術です。また、義肢を機能させるために必要な身体的・精神的に適応していくことが患者にとって困難な場合があります。そのため、コンポーネントを選択して調整し、義肢の全体的な機能を評価する過程全体に困難が伴い、長い時間がかかります。すべての患者に、あらゆる種類の義肢が適切なわけではありません。

切断レベル

腕や脚の一部ないし、その全体が切り取られます。医師は、腕や脚の切断の際に多くの要因を考慮します。以下のことが非常に重要です。

  • 壊死した組織や感染した組織を切除すること

  • 残存肢(断端)の血流を確実に良好なものにすること

ほかに考慮すべき重要な点は以下の通りです。

  • 筋肉と、その骨への付着を可能な限り温存すること

  • 骨を安定させること

  • 断端を筋肉で覆うこと

切断の準備

切断は患者にとって困難なことです。腕や脚を失うことは身体的な困難を伴うだけでなく、「自分自身」の一部を失った後に自己像が変化することもよくあります。医師と義肢装具士は、なぜ切断が必要なのかと、切断の前後と義肢の適合の過程で何が起こるのかを説明することで、患者と家族の準備に努めます。過程を理解していて、直面する可能性のある困難や最もありそうな結果について現実的な予想ができている人は、耐え忍んでよりよい結果を得る可能性が高くなります。ときには、切断術をすでに受けておりうまく適応している人と話すように、医師が手配することがあります。

手術を行う前に、医師は患者が可能な限り最良の医学的状態となるよう努めます。また、栄養不良、糖尿病、心疾患、肺疾患など、すでに存在する医学的問題をできるだけ軽減するよう努めます。喫煙は治癒を妨げるため、禁煙策が重要です。時間が許す場合、筋力の弱い人や衰弱した人は、筋力を強化し柔軟性を増すために治療や運動を行うことがあります。

手術後

手術直後に、医療チームは以下のことを目的とした措置を開始します。

  • 関節の可動域を維持し、関節が硬くなるのを予防する

  • 筋力と全身状態を維持または改善する

  • 断端の腫れ(浮腫)を管理する

回復の状態が許せば、患者はマッサージをしたり、軽くたたいたり、振動させたり、体重をかけ始めたりすることにより、断端の過敏性の軽減を始めるべきです。

義肢の適合は、手術の傷口が十分に治癒し、腫れが十分に治まり、患者の全身の筋力と関節可動域が十分であれば、開始することができます。義肢の適合は通常、切断の約7~10週間後に行われます。

断端は、切断後6~18カ月の間、断端から体液が出ていき筋肉の形が変わるにつれて、変化し続けます。このような変化が進行している間、義肢装具士は断端が安定するまで、1つまたは複数の仮のソケットの適合を行うことがあります。断端の大きさと形が最終的なものに近い状態にあると判断したときに、最終的な義肢の適合を行います。仮の義肢によって、患者は義肢の使用に伴う圧迫や力に慣れることができます。

早期のリハビリテーションによって、回復と将来の義肢使用の成功が促進されます。切断が予定されている人の場合、可能であれば、切断前にリハビリテーションを開始します。切断が突然だった人の場合は(例えば、自動車事故や戦闘でけがを負ったため)、早ければ手術後初日からリハビリテーションを開始します。(腕や脚の切断後のリハビリテーションも参照のこと。)

切断後の合併症

合併症には、持続的な残存肢の痛み、多くは血行不良に起因する治癒の遅れ、皮膚の破れ皮膚感染症断端の腫れなどがあります。これらの症状は、残存肢、義肢やソケットの問題が原因である可能性があります。

義肢に関するさらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 切断者の会(Amputee Coalition):腕や脚の損失の予防を促進し、腕や脚を失った人に教育、支援、擁護を提供するための情報

  2. 米国退役軍人省:リハビリテーション・義肢装具サービス(U.S. Department of Veterans Affairs: Rehabilitation and Prosthetic Services):身体障害のある退役軍人の健康や、自立性、生活の質を促進するための医学的リハビリテーションおよび義肢装具と感覚補助具のサービスに関する国の政策やプログラムについての情報

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