統合、補完、代替医療の概要

執筆者:Denise Millstine, MD, Mayo Clinic
レビュー/改訂 2021年 10月
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統合健康・医療(IMH)および補完・代替医療(CAM)には、従来の西洋医学に歴史的に含まれていなかった様々な癒しのアプローチや治療法が含まれます。CAMの多くは、中国、インド、チベット、アフリカ、南北アメリカにみられるもののように、昔からその地域に伝わる治療システムに根ざしています。

補完医療、代替医療、統合医療という用語は互換的に用いられることが多いですが、それぞれ意味が異なります。

  • 補完医療とは、通常(主流の)医療とともに用いられる非通常医療を指します。

  • 代替医療とは、通常医療の代わりに用いられる非通常医療を指します。

  • 統合医療とは、健康、治療者と患者の関係、患者の全体像に焦点をあてる考え方に基づいて、すべての適切な治療アプローチ(通常医療と非通常医療)を用いる医療のことをいいます。

通常医療とIMHやCAMを明確に区別することは必ずしも容易ではありませんが、両者には根本的な哲学的相違が存在します。通常医療は、利用可能な最良の科学的根拠に基づいて行われる傾向があります。対照的に、CAMは根拠情報に基づく実践(evidence-informed practices)に基づいて行われる傾向があり、その根拠は効力と安全性に関する最も高く厳密な基準を満たしているとは限りません。(しかしながら、一部のサプリメントの使用を含む、一部のCAM療法は、従来の高く厳密な科学的基準によって妥当性が確認されています。)通常医療では一般に、病気や機能障害のない状態を健康と定義しています。この医療では、病気や機能障害の主な原因は、細菌やウイルス、生化学的な均衡の崩れ、加齢といった特定可能な要因とされ、多くは薬や手術で治療します。これに対してIMHとCAMでは、健康を全人的に定義することが多くなります。すなわち、その人全体にかかわるシステム(身体、情緒、スピリチュアルな面)のバランスがとれた状態を健康と定義します。こうしたシステム間の調和の乱れが病気の一因となると考えられています。治療には体に備わっている防御機能を強化して、これらのバランスを回復することも含まれます。

受容と利用

IMHの目的は、適切な場合にCAMを通常医療と組み合わせることです。現在では、一部のCAM療法は病院で提供されており、費用が保険会社から払い戻されることもあります。その例として、鍼治療や一部のマニピュレーション療法(カイロプラクティックやオステオパシー・マニピュレーションなど)があります。CAMへの関心と利用が高まっているため、鍼治療、植物薬、マニピュレーション療法、ホメオパシーなどのCAMに関する情報をカリキュラムに含める医学部が増えています。

CAMの定義の幅に応じて、最大で成人の38%および小児の12%が、いずれかの時点でCAMを用いたことがあります。2012年の米国国民健康聞き取り調査(National Health Interview Survey)によると、一般的に用いられているCAM療法には以下のものがあります。

  • 深呼吸訓練(11%)

  • ヨガ、太極拳、気功(10%)

  • マニピュレーション療法(8%)

  • 瞑想(8%)

  • ヨガ(6.1%)

その他のCAM療法の使用状況は様々であり、定量は困難です(ホメオパシー[2.2%]、ナチュロパシー[0.4%]、エネルギー療法[0.5%])。また、過去30日間で、成人の57.6%が少なくとも1種類のサプリメント(栄養補助食品)を使用していました。

有効性と安全性

米国では1992年に、代替医療の各種療法の効果と安全性についての調査を行うための代替医療局が国立衛生研究所(NIH)内に設立されました。代替医療局は1998年に国立補完代替医療センターとなり、2015年に国立補完統合衛生センター(NCCIH)となりました。

有効性

代替医療の有効性は極めて重要な問題です。

多くのCAM療法について研究が行われましたが、その結果として、効果がない、または一貫性がないことが判明しています。一部の療法は、特定の病気や状態への有効性が示されています。しかし、ときに通常医療でもそうであるように、それ以外の状態や症状に対する使用を裏付ける科学的根拠がない場合にも、これらの療法が頻繁に用いられることがあります。CAM療法の中には、適切な試験デザインに基づく研究が行われていないものもあります。しかし、適切な試験デザインに基づく研究からの証拠が不足しているからといって、療法に効果がないという証明にはなりません。

CAM療法の多くは数百あるいは数千年にもわたって実践されてきたといわれています。鍼治療、瞑想、ヨガ、治療食、マッサージ、植物薬などがこれにあたります。長く使用されてきた歴史が存在することが、ときにCAM療法の有効性の裏付けとして挙げられます。ただし、この主張にはいくつかの限界があります。

  • 長年にわたる使用は、証明された効果と科学的に同等ではありません。後に無効または有害であることが判明したいくつかの療法は、それまで何年もの間、使用されていました。

  • ある療法が使用されてきた期間を確定するのは困難です。

  • 療法に関する過去の使用法と、現在の使用法では異なっている可能性がありますし、その療法自体が異なっている可能性もあります。

このため、ある療法が有効であるかどうかを明らかにするためには、適切な試験デザインの研究を用いた科学的根拠がやはり望ましいといえます。

しかしながら、CAM療法においては、適切な試験デザインの研究は困難になりがちです。CAM療法に関する調査研究には、次のような障壁があります。

  • 医療研究者において、CAMへの支援や資金が不足していること

  • CAMの支持者において、科学的調査研究を実施するための訓練と技術が限られていること

  • CAM製品やCAM療法が一般に利用できるようになる前にその有効性を証明することを義務づける規制が、通常医療の治療法に適用される規制と比べて緩いこと

  • 一般的に、CAMを研究している企業では、医薬品や医療機器の研究を行っている企業よりも経済的利益が低いこと

以下をはじめとするその他の様々な理由から、CAMの研究に通常の研究手法を適用することが困難な場合があります。

  • 最もよい通常の研究デザインでは、実薬治療(薬や治療)をプラセボ(プラセボとは、実薬に似せて作られた薬や、実際の治療に似せて行われる治療のことで、薬の有効成分も含まれておらず、実際に効果のある治療も行われません)または新たな介入を行わない場合(対照群)と比較します。ホメオパシーや植物薬など、いくつかのCAM療法においては、プラセボを設定するのは比較的容易です。しかし、鍼治療やマニピュレーション療法といった理学的な治療のプラセボを設定するのはより困難です。瞑想や健康的な食事のシステム全体に対してプラセボを設定することは、さらに難しい課題になります。

  • CAM療法がもつ有効な構成要素がもたらす効果と、プラセボの効果を切り離すことは困難です。例えば、ほかにどのような療法が用いられているかに関係なく、CAMの施術者は前向きで支援的な方法(体調がよくなったように感じさせることが知られています)で一般的には接します。CAMのこのような側面は、プラセボ効果とみなすことができます。

  • 通常の研究デザインでは、二重盲検という方法を用います。二重盲検では、調査研究に参加する被験者と医療専門家に、どの人がどの治療を受けているのか分からないようにします。被験者と医療専門家は、実薬治療の方がプラセボよりも効果があることを、通常は期待します。二重盲検では、このような期待から実薬治療の結果を有利にみるバイアスがかかる可能性が少なくなります。ただし、医療専門家の盲検化は難しい場合があります。例えばレイキの施術者は、実際に「気」による施術を行っているのかどうかが分かるでしょう。このような場合は、どの治療が行われたのかを知らない試験責任医師によって、治療の有効性の評価が行われる必要があります。

  • CAM療法やCAMの診断は標準化されていないことがあります。例えば、施術者毎に異なる鍼治療の体系が使用されたり、天然物製剤の成分や効果が大幅に異なったりします。

そのような困難にもかかわらず、CAM療法(鍼治療やホメオパシーなど)についての適切なデザインの研究が多数行われています。例えば、ある鍼治療の研究では、不透明の覆いを患者の皮膚のツボに付けるという、適切なデザインのプラセボを設定することで、二重盲検化を可能にしました。いくつかの覆いには皮膚に刺さる鍼(実薬治療)が入れられ、そのほかには入れられませんでした(プラセボ)。CAM療法に効果があるとみなすためには、プラセボまたは対照と比較した場合に、より効果があることを示す科学的根拠が必要です。

CAM療法の優れたデザインの研究を支援するための資金の不足が、このような研究が行われないことの理由としてしばしば挙げられます。しかし、CAMの製品は数十億ドル規模のビジネスであることから、企業がCAM製品の研究を行わないのは利益が見込めないことが理由ではないと考えられます。しかし、通常の医薬品の開発の方が、CAM製品よりも全体的な収益性がはるかに高くなっています。

安全性

安全性はもう1つの重要な課題です。

CAMの最も大きな健康のリスクは以下のものが考えられます。

  • 生命を脅かす病気に対して、効果が証明されている通常の医療の代わりに、効果が証明されていない療法を使用すること

CAM療法自体のリスクについては、明らかに安全なものもあり、通常医療より安全なものさえあります。主要な例として、オピオイド薬を使用する前または代わりに、痛みの管理に対して瞑想、鍼治療、マニピュレーションを用いることが挙げられます。その他の安全な実践には、例えば、吐き気に対する鍼治療、平衡感覚の改善に対するヨガや、消化を助けるショウガ入りのお茶などがあります。他の治療法では、有害性が考えられる場合もあります。例えば、米国では、薬用ハーブやその他のサプリメント(多くの代替医療で用いられます)は米国食品医薬品局(FDA)の管理下にないため、厳しく規制されている医薬品と比べて安全性がそれほど確かではありません(安全性と有効性を参照)。

一般的に以下のようなリスクがあります。

  • CAMで使用される製剤に含まれるいくつかの物質は、それらの間で、もしくは処方薬との間で危険な相互作用を起こす場合があります。

  • 米国や欧州の多くの国では高度に精製されたサプリメントが簡単に手に入りますが、その他の国々で製造された製品には危険な汚染物質や毒性成分、その他の薬物が混入している場合があります。

  • 体に対するマニピュレーションなど、薬以外の方法で治療を行うCAM療法によって、悪影響が生じる場合があります(手技によって体の脆弱な部位を損傷するなど)。

CAMの多くのケースでは、有害性が確立されたことも退けられたこともありませんが、一部のケースでは潜在的な有害性が示されています。ときには、代替的な製品や療法を喧伝しようとする人々によって、潜在的な危険性が過少報告ないし過少評価されすることもあります。

知っていますか?

  • 補完・代替医療(CAM)の最大のリスクが生じるのは、生命を脅かす病気をもつ人が、効果が証明されている通常の医療を受けず、その代わりに効果が証明されていないCAM療法で治療する場合であるといえるかもしれません。

さらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health

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