中国伝統医学の1つである鍼(はり)治療は、欧米で最も広く受け入れられているCAM療法の1つです。痛みの専門医などの医師が鍼治療の技術を習得し、免許を取得することはありますが、認可を受けている鍼灸師が必ずしも医学部を卒業しているとは限りません。毎日、何百万人もの人が鍼治療を受けています。(統合、補完、代替医療の概要も参照のこと。)
鍼治療では、皮膚と皮下組織に極細の鍼を刺し、体のツボに刺激を与えます。これら特定の部位を刺激することで、気の流れに影響を与えられると考えられています。「気」とは、体に満ちている生命の力のことを指します。中国伝統医学では、エネルギーの通り道である「経絡」に沿った気の流れが乱れることにより病気が生じるものと考えられています(経絡に沿って2000個以上のツボがあります)。このツボへの刺激は、陰(暗さ、女性性、負の力に関連)および陽(明るさ、男性性、正の力に関連)のバランスの回復に役立ちます。
場合によっては、針をひねったり暖めたりして、刺激を強めることもあります。
ツボを刺激する方法は、ほかにも次のようなものあります。
圧力(指圧と呼ばれます)
レーザー
超音波
針に通した微電流(電気鍼治療)
鍼治療は痛みはありませんが、ピリピリとした感覚が生じることがあります。
医療上の利用
次のような利用案が挙げられます。
手術後や歯科処置後などの痛みの緩和
妊娠中、手術後、化学療法後に起こることの多い吐き気や嘔吐の緩和
依存症、手根管症候群、線維筋痛症、頭痛、腰痛、疲労、関節痛の治療
鍼治療の研究を行うことは本質的に困難です。鍼治療の研究では、盲検化(調査研究に参加する被験者と医療専門家に、どの人がどの治療を受けているのか分からないようにすること)が困難です。いわゆる「偽」鍼治療(鍼治療で用いられない箇所に鍼を挿入すること)ではツボが押されることが多く、鍼治療の効果を測定するのが難しくなります。一部の地域、特に中国では、鍼治療に関して発表されている研究で、より好ましい効果が示される傾向があります。これはバイアスを反映していると考えられる一方で、このような施術者たちは中国伝統医学の一連の治療を施しており、鍼治療はその要素の1つに過ぎないという可能性もあります。
鍼治療はいくつかの病気や症状の治療に効果的ですが、さらなる研究が必要です。鍼治療を、対照となる偽鍼治療と比較するのは複雑です。この比較療法も、施術者によるリラクゼーション療法であることには変わりないためです。プラセボの鍼治療では、不透明な覆いの中に先の丸い鍼またはようじを入れ、皮膚に押し付けるが挿入はしないという方法がとられることがありますが、それでもやはりツボは押されることになります。多くの大学病院や医療機関(世界保健機関[WHO]を含む)は、鍼治療の有効性に関する調査と研究を続けています。
起こりうる副作用
副作用は施術が適切である限り一般的に軽度ですが、次のような点に注意する必要があります。
症状が一時的に悪化することがあります。
ときには、鍼治療の後に誤って針が留置されることがありますが、外科手術後に行われるような、器具のカウントを行うことでその可能性は低くなります。
針を用いる治療すべてに該当することですが、気を失いそうになる人や、横になる必要が生じる人もいます。
重度の出血性疾患がある場合や、抗凝固薬を内服している場合は、鍼治療によりあざや出血が起こることがあります。
まれに、針を深部に差し込んで気胸や内部損傷が起こることがあります。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国国立補完統合衛生センター(NCCIH):鍼治療(Acupuncture)