抗コリン性の化学兵器

執筆者:James M. Madsen, MD, MPH, University of Florida
レビュー/改訂 2023年 1月
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体の様々な部位を侵す、多種多様な化学兵器が存在します。「抗コリン薬」とは、化学物質であるアセチルコリンの作用を阻害する薬を指します(抗コリン作用:どんな作用か?)。アセチルコリンは、一部の神経が筋肉や他の神経に信号を送るために使用する物質(神経伝達物質)です。したがって、アセチルコリンの作用を遮断すると、特定の神経の活動が遮断されます。抗コリン薬は神経剤による中毒の治療に用いられますが、無能力化剤としても使用できます。無能力化剤は、重篤な損傷や死亡ではなく、むしろ軍人に見当識障害を引き起こし、その任務を遂行できないようにすることを意図しています。そのような薬剤の1つはBZと呼ばれます(化学兵器は通常、化学名よりも使いやすい1~3文字のコードが付けられています)。

BZは、環境中に3~4週間残留できる固体です。エアロゾル化したBZが吸入されると大量の死傷者が生じる可能性が高くなりますが、この化合物は溶けて環境中のいろいろな物の表面にとどまり、そこから皮膚を浸透して吸収されることもあります。

抗コリン性の化学兵器による損傷の症状

BZに曝露した患者では、口腔乾燥、皮膚の乾燥、散瞳(視野のかすみを引き起こす)がみられるほか、通常は心拍が速くなります。体温が危険なほど高くなることもあります(高体温)。嗜眠状態になり幻覚(何かが見えたり聞こえたりする)が生じることがあります。典型的には、幻覚は明確で容易に表現できるものです(知り合いの声、架空のテレビ番組、タバコの分け合いの想像、奇妙な形の幻など)。話し方が不明瞭になることがあるほか、しばしば自分の皮膚や衣服をつまむようになります。昏迷や昏睡が数時間から数日間続くことがありますが、徐々に回復します。

抗コリン性の化学兵器による損傷の診断

  • 医師による評価

BZへの曝露は、臨床検査では検出できません。抗コリン作用の副作用がある薬を使用したことがなく、症状が生じた患者で、医師は曝露を疑います。

抗コリン性の化学兵器による損傷の治療

  • 上昇した体温を下げる

  • 興奮や幻覚に対して、フィゾスチグミンの投与

BZなどの抗コリン剤に曝露した患者は通常は静かですが、破壊的になり拘束が必要になることがあります。体温が上昇している患者には、冷却を行う必要があります(熱中症:治療を参照)。破壊的な患者または幻覚による顕著な同様がみられる患者には、フィゾスチグミンが投与されます。

本稿で述べられている見解は著者の見解であり、米国陸軍省、米国防総省、または米国の公式の方針を反映したものではありません。

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