ムンプス(おたふくかぜ)

(流行性耳下腺炎)

執筆者:Brenda L. Tesini, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry
レビュー/改訂 2023年 6月 | 修正済み 2023年 8月
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ムンプスとは、唾液腺が痛んで腫れる、感染力の強いウイルス感染症です。この感染症は精巣、脳、膵臓を侵すこともあり、特に青年と成人でその傾向が強いです。

  • ムンプスの原因はウイルスです。

  • 症状としては、悪寒、頭痛、食欲減退、発熱、けん怠感などがあり、その後唾液腺が腫れます。

  • 診断は典型的な症状に基づいて下されます。

  • 治療の目標は症状を緩和することです。

  • たいていの小児は問題なく回復しますが、感染症により髄膜炎や脳炎が起きることもあります。

  • 定期予防接種【訳注:日本では任意接種です[2021年8月現在、https://www.niid.go.jp/niid/ja/schedule.html]】により感染を予防できます。

感染した人がせきをしたときに飛び散った小さな飛沫を吸い込んだり、ウイルスを含む唾液で汚染されたものに触ったりすることで感染します。

ムンプスは、通常2歳未満の小児では起こらず、特に1歳未満では起こりません。

ムンプスウイルスに一度感染すると通常は生涯にわたる免疫が得られますが、これは、ムンプスに感染したことがある人は二度と感染しない可能性が高いということを意味します。

ムンプスの感染力は麻疹(はしか)ほど強くありません。人口密度が非常に高い地域では、年間を通じて発生しますが、最も多い時期は冬の終わりから春先にかけてです。

主にワクチン接種を受けたことがなく、過去にムンプスになったことがない人の間で集団発生がみられます。しかし、予防接種を受けた人の間で集団発生が起こることもあり、これはおそらく、予防接種を受けても免疫ができない人や、免疫の効果が時間の経過とともに弱まる人も存在することが原因と考えられます。また、推奨される回数の接種を受けていない人もいます。定期予防接種が始まる前は、ムンプスは学齢期の小児の間で最もよくみられていました。しかし現在では、免疫をもつ人が減ってきたことで、この感染症は青年や成人でよくみられるようになっています。

米国では、ワクチン接種によってムンプスの症例数が大幅に減少しています。それでもまだ、わずかに発生しています。2006年には米国でムンプスが流行し、6584人の感染者がみられました。それ以降は、主に大学キャンパスなど人同士の結びつきが強いコミュニティで起きている散発的な集団発生が感染者数の変動の一因になり、感染者数には少ない年で2012年の229例、多い年で2016年の6369例と幅がみられています。こうした集団発生は、ワクチン接種を今後も継続していく必要性を示しています。

麻疹と同様にムンプスも、ムンプスが流行している地域に旅行し、米国に戻るまでに国外でムンプスに感染した人によって広がることがあります。続いて、それらの旅行者から感染が広がりますが、こうした事態は特に、多くの人が集まる場所(大学のキャンパスなど)や、密集した環境で生活したり外部の人との接触を避けたりする人同士の結びつきが強いコミュニティの人々の間でよく起こります。

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ムンプスの症状

症状は感染してから12~24日後に現れますが、大半の人では、悪寒、頭痛、食欲の低下、全身のだるさ(けん怠感)、微熱や中等度の発熱がみられます。これらの症状に続いて12~24時間後に唾液腺が腫れ(耳下腺炎)、この腫れは2日目に最もひどくなり、5~7日間続きます。

唾液腺が腫れるだけで、他の症状がみられない小児もいます。唾液腺が腫れると、ものを噛んだり飲み込んだりすると痛み、特に柑橘類のジュースのような酸っぱい液体を飲むと痛みます。また、触っても痛みます。通常、この時期には熱が約39.5~40℃まで上がり、1~3日間続きます。

約25~30%の人では症状がみられません。

ムンプス(流行性耳下腺炎、おたふくかぜ)
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ムンプス(おたふくかぜ)は、唾液腺の痛みを伴う腫れを特徴とします。
Photo courtesy of Sylvan Stool, MD.

ムンプスの合併症

ムンプスは唾液腺以外の以下のような臓器も侵すことがあります。

  • 精巣

  • 脳と脳を覆う組織

  • 膵臓

思春期が過ぎて感染した男性では、ワクチン接種を受けていない人の約30%とワクチン接種を受けた人の6%で、片側または両側の精巣に炎症が起きます(精巣炎)。精巣の炎症は腫れとひどい痛みを引き起こします。治癒した後に侵された精巣が小さくなっていることがありますが、テストステロンの分泌量や妊よう性には通常影響はありません。

女性では、卵巣の炎症(卵巣炎)が認められることはそれほど多くなく、痛みも少なく、妊よう性は損なわれません。

ムンプスでは、唾液腺の腫れがみられる人の1~10%で髄膜(脳を覆う組織層)の炎症(髄膜炎)が発生します。髄膜炎は頭痛、嘔吐、項部硬直を引き起こします。

ムンプスはまた、1000人に1人の割合で脳の炎症(脳炎)を引き起こします。脳炎は眠気、昏睡、けいれん発作を引き起こします。大半の人が完全に回復しますが、難聴や顔の筋肉の麻痺など、神経や脳に永続的な障害が残ることもあり、これは通常、体の左右片側だけに起こります。ムンプスは、ワクチン接種率が低い地域の小児における片側性難聴の主な原因であると考えられています。

ムンプスを発症して1週間経つ頃に膵臓の炎症(膵炎)が起きることがあり、腹痛、重度の吐き気、嘔吐がみられます。これらの症状は約1週間後に消えて、患者は完全に回復します。

ほかにも肝臓、腎臓、心筋の腫れなどの合併症が起こりますが、極めてまれです。すでに予防接種を受けている人では、合併症はあまりみられません。

ムンプスの診断

  • 医師による評価

  • 臨床検査

ムンプスの診断は、典型的な症状に基づいて下され、特にムンプスが流行時に発症した場合に診断されます。

臨床検査を行うことで、ムンプスウイルスとそれに対する抗体を特定することができます。そのような検査は診断を確定する目的で行われることもありますが、通常は公衆衛生上の目的から流行を記録するために行われます。

髄膜炎または脳炎の徴候がみられる場合は、腰椎穿刺を行います。

ムンプスの治療

  • 不快感に対するアセトアミノフェンイブプロフェン

ムンプスに対する特別な治療法はありません。不快感をできるだけなくすために、軟らかい食事をとるようにし、よく噛む必要があるものや酸っぱいものは避けるようにしてください。頭痛や不快感を和らげるためにアセトアミノフェンやイブプロフェンなどの鎮痛薬を使用することもあります。

精巣に炎症が起きている男児や成人男性は安静にする必要があります。スポーツ用のサポーターや両足の太ももの間に張った粘着テープで陰嚢(いんのう)を支えることもあります。アイスパック(氷のう)をあてがうと痛みが和らぎます。

膵炎による重度の吐き気や嘔吐がある場合は、輸液が行われることがあり、数日間は飲食を控える必要があります。

髄膜炎や脳炎を起こした小児にも輸液を行い、発熱や頭痛を鎮めるためにアセトアミノフェンやイブプロフェンが必要になることがあります。けいれん発作が起きた場合は、抗てんかん薬が必要になることがあります。

ムンプスの予後(経過の見通し)

ムンプスになった人のほぼ全員が問題なく完全に回復しますが、まれに、約2週間後に症状が再び悪化することがあります。

ムンプスの予防

  • MMRワクチン

ムンプスのみを対象とした個別のワクチンはもう使われていません。麻疹・ムンプス(流行性耳下腺炎)・風疹(MMR)ワクチンは、麻疹とムンプス(流行性耳下腺炎)と風疹の生きたウイルスを弱毒化したものを混合したワクチンです。MMRワクチンは小児期の定期予防接種に組み込まれていて、医療制度がしっかり整備されている国の大半で小児への接種が行われています。MMRワクチンと水痘(水ぼうそう)ワクチンは、混合ワクチン(MMRVワクチン)の形で利用することもできます。

MMRワクチンの2回接種が定期接種として推奨されています。1回目は生後12~15カ月の間に接種しますが、麻疹の流行時や国際旅行の前なら生後6カ月から接種できます。2回目の接種を、4歳から6歳の間に行います。

1歳未満で接種を受けた小児は、1歳の誕生日以降にさらに2回接種を受ける必要があります。

一部の小児ではワクチンによって軽度の発熱と発疹が起こりますが、他者に感染することはありません。MMRワクチンが自閉症を引き起こすことはありません(MMRワクチンと自閉症に関する懸念を参照)。

MMRワクチンは一般に持続的な免疫をもたらします。

MMRワクチンは生ワクチンで、妊娠中には接種されません。

集団発生時には、ワクチンを受けていてもムンプスの発生リスクが高い人(大学生やムンプスの流行地域に住んでいる人など)に対して、3回目の接種を行うことがあります。

MMRワクチンの接種を受けるべき人と受けるべきでない人に関する詳細については、MMRワクチンの接種を参照してください。MMRワクチンの副作用も参照してください。

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