黄疸とは、血流中のビリルビンの増加が原因で、皮膚や眼が黄色くなることです。ビリルビンは、古くなった赤血球や損傷した赤血球を再利用する正常なプロセスの中で、ヘモグロビン(酸素を運ぶ赤血球の一部)が分解されるときに生成される、黄色い物質です。ビリルビンは血流によって肝臓に運ばれ、胆汁(肝臓で作られる消化液)の一部として肝臓から排泄されるように処理されます。肝臓でのビリルビンの処理において、ビリルビンは抱合と呼ばれる過程で別の化学物質に結合します。
このことから、胆汁中の処理されたビリルビンは抱合型ビリルビンと呼ばれます。
処理されていないビリルビンは非抱合型ビリルビンと呼ばれます。
胆汁は胆管を通って小腸の最初の部分(十二指腸)に送られます。肝臓や胆管でのビリルビンの処理や排泄が速やかに進まないと、ビリルビンが血液中に蓄積します(高ビリルビン血症)。ビリルビンの血中濃度が上昇するにつれ、まず白眼が黄色くなり、次に皮膚が黄色くなります。生後1週間で正期産の新生児の大多数で非抱合型高ビリルビン血症がみられ、黄疸がしばしば生じて正常であれば1~2週間以内に治まります(生理的黄疸)。非抱合型高ビリルビン血症による黄疸は早産児ではさらに多くみられます。
胆汁は胆管を通って小腸の最初の部分(十二指腸)に送られます。肝臓や胆管でのビリルビンの処理や排泄が速やかに進まないと、ビリルビンが血液中に蓄積します(高ビリルビン血症)。過剰なビリルビンは皮膚、白眼、その他の組織に沈着するため、これらの組織が黄色くなります(黄疸)。
(成人の黄疸も参照のこと。)
黄疸の合併症
黄疸が危険かどうかは以下の要因によって決まります。
黄疸の原因
ビリルビン値がどれぐらい高いか
ビリルビンが抱合型か非抱合型か
黄疸を起こす病気には、ビリルビン濃度にかかわらず危険なものがあります。原因が何であれ、非抱合型ビリルビンの濃度が極端に高い場合は危険です。
非抱合型ビリルビンの血中濃度が高いことで生じる最も深刻な結果は、以下のものです。
核黄疸
核黄疸とは、脳へのビリルビンの蓄積が原因で起こる脳の損傷です。核黄疸のリスクは、早産児、重篤な病気のある新生児、特定の薬を投与された新生児で上昇します。治療しないでいると、核黄疸が重大な脳の損傷につながる可能性があり、発達の遅れ、脳性麻痺、難聴、けいれんなどが生じ、死亡することさえあります。核黄疸は現在ではまれであるものの、なお発生がみられますが、ほとんどの場合は高ビリルビン血症の早期の診断と治療で予防できます。いったん脳の損傷が生じると、元に戻す治療はありません。
新生児黄疸の原因
黄疸の一般的な原因
新生児黄疸の最も一般的な原因には、次のものがあります。
生理的黄疸(最も多い)
母乳哺育
赤血球の大量破壊(溶血)
生理的黄疸は2つの理由で起こります。1つ目は、新生児では月齢の高い乳児に比べて赤血球の分解が速く、ビリルビンの生産が増加するためです。2つ目は、新生児の肝臓は未成熟であり、月齢の高い乳児と同じようにビリルビンを処理して体外に排出することができないためです。ほぼすべての新生児で生理的黄疸がみられます。生理的黄疸は一般に生後2~3日目に現れます(生後24時間以内に現れる黄疸は、深刻な病気によるものである可能性があります)。生理的黄疸は通常、他の症状を伴わず、1週間以内に治まります。生後2週間時点で黄疸が残る乳児では、生理的黄疸以外の高ビリルビン血症の原因がないか調べる評価を行います。
母乳哺育は、以下の2種類の黄疸の原因になりえます。
母乳哺育黄疸(比較的多い)
母乳性黄疸
母乳哺育黄疸は、生後数日で発生して、典型的には生後1週間以内に治まります。これは、例えば母乳がまだよく出ていない場合などに十分な母乳を飲めていない新生児に起こります。このような新生児では排便回数が少ないため、排泄するビリルビンが少なくなります。新生児が母乳を飲み続けて、乳の摂取量が増えれば、黄疸は自然に消えます。
母乳性黄疸は、母乳哺育黄疸と異なり、生後1週目の終盤に起こり、生後2週間までに治まる場合もありますが、数カ月にわたって続く場合もあります。母乳性黄疸は肝臓から体外へのビリルビン排出を妨げる母乳中の物質が原因です。
赤血球の大量破壊(溶血)によって、新生児の肝臓の処理能力を超える大量のビリルビンが生成されることもあります。溶血の原因はいくつかあり、原因が以下であるかどうかによって分類されます。
免疫疾患
免疫疾患以外
免疫疾患が原因である場合、乳児の血液中に赤血球を攻撃して破壊する抗体が存在することで、溶血が起こります。この破壊は、胎児の血液型が母親の血液型と一致しない(血液型不適合の)場合に起こります。血液型不適合にはRh式血液型不適合とABO血液型不適合があります(新生児溶血性疾患も参照)。
赤血球の大量破壊につながる免疫以外の原因として、赤血球酵素グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD欠損症)の遺伝性欠乏症やアルファサラセミアなどの遺伝性赤血球異常症などがあります。出生時に損傷を負った新生児では、皮膚の下に血液がたまる(血腫)ことがあります。大きい血腫の中で血液が破壊されると、黄疸が起こることがあります。糖尿病の母親から生まれた乳児では、胎盤から血液が過剰に移行することがあります。この過剰な血液が破壊され、黄疸が起こることがあります。輸血された血液の血球が破壊されると、ビリルビンが増加します。
新生児黄疸のあまり一般的でない原因
黄疸のあまり一般的でない原因としては、以下のものがあります。
これらの病気のほとんどで、胆汁の流れの低下である胆汁うっ滞がみられ、胆汁うっ滞があると抱合型高ビリルビン血症を引き起こします。
重い細菌感染症(敗血症)や敗血症を伴わない尿路感染症が分娩時または出生直後に生じた場合も、黄疸が起こります。子宮内で胎児がかかった感染症が原因である場合もあります。そのような感染症としては、トキソプラズマ症、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、風疹ウイルスによる感染症などがあります。
黄疸を起こす遺伝性疾患として、嚢胞性線維症、デュビン-ジョンソン症候群、ローター症候群、クリグラー-ナジャー症候群、ジルベール症候群などがあります。
胆汁の量が少なくなったり、流れが妨げられたりすることもあります。この原因として、胆道閉鎖症などの胆管の先天異常のほか、嚢胞性線維症などの病気によって肝臓に障害が起きている場合があります。
新生児黄疸の評価
新生児の入院中は、医師が定期的に黄疸をチェックします。新生児の白眼や皮膚の色で黄疸が明らかなこともありますが、ほとんどの場合、医師は新生児のビリルビン値を退院前に測定します。新生児に黄疸がみられる場合、医師は生理的黄疸かどうかを判断し、そうでなければ、危険な原因がもしあれば治療できるように、原因を明らかにすることに焦点を置きます。黄疸が生後2週以降に続く場合、乳児に深刻な病気がないか調べることが特に重要になります。
警戒すべき徴候
黄疸がみられる新生児では、以下の症状に注意が必要です。
生後1日以内に現れる黄疸
生後2週間以上続く新生児黄疸
嗜眠、哺乳不良、易刺激性、および呼吸困難
発熱
ビリルビン値が非常に高い場合、急速に上昇する場合、血液検査から胆汁の流れが低下しているか妨げられていると考えられる場合も、注意が必要です。
受診のタイミング
警戒すべき徴候のある新生児は、直ちに医師の診察を受ける必要があります。生後1日目に退院する新生児では、ビリルビン値を測定するためのフォローアップ受診を退院から2日以内に行うべきです。
帰宅後も、新生児の皮膚や眼が黄色く見えることに親が気づいたら、すぐに主治医に連絡するべきです。新生児に症状がみられるかどうかや、未熟性などの危険因子があるかどうかによって、受診の緊急性が決まります。
医師が行うこと
医師はまず、新生児の症状と病歴について質問します。次に身体診察を行います。病歴聴取と身体診察で得られた情報から、多くの場合、原因と必要になる検査を推測することができます。
黄疸がいつ始まったか、どのくらい続いているか、嗜眠や哺乳不良などの他の症状があるかを尋ねます。新生児に何をどのくらいの量、どのくらいの回数哺乳しているか尋ねます。新生児がどのくらい上手に乳房または哺乳びんの乳首をくわえているか、母親が母乳による乳房の充満を感じているか、授乳中新生児が嚥下しているか、授乳後満足そうに見えるかを尋ねます。医師は便の色についても質問します。尿量や排便量の情報は、新生児が十分に飲めているか判断する助けになります。正常な明るい黄色ではなく色の薄い便は胆汁うっ滞の可能性を示します。
医師は母親に、新生児に黄疸を起こしうる感染症や病気(糖尿病など)が妊娠中にあったか、血液型は何型か、どんな薬を服用しているかを尋ねます。また、黄疸を起こす遺伝性の病気が家族にあるか尋ねます。
診察時に、新生児の皮膚を調べ、黄疸がどの程度体の下の方に広がっているか調べます(目に見える黄疸が体の下の方へ広がっているほど、ビリルビン濃度が高い)。また、原因を疑わせる手がかり、特に感染症、けが、甲状腺の病気、下垂体の異常の徴候があるか探します。
検査
ビリルビン値を測定して黄疸の診断を確定し、高値を示すビリルビンが抱合型か非抱合型かを判定する検査を行います。ビリルビンの値は、血液サンプルか皮膚に当てる測定器で測ります。
ビリルビン値が高い場合、他の血液検査を行います。一般的には以下の検査を行います。
ヘマトクリット(血液中の赤血球の割合)
血液サンプルを顕微鏡下で観察して、赤血球の破壊の徴候がないかを調べる
網状赤血球数(新しくつくられた赤血球の数)
直接クームス試験(赤血球に付着した特定の抗体の有無を調べるもの)
ビリルビンの型別の測定
新生児と母親の血液型とRh式血液型(陽性または陰性)
その他の検査は、病歴と診察の結果に加え、新生児のビリルビン値に応じて行います。ほかにも、敗血症の有無を調べる検査(血液、尿、髄液の培養検査)や、赤血球破壊のまれな原因について調べる検査(赤血球酵素の測定)、甲状腺や下垂体の機能の血液検査、肝疾患を調べる検査などがあります。
新生児黄疸の治療
病気が特定されたら、可能であれば治療を行います。ビリルビン値が高いこと自体に治療が必要になる場合もあります。
生理的黄疸では、治療は通常不要で、1週間以内に黄疸は治まります。人工乳を与えられている新生児では、頻繁に授乳することが、黄疸を予防ないし軽減するのに役立ちます。頻繁に授乳すると、排便回数が増えるため、より多くのビリルビンが排泄されます。人工乳の種類は問題にはならないようです。
母乳哺育黄疸も、授乳回数を増やすことで予防ないし軽減することができます。ビリルビン値が上がり続ける場合は、まれに、母乳に人工乳を足す必要があります。
母乳性黄疸では、母乳による授乳を1~2日間だけ中止して人工乳を与え、中止している間は母乳量を維持するために定期的に搾乳するよう母親に指導する場合もあります。 ビリルビン値が低下し始めたら、すぐに母乳による授乳を再開できます。母乳哺育中の母親は通常、水や砂糖水を新生児に与えないよう指導されますが、これは水や砂糖水を与えることで新生児が飲む乳の量が減り、母乳の生産が妨げられる可能性があるためです。ただし、授乳量を増やす努力にもかかわらず脱水がみられる母乳哺育の乳児では、水分を追加して与える必要がある場合があります。
非抱合型ビリルビン値の上昇は次のように治療します。
光を当てる(光線療法)
交換輸血
光線療法(「ビリライト」)
この治療法は最もよく用いられていますが、すべてのタイプの高ビリルビン血症に効果があるわけではありません。例えば、胆汁うっ滞がある乳児に対しては光線療法は行われません。光線療法では強い光を使用しますが、その光によって、肝臓で処理されていないビリルビンを尿中への排泄で体から速やかに除去される形に変えることができます。青色が最も効果的で、ほとんどの医師が市販されている専用の光線療法装置を使用しています。新生児の服を脱がせて光線療法装置の下に寝かせ、光線ができるだけ広く皮膚に当たるようにします。ビリルビンの血中濃度をどの程度下げる必要があるかに応じて様々な期間、頻繁に患児の向きを変えながら光線を当てます(一般的に約2日間~1週間)。光線療法は核黄疸の予防に役立ちます。 光線療法がどのくらい効いているか明らかにするため、定期的にビリルビンの血中濃度を測定します。皮膚の色は信頼できる目安ではありません。
交換輸血
この治療法は、非抱合型ビリルビン値が非常に高く、光線療法で十分な効果が得られない場合に用いられることがあります。交換輸血を行えば、血流中から速やかにビリルビンを除去できます。新生児の血液を少しずつ体外に出して(1回につき注射器1本分)、その代わりに同量のドナー血液を補充します。手順にかかる時間は通常2時間ほどです。高ビリルビン血症の原因が母親と乳児の血液型不適合である場合は、交換輸血によって赤血球に対する抗体も除去されることがあります。
ビリルビン値が高いままの場合は、交換輸血を繰り返す必要があります。また交換輸血には、心臓と呼吸の障害、血栓、血中電解質平衡異常などのリスクや合併症があります。
光線療法が非常に効果的になったことや、医師が血液型の不適合から生じる問題をうまく予防できるようになったことから、交換輸血が必要になるケースは少なくなってきています。
要点
多くの新生児では、出生後2~3日目に黄疸が現れますが、1週間以内に自然になくなります。
黄疸が懸念されるものであるかどうかは、黄疸の原因は何であるかや、ビリルビン濃度がどれぐらい高いかによって決まります。
黄疸は、母子血液型不適合、赤血球の大量破壊、重度の感染症などの重篤な病気によっても起こります。
自宅で新生児に黄疸が現れた場合には、親はすぐに主治医に電話で相談するべきです。
黄疸の原因が特定の病気である場合は、その病気を治療します。
ビリルビン値が高く治療が必要な乳児は、一般に光線療法で治療しますが、交換輸血を行うこともあります。