マダニにより媒介される各種のリケッチアは、ロッキー山紅斑熱に似ているもののより軽度の紅斑熱を引き起こします。マダニに咬まれた場所に小さな潰瘍ができ、周辺のリンパ節が腫れ、赤い発疹が出ます。
感染したマダニに咬まれると、紅斑熱が発生します。
この感染症では、発熱、疲労、筋肉痛、頭痛が生じ、通常は数日後に発疹がみられます。
最も効果的な予防法は、マダニに咬まれないようにすることです。
紅斑熱は抗菌薬で治療します。
リケッチアは他の生物の細胞内でのみ生存できる細菌です。
以下のような紅斑熱があります。
アフリカダニ刺咬熱(アフリカダニチフス)
地中海紅斑熱(ボタン熱)
北アジアダニ媒介性リケッチア症
クイーンズランドマダニチフス
リケッチア・パルケリ Rickettsia parkeriによるリケッチア症
ロッキー山紅斑熱と同じく、その他の紅斑熱も米国や世界各地で発生しています(表「主なリケッチア感染症と関連感染症」を参照)。これらの感染症は、成虫のマダニが活動的になり、人間がダニの生息地域に多く入る時期である春と夏を中心に発生します。温暖な地域では、1年を通して発生します。地中海紅斑熱はクリイロコイタマダニにより媒介されるため、屋内で感染することがあります。それゆえ、地中海沿岸で1年を通して発生することがあります。
その他の紅斑熱の症状
これらの紅斑熱の症状はいずれも類似しており、通常はロッキー山紅斑熱より軽度です。
マダニに咬まれてから5~7日後に、発熱、疲労、筋肉痛、頭痛が生じます。眼が赤くなり、全身的な不調を感じます。咬まれた部位にボタン状の小さな傷ができ、黒いかさぶた(痂皮)で覆われます。通常は、周辺のリンパ節が腫れます。発熱が始まってから約4日後に、前腕に赤い発疹が現れて体の大部分に広がり、手のひらや足の裏にも発生します。一般的に、発熱が1週間にわたって続きます。
適切に治療すれば、これらの感染症によって深刻な事態や死に至ることはほとんどありません。ただし、高齢者やすでに体調が非常に悪い人では、深刻な問題につながる場合があります。
その他の紅斑熱の診断
医師による評価
発疹の生検と検査
血液検査
紅斑熱の診断は症状から疑われます。
診断を確定するため、発疹から採取(生検)したサンプルを蛍光抗体法で検査することがあります。あるいは、より早く細菌を検出するため、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法が用いられることもあります。
血液検査を行って、原因となる細菌に対する抗体を検出することもあります。ただし、この検査を1回実施するだけでは不十分です。抗体の値の上昇を確認するには、1~3週間後に検査を再度行う必要があります。そのため、抗体検査は患者の発症直後に感染症を診断する役には立ちませんが、後に診断を確定する助けになります。
その他の紅斑熱の治療
抗菌薬
臨床検査の結果が出ていなくても、症状と、感染したマダニに接触した可能性があることから、紅斑熱が疑われる場合は、即座に抗菌薬(通常はドキシサイクリン)が処方されます。抗菌薬の投与は5日間行われます。
これらの感染症を予防するには、マダニに咬まれないための対策をとる必要があります。
次のような予防法で、マダニを皮膚に触れさせないようにします。
道の上を歩く
ズボンのすそを長靴や靴下に入れる
長袖の服を着る
ジエチルトルアミド(DEET)を含む防虫剤を皮膚につけておく
DEETは、毒性反応が報告されているため、非常に年少の小児に使用する場合は注意が必要です。ペルメトリンを衣服にかけておくと、効果的にマダニを死滅させることができます。マダニに媒介される感染症の流行地域では、体にマダニがついていないか頻繁にチェックする必要があり、特に体毛が多い部位や小児の体は入念に調べます。
血を吸って膨らんだマダニは、指でつぶしてしまうとマダニがもっている病気に感染する可能性があるため、つぶさないように慎重に取り除く必要があります。マダニの体の部分を強く挟んだりつぶしたりしてはいけません。小さなピンセットでマダニの頭部をつまみ、少しずつ引き抜きます。マダニが付着していた部位はアルコールでふいてください。ワセリンや火のついたマッチなどの刺激物は効果的ではないため、マダニの除去には使わないようにします。
すべてのマダニを除去できる実用的な方法はありません。しかし、マダニの多い場所ではマダニを運ぶ動物が住みにくい環境にすることで、マダニの数を減らせることがあります。例えば、薪の山や落ち葉、枯れ枝を取り除き、家の周り(特に遊び場)の背の高い草や藪を刈ることで、ネズミが住みにくい環境を作るとよいでしょう。ネズミはそのような場所に隠れたり、巣を作ったりすることがあるためです。