バソプレシン抵抗症

(腎性尿崩症)

執筆者:L. Aimee Hechanova, MD, Texas Tech University Health Sciences Center, El Paso
レビュー/改訂 2024年 4月
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やさしくわかる病気事典

バソプレシン抵抗症(以前は腎性尿崩症と呼ばれていました)では、尿細管がバソプレシン(抗利尿ホルモン)に反応しなくなり、ろ過された水分を体に再吸収することができなくなるために、薄い尿が大量に作られます。

  • バソプレシン抵抗症の多くは遺伝性ですが、腎臓に影響を及ぼす薬剤や病気によって引き起こされる場合もあります。

  • 症状としては、強いのどの渇きや大量の排尿などがあります。

  • バソプレシン抵抗症の診断は、血液検査と尿検査の結果に基づいて下されます。

  • 水分の摂取量を増やすことが脱水の予防に役立ちます。

  • バソプレシン抵抗症の治療では、食事の塩分制限を行い、ときに尿の排泄量を減少させる薬剤を服用します。

尿細管疾患に関する序論も参照のこと。)

類似の病気として、バソプレシン抵抗症とバソプレシン分泌低下症があります。

  • バソプレシン抵抗症では、腎臓がバソプレシン(抗利尿ホルモン)に反応しなくなり、その結果、大量の薄い尿が持続的に排泄されるようになります。

  • バソプレシン分泌低下症(以前は中枢性尿崩症と呼ばれていました)は、より一般的にみられ、下垂体からバソプレシンが分泌されなくなります。

バソプレシン抵抗症の原因

正常な状態では、腎臓は体の要求に応じて尿の濃度と量を調節していますが、この調節は血液中のバソプレシンの濃度変化を介して行われています。バソプレシンとは下垂体から分泌されるホルモンで、腎臓に対して水分の保持と尿の濃縮を指示するシグナルとして働きます。バソプレシン抵抗症では、腎臓がこのシグナルに反応しなくなりまいます。

バソプレシン抵抗症は以下の場合があります。

  • 遺伝性

  • 後天性

遺伝性バソプレシン抵抗症

遺伝性バソプレシン抵抗症を引き起こす典型的な遺伝子は潜性(劣性)遺伝子で、X染色体(2種類ある性染色体の一方)に存在するため、症状が現れるのは通常は男性だけです。しかし、女性がこの遺伝子を保有していると、この病気が息子に遺伝する可能性があります。まれに、男女ともに別の異常遺伝子によってバソプレシン抵抗症が引き起こされる場合があります。

後天性バソプレシン抵抗症

後天性バソプレシン抵抗症は、リチウムのようにバソプレシンの作用を阻害する薬剤によって引き起こされる可能性があります。

またバソプレシン抵抗症は、多発性嚢胞腎鎌状赤血球貧血髄質海綿腎、重度の感染症(腎盂腎炎)、アミロイドーシスシェーグレン症候群、特定のがん(肉腫または骨髄腫など)などの病気によって腎臓が侵された場合にも発生する可能性があります。

さらに、血液中のカルシウム濃度が高い場合やカリウム濃度が低い場合、特にこれらの状態が持続している場合に、バソプレシンの作用が部分的に遮断されることがあります。

ときには原因が分からない場合もあります。

バソプレシン抵抗症の症状

バソプレシン抵抗症の症状としては以下のものがあります。

  • 強いのどの渇き(多飲)

  • 大量の薄い尿の排泄(多尿)

排尿量が増えて、1日当たり3~20リットルになることがあります。

バソプレシン抵抗症が遺伝性の場合は、生後すぐに症状が現れます。乳児はのどの渇きを伝えることができないため、重度の脱水に陥りやすい傾向があります。発熱がみられることもあり、その場合は嘔吐やけいれん発作を伴います。

認知症のある高齢者も、のどの渇きを伝えることができないため、脱水症状を起こしやすい傾向があります。

バソプレシン抵抗症の診断

  • 血液検査

  • 尿検査

臨床検査では、血液中のナトリウム濃度が高く、尿が非常に薄いことが判明します。水制限試験が診断に役立つ場合があります。

バソプレシン抵抗症の治療

  • 十分な量の水分補給

  • 尿の量を減少させる食事および薬剤

脱水を予防するため、バソプレシン抵抗症の人は、のどの渇きを感じたら速やかに十分な量の水分を摂取する必要があります。乳児および幼児や病状の重い高齢者の場合は、頻繁に水分を与えなければなりません。十分な水分を摂取していれば脱水を起こすおそれはありませんが、水分を摂取しない時間が数時間ほど続くだけで重度の脱水に陥る可能性があります。

塩分とタンパク質を控えた食事が有効になる場合もあります。

この病気に対する治療として、ときに非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)とサイアザイド系利尿薬が使用されることがあります。非ステロイド系抗炎症薬とサイアザイド系利尿薬は、それぞれ異なるメカニズムで作用しますが、どちらも腎臓で再吸収されるナトリウムと水分の量を増加させます。それにより尿の排出量が少なくなります。

バソプレシン抵抗症の予後(経過の見通し)

バソプレシン抵抗症が重度の脱水に至る前に診断された場合は、予後は良好です。

この病気のある乳児は、治療を行えば、正常に発育する可能性が高くなります。一方、遺伝性バソプレシン抵抗症は、速やかに診断して治療を開始しないと、脳に損傷が生じて恒久的な知的障害が生じる可能性があります。また、頻繁に脱水症状を起こしていると、体の発育にも遅れが生じます。

遺伝性でない場合は、背景にある異常を是正することが腎機能を正常化させる助けになるのが通常です。

さらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国国立糖尿病・消化器・腎疾患研究所(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases[NIDDK]):実施中の研究に関する情報、英語およびスペイン語の消費者向け健康情報、ブログ、ならびに地域の健康促進プログラムやアウトリーチプログラムを提供しています。

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