多発性嚢胞腎 (PKD)

(常染色体優性多発性嚢胞腎;ADPKD)

執筆者:Enrica Fung, MD, MPH, Loma Linda University School of Medicine
レビュー/改訂 2021年 4月
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やさしくわかる病気事典

多発性嚢胞腎は、両方の腎臓に液体で満たされた袋状の病変(嚢胞)が多数形成される遺伝性の病気です。そのため腎臓が大きくなりますが、機能している腎組織は減少します。

  • 多発性嚢胞腎は遺伝によって受け継がれた遺伝子異常によって引き起こされます。

  • 症状が軽いために病気の存在に気づかない場合もありますが、わき腹(側腹部)の痛み、血尿高血圧腎結石による差し込むような痛みなどがみられる場合もあります。

  • 診断は、腎臓の超音波検査、CT検査、またはMRI検査の結果に基づいて下されます。

  • 腎結石や感染症に対する治療が行われますが、この病気を発症した人の半数以上は最終的に透析または腎移植が必要になります。

多発性嚢胞腎(PKD)を引き起こす遺伝子の異常には、いくつかの種類があります。そのうち数種類は優性遺伝子によって引き起こされますが、まれながら劣性遺伝子が原因のものもあります。つまり、この病気を発症した人は、片方の親から1つの優性遺伝子を受け継いでいるか、両方の親からそれぞれ1つずつ劣性遺伝子を受け継いでいることになります。優性遺伝子を受け継いだ人の場合、通常は成人になるまで症状はみられません。一方、劣性遺伝子を受け継いだ人は小児期に重い症状を発症します。

多発性嚢胞腎

多発性嚢胞腎では、両側の腎臓に多数の嚢胞が形成されます。嚢胞は徐々に大きくなり、正常な腎組織の一部ないし大半を破壊します。

遺伝子の異常によって、両方の腎臓において広範囲に嚢胞が形成されます。嚢胞は年齢に伴って次第に大きくなっていき、そのために腎臓内の血流が減少するとともに、組織が線維化して瘢痕(はんこん)ができるようになります。嚢胞が感染や出血したり、腎結石ができることもあります。最終的には慢性腎臓病に至る可能性もあります。遺伝子の異常によって、肝臓や膵臓など腎臓以外の部分にも嚢胞ができる場合もあります。

多発性嚢胞腎の症状

小児期に発症する、まれな劣性遺伝型の場合は、嚢胞が非常に大きくなり、そのために腹部が突き出てきます。新生児の重症例では、胎児期に腎不全が起きることで肺が十分に発育していない可能性があり、そのために出生後すぐに死亡することもあります。肝臓も障害され、5~10歳頃になると門脈圧亢進症(腸と肝臓を結ぶ血管内[門脈系]の高血圧)を起こしやすくなります。そして最終的には、肝不全慢性腎臓病を発症します。

よくみられる優性遺伝型の多発性嚢胞腎では、嚢胞の数が少しずつ増え、徐々に大きくなっていきます。典型的には成人期の早期から中期に発症し、20代での発生が最もよくみられます。なかには、症状がとても軽いために、生涯にわたり病気の存在に気づかない場合もあります。

症状としては、腹部またはわき腹(側腹部)の不快感や痛み血尿頻尿腎結石による差し込むような激しい痛み(仙痛)などがみられます。このほかにも、機能する腎組織が減少しているため、疲労や吐き気など、慢性腎臓病による症状がみられる場合もあります。一部の嚢胞が破裂し、発熱が数週間にわたって続く場合があります。尿路感染症が繰り返されると、慢性腎臓病が悪化する可能性があります。また多発性嚢胞腎の患者の半数以上では、この病気が発見されるまでの間に高血圧の発生が認められます。

合併症

優性遺伝型の多発性嚢胞腎では、約3分の1の患者において肝臓にも嚢胞がみられますが、それらが肝機能に影響することはありません。また腹部ヘルニアや大腸の憩室(腸壁の袋状の膨らみ)が形成されたり、心臓弁の病気にかかっていたりする可能性もあります。約10%の患者には、脳の血管の拡張(動脈瘤[どうみゃくりゅう])がみられます。脳動脈瘤の多くは出血をきたし、脳卒中の原因になります。

多発性嚢胞腎の診断

  • 画像検査

  • 遺伝子検査

この病気は家族歴から、あるいは他の理由で行われた画像検査で腎臓の腫大や嚢胞が認められることで疑われます。超音波検査、CT検査、MRI検査では、腎臓や肝臓に嚢胞の特徴的な画像が認められます。多発性嚢胞腎(PKD)の家族歴がある場合でも、症状が発生するまで、医師が診断検査を推奨しないことがあります。その理由は、症状が発生するまでは効果的な治療法がないこと、および診断されたことで患者が不利益を受ける(生命保険に入ることが難しくなるなど)可能性があることです。

子どもをもつことを希望する多発性嚢胞腎の患者は、自身の子どもに病気が遺伝する確率を把握するために遺伝子検査を利用できます。

多発性嚢胞腎の治療

  • 合併症と症状の治療

尿路感染症高血圧を効果的に治療することで、腎組織の破壊を遅らせることができます。血圧のコントロールには、通常はアンジオテンシン変換酵素阻害薬アンジオテンシン受容体拮抗薬が使用されます。しかし、この病気の患者の半数以上は慢性腎臓病になり、いずれは末期腎不全(末期腎臓病)になって、透析または腎移植が必要になります。

嚢胞が激しい痛みを引き起こしている場合は、嚢胞に貯まった液体の抜き取りを試みることがあります(吸引)。吸引により痛みは軽減する可能性がありますが、長期の予後(経過の見通し)には影響を及ぼしません。症状が極めて重い場合、腎臓の切除が必要になることがあります。

mTOR(mammalian target of rapamycin)阻害薬と呼ばれる新しい種類の薬は、嚢胞の増大を遅らせる可能性がありますが、腎機能の低下を遅らせる作用はないと考えられるため、通常は使用されません。

別の新薬であるトルバプタンは、急速に進行する可能性がある常染色体優性多発性嚢胞腎の成人患者に有益となる可能性があります。トルバプタンは重度の肝傷害を引き起こすことが報告されているため、医師は処方する前に専門家に相談します。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国腎臓基金(American Kidney Fund[AKF]):腎疾患および腎移植、ならびに医療費の管理を支援するためのニーズに応じた経済的支援に関する情報

  2. 米国国立糖尿病・消化器・腎疾患研究所(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases[NIDDK]):研究成果、統計、地域の健康促進プログラムやアウトリーチプログラムなど、腎疾患に関する一般的な情報

  3. 全米腎臓財団(National Kidney Foundation[NKF] ):腎機能の基礎から腎疾患患者の治療や支援へのアクセスまでのあらゆる事項に関する情報

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