月経前症候群(PMS)

執筆者:JoAnn V. Pinkerton, MD, University of Virginia Health System
レビュー/改訂 2021年 2月
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やさしくわかる病気事典

月経前症候群(PMS)は一連の身体症状および精神症状で、月経の数日前に起こり、通常は月経開始から数時間後に治まります。月経前不快気分障害はPMSの一種で、仕事や社会生活、人間関係に影響が出るほど症状が重度の状態です。

  • PMSでは、易怒性(いらだち)、不安、気分の変動、抑うつ、頭痛、乳房の痛みや張りなどの症状がみられます。

  • 通常患者が日々記録した症状に基づき、医師が診断を下します。

  • 特定のサプリメント、鎮痛薬、経口避妊薬(一部の患者)、抗うつ薬などだけでなく、糖分、塩分、カフェインの摂取量を減らし、運動を行うと症状の緩和に役立ちます。

PMSは、気分の変動、易怒性(いらだち)、腹部膨満、乳房の圧痛など非常に多くの症状を引き起こすとされているため、明確な定義や診断が困難です。

妊娠可能年齢の女性の20~50%がPMSを経験しています。約5%の人にみられる特に重いタイプのPMSを、月経前不快気分障害といいます。

PMSが起こる一因として、以下が考えられます。

  • 月経周期中には、エストロゲンプロゲステロンの濃度が変動します。一部の女性は、このような変動への反応が敏感です。

  • PMSを起こしやすい遺伝的素質をもつ女性もいます。

  • PMSの女性では、セロトニンの血中濃度が低い傾向にあります。セロトニンは、神経細胞のコミュニケーションを助ける物質(神経伝達物質)で、気分の調節を助けると考えられています。

  • マグネシウムやカルシウムの欠乏が寄与している可能性があります。

エストロゲンプロゲステロンの変動は、塩分と水分のバランスを調節するアルドステロンなど、別のホルモンに影響を及ぼすことがあります。アルドステロンが過剰に増えると体液貯留や腹部膨満が生じます。

PMSの症状

PMS症状の種類や強さは人によって異なり、また同じ人でも月経周期により様々です。様々な身体症状や精神症状が現れることで、一時的に生活に影響が出ることがあります。

症状は月経の約10日から数時間前に始まり、多くは月経の開始から数時間後に完全に消失します。閉経前の数年間(閉経期)は、月経中や月経後も症状が続くことがあります。症状はストレスの多い時期や、閉経期には重くなることがあります。PMSの後に痛みを伴う月経が毎月続くことがあり(月経痛または月経困難症)、特に青年期に多くみられます。

最もよくみられる症状は、易怒性(いらだち)、不安、興奮、怒り、不眠症、集中力の低下、嗜眠、抑うつ、および重度の疲労です。腹部に膨満感を覚えたり、一時的に体重が増えたりすることもあります。乳房が硬くなったり、痛みが生じたりすることがあります。下腹部の重い感じや圧迫感があることがあります。

月経前症候群の症状が出ているときには、他の病気の症状も悪化することがあります。具体的には以下のものがあります。

  • けいれん性疾患がある人で、けいれん発作の回数が普段より増える

  • 結合組織疾患(全身性エリテマトーデス[SLE]や関節リウマチなど)がある人で再燃が起こる

  • 呼吸器障害(鼻や気道のアレルギー、鼻づまり、気道うっ血など)

  • 片頭痛

  • 気分障害(抑うつや不安など)

  • 睡眠障害(過眠または睡眠不足)

気分障害は同様の症状を引き起こすことがありますが、PMSまたは月経前不快気分障害がない女性においてすら、これらの症状は月経の直前に悪化することがあります。

月経前不快気分障害は、仕事や社会生活、人間関係に影響が出るほどPMSが重度の状態です。日常生活への関心が著しく薄れ、自殺を考えるようになる女性もいます。症状は規則的に月経が始まる前に起こり、月経開始時またはその直後に治まります。普段行っていた活動への興味を失ったり自殺念慮を抱くこともあります。

月経前症候群(PMS)で起こりうる症状

身体症状

  • 動悸

  • 背部痛

  • 腹部膨満

  • 乳房の張りと痛み

  • 食欲の変化、特定の食物への渇望

  • 便秘

  • 下腹部の締めつけるような痛み、重い感じ、圧迫感

  • めまい(回転性めまいを含む)

  • あざができやすい

  • 失神

  • 疲労

  • 頭痛

  • ホットフラッシュ(ほてり)

  • 不眠(寝つきが悪い、夜間に目が覚めるなど)

  • 関節痛および筋肉痛

  • 無気力

  • 吐き気と嘔吐

  • 手足のしびれ、ピリピリする痛み

  • 皮膚症状(にきび、皮膚をかくことによる限局性の皮膚炎など)

  • 手足のむくみ

  • 体重増加

精神的な症状

  • 興奮

  • 不安

  • 混乱

  • 涙もろくなる

  • うつ病

  • 集中力の低下

  • すぐ感情的になる

  • もの忘れ、記憶障害

  • 易怒性

  • 気分の変動や既存の気分障害の悪化

  • 神経過敏

  • 短気

  • 引きこもり

PMSの診断

  • PMSでは医師の評価

  • 月経前不快気分障害では特定のガイドライン

PMSの診断は症状に基づいて下されます。PMSを確定するために、毎日の症状を記録するよう指示されます。記録することで、患者は自分自身の体調や気分の変化を認識できるようになり、医師は規則的に現れる症状を把握し、最善の治療方法を判断する一助となります。

うつ病の症状がみられる場合は、うつ病の標準化された検査を受けるか、精神医療の専門家に紹介されることがあります。ただし、医師は通常、症状の出るタイミングなどの要因から、PMSまたは月経前不快気分障害と気分障害を区別することができます。症状が月経が始まってすぐに消失すれば、おそらくPMSまたは月経前不快気分障害によって引き起こされているものです。

月経前不快気分障害

月経前不快気分障害は、少なくとも月経周期2回分の症状を記録するまで診断できません。診断は特定のガイドラインに基づいて下されます。ガイドラインでは、PMSの女性において少なくとも計5つの症状(以下の2つのリストから少なくとも各1つを含む)がしばしばみられなければならないとされています。

症状には、少なくとも以下から1つ含まれている必要があります。

  • 気分が変わりやすい(例えば突然悲しくなって涙ぐむ)

  • 非常にイライラしやすい、もしくは怒りやすい、または他人との摩擦が増える

  • 著しい抑うつ感や絶望感がある、または自己に著しく批判的になる

  • 不安感や緊張感がある、または気が立つ

症状には、少なくとも以下からも1つ含まれている必要があります。

  • 普段行っていた活動への興味の減退

  • 集中力の低下

  • 気力減退または疲労感

  • 目立った食欲の変化、過食、または特定の食物への渇望

  • 睡眠障害(寝つけない、夜間に目が覚める、過眠)

  • 打ちのめされる、または抑制がきかないような感情

  • PMSの女性によく生じる身体症状(乳房の圧痛など)

また、症状が直近の過去12カ月間のほとんどで起こり、日常の生活および機能を妨げるほど重度である必要があります。

PMSの治療

  • 一般的な対策

  • ときにホルモン剤または抗うつ薬などの薬剤

PMSの治療は困難な場合があります。すべての女性に効果的な単独の治療法はなく、いずれか単独の治療を用いて完治する女性はほとんどいません。

一般的な対策

PMSの症状を和らげるために、以下のような方法を試すことができます。

  • 休養と睡眠(毎晩最低でも7時間)を十分に取ります。

  • 定期的な運動は、腹部膨満、易怒性(いらだち)、不安、不眠症の軽減に役立ちます(ヨガや太極拳が役立つ女性もいます)。

  • ストレス解消法(瞑想、リラクゼーションなど)を利用します。

  • ストレスの多い活動を避けます。

  • タンパク質の摂取量を増やし、糖分やカフェイン(チョコレートを含む)の摂取量を減らします。

  • 果物、野菜、牛乳、複合炭水化物(例えばパン、パスタ、豆類、根菜などに含まれる)、食物繊維を多く含む食品、低脂肪の肉、カルシウムおよびビタミンDを多く含む食物をより多く摂取します。

  • 塩分の摂取量を減らすと、体内に貯留される水分量が減り、腹部膨満が軽減されることが多くなります。

  • 特定の飲食物(コーラ、コーヒー、ホットドッグ、ポテトチップス、缶詰など)の摂取を避けます。

特定の栄養補助食品がPMSの症状をある程度軽減する可能性があります。このような栄養補助食品には、セイヨウニンジンボクの実(チェストベリー)のエキス、ビタミンB6、およびビタミンEなどがあります。いずれのサプリメントでも、特にビタミンB6は高用量では有害になる場合もあるため、服用する前に主治医に相談する必要があります。ビタミンB6は1日200ミリグラムというわずかな量でも神経の損傷が起こる可能性があります。

知っていますか?

  • 経口避妊薬で症状が和らぐことがありますが、かえって悪化する場合もあります(特に開始後の初めの6週間)。

薬剤

非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)で頭痛、差し込むような腹痛による痛み、関節痛を軽減できることがあります。頭痛または月経痛の強さを和らげるには、月経が始まる数日前からNSAIDの服用を開始します。

ホルモン療法が役立つことがあります。選択肢としては以下のものがあります。

  • 経口避妊薬

  • プロゲステロン腟坐薬

  • 経口プロゲステロン

  • 2~3カ月毎の長時間作用型プロゲスチン(女性ホルモンのプロゲステロンを人工的に合成したも)の注射

月経の期間を短くしたり、月経と月経の間を3カ月にまで長くしたりする経口避妊薬が役立つ女性もいます。

より重いPMSの症状や月経前不快気分障害には、シタロプラム(citalopram)、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリンなどの抗うつ薬が有益な場合があります。これらの薬剤は症状の予防に使用されるため、効果を得るには、症状が始まる前に毎日服用するか、PMSの症状のある一部の女性では月経開始の2週間前から毎日服用する必要があります。症状が起こった後にこれらの薬剤を服用しても症状は通常軽減されません。これらの薬剤は易怒性(いらだち)、抑うつ、その他のPMS症状の一部に最も効果があります。ブレキサノロン(brexanolone)の静脈内投与は、現在では産後うつ病の治療に特異的に使用されており、経口薬では効果が得られない場合に特に役立つことがあります。

体液貯留が問題であれば、利尿薬のスピロノラクトン(腎臓からの塩分と水分の排出を促す薬剤)が処方されることもあります。

治療中も症状の記録を続けるよう指示されることがありますが、こうした記録を見て、医師はPMS治療の有効性を判断します。

他の治療にもかかわらず月経前不快気分障害が続く女性は、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニスト(リュープロレリン、ゴセレリンなど)の注射が症状の軽減に役立つこともあります。GnRHアゴニストは、本来体内で作られるホルモンを人工的に合成したものです。卵巣でのエストロゲンプロゲステロンの分泌量を減少させます。このように、これらの薬剤は、月経前に起こって症状の一因となるホルモン濃度の急速な変動の抑制を助けます。通常は、低用量の内服薬または皮膚に貼るパッチ剤としてエストロゲンとプロゲスチンも併用します。

研究者らは、PMSや月経前不快気分障害に対する可能性のある治療法としての他の薬剤の評価を引き続き行っています。

手術

他の治療でコントロールできない重度の症状がある女性に対する最終手段として、手術が提案されることがあります。卵巣を摘出すると月経周期がなくなり、PMSの症状もなくなります。しかし卵巣を摘出すると、骨粗しょう症のリスク上昇やその他の閉経に関連する問題などの閉経と同じ影響が現れます。このような影響の一部を軽減または予防するために、医師は通常、エストロゲンとプロゲスチンまたはプロゲステロンを含むホルモン療法を、平均閉経年齢(51歳頃)になるまで受けるように勧めます。

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