神経障害性疼痛は、神経、脊髄、または脳の損傷や機能障害によって起こる痛みです。
(痛みの概要も参照のこと。)
神経障害性疼痛の原因としては以下のものがあります。
幻肢痛、帯状疱疹後神経痛(帯状疱疹の後に起きる痛み)、複合性局所疼痛症候群では、痛みの信号を処理する過程に異常が生じています。
神経障害性疼痛は、手術の後、例えば乳房の除去(乳房切除術)または肺の手術(開胸手術)の後に生じることもあります。
神経障害性疼痛がきっかけで、不安や抑うつに陥ることもあります。不安や抑うつにより、痛みがさらに悪化することがあります。
神経障害性疼痛の症状
神経障害性疼痛とは、灼熱痛やピリピリ感を覚えたり、触覚や低温に過敏になったりすることです。触覚が過敏になることをアロディニアと呼びます。軽く触れられただけで痛みを感じることもあります。
ときに神経障害性疼痛は深くうずくように感じられます。
動くと痛む場合、患者は痛みがある体の部位を動かしたがらなくなります。その結果、痛みがある部位を制御する筋肉が衰えてしまい、運動がさらに制限されるようになります。
神経系が痛みに敏感な構造に変わってしまい、痛みの原因がなくなった後も長い間痛みが続きます。
神経障害性疼痛の診断
医師による評価
医師は、主に以下の点に基づいて神経障害性疼痛を診断します。
症状
神経に損傷がある可能性
身体診察の結果
症状によっては、痛みを引き起こす病気の有無を確認するために検査を行うこともあります。具体的な検査としては、MRI検査、神経伝導検査と筋電図検査、血液検査などがあります。神経伝導検査と筋電図検査は、痛みが筋肉の問題によるものか、神経の異常によるものかを判断するのに役立つほか、損傷または機能障害の部位を特定するのにも役立ちます。
神経障害性疼痛の治療
薬剤(痛み止め、抗うつ薬、抗てんかん薬など)
理学療法や作業療法
必要であれば手術
脊髄または神経への刺激
神経ブロック
神経障害性疼痛の性質を理解し、何が起こるかを知っておくと、患者はしばしば痛みをコントロールしているという感覚を得られ、痛みにうまく対処できるようになります。
神経障害性疼痛の治療は、原因疾患に応じて様々です。例えば、糖尿病が原因であれば、血糖値のコントロールを改善することで、痛みの原因である神経損傷の進行が遅くなることがあります。
多くの場合、神経障害性疼痛の治療は薬剤の使用から開始します。薬剤は痛みの緩和に役立ち、痛みによる消耗や生活への支障を軽減することができますが、薬剤で痛みを完全になくすのは多くの場合、困難です。
その他の治療法としては、理学療法、神経または脊髄への電気刺激、神経ブロックなどがあり、ときに手術も選択されます。
不安や抑うつなど、痛みにつながりうる心理的要因があれば、それも最初から治療します。
薬
痛み止め(鎮痛薬)を使用して、神経障害性疼痛を軽減することがあります。
神経障害性疼痛の治療に用いられる痛み止めとしては、以下のものがあります。
鎮痛補助薬は、神経が痛みを処理するプロセスに変化を与える薬剤です。これらの薬剤は、痛みの強さを軽減します。鎮痛補助薬の多くは、通常、痛み以外の症状(けいれん発作や抑うつなど)の治療に使用されるものですが、神経障害性疼痛などの痛みを緩和することもあることが分かっています。鎮痛補助薬としては抗うつ薬(アミトリプチリン、デシプラミン、ベンラファキシンなど)や抗てんかん薬(ガバペンチンなど)などがあり、これらは神経障害性疼痛の治療によく用いられます。
皮膚に使用する薬(外用薬)には、カプサイシンクリームのほか、リドカイン(局所麻酔薬)を含むパッチ剤などがあり、これらが効果的な場合があります。
オピオイド鎮痛薬は一部の患者の神経障害性疼痛を部分的に緩和できすが、通常は鎮痛補助薬と比べて副作用のリスクが高くなります。
しかし、薬剤を使用しても、痛みは部分的にしか緩和されないことが多く、神経障害性疼痛の患者で薬剤が有効なのは一般に半数未満にとどまります。
理学療法と作業療法
その他の治療
手術は、神経に圧迫を加える損傷による痛みに対して必要になることがあります。
電気刺激(電極を脊髄の上などに留置して電流を流す方法)も、一部の慢性の神経障害性疼痛に有用なことがあります。経皮的電気神経刺激では、皮膚の表面に電極を置いて、そこに微弱な電流を流します。経皮的電気神経刺激の機器はOTC医薬品として入手可能です。この治療では、痛みのある部位の周囲に電気刺激パッドを置きます。
末梢神経電気刺激では、細いワイヤーを皮膚の下に入れて、個々の末梢神経を刺激します。(末梢神経は、脳と脊髄以外の神経です。)そのワイヤーを、皮膚表面に置いた小さな機器(刺激装置)に接続します。この治療法は神経障害性疼痛に特に効果的であり、経皮的電気神経刺激よりも疼痛部位をピンポイントで刺激するのに優れています。皮下へのワイヤーの留置は、皮膚に小さな切創を作る必要があるため、外来での低侵襲の手技によって行います。
脊髄刺激療法は、背中の手術後に神経の損傷が認められた患者や複合性局所疼痛症候群の患者に対して神経障害性疼痛の緩和を目的に用いられることがあります。この治療では、脊髄刺激装置を(通常は殿部または腹部の)皮膚の下に埋め込みます。この装置は、心臓のペースメーカーと同じように電気信号を発生させます。装置から伸びる小さなワイヤー(導線)を、脊髄の周りの空間(硬膜外腔)に留置します。この導線から、信号が脊髄に伝えられます。この信号により、痛みの信号が脳へ送られる過程に変化が生じ、不快な症状の受け止め方が変わります。
神経ブロックは、痛みの信号を伝えたり増幅したりする神経経路を遮断するために用いられます。神経ブロックは、薬剤で緩和できない重度の持続性の痛みに対して用いられることがあります。神経ブロックには様々な方法があります。
神経の周囲に局所麻酔薬を注射して、その神経から痛みの信号が脳に送られるのを阻止する(一般的には超音波検査を行いながら治療対象の神経の位置を確認する)
神経節と呼ばれる神経が集まった部分の周囲に注射して、痛みの信号の伝達を調節する
腐食性物質(フェノールなど)を注射して神経を破壊する
神経を凍結させる(凍結療法)
神経を高周波電流で焼き切る