マクログロブリン血症

(原発性マクログロブリン血症;ワルデンシュトレームマクログロブリン血症)

執筆者:James R. Berenson, MD, Institute for Myeloma and Bone Cancer Research
レビュー/改訂 2023年 6月
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マクログロブリン血症は,悪性の形質細胞疾患で,B細胞が過剰な量のIgM型Mタンパク質を産生する。臨床像としては,過粘稠度症候群,出血,繰り返す感染症,全身性リンパ節腫脹,肝脾腫などがみられる。診断には,骨髄検査およびMタンパク質の証明が必要である。治療法としては,過粘稠度症候群に対する必要に応じた血漿交換のほか,アルキル化薬,コルチコステロイド,ヌクレオシドアナログ,ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬,ベネトクラクス,またはモノクローナル抗体による全身療法などがある。

形質細胞疾患の概要も参照のこと。)

まれなB細胞悪性腫瘍であるマクログロブリン血症は,臨床的には多発性骨髄腫や他の形質細胞疾患よりもリンパ腫様疾患に類似する。原因は不明であるが,特定の遺伝子変異に本疾患との関連が指摘されている。女性よりも男性が罹患することが多い。患者年齢の中央値は65歳である。

マクログロブリン血症は,単クローン性免疫グロブリン血症を伴う悪性疾患として骨髄腫の次に2番目に多くみられる。他の疾患でも過剰な量のIgM型Mタンパク質(単クローン性の免疫グロブリンタンパク質で,重鎖と軽鎖の両方で構成される場合と,いずれかのみで構成される場合がある)が蓄積することがあり,マクログロブリン血症に似た臨床像を呈する。B細胞性非ホジキンリンパ腫では,約5%の患者の血清中に小量の単クローン性IgM成分がみられる;この状態は,マクログロブリン血症性リンパ腫と呼ばれる。さらに,慢性リンパ性白血病または他のリンパ増殖性疾患の患者にIgM型Mタンパク質の存在が散見される。

マクログロブリン血症の臨床像としては,出血,繰り返す感染症,全身性リンパ節腫脹,肝脾腫などがある。頻度は低くなるが,血漿中に分子量の大きい単クローン性IgMタンパク質が大量に蓄積することで過粘稠度症候群を来すこともある一方,全ての患者でIgMの増加に関連した問題が発生するわけではない。これらのタンパク質の一部は,自己のIgGに対する抗体(リウマトイド因子)またはI抗原に対する抗体(寒冷凝集素)である。約10%がクリオグロブリンである。5%の患者がアミロイドーシスを発症する。

マクログロブリン血症の症状と徴候

大半の患者は無症状であるが,一部の患者では貧血または過粘稠度症候群の症状がみられ,具体的には疲労,筋力低下,皮膚の色素沈着,皮膚出血,粘膜出血,視覚障害,頭痛,末梢神経障害の症状,その他の変化する神経症状などがみられる。血漿量の増加により心不全が誘発されることがある。寒冷感受性,レイノー症候群,または反復性の細菌感染症がみられることがある。

診察により,リンパ節腫脹,肝脾腫,および紫斑(まれに初発症状となる)が明らかになることがある。鎖状ソーセージに似た網膜静脈の著しいうっ血および限局性の狭小化から,過粘稠度症候群が示唆される。 網膜出血,滲出,微細動脈瘤,および乳頭浮腫が晩期に生じる。

パール&ピットフォール

  • 鎖状ソーセージに似た網膜静脈の著しいうっ血および限局性の狭小化から,過粘稠度症候群が示唆される。

マクログロブリン血症の診断

  • 血小板数を含めた血算,赤血球指数,および末梢血塗抹標本

  • 血清タンパク質電気泳動とその後の血清・尿免疫固定法,免疫グロブリン定量,および血清遊離軽鎖測定

  • 血漿粘稠度測定

  • 骨髄検査,MYD88CXCR4など特定の遺伝子変異の検査を含む

  • ときにリンパ節生検

マクログロブリン血症は,過粘稠度症候群やその他の典型的症状を呈する患者において,特に貧血がみられる場合に疑われる。ただし,タンパク質電気泳動でMタンパク質が明らかになり,免疫固定法でIgM型と証明された場合に偶発的に診断されることが多い。

臨床検査による評価としては,形質細胞疾患の評価(多発性骨髄腫を参照)に用いられる検査のほか,クリオグロブリン,リウマトイド因子,寒冷凝集素の測定,凝固検査,直接抗グロブリン(クームス)試験などがある。

中等度の正球性正色素性貧血,顕著な連銭形成,および高度の赤血球沈降速度(赤沈)の亢進を認めることがある。白血球減少,相対的リンパ球増多,および血小板減少が散見される。クリオグロブリン,リウマトイド因子,または寒冷凝集素がみられることがある。寒冷凝集素が認められた場合,通常は直接クームス試験が陽性となる。様々な凝固系および血小板機能の異常が生じることがある。寒冷凝集素,クリオグロブリン血症,または著明な過粘稠度症候群がみられる場合は,ルーチンの血液検査で誤った結果が得られることがある。半数の患者では正常な免疫グロブリンが減少する。

濃縮尿の免疫固定電気泳動により,単クローン性軽鎖(κ型が多い)が高頻度で明らかになるが,肉眼的ベンスジョーンズタンパク尿はまれである。

骨髄検査では,形質細胞,リンパ球,形質細胞様リンパ球,および肥満細胞に様々な増加がみられる。リンパ系細胞にPAS染色陽性物質がみられることがある。リンパ節生検は,骨髄検査が正常な場合に実施するが,びまん性高分化型リンパ腫または形質細胞様リンパ球性リンパ腫として解釈される頻度が高い。

血漿粘稠度を測定して,疑われる過粘稠度症候群を確定する。過粘稠度症候群が起きていれば,血漿粘稠度は通常4.0mPa-sを超える(正常範囲は1.4~1.8mPa-s)(1)。網膜フルオレセイン蛍光眼底造影を用いても,過粘稠度症候群の存在を実証することができる。

診断に関する参考文献

  1. 1 Gertz MA: Waldenstrom macroglobulinemia: 2023 update on diagnosis, risk stratification, and management.Am J Hematol98:348-358, 2023.doi:10.1002/ajh.26796

マクログロブリン血症の治療

  • 血漿交換(過粘稠度症候群がみられる場合とIgM高値の患者にリツキシマブを投与する前に限る)

  • コルチコステロイド,アルキル化薬,ヌクレオシドアナログ,モノクローナル抗体(特にリツキシマブ)

  • 化学療法,特にアルキル化薬であるベンダムスチンとリツキシマブの併用

  • その他の薬剤として,プロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブまたはカルフィルゾミブ),免疫調節薬(サリドマイド,ポマリドミド,またはレナリドミド),ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬(例,イブルチニブ)単独またはリツキシマブとの併用,PI3K(phosphoinositide 3-kinase)阻害薬(例,イデラリシブ),mTOR(mammalian target of rapamycin)阻害薬(例,エベロリムス)

経過は様々であり,生存期間の中央値は7~10年である。年齢60歳以上,貧血,およびクリオグロブリン血症は生命予後不良の予測因子である(レビューについては[1]を参照)。

治療を必要としない状態が何年も続くことも多い(1)。過粘稠度症候群がみられる場合は,血漿交換が最初の治療となり,神経学的異常とともに出血が速やかに改善される。多くの場合,血漿交換は複数回繰り返す必要がある。

コルチコステロイドが腫瘍量を減らすのに効果的となることがある。アルキル化薬の経口投与による治療は,緩和目的に適応となる場合があるが,骨髄毒性が生じる可能性がある。ヌクレオシドアナログ(フルダラビンおよび2-クロロデオキシアデノシン)により,新たに診断された患者の大多数で反応が得られるが,骨髄異形成および骨髄性白血病のリスク増加との関連が指摘されている。

リツキシマブは,正常造血を抑制せずに腫瘍量を低下させることができる。ただし,最初の数カ月は,IgM値が上昇して血漿交換が必要になることがある。このモノクローナル抗体とベンダムスチンの併用は非常に効果的である。

プロテアソーム阻害薬であるボルテゾミブとカルフィルゾミブに加えて,免疫調節薬のサリドマイド,レナリドミド,およびポマリドミドも,この悪性腫瘍に効果的である。

イブルチニブ,アカラブルチニブ,ザヌブルチニブなどのBTK阻害薬が高い活性を示している。アカラブルチニブとザヌブルチニブは,イブルチニブよりも毒性が弱い。MYD88およびCXCR4変異の有無から,これらの薬剤で反応が得られる可能性を予測することができる。

BCL2(BCL2 apoptosis regulator)阻害薬であるベネトクラクスが有意な臨床活性を示している(2)。

ほかにも2つの薬剤クラス,すなわちイデラリシブなどのPI3キナーゼ阻害薬とエベロリムスなどのmTOR阻害薬が,治療歴のある患者に対して効果的に使用されている。

治療に関する参考文献

  1. 1.Oza A, Rajkumar SV: Waldenstrom macroglobulinemia: Prognosis and management.Blood Cancer J 5(3):e296, 2015.doi: 10.1038/bcj.2015.28

  2. 2.Castillo JJ, Allan JN, Siddiqi T, et al.Venetoclax in Previously Treated Waldenström Macroglobulinemia. J Clin Oncol 2022;40(1):63-71.doi:10.1200/JCO.21.01194

要点

  • マクログロブリン血症は,悪性の形質細胞疾患で,B細胞が過剰な量のIgM型Mタンパク質を産生する。

  • 大半の患者は当初無症状であるが,多くの患者で貧血または過粘稠度症候群(疲労,筋力低下,皮膚出血,粘膜出血,視覚障害,頭痛,末梢神経障害,その他の変化する神経症状)がみられる。

  • 血清タンパク質電気泳動の後に,血清および尿の免疫固定法および免疫グロブリン定量を実施する。

  • 過粘稠度症候群を血漿交換により治療することで,神経学的異常とともに出血を速やかに改善させる。

  • コルチコステロイド,フルダラビン,リツキシマブ,プロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブおよびカルフィルゾミブ),免疫調節薬(サリドマイド,レナリドミド,およびポマリドミド),ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬(イブルチニブ,アカラブルチニブ,およびザヌブルチニブ),イデラリシブ,またはイブルチニブ + リツキシマブが役立つことがあるほか,症状緩和のために他のアルキル化薬を使用することができる。

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