体液量の減少(または細胞外液の減少)は,体内総ナトリウムの喪失の結果として生じる。原因には,嘔吐,大量発汗,下痢,熱傷,利尿薬の使用,腎不全がある。臨床的特徴は皮膚ツルゴールの低下,粘膜の乾燥,頻脈,起立性低血圧である。診断は臨床的に行う。治療はナトリウムおよび水分の投与である。
(水とナトリウムの平衡および体液量異常の概要も参照のこと。)
水は受動浸透(passive osmosis)によって体内の形質膜を通過するため,主要な細胞外陽イオン(ナトリウム)が失われると,細胞外液および細胞内液のスペースより水分が迅速に失われる。このように,ナトリウムの喪失は必ず水分喪失を引き起こす。しかし,体液量が減少している患者では(体内総ナトリウム量が減少しているにもかかわらず),血清ナトリウム濃度は,多数の因子に依存して高値,低値,または正常範囲内となる。
体内総ナトリウム量および細胞外液量は有効循環血漿量に関連する。細胞外液量が大きく減少すると有効循環血漿量が減少し,その結果,臓器灌流が低下して臨床的続発症に至る。体液量減少の一般的な原因を体液量減少の一般的な原因の表に挙げる。
体液量減少の症状と徴候
体液喪失が細胞外液量の5%未満の場合(軽度の体液量減少)は,皮膚ツルゴールの低下が唯一の徴候となりうる(体幹上部での評価が最良); 皮膚ツルゴールは,高齢患者では体液量の状態にかかわらず低下している場合があることに注意する。患者は口渇を訴えることがある。特に高齢者および口で呼吸する者では,粘膜の乾燥は必ずしも体液量の減少と相関しない。乏尿が典型的である。
細胞外液量が5~10%減少した場合(中等度の体液量減少)は,起立性の頻脈,低血圧,またはその両方が,常にではないが,一般に認められる。起立性の変化は,細胞外液量が減少していない患者,特にデコンディショニング状態の患者や寝たきりの患者にも生じることがある。皮膚ツルゴールはさらに低下する場合がある。
体液喪失が細胞外液量の10%を上回る場合(重度の体液量減少)は,ショックの徴候(例,頻呼吸,頻脈,低血圧,錯乱,毛細血管再充満不良)が出現しうる。
体液量減少の診断
臨床所見
ときに,血清電解質,血中尿素窒素(BUN),およびクレアチニン
まれに,血漿浸透圧および尿生化学検査値
リスクのある患者,特に水分摂取不十分(特に昏睡状態または見当識障害の患者),体液喪失の増加,利尿療法,腎疾患または副腎疾患の既往を有する患者で最も高頻度に体液量減少が疑われる。
診断は通常臨床的に行う。体液喪失直前および直後の患者の正確な体重がわかれば,その差が体液量喪失の正確な推定値となる;例えば,アスリートの脱水をモニタリングするために運動前後の体重がときに用いられる。
原因が明白かつ容易に是正可能(例,他の点では健康な患者での急性胃腸炎)な場合,臨床検査は不要である;その他の場合には血清電解質,BUN,およびクレアチニンを測定する。血清検査の結果では明らかにならないが臨床的に意味のある電解質異常が疑われる場合や,心疾患または腎疾患の患者では,血漿浸透圧,尿中ナトリウム,尿中クレアチニン,尿浸透圧を測定する。代謝性アルカローシスが存在する場合は,尿中塩素濃度も測定する。
体液量の評価には一部の装置が役立つ可能性があるが,広く普及しているわけではない。体液量減少の重症度が不明な場合,体液量の状態を評価するために,下大静脈の拡張を評価するポイントオブケア超音波検査がときに用いられる。また,肺の超音波検査では,肺水腫の所見とそれによる体液過剰の所見を認めることがある。体液量減少時には中心静脈圧および肺動脈楔入圧が低下するものの,中心静脈カテーテルまたは肺動脈カテーテルなどの侵襲的な器具を用いて行う測定が必要になることはまれであるが,不安定な心不全または進行した慢性腎臓病など,少量の体液量増加でさえ有害となりうる患者ではこのような測定がときに必要とされる。
尿中電解質および浸透圧の値を解釈する際には,以下の考え方が役に立つ:
体液量減少時には,正常に機能している腎臓はナトリウムを保持する。したがって,尿中ナトリウム濃度は通常,低値となり15mEq/L(15mmol/L)を下回る;ナトリウム排泄率(尿中ナトリウム/血清ナトリウムを尿クレアチニン/血清クレアチニンで除したもの)は通常1%未満となる;また,尿浸透圧はしばしば高値となり450mOsm/kg(450mmol/kg)を上回る。
代謝性アルカローシスが体液量減少と併発した場合は,大量の重炭酸が尿中に流出し,電気的中性を維持するために強制的にナトリウムが排泄されるため,尿中ナトリウム濃度が高値になる場合がある。この場合,尿中クロール濃度が10mEq/L(10mmol/L)未満であれば,より確実に体液量減少が示唆される。
腎疾患,利尿薬,または副腎皮質機能低下症による腎臓でのナトリウム喪失によって,誤解を招くほどの尿中ナトリウム高値(一般に>20mEq/L[>20mmol/L])または尿浸透圧低下も生じうる。
体液量減少によりBUN濃度および血清クレアチニン濃度が高頻度に上昇し,BUN/クレアチニン比がしばしば20:1を上回る。体液量減少時にはヘマトクリットなどの値がしばしば上昇するが,ベースライン値が既知でない限り解釈は難しい。
体液量減少の治療
ナトリウムおよび水分の補給
体液量減少の原因を是正し,既存の体液量の不足および進行中の水分喪失を補充するため,また1日の必要水分量を供給するために水分を投与する。
軽度から中等度の体液量の不足は,患者に意識があり嘔吐がなければ,ナトリウムおよび水分の経口摂取を増やすことで補充できる;小児における経口補水レジメンについては,本マニュアルの別の箇所で考察されている。経管栄養は,経口摂取が制限されているか何らかの理由で安全でない場合にも使用できる。
体液量の不足が重度の場合,または経口での水分補給が不可能な場合には,生理食塩水または緩衝剤を加えた電解質液(例,乳酸リンゲル液)を静注する。いずれも忍容性は良好で安全であるが,乳酸リンゲル液や他の緩衝液は塩素濃度が低く,高クロール性代謝性アシドーシスの発生が抑制される可能性がある。最近のエビデンスでは生理食塩水よりも乳酸リンゲル液の使用が支持されているようであるが,この問題は解決されていない。これら2つの溶液はいずれも細胞外腔に均等に分布するため,血管内容量の不足分の3~4倍を投与する必要がある。典型的な静注レジメンについては別の箇所に記載されている。