肺癌

(肺がん)

執筆者:Robert L. Keith, MD, Division of Pulmonary Sciences and Critical Care Medicine, University of Colorado School of Medicine
レビュー/改訂 2023年 5月
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肺癌は男女問わず世界におけるがん関連死因の第1位である。約85%の症例で喫煙の関連がみられる。症状としては,咳嗽,胸部不快感,胸痛,体重減少などのほか,頻度は低いものの喀血もありうるが,臨床症状の有無にかかわらず,多くの患者が遠隔転移のある状態で受診する。診断は典型的には胸部X線またはCTにより,生検によって確定する。治療法としては,病期に応じて手術,化学療法,放射線療法,これらの組合せなどがある。過去数十年にわたり,肺癌患者の予後は不良で,診断後5年以上生存できる患者の割合はわずか15%であった。IV期患者(転移例)では,5年全生存率が1%を下回っていた。しかしながら,治療の標的となりうる特定の変異が同定されたことで治療成績の改善がみられており,現在では5年生存率が19%(女性で23%,男性で16%)となっている。

2023年の米国では,238,340例(女性120,790例,男性117,550例)の肺癌が新たに診断され,127,070人が肺癌により死亡すると推定されている(1)。

総論の参考文献

1.Siegel RL, Miller KD, Wagle NS, Jemal A: Cancer statistics, 2023. CA Cancer J Clin 73(1):17-48, 2023.doi:10.3322/caac.21763

肺癌の病因

肺癌の最も重要な原因として約85%の症例を占めているのが,以下のものである:

  • 喫煙(1)

がんのリスクは年齢,喫煙強度,および喫煙期間によって異なる。

毒素および喫煙への複合曝露があれば,肺癌のリスクが増大する。確認されたものと可能性のあるものを含めたその他の危険因子としては,大気汚染,マリファナの喫煙,葉巻の煙への曝露および紙巻タバコの受動喫煙,発がん物質への曝露(例,アスベスト,放射線,ラドン,ヒ素,クロム酸塩,ニッケル,クロロメチルエーテル,多環芳香族炭化水素,マスタードガス,コークス炉排出物,小屋の中での原始的方法での調理や暖房のための火の使用で発生する煙)などがある。電子ニコチン送達システム(例,電子タバコ)に関連した肺癌のリスクは依然として特定されていないが,タバコの燃焼生成物が主な発がん物質であると考えられている。

がんのリスクは禁煙すれば低下するが,喫煙歴がない人々と同じ水準まで戻ることはない。肺癌を発症する患者の約15~20%は喫煙歴がないか,最小限の喫煙にとどまる。

家庭内でのラドンへの曝露は肺癌リスクを増大させ,米国では肺癌の原因として2番目に多い(2)。

慢性炎症は,肺癌を含む多くのがんのリスクを高める。例えば,COPD(慢性閉塞性肺疾患),α1-アンチトリプシン欠乏症,および肺線維症は肺癌に対する感受性を高める。その他の肺疾患(例,結核)のために肺に瘢痕が生じてる患者は,肺癌のリスクが高まっている可能性がある。また,β-カロテンのサプリメントを摂取している現喫煙者でも,肺癌の発生リスクが高まる可能性がある。

遺伝因子

呼吸上皮細胞が腫瘍化するには,発がんを促進する物質への長期曝露および複数の遺伝子変異の蓄積を要する(発がんの素地[field carcinogenesis]と呼ばれる効果)。

一部の肺癌患者では,細胞増殖を刺激する遺伝子(KRASMYC)における二次的または付加的変異が,増殖因子受容体のシグナル伝達(EGFRHER2)に異常をもたらし,異常細胞の無制限な増殖に寄与する可能性がある。

また,がん抑制遺伝子(例,TP53APC)を阻害する変異も発がんにつながる可能性がある。原因である可能性があるその他の変異としては,EML4-ALK転座やROS1BRAFPIK3CAの変異などがある。

このように肺癌の一次的な原因となる遺伝子の変異は,発がんドライバー変異(oncogenic driver mutation)と呼ばれる。発がんドライバー変異は,喫煙者においても肺癌の原因や寄与因子となりうるが,喫煙歴がない人々において肺癌の原因となる可能性が特に高い。2014年のLung Cancer Mutation Consortium(LCMC)による研究では,肺癌733例の64%でドライバー変異が認められた。この集団には喫煙者と非喫煙者が含まれていた(KRAS変異25%,EGFR変異17%,EML-4-ALK変異8%,BRAF変異2%[3])。LCMCによる2つ目の研究では,少なくとも14のがん関連遺伝子について検査を受けたIV期肺癌患者904人が登録され,腺癌患者の半数以上で発がんドライバー変異が認められたことと,分子標的療法により生存率が改善したことが明らかにされた(4)。ほかにも変異が報告されており,発がんドライバー変異を標的とする新たな治療法について活発な研究が行われている。

病因論に関する参考文献

  1. 1. Division of Cancer Prevention and Control, Centers for Disease Control and Prevention: What Are the Risk Factors for Lung Cancer?Reviewed October 25, 2022.Accessed April 24, 2023

  2. 2.U.S. Cancer Statistics Working Group: U.S. Cancer Statistics Data Visualizations Tool, based on 2021 submission data (1999-2019): U.S. Department of Health and Human Services, Centers for Disease Control and Prevention and National Cancer Institute; https://www.cdc.gov/cancer/dataviz, released in November 2022

  3. 3.Kris MG, Johnson BE, Berry LD, et al: Using multiplexed assays of oncogenic drivers in lung cancers to select targeted drugs.JAMA 311 (19):1998–2006, 2014.doi: 10.1001/jama.2014.3741

  4. 4.Aisner DL, Sholl LM, Berry LD, et al: The Impact of Smoking and TP53 Mutations in Lung Adenocarcinoma Patients with Targetable Mutations-The Lung Cancer Mutation Consortium (LCMC2). Clin Cancer Res 24(5):1038-1047, 2018.doi:10.1158/1078-0432.CCR-17-2289

肺癌の分類

肺癌は以下の2つのカテゴリーに大別される:

  • 小細胞肺癌(SCLC),全症例の約15%

  • 非小細胞肺癌(NSCLC),全症例の約85%

SCLCは非常に進行が速く,ほぼ常に喫煙者に発生する。増殖が速く,およそ80%の患者で診断時点で転移がみられる。

NSCLCは臨床像がより多様で,組織型によって異なるが,約40%の患者において診断時点で胸郭外への転移がみられる。発がんドライバー変異は主に腺癌で同定されており,扁平上皮癌で同様の変異(例,KRASEGFRFGFR1DDR2,およびPIK3CA)を同定する試みが続けられている。

2つのカテゴリーには,他の特徴(例,部位,リスク,治療,合併症)についても差がみられる(肺癌の特徴の表を参照)。

表&コラム
表&コラム

肺癌の症状と徴候

肺癌の約25%は無症状で,別の理由で行われた胸部画像検査で偶然発見される。症状および徴候は,局所の腫瘍の進行,所属リンパ節転移,および遠隔転移によって生じうる。腫瘍随伴症候群と全身症状は,あらゆる病期で生じる可能性がある。症状はがんの分類や組織型に特異的ではないが,種類によって特定の合併症が起きやすい場合がある(肺癌の特徴の表を参照)。

局所腫瘍

局所の腫瘍が咳嗽を引き起こす可能性がある。比較的まれになるが,局所の腫瘍が気道閉塞による呼吸困難や,閉塞後の無気肺,肺炎,リンパ管浸潤による肺実質の喪失を引き起こすこともある。閉塞後の肺炎に伴って発熱がみられることもある。最大で半数の患者が漠然とした胸痛または限局性の胸痛を訴える。腫瘍が主要動脈を侵食し,大出血およびしばしば窒息死または失血死を引き起こすまれな症例は除き,喀血はより頻度が低く,失血は最小限である。喀血が主症状となる患者は全体の約10%であり,20%の患者が疾患の経過中に喀血を経験する。

局所浸潤

腫瘍の局所浸潤は,胸水の発生による胸膜性胸痛または呼吸困難,腫瘍の反回神経への浸潤による嗄声,ならびに横隔神経浸潤による横隔膜麻痺に起因した呼吸困難および低酸素症を引き起こすことがある。

上大静脈症候群は,上大静脈への圧迫または浸潤に起因し,頭痛または頭部充満感,顔面または上肢の腫脹,仰臥位での息切れ,頸,顔,および体幹上部の静脈怒張,ならびに顔面および体幹の紅潮(多血)を引き起こす。

パンコースト症候群は,肺尖部の腫瘍(通常はNSCLC[パンコースト腫瘍])が腕神経叢,胸膜,または肋骨に浸潤して,肩関節および上肢の疼痛と同側の手の筋力低下または萎縮を引き起こすことで発生する。パンコースト症候群にはホルネル症候群が含まれる場合もある。

ホルネル症候群は,傍脊椎交感神経鎖または頸部星状神経節が侵されることで生じ,眼瞼下垂,縮瞳,および無汗症を引き起こす。

腫瘍の心膜への浸潤は,無症状のこともあるが,収縮性心膜炎心タンポナーデを引き起こすこともある。

まれに,腫瘍による食道圧迫が嚥下困難を引き起こす。

転移

転移巣は,最終的には部位によって異なる症状を引き起こす。転移は以下の部位に起こりうる:

  • 肝臓:疼痛,悪心,早期満腹感,および最終的に肝機能不全を引き起こす。

  • 脳:行動変化,錯乱,失語,痙攣発作,不全麻痺または麻痺,悪心および嘔吐,ならびに最終的に昏睡および死を引き起こす。

  • 骨:重度の疼痛と病的骨折を引き起こす。

  • 副腎:まれに副腎皮質機能低下症を引き起こす。

腫瘍随伴症候群

腫瘍随伴症候群とは,腫瘍またはその転移巣から離れた部位で生じる症状である。肺癌患者でよくみられる腫瘍随伴症候群として,以下のものがある:

その他の神経症候群としては,神経障害,脳症,脳炎,脊髄症,小脳疾患などがある。神経筋症候群の機序には,腫瘍による自己抗原の発現とそれに伴う自己抗体の産生が関係するが,その他の大半の症候群は原因不明である。

肺癌の診断

  • 胸部X線

  • CTまたはPET-CT

  • 胸水または喀痰の細胞診

  • 気管支鏡ガイド下または経皮経胸壁生検およびコア生検

  • ときに外科的肺生検

画像検査

胸部X線がしばしば最初の画像検査となる。明瞭な病変がみられることがあり,その例として,単一または多巣性の腫瘤,孤立性肺結節,肺門部の拡大,縦隔拡大,気管気管支の狭小化,無気肺,消退しない実質の浸潤影,空洞性病変,原因不明の胸膜肥厚または胸水などがある。これらの所見は示唆的であるが肺癌の診断に至るものではなく,CTまたはPET-CTによるフォローアップと細胞診による診断確定が必要である。

CTでは,本疾患を強く示唆する多くの特徴的な解剖学的パターンや所見がみられる。単純X線写真で認めた病変が(年齢,喫煙,症状などの危険因子に基づき)肺癌を強く示唆する場合は,診断的評価および病期診断の方向性を定める上での参考とするためにPET-CTを施行してもよい。この検査はCTによる解剖学的画像検査およびPETによる機能的画像検査を統合したものである。PET画像は炎症と悪性病変の鑑別に役立つ可能性がある。CTとPET-CTはいずれも,気管支鏡下生検が適さない病変に対するコア生検でのガイドに役立つ可能性がある。その際のPET画像でリンパ節または遠隔転移が検出されることもある。

細胞診

診断確定のための細胞採取または組織採取に用いられる方法は,組織への到達しやすさ,および病変の位置に依存する。喀痰または胸水検体の細胞診は,肺癌の診断を確定する上で最も侵襲性の低い方法である。

湿性咳嗽を有する患者において,起床時に採取された喀痰検体は悪性細胞を高濃度に含む可能性があるが,この方法による診断率は全体で < 50%である。

胸水はもう1つの利用しやすい細胞採取源である;悪性胸水は予後不良の徴候であり,進行した病期であることを示す。

一般に,喀痰または胸水を可能な限り多く,(喀痰検体のみ)早い時間帯に採取して,病理検査室に直ちに送って遅れを最小限にすることにより(処理の遅れが細胞の崩壊につながるため),細胞診での偽陰性を最小限に減らすことができる。

胸水をスピンダウンし,細胞ペレットをタイミングよく保存していれば,胸水から得た腫瘍細胞ペレットをパラフィン包埋し,分子生物学的(遺伝学的)検査を行うこともできる。

手技

経皮的生検は次に侵襲性の低い手技である。肺病変よりも転移巣(例,鎖骨上またはその他の末梢リンパ節,胸膜,肝,副腎)に対してより有用である。20~25%で気胸を起こすリスクがあり(主に著明な気腫を有する患者),また結果が偽陰性となるリスクもある。

穿刺吸引生検で得られる組織は正確な遺伝子検査を行うには少なすぎるため,コア生検の方が望ましい。

気管支鏡検査は,肺癌の診断に最もよく用いられる方法である。理論的には,組織採取には最も侵襲性の低い方法を最初に選択すべきであるが,実際には,診断率がより高いことから,また病期診断にも重要であることから,気管支鏡検査がより低侵襲の方法に加えて,あるいはそれに代わって施行されることが多い。洗浄,擦過,および生検(視認できる気管支内病変,ならびに気管傍,気管分岐部,縦隔,および肺門リンパ節)を組み合わせて行うことで,しばしば組織診断が得られる。

気管支鏡のガイド技術の進歩により,診断率が高まり,より多くの末梢病変を採取できる精度が向上した。超音波気管支鏡(EBUS)ガイド下生検は,気管支鏡検査の中で施行でき,極めて高い診断能を有する。EBUSは現在では,解剖学的な理由によりリンパ節を採取できない場合を除き,縦隔病変の病期診断に好んで選択される方法となっている。高い診断制度でより多くの末梢病変から検体を採取するために,ナビゲーション気管支鏡検査も用いられる。診断能を向上させ,胸部に対する外科手技の回数を抑えるために,特定の医療施設ではロボット気管支鏡も導入されている。

縦隔鏡検査は,縦隔リンパ節評価の標準検査とされてきたが,比較的リスクの高い手技であり,EBUSで採取できない縦隔リンパ節腫脹がある少数の患者において,腫瘍の存在を確定または除外する目的で,典型的には比較的広範囲に及ぶ胸部手術の前に施行される。

外科的肺生検は,開胸下または胸腔鏡もしくはロボット補助下で行われるが,臨床的特徴とX線所見から腫瘍が切除可能であることが強く示唆される患者において,より侵襲性の低い方法で診断が得られない場合に適応となる。

肺癌の病期分類

SCLCには2つの病期がある

  • 限局型

  • 進展型

限局型SCLCは,片側胸郭(同側のリンパ節を含む)に限局している場合であり,胸水も心嚢液もなく,放射線療法で耐容可能な1つの照射野内に収まるものである。

進展型は,片側胸郭の範囲を越えて進展しているか,胸水または心嚢液中に悪性細胞が検出される場合である。SCLC患者で診断時に限局型であるのは全体の3分の1未満であり,それ以外の患者は多くの場合,広汎な遠隔転移を来している。

NSCLCには,I期からIV期までの4つの病期がある(TNM分類を用いる)。TNM分類は,腫瘍の大きさ,腫瘍および転移リンパ節の位置,ならびに遠隔転移の有無に基づいている(肺癌の国際病期分類の表を参照)。

初期評価および病期診断のための検査

病期診断の一部の要素は典型的な診断評価の一部でもあり,例えば,超音波気管支鏡(EBUS)ガイド下生検によって肺病変の生検と同時に腫大したリンパ節を採取することができる。

全ての肺癌患者について,画像診断により進展の有無を判断する必要がある。様々な組合せの検査を行える。ルーチンに行われる検査もあれば,結果が治療の決定に影響するかどうかに基づいて行われる検査もある:

  • PETまたはPET-CT

  • 頸部から骨盤までのCTおよび骨シンチグラフィー(PET-CTが行えない場合)

  • 胸部MRI(肺尖部または横隔膜に近い腫瘍に対し,血管供給を評価するため)

  • 疑わしいリンパ節の生検(PETではっきりしない場合)

  • 頭部CTまたは脳MRI

PETはかなり正確で非侵襲的な検査であり,縦隔リンパ節の悪性病変およびその他の遠隔転移を同定するために用いられる(代謝による病期診断)。PET-CT複合機では,単一のガントリー内でスキャンすることにより,PETとCTの画像が組み合わされて1枚の画像として提供されるため,別々の機械で撮影した2枚のCTとMRIの画像を視覚的に比較するより正確にNSCLCの病理診断が行える。PETおよびPET-CTには費用,利用可能性,および特異度の点で限界がある(すなわち,この検査は感度がかなり高く,陰性適中率は極めて高いが,陽性適中率はそれほど高くない)。PET-CTは,気管支鏡検査や針生検などの手技で診断に至らなかったものの,依然として肺癌に対する臨床的疑いが強い場合に用いられることがある。

PET-CTを行えない場合は,頸部から上腹部までの薄層高分解能CT(HRCT)(頸部,鎖骨上,肝臓,および副腎への転移を検出する)がSCLCおよびNSCLCの病期診断で最初に行う検査の1つとなる。しかしながら,CTでは多くの場合,胸腔内のリンパ節腫大が炎症後のものか悪性のものかの鑑別や,肝臓または副腎にある病変が良性か悪性かの鑑別(病期の決定に関わる鑑別)ができない。したがって,これらの領域に異常がある場合は,通常は他の検査が行われる。

PETの結果で診断がはっきりしない場合は,超音波気管支鏡による気管支鏡検査,縦隔鏡検査,または胸腔鏡下手術(VATS)によって,転移が疑われる縦隔リンパ節の生検を行うことができる。PETを行わない場合,針生検によって疑わしい肝臓または副腎の病変を評価しなければならない。

胸部MRIは,肺尖部(パンコースト)腫瘍および横隔膜周辺の悪性腫瘍(例,中皮腫)の病期診断において胸部高分解能CTより精度が若干高く,また腫瘍周囲の脈管構造を評価することができる。MRIは外科的切除を考慮できるかどうかを判断するのにも役立つ。

血液検査が通常行われる。カルシウムとアルカリホスファターゼの測定値が上昇していれば,骨転移の可能性が示唆される。血算,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ,アラニンアミノトランスフェラーゼ,総ビリルビン,電解質,血清アルブミン,クレアチニン濃度など,その他の血液検査は,病期診断には役立たないが,治療に対する患者の耐容性の点で重要な予後情報をもたらすとともに,腫瘍随伴症候群の存在を確認できる可能性がある。

診断後,全ての肺癌患者は脳画像検査を受けるべきである;CTよりMRIが好ましい。脳画像検査は頭痛または神経学的異常のある患者において特に必要である。

骨痛やカルシウムまたはアルカリホスファターゼの血清値上昇がみられる患者はPET-CTを受けるべきであり,PET-CTが受けられない場合は骨シンチグラフィーを受けるべきである。

表&コラム
表&コラム

肺癌のスクリーニング

肺癌スクリーニングは,早期患者にとって有益であり,特に外科的切除で治療可能な早期のNSCLCに対する便益が大きく,高リスク集団を対象として推奨されている。ある大規模研究(1)では,低線量ヘリカルCT(LDCT)を用いた年1回のスクリーニングによって,胸部X線を用いたスクリーニングと比べて肺癌死亡が20%減少したことが示された。この研究で定義された高リスク集団は,30 pack-year以上の喫煙歴がある元喫煙者または現喫煙者(主要な年齢層は55~74歳)と定義され,元喫煙者については禁煙開始から15年以内の個人が対象とされた。高リスク患者のスクリーニングを評価した最近の研究では,結節の体積および体積倍増時間に基づいてLDCTスクリーニングを受けた患者において生存期間の延長が示された(2)。しかしながら,LDCTによるスクリーニングはリスクが高くない患者には適切でない可能性がある。

U.S. Preventive Services Task Force(USPSTF)は,20 pack-year以上の喫煙歴を有し,現在も喫煙しているか禁煙期間が15年未満である50~80歳の無症状者を対象とする年1回のLDCTスクリーニングに関する推奨を更新した(3)。スクリーニングの前に,医療従事者と患者が共同での意思決定を行うべきである。スクリーニングに関する共同での意思決定には,治療を拒否すると予想される患者や重篤な併存症のために治療を完了できないと予想される患者など,早期発見が有益とならない見込みがある患者を対象から除外することに関する議論を含めるべきである。さらに,LDCTスクリーニングは,LDCTへの習熟が確認されていて,かつフォローアップのための確立された診断・治療プロトコールを遵守している施設で実施するよう推奨されている。

将来的には,肺癌のスクリーニングには,遺伝子マーカー(例,KRASTP53EGFR)の分子解析,喀痰細胞診,および呼気中のがん関連の揮発性有機化合物(例,アルカン,ベンゼン)の検出が組み合わせて用いられる可能性がある。

スクリーニングに関する参考文献

  1. 1.National Lung Screening Trial Research Team, Aberle DR, Adams AM, et al: Reduced lung-cancer mortality with low-dose computed tomographic screening.New Engl J Med 365 (5):395–409, 2011.doi: 10.1056/NEJMoa1102873.

  2. 2.de Koning HJ, van der Aalst CM, de Jong PA, et al: Reduced lung-cancer mortality With volume CT screening in a randomized trial.New Engl J Med 382:503–513, 2020.doi: 10.1056/NEJMoa1911793

  3. 3.US Preventive Services Task Force: Screening for lung cancer: U.S. Preventive Services Task Force recommendation statement.JAMA 325(10):962-970, 2021.doi: 10.1001/jama.2021.1117

肺癌の治療

  • 手術(細胞の種類および病期に依存)

  • 化学療法

  • 放射線療法

  • 免疫療法

肺癌の治療は細胞の種類および病期によって異なる。腫瘍とは関係のない多くの患者因子も治療の選択に影響する。積極的な治療による治癒が技術的には可能かもしれない場合でも,低い心肺予備能,低栄養,フレイルまたは全身状態不良(例えばKarnofsky performance status[PS]やEastern Cooperative Oncology Group[ECOG] PSで評価する),併存症(血球減少症を含む),および精神疾患または認知障害は全て,根治的治療よりも緩和治療を選択する,または全く治療しないという決定につながる可能性がある。

放射線療法は,肺の広範囲が高線量の放射線に長期間曝露する場合,放射線肺炎のリスクを伴う。放射線肺炎は治療完了の1カ月後から12カ月後までに発生する可能性がある。咳嗽,呼吸困難,微熱,および胸膜性胸痛は放射線肺炎を示唆している可能性があり,胸部の聴診で認められる断続性ラ音または胸膜摩擦音も同様である。胸部X線では非特異的な所見がみられることがあり,CTでは明瞭な腫瘤を欠いた非特異的な浸潤影がみられることがある。診断はしばしば除外診断となる。放射線肺炎は,コルチコステロイドの数週間にわたる漸減投与と症状緩和のための気管支拡張薬で治療することができる。

高周波電流を用いて腫瘍細胞を破壊するラジオ波焼灼術は,早期の小さな腫瘍や過去に放射線照射歴のある胸部に再発した小さな腫瘍を有する患者に対してときに用いられる治療法である。この手技は,開胸手術に比べ肺機能をより温存できる可能性があり,また侵襲性がより低いため,開胸手術の適応がない患者で適切となりうる。

免疫療法は,患者の免疫系を利用してがんを排除するものであり,PD-1(programmed cell death protein 1)またはPD-L1の発現が高い場合に,進行期(IV期)の非小細胞肺癌に対する治療に用いられる(非小細胞肺癌に対する主な分子標的薬の表を参照)。

SCLC

SCLCはいずれの病期でも典型的に最初は治療に反応するが,通常すぐに反応しなくなる。病期に応じて放射線療法併用または非併用の化学療法が行われる。進展型SCLCには免疫療法も用いられることがある。多くの患者において,化学療法は生存期間の延長およびQOLの改善をもたらすため,その実施には十分なレベルの正当性がある。手術は一般にSCLCの治療には役に立たないものの,腫瘍が小さく局所性で浸潤を伴わず(例えば孤立性肺結節),腫瘍がSCLCと同定される前に外科的切除が行われたまれな症例では,手術により治癒することがある。

パール&ピットフォール

  • 手術は一般にSCLCの治療には役に立たないものの,腫瘍が小さく限局性で進展のないまれな症例では,手術により治癒することがある。

エトポシドとプラチナ製剤(シスプラチンまたはカルボプラチンのいずれか)の化学療法レジメンが一般的に用いられるが,イリノテカン,ノギテカン,ビンカアルカロイド系(ビンブラスチン,ビンクリスチン,ビノレルビン),アルキル化薬(シクロホスファミド,イホスファミド),ドキソルビシン,タキサン系(ドセタキセル,パクリタキセル),ゲムシタビンなど,その他の薬剤もよく使用される。

限局型では,病変が片側胸郭に限定されている場合,放射線療法によって臨床転帰がさらに改善する;放射線療法に対するこのような反応性が限局型の定義の基礎となった。一部の症例では,脳転移を予防するための予防的頭蓋照射も推奨される;SCLCでは微小転移がよくみられること,また,化学療法の薬物が血液脳関門を通過しにくいことによる。

進展型では,治療は放射線療法よりも化学療法が中心であるが,骨または脳への転移に対する緩和治療として放射線療法がしばしば用いられる。化学療法に対し極めて反応のよい患者には,限局型SCLCと同様,脳内のSCLC増殖を防ぐため,ときに予防的放射線頭蓋照射が用いられる。化学療法で完全奏効に近い反応が得られた一部のまれな患者では,ときに胸部放射線療法によって病勢コントロールが改善されるようである。エトポシドの代わりにトポイソメラーゼ阻害薬(イリノテカンまたはノギテカン)を用いることで,生存期間が延長するかどうかは不明である。これらの薬物の単独投与または他の薬物との併用投与は,難治例および再発例(病期は問わない)でも一般的に使用される。進展型SCLCには免疫療法も用いられることがある。

一般的に,再発SCLCは予後不良であるが,PS(performance status)が良好に保たれている患者には臨床試験におけるさらなる治療を勧めるべきである。

NSCLC

NSCLCの治療では典型的には手術の適格性が評価され,それに続いて腫瘍の種類および病期に基づき,必要に応じて手術,化学療法(分子標的療法と免疫療法を含む),放射線療法,またはこれらの組合せが選択される。

I期およびII期における標準的な治療アプローチは,肺葉切除または肺全摘除いずれかの外科的切除と同時に,縦隔リンパ節の検体採取または完全なリンパ節郭清を行うことである。区域切除および楔状切除などのより小範囲の切除は,肺予備能が乏しい患者に対して考慮される。手術で治癒が得られるのは,I期の患者で約55~70%,およびII期の患者で約35~55%である。肺癌に熟練した胸部腫瘍外科医が外科的切除を行った場合,予後はより優れているようである(1, 2)。手術のリスクが高い早期患者には,手術の代わりに(定位または従来の)放射線療法やラジオ波焼灼術などの局所治療が行われることがある。

術前肺機能が評価される。NSCLC患者に対する手術は,一葉または片肺を切除しても十分な肺予備能が期待される場合にのみ行われる。術前の1秒量(FEV1)が2Lを超える患者は一般に肺全摘除術に耐えられる。FEV1が2L未満の患者には,切除の結果として予想される肺機能低下の程度を判定するために,放射性キセノンによる定量的血流シンチグラフィーを行うべきである。術後のFEV1は,切除しない方の肺の血流の割合に術前のFEV1を乗じることで予測できる。予測FEV1が800mLまたはFEV1予測正常値の40%を超えれば,術後の肺機能が十分であることが示唆されるが,慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者における肺容量減少手術の研究では,FEV1 < 800mLの患者でも,ほぼ機能していないブラの肺領域(一般的に肺尖部)に腫瘍がある場合は切除に耐えうることが示唆されている。

ネオアジュバント(術前)化学療法も早期NSCLCに対して一般的に用いられており,シスプラチンを含む2剤併用(シスプラチンと他の化学療法薬[ビノレルビン,ドセタキセル,パクリタキセルなど]の併用)4サイクルで構成される。シスプラチンを投与できない患者では,カルボプラチンに置き換えてもよい。化学療法と免疫療法を併用するネオアジュバント療法は現在活発に研究が行われている領域であり,この治療は特定の集団において忍容性が良好で,生存期間を延長する。

アジュバント化学療法は,現在はII期またはIII期患者に対する標準治療となっており,IB期で腫瘍の大きさが > 4cmの患者に行われることもある。アジュバント化学療法は5年生存率を上昇させる。しかしながら,アジュバント化学療法を用いるかどうかの判断は,患者の併存症とリスク評価に依存する。一般的に用いられる化学療法レジメンは,シスプラチンをベースとする2剤併用である。

III期は化学療法,放射線療法,手術,またはこれらの組合せによって治療する;治療の順序および選択は,病変の位置および併存疾患に依存する。一般に,化学療法,免疫療法,および放射線療法の同時施行は,臨床病期IIIA期の切除不能例に対する標準治療とみなされているが,生存期間は依然として不良である(生存期間の中央値は10~14カ月)。IIIB期で対側縦隔リンパ節転移または鎖骨上リンパ節転移を伴う患者には,放射線療法または化学療法もしくはそれらの併用が勧められる。局所進行例で心臓,大血管,縦隔,または脊椎への浸潤がみられる患者には,通常は放射線療法が施行される。一部の患者(例,T4 N0 M0の腫瘍を有する患者)では,外科的切除に加えて,化学療法と放射線療法の併用による術前またはアジュバント療法を施行できる場合がある。

IV期では,生存期間の延長と症状の緩和が目標となる。腫瘍量を減らし,症状を緩和し,QOLを改善するために,化学療法,分子標的薬,および放射線療法が用いられることがある。しかしながら,分子標的薬で治療できる変異が同定されていない場合は,生存期間の中央値がわずか9カ月であり,1年以上生存する患者の割合は25%未満である。緩和目的の外科的手技が必要になることがあり,具体的な手技としては,反復性の胸水に対する胸腔穿刺および胸膜癒着術,胸腔ドレーン留置,気管および主気管支に及ぶ腫瘍に対する気管支鏡下の高周波療法,気道閉塞を予防するためのステント留置術,一部の症例では切迫した脊髄圧迫に対する脊椎の安定化などがある。

NSCLCに対する分子標的療法

NSCLCの治療は精密医療(precision medicine)に基づいて行われる。腺癌では分子生物学的解析により,治療の指針となる特定の変異が検索される(非小細胞肺癌に対する主な分子標的薬の表を参照)。NSCLCの治療には,いくつかの免疫療法薬(ニボルマブ,ペムブロリズマブ,デュルバルマブ,アテゾリズマブ)を使用できる。これらの薬剤は,免疫応答を刺激して,がんを異物として認識するよう促し,自然免疫の反応を妨げようとする腫瘍の能力を阻害する。これらの薬剤は,化学療法(ほとんどの場合プラチナ製剤の2剤併用療法)を行っても腫瘍が進行する場合に使用され,この治療に反応する腫瘍の特性を判定するために広範な研究が行われている。例えば,PD-L1タンパク質の発現が高い腫瘍はペムブロリズマブに反応する。

発がんドライバー変異のある腫瘍に対しては,標的治療がまず使用される。EGFRの感受性変異(すなわち,エクソン19の欠損,エクソン21 L858変異)を有するIV期患者には,EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が一次治療で投与されることがあり,奏効率および無増悪生存期間は標準化学療法を用いる場合よりも良好である。EGFR TKIとしてはゲフィチニブ,エルロチニブ,アファチニブ,ブリグチニブなどがある。

オシメルチニブは,後天性のT790M変異を伴うEGFR変異陽性NSCLCに対する第1選択薬である。発がんドライバー変異のない非扁平上皮NSCLC患者では,血管内皮増殖因子阻害薬のベバシズマブと標準化学療法(例,カルボプラチン+パクリタキセルなどのプラチナ製剤の2剤併用)を併用することで成績を改善することができる。ネシツムマブは,非扁平上皮肺癌に対する一次治療としてシスプラチン+ゲムシタビンとの併用で使用できる。

EML-4-ALK転座がある患者には,ALKおよびROS1阻害薬(クリゾチニブ,セリチニブ,またはアレクチニブ)を投与すべきである。ALK変異を有する患者には,アレクチニブまたはセリチニブを使用することができる。

BRAF変異を有する患者には,BRAF阻害薬(例,ダブラフェニブ,トラメチニブ)が有益である。ほかにも多くの標的生物学的製剤が研究段階にあり,その中には,腫瘍細胞のシグナル伝達経路や増殖する腫瘍細胞に酸素と栄養を供給する血管新生の経路を特異的に標的とするものなどがある。

表&コラム
表&コラム

再発肺癌

根治を目指した治療後に再発した肺癌に対する治療選択肢は部位によって異なるが,具体的には,転移巣に対する反復化学療法または分子標的薬,局所再発または転移による疼痛に対する放射線療法,追加の外照射療法に耐えられない場合の気管支内病変に対する密封小線源治療などがある。まれに,孤立性転移巣の外科的切除または緩和目的の外科的切除が考慮される。

局所再発したNSCLCの治療は,原発腫瘍のI期からIII期と同様のガイドラインに従う。最初に手術が行われた場合,放射線療法が主な治療法となる。再発が遠隔転移として現れる場合,患者はIV期の症例のように,症状緩和に重点を置いて治療される。

再発または転移性のIV期NSCLCに対する治療法としては,化学療法や分子標的薬などがある。何を選択するかは,腫瘍の組織型,変異プロファイル,患者の身体機能状態,および患者の希望によって決定する。例えば,ゲフィチニブやエルロチニブなどのEGFR TKIは,たとえEGFRの感受性変異がない患者でも,二次または三次治療として使用することができる。NSCLCが進行した場合は,一般的には生検を再度施行して分子遺伝学的解析またはPD-L1解析を再び行うことにより,以降の治療の指針を得ることができる。

肺癌の合併症

無症状の悪性胸水には治療の必要はない。症状を伴う胸水に対する初期治療は胸腔穿刺による。症状を伴う胸水が複数回の胸腔穿刺後も再発する場合は,胸腔ドレーンで排液する。胸腔内にタルク(あるいは,ときにテトラサイクリンまたはブレオマイシン)を注入する手技(胸膜癒着術)は,胸膜に瘢痕を生じさせ,胸腔の空間を消失させ,90%以上の症例で有効となる。胸膜癒着術は外科的に行うことも可能であり,その場合はしばしば胸腔鏡下手術(VATS)が用いられる。

上大静脈症候群の治療は肺癌の治療と同じであり,化学療法(SCLC),放射線療法(NSCLC),またはこれらの併用(NSCLC)である。コルチコステロイドは広く使用されているが,有効性は証明されていない。

肺尖部の腫瘍により生じたホルネル症候群の治療には,術前放射線療法併用もしくは非併用の手術,またはアジュバント化学療法併用もしくは非併用の放射線療法である。

腫瘍随伴症候群の治療は,症候群の種類によって異なる。

終末期ケア

全生存率が低いため,終末期ケアの必要性を見越しておくべきである。研究では,早期の緩和ケア介入が終末期化学療法の使用を減らし,生存期間を延長させる可能性さえある(すなわち,積極的な治療の有害作用を避けることによる)ことが報告されている。

息切れの症状は酸素投与と気管支拡張薬によって治療できる。終末期前の息切れにはオピオイドで対処できる。

疼痛,不安,悪心,および食欲不振が特によくみられ,モルヒネの非経口投与;オピオイドの経口,経皮,または非経口投与;および制吐薬によって治療できる。

ホスピスプログラムにより提供されるケアは患者および家族に極めて広く受容されているにもかかわらず,使用が著しく少ない。

治療に関する参考文献

  1. 1.Farjah F, Flum DR, Varghese TK Jr, et al: Surgeon specialty and long-term survival after pulmonary resection for lung cancer.Ann Thorac Surg 87 (4):995–1004, 2009.doi: 10.1016/j.athoracsur.2008.12.030

  2. 2.Schipper PH, Diggs BS, Ungerleider RM, Welke KF: The influence of surgeon specialty on outcomes in general thoracic surgery: A national sample 1996 to 2005.Ann Thorac Surg 88 (5):1566–1572, 2009.doi: 10.1016/j.athoracsur.2009.08.055

肺癌の予後

SCLCは全体的に予後不良である。限局型SCLCの生存期間の中央値は20カ月で,5年生存率は20%である。進展型SCLCの患者は特に予後不良で,5年生存率は1%を下回っている。

NSCLCでは,5年生存率が病期によって異なり,I期では68~92%,IV期では0~10%未満である(1)。転移のあるNSCLC患者では,無治療での生存期間が平均で6カ月であるのに対し,治療を受けた場合の生存期間の中央値は約9カ月である。NSCLC患者の生存期間は早期と進行期ともに改善している。早期患者(IB~IIIB期)では外科的切除後にプラチナ製剤ベースの化学療法レジメンを用いた場合に生存期間が延長することが示されている。さらにIV期患者でも,分子標的療法により生存期間の延長が得られており,特にEGFR変異またはEML-4-ALKもしくはROS1転座がある患者で顕著である。分子標的療法と改善された逐次併用療法によって生存期間が徐々に延長してきており,この傾向は病期が進んだ患者で特に大きくなっている。

予後に関する参考文献

  1. 1.Goldstraw P, Chansky K, Crowley J, et al: The IASLC Lung Cancer Staging Project: Proposals for Revision of the TNM Stage Groupings in the Forthcoming (Eighth) Edition of the TNM Classification for Lung Cancer. J Thorac Oncol 11(1):39-51, 2016.doi:10.1016/j.jtho.2015.09.009

肺癌の予防

肺癌予防のための積極的介入には,禁煙を除いて,効果があると証明されているものはない。

個人住宅における高いラドン濃度を改善することで,既知の発がん性放射線を取り除くことはできるが,これが肺癌発生率を低下させることは証明されていない。

食事でレチノイドおよびβ-カロテンが豊富な果物および野菜の摂取量を増やすことは,肺癌発生率に影響がないようである。喫煙者におけるビタミン補給は,有効性が証明されていないか(ビタミンE),有害である(β-カロテン)。非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)とビタミンEサプリメントが元喫煙者の肺癌予防につながることを示唆するエビデンスは確認されていない。禁煙以外の化学予防を行う場合は,必ず臨床試験の一環として行うべきである。

細胞シグナル伝達および細胞周期経路や腫瘍関連抗原を標的とする分子生物学的アプローチ(精密化学予防[precision chemoprevention])が研究段階にある。

要点

  • 肺癌に寄与する主要因は喫煙である。

  • 全肺癌患者のうち15%は喫煙歴が全くなく,ドライバー変異をもつ可能性が疑われる。

  • 肺癌は小細胞肺癌(SCLC)または非小細胞肺癌(NSCLC)のいずれかである。

  • NSCLCでは,分子標的薬に反応するドライバー変異がいくつか同定されており,新たに診断された腺癌では,EGFRALKBRAF,およびROS1変異の検査を行うべきである。腫瘍に対するPD-L1免疫染色も行うべきである。

  • 症候としては,咳嗽,発熱,嗄声,胸水,肺炎,パンコースト腫瘍,腫瘍随伴症候群,上大静脈症候群,ホルネル症候群,脳,肝,および骨への転移などがありうる。

  • 診断は臨床情報および画像検査(例,CT,PET-CT)に基づいて疑い,組織学的に(例,喀痰または胸水の細胞診もしくはコア生検)確定する。

  • 現喫煙者と高リスクに該当する50歳以上の元喫煙者(20 pack-yearを超える喫煙歴があり,禁煙開始からの経過期間が15年未満の元喫煙者)には,低線量ヘリカルCTによる年1回のスクリーニングを考慮する;画像検査を行う前に,共同で意思決定を行うべきである。

  • 病期診断のため検査を行う(全身の画像検査から始める)。

  • 早期NSCLCは肺予備能が十分であれば切除により治療し,しばしば術後化学療法を併用する。

  • 進行期のSCLCおよびNSCLCは化学療法および/または免疫療法で治療する。

  • 腺癌の場合は,治療レジメンの決定に役立てるために遺伝子検査を完了すべきである。

より詳細な情報

医師向けの情報を提供している英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Lung Cancer Mutation Consortium: group of cancer centers that conduct clinical trials

  2. US Preventive Services Task Force Recommendations for Lung Cancer Screening

  3. Eastern Cooperative Oncology Group: A multidisciplinary organization that designs and conducts cancer research

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