米国におけるマラリアの治療

優先

薬剤a

成人における用法・用量

小児における用法・用量b

熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)またはマラリア流行地域で感染した不明種によるマラリアで,合併症がみられない症例。(クロロキン感受性地域で感染したマラリアに対する追加の選択肢は以下を参照。)—経口薬

推奨される薬剤

アルテメテル/ルメファントリンc

6回分(1回4錠)を3日間かけて投与(0および8時間時点),その後2日間は1回分を1日2回で投与

成人と同様の間隔で全6回;用量 =

5~15kg:1錠

15~25kg:2錠

25~35kg:3錠

35kg以上:4錠

または

アトバコン/プログアニルd

成人用錠剤4錠,1日1回,3日間

5kg未満:適応なし

5~8kg:小児用錠剤2錠,1日1回,3日間

9~10kg:小児用錠剤3錠,1日1回,3日間

11~20kg:成人用錠剤1錠,1日1回,3日間

21~30kg:成人用錠剤2錠,1日1回,3日間

31~40kg:成人用錠剤3錠,1日1回,3日間

41kg以上:成人用錠剤4錠,1日1回,3日間

または

硫酸キニーネ + 以下のいずれか:

650mg,1日3回,3または7日間e

10mg/kg,1日3回,3または7日間e

成人用量を超えない

  • ドキシサイクリンf

100mg,1日2回,7日間

2.2mg/kg,1日2回,7日間

  • テトラサイクリンf

250mg,1日4回,7日間

6.25mg/kg,1日4回,7日間

  • クリンダマイシンg

7mg/kg,1日3回,7日間

7mg/kg,1日3回,7日間

代替薬(他の選択肢が使用できない場合)

メフロキンh

750mg,単回,6~12時間後に500mg

15mg/kg,単回,6~12時間後に10mg

クロロキン感受性地域(パナマ運河以西の中米,ハイチ,ドミニカ共和国,中東の大部分)で感染した熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)および未同定種,ならびに全ての地域の四日熱マラリア原虫(P. malariae)およびサルマラリア原虫(P. knowlesi)によるマラリアで,合併症がみられない症例に対するその他の選択肢。未同定種が三日熱マラリア原虫(P. vivax)または卵形マラリア原虫(P. ovale)である可能性がある場合は,再発を予防するためにプリマキンまたはタフェノキン(tafenoquine)による最終期治療を行う(以下を参照)—経口薬

薬剤i

クロロキンj,k,

1000mg,その6,24,48時間後に500mg

16.6mg/kg(最大1000mg),その6,24,48時間後に8.3mg/kg(最大500mg)

または

ヒドロキシクロロキンk

800mg,その6,24,48時間後に400mg

13mg/kg(最大800mg),その6,24,48時間後に6.5mg/kg(最大400mg)

または

アルテメテル/ルメファントリンc

用法・用量は上記参照

用法・用量は上記参照

三日熱マラリア原虫(P. vivax)(クロロキン耐性が蔓延しているパプアニューギニアとインドネシアを除く)または地域を問わず卵形マラリア原虫(P. ovale)によるマラリアで,合併症がみられない場合―経口薬

推奨される薬剤i

クロロキンj,kまたは

ヒドロキシクロロキンk

用法・用量は上記参照

用法・用量は上記参照

プリマキンl,m

30mg,1日1回,14日間

0.5mg/kg(最大30mg),1日1回,14日間

または

タフェノキン(tafenoquine)l,m

300mg,単回

16歳以上の患者(用量は成人と同じ)

クロロキンとの併用でのみ推奨される

クロロキン耐性三日熱マラリア原虫(P. vivax)が報告されている地域(パプアニューギニア,インドネシア)で感染した三日熱マラリア原虫によるマラリアで,合併症がみられない場合m―経口薬

推奨される薬剤

アルテメテル/ルメファントリンc

用法・用量は上記参照

用法・用量は上記参照

または

アトバコン/プログアニルd

成人用錠剤4錠,1日1回,3日間

5kg未満:適応なし

5~8kg:小児用錠剤2錠,1日1回,3日間

9~10kg:小児用錠剤3錠,1日1回,3日間

11~20kg:成人用錠剤1錠,1日1回,3日間

21~30kg:成人用錠剤2錠,1日1回,3日間

31~40kg:成人用錠剤3錠,1日1回,3日間

41kg以上:成人用錠剤4錠,1日1回,3日間

または

キニーネ + 以下のいずれか:

650mg,1日3回,3または7日間e

10mg/kg,1日3回,3または7日間e

  • ドキシサイクリンf

100mg,1日2回,7日間

2.2mg/kg,1日2回,7日間

  • テトラサイクリンf

250mg,1日4回,7日間

6.25mg/kg,1日4回,7日間

または

メフロキンh

750mg,単回,6~12時間後に500mg

15mg/kg,単回,6~12時間後に10mg/kg

上記のいずれかに加えて

プリマキンl

30mg,1日1回,14日間

0.5mg/kg(最大30mg),1日1回,14日間

または

タフェノキン(tafenoquine)l

300mg,単回

16歳以上の患者(用量は成人と同じ)

クロロキンとの併用でのみ推奨される

重症マラリアn,全てのマラリア原虫(Plasmodium)―注射薬

推奨される薬剤

静注用アルテスナート(artesunate)nは民間業者から入手できるが,24時間以内に入手できない場合はCDC Malaria Hotlineoに連絡する

(アルテスナート[artesunate]の静注剤がすぐに入手できない場合は,アルテメテル/ルメファントリンまたは他の代替薬による暫定的な経口治療を開始する。アルテスナート[artesunate]が到着したら,経口治療は中止する。)

成人:2.4mg/kg(実体重),静注,0,12,24,および48時間時点

20kg未満の小児:3mg/kg(実際の体重),静注,0,12,24,および48時間時点

20kg以上の小児:成人用量

3回目の投与から4時間以上経過後に原虫密度を再評価する。原虫密度が1%未満で,患者が経口投与に耐えられる場合は,以下のいずれかによる経口治療を開始する:

アルテメテル/ルメファントリン(望ましい)

用法・用量は上記参照

用法・用量は上記参照

アトバコン-プログアニルd

用法・用量は上記参照

用法・用量は上記参照

キニーネ + ドキシサイクリン(8歳以上の妊娠していない患者)f

用法・用量は上記参照;必要であれば同用量のドキシサイクリンを静注してもよい

用法・用量は上記参照:同用量を静注してもよい

キニーネ + クリンダマイシンg,p(8歳未満の小児および妊婦)

経口用量は上記参照,ただし注射剤による治療が必要な場合は,10mg/kgの負荷投与に続き,8時間毎に5mg/kgを静注する

経口用量は上記参照,ただし注射剤による治療が必要な場合は,10mg/kgの負荷投与に続き,8時間毎に5mg/kgを静注する

上記に加えて,三日熱マラリア原虫(P. vivax)または卵形マラリア原虫(P. ovale)の可能性が高いか,診断が確定している場合

プリマキンl

30mg,1日1回,流行地域を離れてから14日間

0.5mg/kg(最大30mg),1日1回,流行地域を離れてから14日間

タフェノキン(tafenoquine)l

300mg,単回

16歳以上の患者にのみ使用する(用量は成人と同じ)

クロロキンとの併用でのみ推奨される

a 有害反応および禁忌については,マラリア予防に使用される薬剤の表を参照のこと。予防的薬物療法の施行中にマラリアが発生した場合は,その使用薬剤は治療レジメンに含めるべきではない。

b 小児用量が成人用量を超えないようにすべきである。

c アルテメテル/ルメファントリンの固定用量20mg/120mgの配合錠が使用可能である。一般に,この組合せは安全性データが不十分であるため,妊婦(特に妊娠第1トリメスター)には推奨されない;他の選択肢が利用できないか忍容性がなく,かつベネフィットがリスクを上回る場合には使用してもよい。この薬剤は食物または全乳と一緒に服用させるべきである。患者が服用後30分以内に嘔吐した場合は,再度服用させるべきである。

d アトバコン/プログアニルの用量固定合剤:成人用錠剤(アトバコン250mg/プログアニル100mg)および小児用錠剤(アトバコン62.5mg/プログアニル25mg)が使用可能である。吸収を高めるために,食物または乳飲料とともに服用させるべきである。この組合せは,クレアチニンクリアランスが30mL/min未満の患者では禁忌である。一般に,この組合せは安全性データが不十分であるため,妊婦(特に妊娠第1トリメスター)には推奨されない;他の選択肢が利用できないか忍容性がなく,かつベネフィットがリスクを上回る場合には使用してもよい。食物または牛乳と一緒に服用することのほか,1日2回に分けて投与することでも,悪心および嘔吐が軽減する。患者が服用後30分以内に嘔吐した場合は,再度服用させるべきである。

e 米国では,硫酸キニーネカプセルの含量は324mgであるため,成人には2カプセルで十分である。カプセル以外のキニーネ製剤が入手できないため,小児への投与はより困難となりうる。東南アジアでは,キニーネに対して相対的に耐性が増加しているため,治療は7日間継続すべきである。その他の地域では,治療は3日間だけ継続すべきである。消化管への有害作用のリスクを低減するため,キニーネは食後に服用させるべきである。キニーネ + ドキシサイクリンまたはテトラサイクリン系薬剤は,効力に関するデータがより多く得られているため,キニーネ + クリンダマイシンよりも一般に望ましい。

f テトラサイクリン系薬剤の使用は妊娠中および8歳未満の小児には推奨されない。ただし,ドキシサイクリンとテトラサイクリンについては,他の治療選択肢が利用できないか,患者がそれらに耐えられない場合,およびベネフィットがリスクを上回ると考えられる場合には,使用してもよい。

g 妊娠中および8歳未満の小児には,クリンダマイシンが推奨される。

h メフロキンは,他の選択肢に比べて重度の精神神経系有害反応の発生率が高いため,他の選択肢が使用できない場合を除いて推奨されない。メフロキンは,うつ病症状,最近のうつ病の既往,全般不安症,精神症,統合失調症,その他の重大な精神疾患,または痙攣発作がみられる患者では禁忌である。東南アジアの一部の地域(例,ミャンマーとタイ,中国,およびラオスとの国境地域,タイとカンボジアの国境地域,ベトナム南部)では,メフロキン耐性が報告されているため,メフロキンは東南アジアで発生した感染症には推奨されない。

i クロロキン耐性のある地域の熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)感染症に推奨される全てのレジメンは,クロロキンに感受性のある地域のどの病原体にも使用できる;熱帯熱マラリアに対して最も迅速に作用する薬はアルテメテル-ルメファントリンであり,これは感染している分離株がクロロキン感受性である場合にも当てはまる。卵形マラリア原虫(P. ovale)または三日熱マラリア原虫( P. vivax)感染症に対しては,プリマキンまたはタフェノキン(tafenoquine)も(G6PD欠損症を除外するための検査後に)投与する。

j消化管への有害作用のリスクを低減するため,クロロキンは食後に服用させるべきである。

k 合併症のないクロロキン感受性の感染症には,クロロキンまたはヒドロキシクロロキンが推奨されるが,クロロキン耐性の感染症の治療に使用されるレジメンの方が簡易であるか好まれる場合,またはクロロキンが入手できない場合には,これを使用してもよい。

l プリマキン,1日1回,14日間またはタフェノキン(tafenoquine)の単回投与は,肝臓内で休眠している可能性のある三日熱マラリア原虫(P. vivax)および卵形マラリア原虫(P. ovale)のヒプノゾイトを駆除し,これらの感染症の再発を予防する目的で用いられる。プリマキンおよびタフェノキン(tafenoquine)はG6PD欠損症患者で溶血性貧血を引き起こす可能性があるため,これらの薬剤による治療を開始する前にG6PDのスクリーニングを実施しなければならない。G6PD欠損症の境界例に対し,または上述のレジメンの代替薬として,プリマキン45mg,経口,週1回,8週間の投与を行うことがある;G6PD欠損症患者に対してこの代替レジメンを考慮する場合は,感染症および/または熱帯医学の専門家へのコンサルテーションを行うべきである。プリマキンおよびタフェノキン(tafenoquine)は,妊娠中または授乳中に使用してはならない(授乳中については,新生児のG6PD値が正常であることが検査で判明している場合を除く)。

m クロロキン耐性三日熱マラリア原虫( P. vivax)による感染症が報告されていない地域で三日熱マラリア(P. vivax)が発生した場合は,クロロキンにより治療を開始すべきである。効果がみられない場合は,クロロキン耐性三日熱マラリア原虫(P. vivax)に対するレジメンに治療を変更し,CDC Malaria Hotlineに問い合わせるべきである。

n CDCは,重症マラリア患者にはアルテスナート(artesunate)の注射剤(静注)による治療を可及的速やかに開始することを推奨している。静注用のキニジンは米国ではもはや入手できない。患者に以下が1つでもみられる場合,重症マラリアとみなされる:意識障害,昏睡または痙攣発作,重度の正球性貧血(ヘモグロビン < 7g/dL[70g/L]),腎不全,肺水腫,急性呼吸窮迫症候群,ショック,播種性血管内凝固症候群,自然出血,アシドーシス,ヘモグロビン尿症,黄疸,原虫寄生率 > 5%。重症マラリアは,熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)が原因である場合が最も多い。アルテスナート(artesunate)の静注剤は,薬剤を内服できない患者にも推奨される。

米国では,アルテスナート(artesunate)の静注が2020年5月に米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)の承認を受けた。この薬剤が民間の販売業者からすぐに入手できない場合は,CDC Malaria Hotlineに電話することでCDCから暫定的に入手できる。米国では,アルテスナート(artesunate)が病院に届くまでに12~24時間かかると推定される。

アルテスナート(artesunate)の静注剤をすぐに入手できない場合は,アルテメテル-ルメファントリン,アトバコン-プログアニル,または硫酸キニーネ,また,これらも入手できない場合はメフロキンによる暫定的な経口治療を開始する。嘔吐がみられる患者には制吐薬が役立つことがある。嚥下できない患者(例,せん妄のため)には,アルテメテル/ルメファントリンまたはアトバコン/プログアニルの錠剤を砕いて経鼻胃管から投与してもよい。

oCDC Malaria Hotlineは月曜日から金曜日,東部標準時で午前9時から午後5時までは770-488-7788または855-856-4713,通話料無料;営業時間外,週末,休日は770-488-7100で利用可能である。

p 患者がクリンダマイシンを服用できない場合は,負荷量として10mg/kgを静脈内投与し,その後5mg/kgを8時間毎に投与してから,服用が可能になり次第直ちに経口投与に切り替える。急速静注は避けるべきである。治療コースは7日間である。

G6PD = グルコース-6-リン酸脱水素酵素;CDC = 米国疾病予防管理センター

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