労働関連反復運動損傷

執筆者:Michael I. Greenberg, MD, Drexel University College of Medicine;
David Vearrier, MD, MPH, University of Mississippi Medical Center
レビュー/改訂 2022年 5月
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多くの職業には反復運動が伴い,それにより腱炎,滑液包炎,神経絞扼症候群などの損傷が生じることがある。症状としては,動かすと悪化する痛みや,ときに圧痛などがある。診断は臨床的に行う。治療は安静であり,ときに副子,NSAID(非ステロイド系抗炎症薬),および理学療法による。

反復運動損傷は労働関連損傷の多くを占めている。反復的な動作または姿勢を必要とする業務には,コンピュータでのタイピング,食料品のスキャン,釘打ち,組み立てラインでの作業,および削岩機の使用などがある。

腱炎は,1つの筋肉に繰り返し負荷がかかり,その結果,腱に微小断裂が生じることによって起こる腱の炎症である。身体は自然に微小断裂を修復するが,微小断裂が身体の修復能を上回る速さで起こると,炎症が生じて腱炎を引き起こす。労働関連腱炎(work-related tendonitis)は,一般的には上腕二頭筋,肘関節,および肩腱板に発生する(一般的な労働関連腱炎の表を参照)。

滑液包炎は,関節面に繰り返し圧力がかかることによって起こる滑液包の炎症である。炎症がなければ,滑液包は摩擦の少ない表面を形成し,関節運動中に筋肉や腱が骨の上を滑らかに動けるようにする。滑液包に炎症が生じると,滑液がその中に貯留し,疼痛を伴うようになる。労働関連滑液包炎(work-related bursitis)は,一般的には肘関節,肩関節,股関節,および膝関節に発生する(一般的な労働関連滑液包炎の表を参照)。

神経絞扼は,トンネル構造の中を走行する末梢神経が圧迫されることにより起こる。その結果,神経が機能不全に陥り,筋力低下よりも感覚異常の方がよくみられる。労働関連神経絞扼症候群(work-related nerve entrapment syndrome)は,一般的には手関節および肘関節に発生する(一般的な労働関連神経絞扼症候群の表を参照)。

症状と徴候

腱炎では通常,罹患した腱を活発に動かすと痛みが生じ,特に抵抗に逆らって動かした場合に生じやすい。触診では罹患した腱に圧痛がみられる。重症例では,熱感,浮腫,および紅斑を認めることがあるが,皮膚硬結はみられない。

滑液包炎は疼痛および特に侵された滑液包に限局する圧痛を引き起こす。関節を自動的または他動的に動かすと,炎症を起こした滑液包上を筋肉または腱が滑るため疼痛が悪化する。滑液が滑液包に貯留し,滑液包が腫脹する(ただし,腫脹が必ずしも肉眼的に明らかであるとは限らない);滑液包に圧痛がみられ,滑液包を覆う皮膚は熱感または発赤を呈することがある。腫脹した滑液包を圧迫または伸展する動きも痛みを引き起こす。肘頭滑液包炎では疼痛より腫脹が著明になることがある。

神経絞扼では,絞扼部位より遠位に疼痛,ピリピリ感,しびれ,および灼熱感が生じる頻度が最も高い。筋力低下は比較的まれである。

診断

  • 臨床的評価

  • ときに神経伝導検査またはMRI

反復運動損傷の診断は,主として疼痛の部位および疼痛を誘発する運動に基づいて臨床的に行うが,ときに診断検査が適応となる。患者の症状を引き起こしている反復運動の性質を同定するために,職業歴が重要である。

腱の活発な動き(特に抵抗に逆らった動き)により疼痛が生じる場合,腱炎が疑われる。腱を触診した際の圧痛は腱炎の診断の裏付けとなる。皮膚硬結がある場合,一部の重度の蜂窩織炎を腱炎と鑑別できる;そのような硬結は,ときに蜂窩織炎でみられるが,腱炎ではみられない。

表&コラム

滑液包上に腫脹もしくは炎症の徴候がある場合,または滑液包に影響を及ぼす動きによって悪化する説明のつかない疼痛がある場合は,滑液包炎を疑う。反復運動による滑液包炎は,抗菌薬療法を必要とする感染性(化膿性)滑液包炎,および他の特異的治療を必要とすることがある結晶誘発性の滑液包炎(例,痛風)と鑑別すべきである。感染性または結晶誘発性の滑液包炎が疑われる場合,滑液を吸引し,臨床検査に供するべきである。

表&コラム

神経絞扼症候群は典型的には,労働者が特定の神経領域に沿った異常感覚を訴えて受診した場合に臨床的に疑う。一部の症例では,神経伝導検査が診断の確定に有用なことがあるが,ルーチンに必要なわけではない。画像検査は一般的には行われないが,構造的原因(例,腫瘍)が疑われる場合にはMRIを行うことがある。

表&コラム

予後

労働関連反復運動損傷(work-related repetitive motion injury)の大半は数週間の安静で軽快する。しかしながら,神経絞扼症候群は持続することがあり,結果として慢性疼痛が生じる。

治療

  • 安静

  • 鎮痛薬,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID),および理学療法

  • 腱炎には,コルチコステロイド注射

  • 滑液包炎には,ドレナージ

  • 神経絞扼には,副子または装具と,場合によりコルチコステロイド注射または手術

労働関連反復運動損傷の治療には,患部を安静にすることが含まれる。損傷の原因となった反復運動なしには通常の職務を遂行できない場合には,暫定的な業務(light dutyまたはmodified dutyとも呼ばれる)を割り当てる必要が生じることがある。損傷の種類と重症度によっては,暫定的な仕事を数週間から数カ月間続ける。反復運動を含む仕事の再開が早すぎると,損傷が再発することがあり,その結果,暫定的な仕事に戻り,最終的には暫定的な仕事に費やす時間が増加する。労働者には,損傷を悪化させる自宅での活動を避けるよう指導すべきである。

労働関連反復運動損傷に対する薬物療法には,鎮痛薬および抗炎症薬などがある。NSAIDは,典型的には,反復運動損傷による疼痛の短期的緩和に効果的であり,腱炎および滑液包炎の治癒を促進する。

理学療法は,反復運動損傷の労働者に有益であり,回復を早めることがある。

腱炎に対しては,罹患した腱上にコルチコステロイドを注射することで短期的には疼痛が緩和されるが,コルチコステロイドは長期的には必ずしも効果的ではなく,瘢痕化,腱の脆弱化,腱断裂などの有害作用がみられることもある。

肉眼的腫脹または感染の可能性がある滑液包炎 に対しては,侵された滑液包内の体液のドレナージと場合によってはコルチコステロイド注射を行うことで疼痛が緩和され,回復が早まることがある。ドレナージ後は,圧迫包帯(例,弾性包帯)で体液の再貯留を軽減できることがある。

神経絞扼症候群に対しては,副子または装具を使用することで症状が軽減することがある。症状が重度であるか持続する場合は,コルチコステロイドの注射と必要になるかもしれない外科的介入のために整形外科医への紹介が必要になることがある。

要点

  • 多くの仕事は反復運動を伴うため,労働関連反復運動損傷はよくみられる。

  • 反復運動による滑液包炎を,抗菌薬を必要とする感染性の滑液包炎と鑑別する。

  • 労働関連反復運動損傷は全て,必要に応じて鎮痛薬,抗炎症薬,および理学療法;腱炎にはコルチコステロイド注射;滑液包炎にはドレナージ(場合によりコルチコステロイドの注射を伴う)で治療する。

  • 神経絞扼症候群には,副子または装具を試すが,症状が重度であるか持続する場合は,コルチコステロイド注射および/または外科的介入を想定して整形外科医に紹介する。

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