金属ヒューム熱およびポリマーヒューム熱

執筆者:Michael I. Greenberg, MD, Drexel University College of Medicine;
David Vearrier, MD, MPH, University of Mississippi Medical Center
レビュー/改訂 2022年 5月
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金属ヒューム熱(metal fume fever)は,最も一般的には金属を含有するヒュームへの職業曝露によって起こる臨床症候群であり,そのようなヒュームは溶接やその関連工程で発生する。ポリマーヒューム熱(polymer fume fever)は,臨床的には金属ヒューム熱と類似するが,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE,テフロン®として知られる)などの特定のフッ素化ポリマー製品への曝露によって引き起こされる。診断は臨床的評価による。治療は支持療法による。

金属ヒューム熱は,亜鉛ヒュームや溶融した真鍮の流し込みに関連する病態として1800年代に初めて認識された。1970年代には,金属ヒューム熱は溶接工の間でかなり多くみられ,20~59歳の溶接工の31%がキャリアの中で少なくとも1回は経験していた。米国では,安全規制および職場曝露対策の改善により,今日では金属ヒューム熱の頻度は減少しており,現在の年間発生例数は1500~2500例と推定されている。

金属ヒューム熱は,芸術家や愛好家など,作業現場以外の溶接工にも発生することがある。金属ヒューム熱との関連が認められる最も一般的な種類の金属は亜鉛であるが,症例報告では他の金属も,可能性のある原因として示唆されている。

金属ヒューム熱は,低酸素症および呼吸不全を伴うより重症の症候群であるカドミウム肺臓炎とは異なる。

ポリマーヒューム熱は,臨床的には金属ヒューム熱と類似するが,ポリテトラフルオロエチレン(テフロン®)を300℃を超えて加熱したときに発生する蒸気に曝露することで引き起こされる。ポリマーヒューム熱は,高温でPTFEを取り扱う労働者の症例集積研究において1951年に最初に報告された。

米国では,職場衛生の改善により職業性のポリマーヒューム熱の発生率が低下している。家庭の台所でテフロン®調理器具の過熱によって発生したPTFEの蒸気への曝露により,ヒトにポリマーヒューム熱が生じ,ペットの鳥が死亡したことがある。

病態生理

金属ヒューム熱の正確な病態生理は不明であるが,その機序は,酸化亜鉛の蒸気への肺の曝露によって誘発される炎症性サイトカインの放出および好中球の活性化であると考えられている。ポリマーヒューム熱の機序は不明であるが,高温で生成されたフルオロカーボン分解産物への肺の曝露によると考えられている。

症状と徴候

金属ヒューム熱は典型的にはインフルエンザに類似した非特異的症状(例,発熱,悪寒戦慄,倦怠感,筋肉痛,関節痛,頭痛)を呈する。その他の症状としては,乾性咳嗽,胸膜性胸痛,息切れ,咽頭炎,筋痙攣,味覚の障害などがある。腹痛,悪心,嘔吐はあまりみられない。

症状の発現は曝露後4~10時間遅れ,労働者がシフト勤務を終えた後に症状が現れることがあるため,症状と職業曝露との関連を同定することがより困難になる。

曝露を繰り返すとタキフィラキシーが生じることがある。その結果,症状は1週間の労働時間の経過とともに軽減するが,週末の休みの後にはより重度になるため,月曜日の朝の発熱(Monday morning fever)と呼ばれることもある。

重度の金属ヒューム熱はまれであり,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に類似し,発熱,低酸素症,および頻呼吸を引き起こす。

ポリマーヒューム熱の症状は金属ヒューム熱の症状と同じであるため,この2つの症候群を鑑別するには曝露歴が必要である。しかしながら,ポリマーヒューム熱はタキフィラキシーを引き起こさない。

診断

  • 臨床的評価

  • 胸部X線

  • 心電図検査

金属ヒューム熱には確定診断が可能な検査がないため,診断は主に病歴聴取と身体診察による。金属ヒューム熱は,亜鉛の蒸気への曝露歴を有する労働者など(例,溶接工)が本症候群の特徴的症状を呈した場合に診断される。症状がインフルエンザの症状と類似しているため,診断の遅れを避けるために職業歴または曝露歴が必要である。

最も一般的な客観的所見は発熱および洞頻拍である。その他の所見は典型的にはより主観的であり,悪寒・振戦および発汗などがある。肺の診察所見は典型的には正常であり,呼吸数,呼吸努力,および胸壁運動は正常であるが,ときにラ音または喘鳴が聴取される。

金属ヒューム熱が重度の場合,肺の診察により,呼吸窮迫,笛音,ラ音,および/または類鼾音が検出される。重症の金属ヒューム熱はまれであるため,別の診断(例,ARDSの他の原因であるカドミウム肺臓炎)を考慮すべきである。

胸部X線は金属ヒューム熱では典型的には正常であるが,金属ヒューム熱を同様の症状を引き起こす他の原因(肺炎など)と鑑別するのに役立つ。軽度の血管うっ血がみられることがあるが,非特異的である。金属ヒューム熱が重度の場合,胸部X線では,ARDSでみられるような,びまん性両側性の斑状浸潤が認められる。胸部CTを施行した場合,典型的には両側性の軽度の無気肺および胸水が認められる。重症例では,CTで両側性のびまん性肺胞陰影またはすりガラス陰影を認めることがある。

臨床検査を行った場合,左方移動を伴う非特異的な白血球増多が検出されることがある。炎症マーカー(例,赤血球沈降速度,C反応性タンパク[CRP])が上昇することがある。症例報告では,急性発症時に血清亜鉛濃度が上昇したとされているが,その検査は急性期ケアの場では利用できないため,臨床的有用性はほとんどない。

肺の検査結果は,通常直ちに必要ではないが,正常であるか,肺活量のわずかな低下を示すことがあり,症状が消失すれば肺活量の低下も解消される。重症例では,拘束性肺疾患のパターンがみられることがある。

ポリマーヒューム熱の診断も臨床的に行い,加熱したPTFEまたは過熱したテフロン®調理器具への職業曝露歴と,その後の本症候群の特徴的症状の出現に基づく。特徴的な症状と徴候および診断検査の結果は,ポリマーヒューム熱がタキフィラキシーを引き起こさないことを除いて,金属ヒューム熱の場合と同じである。

予後

金属ヒューム熱は,最後に亜鉛または他の金属の蒸気に曝露してから12~48時間で自然に消失する良性疾患であるが,曝露を繰り返すとタキフィラキシーが生じることがある。ARDS様の症状を呈する重症例では,数日から数週間の支持療法が必要になることがある。症例報告によると,発症の繰り返しにより慢性閉塞性肺疾患(COPD),職業性喘息,または肺線維症を来すことがある。

ポリマーヒューム熱の予後は金属ヒューム熱のそれと同様である。

治療

  • 解熱薬および非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)などによる症状の緩和

  • 重度の呼吸窮迫に対して,機械的人工換気

金属ヒューム熱およびポリマーヒューム熱の治療は支持療法であり,具体的には解熱薬,NSAID,その他の対症療法などがある。患者はしばしば救急診療部に紹介されるが,そのような患者の大半は退院して帰宅することができる。経口または静注のコルチコステロイドは,金属ヒューム熱の状況で効力が認められていないため,推奨されない。まれに,肺疾患の既往(例,喘息,慢性閉塞性肺疾患)がある患者では,既存疾患の増悪に対する治療および入院が必要となる。いずれかの症候群の重症例が呼吸窮迫を引き起こしている場合は,ARDSに用いられるものと同じ治療(例,機械的人工換気,呼気終末陽圧[PEEP])が適応となる。

予防

職場での曝露は,環境中の亜鉛およびその他の金属ヒューム(例,クロム,ニッケル,銅,マンガン)の濃度,またはフルオロカーボンポリマーの分解産物の濃度を作業場の様々な場所で測定することによって評価すべきである。

金属ヒューム熱のある労働者には,個人防護具(PPE)を使用して亜鉛の蒸気への曝露を最小限に抑えるよう注意すべきである。曝露対策としてPPEでは不十分である場合,または複数の労働者が影響を受けている場合には,他の職場曝露対策(除去,置換,工学的対策,管理的対策)を導入するよう雇用主と連絡を取ることが必要になる。

要点

  • 金属ヒューム熱に関連する主要な金属は亜鉛であるが,他の金属が関与していることもある。

  • 溶接時などに発生する亜鉛の蒸気への職業曝露により,金属ヒューム熱が生じることがある。

  • ポリマーヒューム熱は類似の症候群であるが,加熱したテトラフルオロエチレン(テフロン®)または過熱したテフロン®調理器具に曝露することで発生する。

  • 金属ヒューム熱は典型的にはインフルエンザ様症状を引き起こすため,インフルエンザおよび他の疾患と鑑別するためには曝露歴が必要である。

  • 大半の検査では非特異的な所見が得られるが,胸部X線は金属ヒューム熱を他の疾患と鑑別するのに役立つ可能性がある。

  • 支持療法により治療する(例,軽度の症状には解熱薬およびNSAID)。

  • 金属ヒューム熱では,曝露停止後12~48時間以内に症状が消失する;職場での金属蒸気への曝露を最小限に抑えるよう労働者に注意を促す。

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