労働関連眼損傷

執筆者:Michael I. Greenberg, MD, Drexel University College of Medicine;
David Vearrier, MD, MPH, University of Mississippi Medical Center
レビュー/改訂 2022年 5月
意見 同じトピックページ はこちら

労働関連眼損傷(work-related eye injury)はよくみられ(米国では毎年65,000例以上が報告されている),生産性損失のかなりの部分を占めている。労働関連眼損傷の大半は,建設業,製造業,サービス業で報告されている。

労働関連眼損傷は以下のように大別される:

  • 眼球または周辺構造(例,眼瞼,眼窩骨)への直接的な鈍的外傷または穿通性外傷などの外傷

  • 酸,アルカリ,熱(熱損傷),紫外線,レーザー光への曝露による眼損傷など,曝露による損傷

眼の鈍的外傷は,道具が滑ったり誤動作したりして眼球に当たったときに起こることがある。眼球への直接的な鈍的外傷では,前房出血が起こることがある。重度の鈍的外傷により,球後出血および眼窩コンパートメント症候群が発生することがあり,これらは視力を脅かし,直ちに治療を必要とする医学的緊急事態である。

労働関連眼損傷には,角膜上皮剥離および異物,強膜の擦過傷,眼瞼および眼瞼縁の裂傷,涙管断裂,眼球裂傷などもある。穿通性損傷から眼内異物が生じることもある。

アルカリによる熱傷およびフッ化水素酸による熱傷は,軟部組織により深く浸透するため,他の酸による熱傷よりも重篤となる傾向がある。

労働関連眼損傷の診断

  • 事故の詳細な説明

  • フルオレセイン染色および細隙灯顕微鏡検査などの検査

  • 骨折または放射線不透過性異物が疑われる場合,眼窩のX線

労働関連眼損傷の評価は,その他の眼損傷の評価と同様である。眼瞼の大きな浮腫または裂傷がある場合,評価が困難になることがある。

正確な診断を下すためには,患者の具体的な職務内容と,患者が受傷時に正確に何をしていたかを把握することが不可欠である。高速砥石,ドリル装置,またはタガネを用いて金属を研削および切断する業務では,金属(または他の材料)の非常に小さな破片が生成され,それらが高速で空気中に放出されることがある。作業者が適切な眼の保護具を着用していない場合,それらの破片が眼球を貫通することがあり,肉眼による視診では刺入創が容易に見つからないことがある。そのため,高速の金属片が関与する全ての損傷(および職場での全ての眼損傷)は,フルオレセイン染色および細隙灯顕微鏡検査を用いて,この検査に熟練した医師が速やかに評価しなければならない。

眼窩の単純X線は,骨および/または副鼻腔の損傷だけでなく,眼球内の金属異物の同定に役立つことがある。眼内の金属片が疑われる場合は,MRIは避けるべきである。眼外科医の判断で行うCTが術前評価に役立つことがある。異物の有無にかかわらず眼球裂傷が疑われる場合は,眼科医への迅速なコンサルテーションが必須である。

眼窩コンパートメント症候群を示唆する所見には,視力障害,複視,眼球突出,眼筋麻痺,眼圧上昇などがある。

眼瞼および眼瞼縁の裂傷を同定し,修復のために適切な専門外科医に紹介すべきである。

化学眼外傷に対しては,医師は化学物質およびその物理化学的性質を同定しなければならず,それらは職場から入手可能な関連する安全性データシートに記載されている。化学物質の濃度および曝露期間も確認しなければならない。

合併症のない表層性の角膜上皮剥離は,家庭医または救急診療部でフォローアップしてもよいが,労働関連眼損傷は全て,眼科的フォローアップを考慮すべきである。直ちに眼科医へのコンサルテーションを必要とする損傷には,角膜混濁または脱落,結膜の蒼白化,眼瞼裂傷,眼窩コンパートメント症候群などがある。

労働関連眼損傷の治療

  • 職場での応急処置

  • 損傷の種類に応じた特異的治療

眼に対する基本的な応急処置は,直ちに職場で行うべきである。応急処置には,労働者をさらなる損傷から保護すること,表面麻酔薬を点眼すること,および適応となる場合(例,化学物質による損傷または熱傷,異物が隠れている可能性のある損傷)には水道水で眼を十分に洗浄することなどがある。特別な洗浄液は必要なく,洗浄液を入手するために洗浄を遅らせてはならない。化学物質への曝露に対しては,コンタクトレンズを外すために洗浄を遅らせてはならない。コンタクトレンズは通常,洗浄により流し出される。眼にMorgan lensを装用すると,長時間の洗浄が容易になる。

パール&ピットフォール

  • 眼の熱傷または化学物質への曝露に対しては,直ちに水道水での洗浄を開始する。

職場で眼の応急処置を行ったら,職場の医務室では専門知識を有する医療従事者,それらの損傷を正確に評価するために必要な設備,および知識豊富な眼科医に労働者を紹介するための人的資源が十分でない可能性があるため,労働関連眼損傷の患者は速やかに病院の救急診療部に紹介すべきである。化学物質への曝露に対しては,通常は患者の搬送中も洗浄を継続すべきであり,特にアルカリまたはフッ化水素酸による熱傷に対してはその必要性が高い。

具体的な損傷は,労働関連ではない対応する眼損傷と同様に治療する。眼窩コンパートメント症候群では,外眼角切開術が必要になることがある。

労働関連眼損傷の予防

労働関連眼損傷の予防には,労働者の教育に加えて,米国国家規格協会(American National Standards Institute:ANSI)の基準を満たす顔面および眼の保護具の使用が必要である(1, 2)。眼の保護具には必ずサイドシールドを含めるべきであり,これは労働者の前で(例,道具または機械から)発生する異物であっても,近くの物体から跳ね返って横から眼に当たる可能性があるためである。溶接,レーザー,光ファイバーなどの危険な照射光に曝露する可能性がある労働者には,特別な保護眼鏡,ゴーグル,およびシールドが必要である。

COVID-19により,眼の保護具に加えてマスクを着用する必要が生じている。安全ゴーグルおよびその他の眼鏡の曇りは問題である。曇りを防止または最小限に抑えるためのヒントとしては以下のものがある:

  • マスクを顔にフィットさせる(例,側面を締める,上部をつまんで鼻の形状に合わせる)

  • 眼鏡をかける前にレンズを拭く

予防に関する参考文献

  1. 1.Occupational Health and Safety Administration: Eye and face protection.Accessed 4/12/21.

  2. 2.American Academy of Ophthalmology: Prevent workplace eye injuries during COVID-19.2021.Accessed 4/12/21.

  3. 2.Health and safety at work: Eye protection: A guide to provision and use.Medical Research Council Clinical Sciences Centre, 2010.Accessed 4/12/21.

要点

  • 労働関連眼損傷は,物理的な力または化学物質への曝露によって生じることがある。

  • 直ちに応急処置を開始し,特に化学物質への曝露に対しては直ちに洗浄を開始する。

  • 適応に応じてフルオレセイン染色および細隙灯顕微鏡検査を用いて損傷を評価する。

  • 労働関連眼損傷のある労働者は,フォローアップのために眼科医に紹介する。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Work-Related Eye Injuries and Illnesses: Information about diagnosing eye injuries (including findings that suggest the cause), the eye examination, advance preparation of an eye tray for treatment, treatment protocols, prevention, and guidelines for the use of contacts in the workplace.

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS