処置時の鎮静・鎮痛

執筆者:Richard Pescatore, DO, Delaware Division of Public Health
レビュー/改訂 2021年 10月
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処置時の鎮静・鎮痛(procedural sedation and analgesia:PSA)とは,不安を誘発したり痛みを伴ったりする処置を受ける患者に対して短時間作用型の催眠鎮静薬または解離性麻酔薬を投与することであり,ときに鎮痛薬も併用される。

PSAの目標は,呼吸抑制,低酸素症,および低血圧を最小限に抑えつつ,必要な鎮静および疼痛緩和をもたらすことである。

PSAは訓練を積んだスタッフのみが行うべきである。多くの施設では,PSAの施行者に対して特別な教育および資格を要件とした上で,手順のプロトコルを遵守することを求めている。訓練を受けた観察者(PSA用薬剤の投与者を兼ねる場合もある)が鎮静期および回復期を通して患者の状態(鎮静レベル,気道,換気,バイタルサイン,パルスオキシメトリーおよび/またはカプノグラフィー)をモニタリングすることが求められる。換気および循環を補助するための機器および訓練された人員を直ちに利用できる状態にしておかなければならない。

PSAで鎮静または鎮痛が不十分な場合は,注射麻酔薬(末梢神経ブロックまたは局所浸潤麻酔)を追加してもよい。ときには,手術室での麻酔および治療が必要になることもある。

適応

  • 治療または診断のための処置*に伴って生じる痛みおよび/または不安を軽減する

  • 患者をリラックスさせ,体動を減らすことで処置をしやすくする

  • 処置に対する健忘を誘発することで,患者に起こりうる心的外傷を回避する

* 処置の例としては,カルディオバージョン,関節または骨折の整復,関節穿刺,膿瘍ドレナージ,裂創の修復,異物除去,腰椎穿刺,血管確保と血管カテーテル挿入などがあるが,これらに限定されるものではない。

禁忌

絶対的禁忌

  • 鎮静を待てない緊急治療の必要性(例,血行動態不安定)

  • いずれかの薬剤またはその添加剤*に対する過敏症

  • ケタミンに特有:生後3カ月未満(気道障害のリスクが高まる)

  • 亜酸化窒素に特有:気胸,縦隔気腫,腸閉塞,または眼内気泡(硝子体・網膜手術後)(これらの部位に亜酸化窒素が蓄積して膨張する可能性がある)

* 卵または大豆に対するアレルギーは,もはやプロポフォールの禁忌ではない(卵/大豆アレルゲンはプロポフォール製剤中の卵/大豆成分とは異なる)。

相対的禁忌

  • 重度の心肺疾患(呼吸抑制による代償不全のリスクが高まる)†

  • 閉塞性睡眠時無呼吸症候群†

  • 挿管困難†を示唆する肥満または解剖学的特徴(例,小顎症,巨舌症,短頸,先天異常)

  • 慢性の肝疾患または腎疾患:一部の薬剤は代謝速度が低下するため,鎮静作用が延長する。

  • 60歳以上の患者(代償不全のリスクが高まる):多くの場合,PSA用薬剤の用量を減量すべきである。

  • 急性アルコール中毒/鎮静薬への中毒(呼吸器合併症のリスクが高まる):PSA用薬剤の用量を減量すべきである。

  • 慢性アルコール使用症または物質使用症:PSA用薬剤の増量が必要になることがある。

  • 処置前の飲食:PSA実施前の絶食に関する施設のプロトコルを確認する‡

† これらの禁忌のいずれかがある場合は,麻酔医へのコンサルテーションおよび/または呼吸を抑制しない薬剤(例,ケタミン)の使用を考慮する。

‡ 一部のガイドラインでは,透明な液体の摂取後は数時間,固形物の摂取後は8時間,待機的な処置時の鎮静を遅らせることが推奨されているが,その効果または必要性を示すデータはない(1)。

合併症

  • 呼吸抑制

  • 酸素飽和度の低下

  • 低血圧(重篤な疾患または心血管系の障害が併存しない場合,重大となることはまれ)

  • 誤嚥(まれ)

  • エトミデート(etomidate)に特有:ミオクローヌス(軽微かつ短時間,臨床的に意義があることはまれ),副腎抑制(通常は重大なものではなく一過性)

  • フェンタニルに特有:急速すぎる静注による胸壁の硬直(igid chest syndrome)(鎮痛に用いられる低用量ではまれ)

  • ケタミン特有:ときに口頭痙攣または無呼吸(必ず30~60秒以上かけてゆっくりと注入することにより予防),交感神経刺激作用(血圧上昇,頻脈などの症状が,虚血性心疾患または基礎に高血圧のある患者にリスクをもたらす),回復時の嘔吐または覚醒時反応(不安/パニック/幻覚様エピソードなどがみられ,小児より成人で頻度が高い)

器具

  • モニタリング装置(パルスオキシメーター,カプノグラフ[呼気終末CO2モニター],血圧カフ,心電図モニター)

  • 静脈カテーテルおよび輸液(例,0.9%生理食塩水)

  • 酸素投与装置(高流量での投与が可能なもの)

  • 吸引装置および吸引チップ

  • 気道管理器具,特にバッグバルブマスク(BVM)

  • 心肺蘇生に必要な器具

  • PSAの薬剤および拮抗薬(以下の例を参照)

  • 加えて,亜酸化窒素を投与する場合:フェールセーフのガス投与装置(酸素の下限値が30%に設定されているもの),デマンドバルブ式または連続フロー式のマスク,室内の亜酸化窒素センサーおよびガス除去装置(呼出された亜酸化窒素を室内気から除去するため)

PSAの薬剤

催眠鎮静薬(主に鎮静,抗不安,健忘作用):

  • ミダゾラム静注,筋注,点鼻:短時間作用型鎮静薬(ベンゾジアゼピン系薬剤),静注の場合は1~2分で作用発現し,10~40分間持続

  • プロポフォール静注:超短時間作用型,深い鎮静,30秒で作用発現,5分間持続

  • エトミデート(etomidate)静注:超短時間作用型,深い鎮静,5~15秒で作用発現,5~15分間持続

催眠鎮静薬は鎮静作用が強く,疼痛反応の低下を伴うが,直接的な鎮痛作用はない。疼痛コントロールが必要ない場合は,これだけで投与してもよい。必要に応じてオピオイド鎮痛薬(例,フェンタニル)または注射による区域麻酔もしくは局所麻酔を追加してもよい。

無痛または軽い痛みしか伴わない処置では,軽度の鎮静(抗不安効果)を得るために,しばしばミダゾラムが単独で使用される。これには強力な健忘作用がある。

プロポフォールおよびエトミデート(etomidate)は,痛みを伴う短時間の処置(例,カルディオバージョンまたは関節の整復)に有用な深鎮静作用を迅速にもたらし,持続時間が短いため,長時間の処置中に反復投与しても,蓄積して毒性薬物濃度に達するリスクは低い。

プロポフォールは低血圧を引き起こす可能性があるが,低血圧は通常は短時間しか続かず,容易に管理できる。

エトミデート(etomidate)は血圧または脈拍を低下させることも上昇させることもない。低血圧患者および心血管疾患患者(すなわち,脈拍や血圧が変化すると代償不全のリスクがある患者)に対して考慮することがある。

オピオイド(主に鎮痛薬):

  • 静注用フェンタニル:短時間作用型鎮痛薬,2~3分で作用発現,30~60分間の持続

オピオイドは鎮痛をもたらす薬剤であるが,鎮静作用もある。PSAでは,鎮痛が必要な場合,典型的には鎮静薬の補助としてオピオイド鎮痛薬が使用されるが,これは呼吸抑制のリスクを増大させる。フェンタニルはしばしばミダゾラムと併用され,それぞれに拮抗薬(ナロキソンおよびフルマゼニル)がある。処置後も患者の疼痛が持続する可能性が高い場合(例,特定の骨折または持続的な疼痛を伴うその他の外傷)は,モルヒネなどの長時間作用型オピオイドを選択してもよい。

解離性麻酔薬(主に鎮痛薬および健忘作用のある薬剤):

  • 静注,筋注,点鼻用ケタミン:解離性鎮静,静注の場合1分未満で作用発現し,10~20分間持続する

ケタミンは,麻酔,鎮静,および健忘をもたらす解離状態(心身が解離するトランス様の状態)を引き起こすが,呼吸を抑制したり上気道の緊張または防御反射を減弱させたりする作用はないため,誤嚥のリスクがある患者では第1選択となる可能性がある。また,ケタミンには低血圧を引き起こさないという利点があるが,典型的には脈拍と血圧をわずかに上昇させる。ケタミンは,単剤で使用されることもあれば,鎮静薬と併用されることもある。ただし,PSAの用量*では,ケタミンに他の鎮痛薬を追加すべきではない。

* 低用量(解離作用が生じない)ケタミン(例,0.1~0.2mg/kg)は,解離を引き起こすことなくかなりの鎮痛をもたらし,オピオイドによる鎮痛の補助として使用されることがある(例,フェンタニルの用量を減らすことができる)。

亜酸化窒素ガス(主に抗不安薬):

  • 酸素中に亜酸化窒素(30~50%)を混合したガス:短時間作用型の抗不安薬,作用発現および作用消失はそれぞれ5分未満

亜酸化窒素は優れた抗不安作用をもたらすが,健忘および鎮痛作用は軽度である。典型的には鎮痛薬として単独では使用されず,鎮痛薬,鎮静薬,または神経ブロックと併せて(またはその補助として)使用されることがある。静脈カテーテル留置を必要としないため,小児に特に有用である。小児では,ミダゾラムまたはケタミンよりも望ましい場合がある。PSAに用いられる低用量は安全である。

拮抗薬:

  • フルマゼニル(0.1mg/mL—ベンゾジアゼピン拮抗薬)

  • ナロキソン(オピオイド拮抗薬)

その他の留意事項

  • 催眠鎮静薬による鎮静の程度は以下のように定義される:

    不安解消(最小限の鎮静):意識および意思疎通は維持されるが,協調運動および認知機能は低下することがある。

    中等度の鎮静:意識は抑制されるが,言語による要求または接触への反応は維持される。

    深い鎮静:意識は抑制される;覚醒は困難で,繰り返しの呼びかけまたは痛み刺激を必要とする可能性がある;気道の開通性が低下することがある;自発呼吸が遅くなることがある。

    全身麻酔:患者は意識がなく,刺激に反応しない;呼吸抑制または気道の不安定化が頻繁に起こる;循環が抑制されることもある。PSAでは全身麻酔は予期されていない;ただし,PSAの施行者には全身麻酔を解除し,必要に応じて心肺補助を行える能力がなければならない。

  • 解離性鎮静(dissociative sedation)(ケタミンに特有のもので,催眠鎮静薬による鎮静とは異なる):鎮痛および健忘がみられるが,自発呼吸,気道反射,および心肺機能は維持される

  • カプノグラフィーは呼吸抑制の指標としてオキシメトリーより感度が高く,オキシメトリーとは異なり,酸素投与時にも信頼できる指標である。

  • 呼吸抑制は鎮静の開始時および鎮静からの回復時に最もよくみられる。一時的な換気補助には,通常はバッグバルブマスク換気で十分である。特に患者に咽頭反射がない場合,気道の開通性を維持するために気道確保手技および経鼻または経口エアウェイが必要になることがある。

  • PSA中は,低血圧が起こることを想定しておくべきである。処置中の低血圧は,通常,輸液(例,生理食塩水)により是正できる。PSAの前から低血圧のみられる患者では,血行動態に影響を及ぼさない,または血行動態を補助する代替薬(すなわち,エトミデート[etomidate]またはケタミン)を考慮する。

  • 亜酸化窒素には催奇形性があるため,妊婦または妊娠している可能性のあるスタッフは亜酸化窒素を使用する環境から立ち退かせるべきである。

体位

  • 患者を臥位または仰臥位にする。患者の頭と肩を露出させ(呼吸を観察できるよう),容易にアクセスできるようにしておくべきである(必要時に直ちに換気補助ができるよう)。

ステップ-バイ-ステップの手順

PSAは,施設のガイドラインに従って,その手技に熟練した医師または診療部門が,緊急時に気道確保および換気補助を提供できる設備およびその訓練を受けたスタッフとともに実施すべきである。

準備作業

  • PSA戦略の選択:PSAを行う決定および使用するPSA用薬剤の選択(代替薬または追加の薬剤を含む)に当たり,臨床的必要性,合併症や挿管困難に関する患者の危険因子,そして施行者が適切な訓練を受けていてPSA用薬剤に精通しているかどうかなどを考慮しなければならない。

  • PSAに使用する薬剤だけでなく拮抗薬も利用できる状態にしておく。

  • 近くに救急カート,気道吸引器,および緊急気道確保に必要な器具を用意しておく。

  • バッグ-バルブ-マスクおよび酸素投与ルートを組み立て,必要に応じて直ちに酸素投与ができるようにしておく。

  • モニタリング装置を患者に装着し,正しく作動することを確認する。

  • 静脈路を確保する。注射による痛みを軽減するため,鎮静にプロポフォールまたはエトミデート(etomidate)を使用する場合は,太い静脈(例,肘部静脈)でのルート確保を考慮する。

  • 推奨:低速で点滴静注(例,生理食塩水を30mL/時で)を開始し,静脈の開存性を確保することで,必要に応じて直ちに血圧を維持できるようにしておく。

  • PSA用薬剤を投与する前に,鎮静前の患者のバイタルサイン,心拍数および心拍リズム,精神状態(意識レベル),ならびに呼吸および換気の質を確認する。

患者モニタリング

PSAの安全性(呼吸抑制または循環抑制がないか)および有効性(痛みや不安の軽減は十分か)を確認するために,PSA施行中は以下の要領で常に患者をモニタリングする:

  • 呼吸:自発呼吸の状態を継続的に評価する。呼吸の速さ,深さ,または雑音の変化は,呼吸抑制の他の徴候に先行する可能性がある。

  • 呼気終末CO2(カプノグラフィー)および酸素飽和度(パルスオキシメトリー):低換気となっていないか常に警戒する。呼気終末CO2の変化は,薬物誘発性の低換気と実質同時に起こり,低酸素症に先行する。

    短時間作用型のPSA用薬剤による呼吸抑制は通常,速やかに消失する(薬剤が徐々に効果を失うため)。

    低換気または無呼吸が生じた場合は,必要に応じて酸素投与,気道再確保手技,経鼻および経口エアウェイ,ならびにバッグバルブマスク換気を行う。必要に応じて,患者に呼びかけや触覚刺激を与える。必要であれば,バッグバルブマスク換気を継続し,適切な拮抗薬を使用する。より高度な呼吸補助が必要になることはまれである。

  • 血圧,心拍数,心拍リズム:血行動態を頻回に確認する。一過性の低血圧が起こることがあるが,その他の心血管イベントはまれである。

    処置により低血圧が生じた場合は,血圧を維持するため必要に応じて輸液を行う。

  • 呼びかけおよび触覚刺激への患者の反応:定期的に患者の反応を確認するが,これは主に鎮静不足(痛みや不安の軽減が不十分であること)を検出するために用いられ,過鎮静の判定(呼吸抑制を用いた認識のほうが効率的である)に用いられるものではない。

    患者の反応をあまりに頻回または積極的に確認すると,効果的な鎮静が不必要に妨げられ,余分な用量調整が必要になる可能性があるため,そのような確認は行わないこと。患者が落ち着いていて,痛みを感じていない状態では,PSA中の患者の安全は呼吸,換気,酸素化,および血行動態のモニタリングによって確保されることになる。

患者が鎮静から完全に回復するまで患者のモニタリングを継続する。

ミダゾラムを用いたPSA

過鎮静を避けるため,ミダゾラムを投与してから次に何らかの薬剤(ミダゾラムまたはその他のPSA用薬剤)を投与するまで,必ず2分以上待つこと。

  • 静注用ミダゾラム:患者の反応(鎮静)が得られるまで,以下のように用量を漸増する:

    初回用量:0.5~2mgを2分以上かけて静注

    その後(2~5分後)の用量:0.5~2mgを2分以上かけて静注

    最大用量:1回2.5mg,累積用量5mg(60歳以上の患者ではそれぞれ1.5mgおよび3.5mg)

  • 筋注用ミダゾラム:

    5mg,筋注(小児では0.1~0.15mg/kg)。急速に増量しないこと。

  • 点鼻用ミダゾラム:

    小児には,0.2~0.5mg/kgを鼻腔内に投与する。急速に増量しないこと。

ミダゾラムとフェンタニルを用いたPSA

併用する場合は,呼吸抑制を避けるために単剤で使用する場合より各薬剤の用量を少なくし,増量は慎重に行う。ミダゾラムを投与してから別のPSA用薬剤を投与するまで,必ず2分以上の時間を置く。どちらの薬剤を先に投与してもよいが,1つの戦略は,主に不安を引き起こす処置にはミダゾラムを先に投与し,より痛みの強い処置にはフェンタニルを先に投与することである。

  • 静注用ミダゾラム:患者の反応(軽い鎮静)が得られるまで,以下のように用量を漸増する:

    初回用量:0.02~0.1mg/kg,2分以上かけて静注

    その後(3~5分後)の用量:0.005~0.025mg/kgを2分以上かけて静注

    最大用量:1回2.5mg,累積用量5mg(60歳以上の患者にはそれぞれ1.5mgおよび3.5mg)

  • 静注用フェンタニル:患者の反応(鎮痛)が得られるまで,以下のように用量を漸増する:

    初回用量:50~100μg(または1μg/kg)静注

    その後の用量:50μgの静注を必要に応じて3分毎に繰り返してよい。

    最大用量:他の鎮静薬(例,ミダゾラム,プロポフォール)と併用する場合は,呼吸抑制を引き起こす可能性があるため,1回0.5μg/kgを超える用量を使用する場合は細心の注意を払うこと。

プロポフォールを用いたPSA

  • プロポフォールは低血圧患者では避ける。

  • 酸素投与(例,経鼻的に2~4L/分)を行う。

  • 静注用プロポフォール:患者の反応(深い鎮静)が得られるまで,以下のように用量を漸増する:

    初回用量:0.5~1.0mg/kg,静注(小児には1.0~2.0mg/kg)

    その後(1~3分後)の用量:0.25~0.5mg/kg,静注,1~3分毎

    肥満患者および高齢患者では,比較的低用量から開始する。健康な成人には,比較的高用量から開始する。

エトミデート(etomidate)を用いたPSA

  • 静注用エトミデート(etomidate):患者の反応(深い鎮静)が得られるまで,以下のように用量を漸増する:

    初回用量:0.1~0.15mg/kg,静注

    その後の用量:0.05mg/kg,3~5分毎

ケタミンを用いたPSA

ケタミンの初回投与前および初回投与中は,患者と楽しい話題(例,お気に入りの人,場所,または活動)の会話をする。そうすることにより,ケタミンによるPSA後に起こる不快な覚醒時反応(錯乱,不安,パニック)が軽減される可能性がある。

  • 静注用ケタミン:30~60秒かけて投与し,患者の反応(鎮静)が得られるまで,以下のように用量を漸増する:

    初回用量:1~1.5mg/kg(小児には1~2mg/kg)を1~2分かけて静注

    その後(10分後)の用量:0.5~0.75mg/kg,静注(小児には0.5~1mg/kg)

    患者の臨床特性(例,高齢)や他の鎮静に応じて,より低用量(0.25~0.5mg/kg)を選択するが,部分的な解離と不安(0.5~1mg/kgの用量でときに重度となる)を経験する可能性があることに注意すること。

  • 筋注用ケタミン(小児)

    初回用量:4~5mg/kg,筋注

    その後の用量:2~2.5 mg,筋注,10分毎

  • 点鼻用ケタミン(小児)

    2~10mg/kgを鼻腔内投与する。急速に増量しないこと。

亜酸化窒素吸入によるPSA

吸入亜酸化窒素の投与または監督には,訓練を受けた者が必要である。

  • ガス供給および除去システムを組み立てる:協力的な成人または5歳以上の小児にはデマンドバルブ式のマスクを,2~5歳の患者または協力できない患者には連続フロー式のマスクを選択する。

  • 100%酸素を2分かけて投与する。

  • その後,亜酸化窒素/酸素の混合ガス(例,40% N2O[N2O 4L/mおよびO2 6L/m])に切り替える。

  • 協力的な患者(自分でN2Oを投与する):デマンドバルブマスクを(紐で装着せずに)顔の上にかざし,普通に呼吸するよう患者に指示する。患者が眠くなると,マスクは顔面から落ち,患者は室内の空気を吸い始め,デマンドバルブマスクからのガスの供給が止まる。患者が途中で目を覚ましたり痛みを感じたりしたら,もう一度マスクから呼吸するように伝える。

  • 非協力的な患者/小児(細心の監督下でのN2O投与):患者の鼻と口の上から連続フロー式のマスクを装着させ,患者の呼吸および鎮静レベルを継続的に観察する。

  • 正常な呼吸で軽い鎮静が得られるように混合ガスを調節する。典型的には50%を超える濃度のN2Oを長時間投与する必要はない。

  • 軽い鎮静が得られたら,疼痛コントロールのために必要に応じて鎮痛薬,鎮静薬,または神経ブロックを追加する。

  • 手技が終了したら,回復期の拡散性低酸素症を予防するため,100%酸素を5分以上投与する。

アフターケア

  • 蘇生が必要な場合を除き,ミダゾラムまたはフェンタニルからの回復を促すためにフルマゼニルまたはナロキソンを投与してはならない。

  • 正常な覚醒状態に戻るまで,患者の厳重な観察を継続する。

  • 成人患者は介助なしで歩けるようになるまで退院させないこと。

  • 小児患者は,介助なしで起き上がり,年齢相応の水準で話せるようになるまで,退院させないこと。

  • 退院時は,鎮静薬投与後の合併症(例,悪心および嘔吐,めまい,回転性めまい)について患者を継続的に観察できる成人を付き添わせる。

  • 患者自身に車を運転して帰宅させないこと。

  • PSA後12時間は活動を控えるよう患者に指示する(例,運転,飲酒,または重要な意思決定を行わず,食事は軽食のみとする)。

注意点とよくあるエラー

  • PSAの施行中に責任をもって患者のモニタリングに当たる専従の観察者(例,適切な訓練を受けた看護師,呼吸療法士)を必ず指名する。患者の処置を行う術者が専従の観察者を兼ねることはできない。

  • 気道確保器具をベッドサイドに準備しておく。一時的な換気補助には,通常はバッグバルブマスク(BVM)で十分である。

  • カプノグラフィーが使用できない場合は,酸素投与の回避を考慮する;酸素投与を行うと呼吸抑制時の低酸素血症が緩和されるため,パルスオキシメトリーでは呼吸抑制の検出が困難になる。

  • 呼吸抑制は,起こるとすれば,処置が終了して疼痛が治まった直後にみられることが多いため,PSA後の回復期間中も患者のモニタリングを継続する。

アドバイスとこつ

  • 確立された投与速度を遵守する;短時間作用型の薬剤は投与速度が遅くなりすぎることがよくあり,その場合,効果的な鎮静の作用発現を遅らせ,薬物が過剰に蓄積する可能性がある。

  • 初回以降の投与では,鎮静の定常状態を維持するために,高用量を低頻度で投与するよりも低用量を高頻繁に投与する方が望ましい。

  • ケタミンとプロポフォールの併用(「ケトフォール」)は,介入が必要な呼吸器系有害事象のリスクがプロポフォールと同等であり(2),使用がより複雑であるため,ケトフォールにプロポフォールを上回る利点はなく,ケトフォールはもはやルーチンの使用が推奨されていない。

参考文献

  1. 1.Beach ML, Cohen DM, Gallagher SM, et al: Major adverse events and relationship to nil per os status in pediatric sedation/anesthesia outside the operating room: A report of the pediatric sedation research consortium.Anesthesiology 124(1):80-88, 2016.doi: 10.1097/ALN.0000000000000933

  2. 2.Ferguson I, Bell A, Treston G, et al: Propofol or ketofol for procedural sedation and analgesia in emergency medicine—the POKER study: A randomized double-blind clinical trial. Ann Emerg Med 68(5): 574-582, 2016.doi: 10.1016/j.annemergmed.2016.05.024 

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

Green SM, Roack MG, Krauss BS, et al: Unscheduled procedural sedation: A multidisciplinary consensus practice guideline.Ann Emerg Med 73(5):e51-e65, 2019. doi: 10.1016/j.annemergmed.2019.02.022

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