ヘビ咬傷

執筆者:Robert A. Barish, MD, MBA, University of Illinois at Chicago;
Thomas Arnold, MD, Department of Emergency Medicine, LSU Health Sciences Center Shreveport
レビュー/改訂 2022年 1月
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全世界のヘビ約3000種のうち,毒液や毒性の唾液分泌物によりヒトにとって危険となるヘビの割合は,世界で約15%,米国では20%のみである(地域別の重要な毒ヘビの一覧の表を参照)。アラスカ州,メーン州,ハワイ州を除く米国全州において,少なくとも1種の毒ヘビが生息している。ほぼ全てがマムシ亜科である(頭部両側に熱感知器官である穴[pit]状のくぼみがあることから「pit viper」と呼ばれる):

  • ガラガラヘビ類

  • アメリカマムシ類

  • ヌママムシ類

米国では毎年60,000件を超える刺咬症がpoison centerに報告され,約100人が死亡している。約45,000件はヘビ咬傷である(うち7000~8000件が毒ヘビによるもので約5件の死亡例がある)。ヘビ咬傷の大半,および死亡例のほぼ全例がガラガラヘビ類によるものである。その他の毒ヘビ咬傷の大部分は,アメリカマムシ類,およびさらに少ないがヌママムシ類による。サンゴヘビ類(コブラ科)および輸入種(動物園,学校,ヘビ園,アマチュアおよびプロの収集物における)は,全ヘビ咬傷の1%未満を占める。

患者の大半が17~27歳の男性で,そのうち50%は酩酊者であり,ヘビに故意に触れたり危害を加えたりした経緯がある。大半の咬傷は上肢に生じる。北米では年間5~6例が死亡する。死亡の危険因子には,極端な年齢,(野生で遭遇するのではなく)捕獲されているヘビを扱うこと,治療の遅れ,過少治療などがある。

北米以外では,致死性のヘビ咬傷ははるかに一般的であり,年間100,000件以上の死亡の原因となっている。

表&コラム
表&コラム

ヘビ咬傷の病態生理

ヘビ毒はタンパク質を主とした複雑な混合物であり,酵素活性をもつ。酵素も重要な役割を果たすが,ヘビ毒の致死的特性はより分子量の小さい特定のポリペプチドに起因する。ヘビ毒成分の大部分は多数の生理学的受容体に結合するらしく,ヘビ毒をある特定の組織に対する毒(例,神経毒,血液毒,心臓毒,筋毒)として分類しようとすると,誤解を招き,臨床診断のエラーにつながる可能性がある。

マムシ類

多くの北米産のマムシ類の複合毒には,局所作用に加えて,凝固障害などの全身作用がある。具体的には以下のような作用がある:

  • 浮腫および斑状出血を引き起こす局所的組織損傷

  • 血管内皮損傷

  • 溶血

  • 播種性血管内凝固症候群(DIC)様(脱線維素)症候群

  • 肺,心臓,腎臓,および神経系の障害

ヘビ毒は毛細血管膜の透過性を変化させ,これにより電解質,アルブミン,赤血球が血管壁を通過して毒液注入部位へと滲出する。この過程は肺,心筋,腎臓,腹膜のほか,まれではあるが中枢神経系において起こりうる。マムシ類による重度の毒液注入において続発する臨床症候群としては以下のものがある:

  • 浮腫:最初に浮腫,低アルブミン血症,および血液濃縮が起こる。

  • 循環血液量減少:その後,微小循環で血液および体液のうっ滞が生じ,低血圧,乳酸血症,ショックのほか,重症例では多臓器不全を来す。有効循環血液量が減少し,心不全および腎不全の一因となることがある。

  • 出血:ガラガラヘビによる重度の咬傷では,臨床的に重大な血小板減少(血小板数が20,000/μL未満)がよくみられ,これは単独で起きることもあれば,他の凝固障害を伴って起きることもある。ヘビ毒による血管内凝固からDIC様症候群が生じることがあり,結果として出血を来す。

  • 腎不全:腎不全は,重度の低血圧,溶血,横紋筋融解症,ヘビ毒の腎毒性作用,DIC様症候群に起因する場合がある。ガラガラヘビによる重度の咬傷では,タンパク尿,ヘモグロビン尿,ミオグロビン尿を来す場合がある。

北米における大部分のマムシ類の毒は,神経筋伝達に及ぼす変化が非常にわずかであるが,モハベガラガラヘビおよびヒガシダイヤガラガラヘビの毒は例外であり,重篤な神経脱落症状を引き起こしうる。

サンゴヘビ類

これらのヘビの毒は主として神経毒成分を含み,シナプス前神経筋遮断を引き起こし,場合によっては呼吸麻痺をもたらす。顕著なタンパク質分解酵素活性を示さないため,咬傷部位の症状と徴候はわずかである。

ヘビ咬傷の症状と徴候

ヘビ咬傷は,毒ヘビであれ無毒のヘビであれ,通常は恐怖をもたらし,しばしば自律神経症状(例,悪心,嘔吐,頻脈,下痢,発汗)を伴い,毒液注入による全身症状との区別が難しい場合がある。

無毒のヘビによる咬傷は局所損傷,通常は咬傷部位の疼痛,およびヘビ上顎による2~4列のひっかき傷のみを引き起こす。

毒液注入の症状と徴候は,局所性,全身性,またはそれらの複合である場合があり,毒液注入の程度とヘビの種によって左右される。特に以前に感作されているヘビの飼育者では,アナフィラキシーが発生することがある。

マムシ類

マムシ類による咬傷の約25%は乾性(毒物が注入されない)であり,全身性の症状や徴候は現れない。

局所徴候は,単独もしくは複数の牙痕およびひっかき傷である。毒液注入が起こった場合,通常は30~60分以内に,咬傷部位と周辺組織に浮腫および発赤が生じる。創傷からの滲出液は毒液注入を示唆する。浮腫が急速に進行し,数時間以内に患肢全体に及ぶことがある。リンパ管炎と圧痛を伴う所属リンパ節腫大が起こり,咬傷部の温度が上昇する。中等度または重度の毒液注入では,斑状出血がよくみられ,3~6時間以内に咬傷部位やその周辺に出現する。以下の咬傷による斑状出血は最も重症である:

  • ヒガシダイヤガラガラヘビおよびニシダイヤガラガラヘビ

  • ヌママムシ

  • プレーリーガラガラヘビ,オレゴンガラガラヘビ,シンリンガラガラヘビ

咬傷周辺の皮膚が緊張し退色してみえることがある。通常は水疱(漿液性,出血性,またはその両方)が8時間以内に咬傷部位に出現する。北米ガラガラヘビによる毒液注入で生じる浮腫は,通常は真皮および皮下組織に限局するが,重度となることもあり,まれに重度の毒液注入により筋膜下組織に浮腫が生じ,コンパートメント症候群(コンパートメント内圧が1時間にわたり30mmHg以上となるか,拡張期血圧からコンパートメント内圧を引いた値が30mmHg未満になる場合と定義される)を引き起こすことがある。ガラガラヘビの毒液注入後には,咬傷部位周辺の壊死が一般的である。軟部組織に対する毒作用の大部分は2~4日間で最大となる。

アメリカマムシおよびモハベガラガラヘビによる咬傷後の斑状出血は比較的少ない。

毒液注入の全身症状は,悪心,嘔吐,下痢,発汗,不安,錯乱,特発出血,発熱,胸痛,呼吸困難,錯感覚,低血圧,およびショックなどである。ガラガラヘビ咬傷の患者の中には,ゴムの味,ハッカ味,または金属味を口内に経験する者もいる。北米における大部分のマムシ類の毒は,全身性の筋力低下および錯感覚や筋の線維束性収縮などの軽微な神経筋伝達の変化をもたらす。精神状態が変化する患者もいる。モハベガラガラヘビおよびヒガシダイヤガラガラヘビの毒は,呼吸抑制などの重篤な神経脱落症状を引き起こすことがある。

アナフィラキシーは全身症状を直ちに引き起こしうる。

ガラガラヘビの毒液注入により,血小板減少,プロトロンビン時間(PT,INR[国際標準化比]により測定する)や活性化部分トロンボプラスチン時間(PTT)の延長,低フィブリノーゲン血症,フィブリン分解産物の増加,これらの異常の複合など,播種性血管内凝固症候群(DIC)症候群に類似した様々な凝固異常が生じる場合がある。血小板減少は通常最初に発現し,無症状のこともあるが,複合型凝固障害があれば特発出血を引き起こす。凝固障害のある患者は,一般的には咬傷部位または静脈穿刺部や粘膜から出血し,鼻出血,歯肉出血,吐血,血尿,またはこれらの組合せを伴う。ヘマトクリット(Hct)の上昇は,浮腫および血液濃縮に続発する初期の所見である。その後,補液とDIC様症候群による失血の結果,ヘマトクリットは低下する。重症例では,溶血によりヘマトクリットが急激に降下することがある。

サンゴヘビ類

痛みおよび腫脹はないかごくわずかであり,しばしば一過性である。局所の症状と徴候がないので毒液注入のない咬傷と誤認する場合があり,患者と医師の双方が誤って安心感を抱いてしまう。

パール&ピットフォール

  • 全ての毒ヘビ咬傷では,たとえ咬傷直後に毒液注入の徴候がなくとも,毒液注入を疑う。

患肢の脱力が,数時間以内に顕著になることがある。全身性の神経筋症状が12時間遅れて現れる場合があり,具体的には脱力および嗜眠;意識変容(例,多幸感,眠気);眼瞼下垂,複視,霧視,構音障害,嚥下困難などを起こす脳神経麻痺;唾液分泌の増加;筋弛緩;呼吸窮迫または呼吸不全などがみられる。一旦ヘビ毒の神経毒性作用が発現すれば改善は困難であり,3~6日間続くことがある。無治療の呼吸筋麻痺は死に至ることもある。

ヘビ咬傷の診断

  • ヘビの同定

  • 毒液注入の重症度判定

ヘビの明確な同定および毒液注入による臨床像がヘビ咬傷の確定診断の助けとなる。病歴には,咬まれた時間,ヘビに関する説明,現場で受けた治療の種類,基礎疾患,ウマまたはヒツジ製品に対するアレルギー,ならびに毒ヘビ咬傷の既往およびその治療歴を含めるべきである。徹底した身体診察を行うべきである。患肢または患部の浮腫の先端部をペンで明示し,マークを付けた時間を記録すべきである。

ヘビの種の明確な同定か,一定期間の経過観察によって有毒でないと証明されるまでは,ヘビ咬傷は有毒とみなすべきである。

ヘビの同定

患者はしばしばヘビの外見上の詳細な特徴を思い出せないことがある。いくつかの特徴でマムシ類と無毒のヘビの区別が可能である(マムシ類の同定の図を参照)。動物園,水族館,またはpoison center(1-800-222-1222)への相談がヘビの種の同定の手助けとなる場合がある。

マムシ類の同定

マムシ類は無毒のヘビとの区別に役立つ以下の特徴をもっている:

  • 矢尻状(三角形状)の頭部

  • 楕円形の瞳孔

  • 目と鼻の間にある熱を感知する穴(pit)

  • 格納式の牙

  • 尾の下側にある肛板から伸びる尾下板が一列

米国のサンゴヘビには円形の瞳孔と黒色の鼻があるが,顔面に穴(pit)がない。サンゴヘビは丸い,すなわち葉巻形の頭部であり,赤,黄色(クリーム色),黒の縞が交互にあり,よくみられる毒をもたないスカーレットキングスネークとしばしば間違われる原因になっているが,後者では赤,黒,黄色の縞が交互にある。区別に役立つサンゴヘビの特徴は,赤色の縞が黒の縞ではなく黄色の縞に隣接する点である(「赤に黄色なら人殺す」,「赤に黒なら毒はなし」)。サンゴヘビには固定された短い牙があり,連続して咬む動きにより毒物を注入する。

牙痕はサンゴヘビを示唆するが,決定的ではない;ガラガラヘビが1カ所もしくは2カ所の牙痕または他の歯の痕跡を残す一方で,無毒のヘビによる咬傷では通常,浅い歯の痕跡が複数残る。しかし,ヘビは複数回攻撃したり咬んだりする場合があるため,歯の痕跡と咬傷部位の数は様々である。

マムシ類では,毒液注入の症状や徴候が受傷から8時間以内に現れない場合,乾性咬傷と診断される。

毒液注入の重症度

毒液注入の重症度は以下に依存する:

  • ヘビの大きさおよび種(ガラガラヘビ類 > ヌママムシ類 > アメリカマムシ類)

  • 咬傷毎に注入される毒液の量(病歴からは判定不能)

  • 咬傷の数

  • 咬傷の場所および深さ(例,頭部および体幹への毒液注入は四肢への刺咬よりも重度となる傾向がある)

  • 患者の年齢,体格,および健康状態

  • 治療までの経過時間

  • 患者の毒への感受性(反応)

毒液注入の重症度は,局所所見,全身症状と全身徴候,凝固パラメータ,および臨床検査結果に基づき,軽度,中等度,または重度に分類できる(マムシ類による毒液注入の重症度の表を参照)。分類は,最も重度の症状,徴候,または臨床検査所見によって決定すべきである。

毒液注入は軽度から重度へと急速に進行することがあり,継続的に再評価する必要がある。

直ちに全身症状が現れた場合は,アナフィラキシーを想定すべきである。

表&コラム
表&コラム

ヘビ咬傷の治療

  • 応急処置

  • 支持療法

  • 抗毒素

  • 創傷ケア

一般的アプローチ

ヘビ咬傷の治療は,患者が医療機関に搬送される前に,直ちに開始する。

現場では,受傷者はヘビの攻撃範囲外へ自力で移動するか,他者に移動させてもらうべきである。受傷者を安静にして元気づけ,温かく保ち早急に最寄りの医療機関に搬送すべきである。患肢をゆるく包み機能的肢位で概ね心臓の高さに固定し,指輪,腕時計,および締めつける衣類を全て外すべきである。毒の全身的な吸収を遅らせるための圧迫固定法(例,患肢周囲に幅の広いクレープ生地もしくはその他の素材の包帯を巻く)はサンゴヘビ咬傷では適切な場合があるが,米国では大部分の咬傷がマムシ類によるものであり,推奨されない;圧迫固定法は動脈不全および壊死の原因となる場合がある。

最初に対応した者は,受傷者の搬送中に気道を確保し呼吸を補助し,酸素を投与し,受傷していない四肢に静注路を確保するべきである。その他の院外診療行為(例,駆血帯,外用剤の使用,切開または未切開状態での形態を問わない創傷の吸引,凍結療法,電気ショック)は有益性が証明されておらず,有害となる可能性や適切な治療を遅らせる可能性がある。しかし,すでに駆血帯が施されている場合は,肢切断に至る恐れのある虚血を引き起こさない限り,患者が病院へ搬送され,毒液注入が除外されるまで,または最終的治療が開始されるまでは,そのまま残しておくべきである。

パール&ピットフォール

  • ヘビ咬傷の創傷は切開してはならず,駆血帯を施してはならない。

救急外来で経時的評価と検査を開始する。15~30分毎に局所性浮腫の先進部の輪郭を消えないペンでマークすることが,局所的な毒液注入の進行を評価するのに役立つ可能性がある。到着時に加えて,局所進行が鎮静化するまで定期的に患肢の周囲長を測定すべきである。軽微なものを除き全てのマムシ咬傷には以下が必要にする:

  • ベースラインの血算(血小板を含む)

  • 凝固検査(例,プロトロンビン時間,部分トロンボプラスチン時間,フィブリノーゲン)

  • フィブリン分解産物の測定

  • 尿検査

  • 血清電解質,血中尿素窒素,およびクレアチニンの測定

中等度および重度の毒液注入では,血液型判定と交差適合試験,心電図,胸部X線撮影を,さらに患者の状態に応じてクレアチンキナーゼ検査を多くの場合,最初の12時間は4時間毎,以降は1日1回の頻度で行う必要がある。サンゴヘビ咬傷の患者の管理においては,神経毒の作用があるため,酸素飽和度のモニタリングと,ベースラインおよび連続的な肺機能検査(すなわち,ピークフロー,肺活量)が必要である。

マムシ類による咬傷を負った患者に対する綿密な経過観察の継続時間は,全例で8時間以上とするべきである。8時間後に毒液注入の所見がみられない患者は,十分な創傷ケアを行った上で帰宅させてもよい。サンゴヘビ咬傷の患者は,呼吸筋麻痺が生じる場合に備えて,最低でも12時間は慎重にモニタリングすべきである。初期に軽度と評価された毒液注入が,数時間以内に重度へと進行することがある。

支持療法は,呼吸補助,不安抑制または鎮静を目的としたベンゾジアゼピン系薬剤,鎮痛を目的としたオピオイド,ショックに対する補液および昇圧薬などを含むことがある。輸血(例,濃厚赤血球,新鮮凍結血漿,クリオプレシピテート,血小板)が必要になる場合があるが,大抵の凝固障害は十分な量の中和抗毒素に反応するため,患者が中和抗毒素を十分投与されるまでは行うべきではない。アナフィラキシーが疑われる(例,全身症状の即時の発現)場合,アドレナリンを含む標準治療を行う。開口障害,喉頭痙攣,または過剰な唾液分泌がある場合は,気管切開が必要になることがある。

抗毒素

最も軽度の毒液注入をわずかでも超えるものがある患者では,積極的支持療法に加え,抗毒素が治療の要である。

マムシ類による毒液注入に対しては,北米ではヒツジ由来抗マムシ類多価免疫FAb抗毒素(マムシ類の毒を接種したヒツジから得たIgGのFAbフラグメントを精製したもの)が治療の要である。抗毒素の有効性は時間および用量依存性である;早期投与が毒物による組織損傷の予防に最も効果的である。投与が遅れた場合は有効性が低くなるが,たとえ毒液注入から24時間後に開始した場合でも,凝固障害を改善して効果が得られる可能性がある。ヒツジ由来抗マムシ類多価免疫FAbは非常に安全であるが,それでも急性反応(皮膚反応やアナフィラキシー反応)および遅延型過敏反応(血清病)を引き起こす可能性がある。血清病は,FAb製剤を投与してから1~3週間後に,最大16%の患者で生じる。

負荷量として,溶解したヒツジ由来抗マムシ類多価免疫FAb 4~12バイアルを250mLの生理食塩水で希釈し,最初の10分間は20~50mL/時で緩徐に投与し,有害反応が起こらなければ,次の1時間で残りを投与する。症状の抑制,凝固障害の改善,生理的パラメータの是正を目的として,必要に応じ同量を2回まで投与できる。小児でも,(例,体重や体の大きさによって)用量を減らさない。患肢の中で咬傷から近位にある3点の周囲長を測定し,拡大していく浮腫の境界を15~30分毎に測定すれば,追加投与が必要であるか決定する指針となりうる。症状がコントロールされたら,四肢の腫脹や毒によるその他の作用の再発を予防するため,2バイアルを生理食塩水250mLで希釈して6,12,18時間後に投与する。

抗マムシ類免疫F(ab')2(ウマ)は,溶解させた抗マムシ類免疫Fab2フラグメントで構成される,新たに利用可能になったウマ由来抗毒素であり,成人および小児の北米ガラガラヘビ咬傷の治療に用いられる。推奨される初回用量としては,10バイアルを生理食塩水250mLで希釈し,アレルギー反応の所見がないか注意しながら,最初の10分間は25~50mL/時で点滴する。反応が現れなければ,完了するまで最高速度の250mL/時で点滴を進めてもよい。症状の進行を止めるために必要であれば,この初回用量での投与を1時間毎に繰り返してもよい。遅れて現れた症状や再び出現した症状は,4バイアルの追加投与で治療してもよい。

パール&ピットフォール

  • マムシ類による毒液注入を受けた小児へは,成人用量の抗毒素を投与する。

マムシの種が投与量に影響することがある。ヌママムシ,アメリカマムシ類,およびピグミーガラガラヘビによる毒液注入の場合,低用量の抗毒素の投与が必要になる場合がある。しかしながら,ヘビの種によって抗毒素の投与を控えるべきではなく,種とは無関係に毒液注入の重症度に基づいて投与すべきである。毒の影響を受けやすい可能性がある小児,高齢者,および基礎疾患(例,糖尿病,冠動脈疾患)がある患者に対しては,特別な注意が必要である。

サンゴヘビによる毒液注入では,ウマ由来多価抗サンゴヘビ抗毒素を,毒液注入を疑う段階では5バイアル,症状が現れた場合には追加して10~15バイアルの用量で投与する。用量は成人も小児も同様である。サンゴヘビの抗毒素が全国的に不足している間は,この推奨用量から減量してもよい。

検討している特定の抗毒素やウマまたはヒツジ血清に対する過敏症が判明している患者や,喘息または複数のアレルギーの既往がある患者に対しては,抗毒素治療前の警告を考慮すべきである。このような患者では,毒液注入が生命または四肢を脅かすと考えられる場合,アナフィラキシーの治療が可能な集中治療の体制下で,H1およびH2受容体拮抗薬を抗毒素の前に投与すべきである。抗毒素に対する早期アナフィラキシー様反応が指摘されており,通常は急速すぎる輸注が原因である;治療は,輸注の一時中断と,重症度に応じたアドレナリン,H1受容体拮抗薬,H2受容体拮抗薬,輸液による治療である。通常は,抗毒素をさらに希釈して投与速度を遅くすれば,投与を再開できる。

血清病が生じることがあり,その場合は治療から7~21日後に発熱,発疹,倦怠感,蕁麻疹,関節痛,リンパ節腫脹がみられる。治療は,H1受容体拮抗薬,および漸減させるコルチコステロイドのコースによる。

補助的手段

病歴による適応に応じて,患者は破傷風予防(トキソイド,場合によってはIg)を受けるべきである(ルーチンの創傷管理における破傷風予防の表を参照)。ヘビ咬傷が感染創となることはまれであり,感染の臨床所見がある患者の場合にのみ抗菌薬が適応となる。必要に応じた選択肢としては,第1世代セファロスポリン系薬剤(例,セファレキシン経口,セファゾリン静注)や広域ペニシリン系(例,アモキシシリン/クラブラン酸経口,アンピシリン/スルバクタム静注)などがある。その後の抗菌薬は,創培養と感受性試験の結果に基づいて選択すべきである。

咬傷における創傷ケアは他の刺創と同様である。創部を洗浄し被覆する。四肢の咬傷に対しては,患肢を機能的肢位に副子固定して挙上する。創傷を毎日診察して洗浄し,無菌的なドレッシングで覆うべきである。水疱,血性の小水疱,または表層壊死は受傷後3~10日目の間に,必要であれば段階的に外科的デブリドマンを行うべきである。創部のデブリドマンと理学療法に対して無菌のワールプール(渦流浴)が適応となることがある。筋膜切開(例,コンパートメント症候群に対する)が適応となることはまれであり,これを考慮すべき状況は,コンパートメント内圧が1時間にわたり30mmHg以上となるかまたは拡張期血圧との差が30mmHg未満となった場合,コンパートメント内圧の上昇により重度の血管損傷が生じている場合,コンパートメント内圧の上昇が患肢の挙上とマンニトール1~2g/kgの静注に反応しない場合,ならびに適切な抗毒素の投与が無効に終わった場合のみである。広汎な浮腫のみでは筋膜切開の適応とならない。受傷後2日以内に,関節の動作,筋力,知覚,および患肢の周囲長を評価すべきである。拘縮は,固定を解き頻繁に愛護的な運動の時間をとり,受動運動から能動運動へと進めることで防げる。

米国外来種のヘビによるものを含め,ヘビ咬傷に対処する場合,地域のpoison centerや動物園は優れた情報源である。これらの施設では,ヘビの同定とヘビ咬傷に対するケアの訓練を受けた医師のリストとAntivenom Index(抗毒素一覧)が管理されており,それらはAmerican Zoo and Aquarium AssociationとAmerican Association of Poison Control Centersによって定期的に更新されている。この一覧には,米国に生息する全ての毒ヘビおよび大部分の外来種について入手可能な抗毒素バイアルの保管場所とバイアル数が記録されている。米国の電話相談サービスは+1-800-222-1222から利用できる。【訳注:日本では日本中毒情報センター[www.j-poison-ic.or.jp/]が情報を提供している。医療機関向けの緊急相談電話サービスは,大阪中毒110番072-726-9923[365日24時間対応],つくば中毒110番029-851-9999[365日9時~21時対応],いずれも1件2000円。】

要点

  • 米国では,一般的な毒ヘビにはガラガラヘビ類,アメリカヌママムシ類,およびヌママムシ類(全てマムシ類)などがあるが,ガラガラヘビ類が咬傷の大半および,ほぼ全ての死亡例を占める。

  • マムシ類の刺咬中毒では,局所作用(例,進行性の疼痛を伴う腫脹,斑状出血)および全身作用(例,嘔吐,発汗,錯乱,出血,発熱,胸痛,呼吸困難,錯感覚,低血圧)を起こしうる。

  • マムシ類を無毒のヘビから区別するのに役立つ特徴は,楕円形の瞳孔,ひし形の頭部,格納式の牙,目と鼻の間にある熱を感知する穴,および尾の下側にある肛板から延びる尾下板が一列であることである。

  • 現場では,患者をヘビの攻撃可能範囲から離し,早急な搬送を手配し,患肢を緩やかに包み,およそ心臓の高さに固定し,指輪や時計などの締めつけるものを取り外す;咬傷の切開や駆血帯の使用は行ってはならない。

  • マムシ類による咬傷の患者は最低8時間は連続的にモニタリングし,毒液注入を示唆する何らかの所見があれば時間を延長する。

  • 創傷および症状を治療し,poison centerへのコンサルテーションを行う。

  • 抗毒素を早期に,十分な用量(小児にも成人と同じ用量)で投与する。

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