骨髄路確保(用手的手技および電動ドリルを用いる手技)

執筆者:Yiju Teresa Liu, MD, Harbor-UCLA Medical Center
レビュー/改訂 2023年 7月
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骨髄路確保は,皮質骨を貫いて頑丈な針を髄腔に留置し,重症(critically ill)の患者に輸液および血液製剤を緊急に注入する手技である。

骨髄路確保は乳幼児で最も頻用されているが,厚い皮質骨への針の挿入を容易にする電動ドリルおよびばね式装置の普及により,成人でも使用頻度が高まっている。

この手技は,中心静脈カテーテル法に比べて迅速かつ初回試行時の成功率が高く,心肺蘇生を中断することなく施行できる。輸液は,静脈路からの点滴と同程度の速さで中心循環に達する。静脈内にルーチンで投与される輸液(薬剤および血液製剤を含む)はいずれも,骨髄輸液としても投与できる。

血管確保も参照のこと。)

骨髄路確保の適応

  • 末梢および中心静脈へのアクセスが困難な場合,特に緊急事態(例,ショック心停止)における,静脈内カテーテル留置の一時的な代替法として

骨髄路確保の禁忌

絶対的禁忌

  • 骨折または最近の骨髄路確保の試み;注入した液体が皮質骨の欠損部を介して軟部組織に漏出する

  • 下大静脈の損傷;上大静脈に還流する部位を使用する

相対的禁忌

骨髄路確保の合併症

合併症はまれであるが,以下のものがある:

  • 軟部組織への液体の漏出(穿刺時に針をうまくコントロールできないと,針が骨に入らない,針が反対側の皮質から出る,または皮質に大きすぎる漏出孔が形成されるといった結果になる)

  • 出血(コンパートメント症候群を引き起こす)

  • 感染(骨髄路確保の試みの2~3%未満で骨髄炎

  • 皮膚の脱落

  • 脂肪塞栓症

成長板損傷の報告はない。

骨髄路確保で使用する器具

  • 消毒液(例,クロルヘキシジン,ポビドンヨード,アルコール)

  • タオル(丸めたもの)

  • 手袋

  • 骨髄針およびときに穿刺用器具

  • 5~60mLシリンジ(予想される必要量に基づく)

  • 滅菌生理食塩水(フラッシュ用)

  • 滅菌ガーゼ(例,10cm四方)

  • 静脈内点滴に使用する接続チューブおよび輸液

骨髄針にはスタイレットがあり,通常は深さを制限するための調節可能なガードがついている。40kgを超える患者には長さ25mmの骨髄針を,40kg未満の患者には長さ15mmの針を使用する。針は,コードレスドライバー/ドリルに似た電動式穿刺装置の市販キット一式に含まれている場合がある。メーカーの指示に従って適切なサイズの針を選択する。

追加の器具(患者に意識がある場合):

  • 局所麻酔薬(例,アドレナリン無添加の1%リドカイン),25Gまたは22G針,3または5mLシリンジ

  • 骨髄内麻酔(intramedullary anesthetic,2%リドカイン,保存剤を含有しない静注溶液)

骨髄路確保における重要な解剖

成人への穿刺部位

  • 用手的な穿刺部位としては脛骨遠位部が望ましい。脛骨の内側表面上で,足関節内果と脛骨骨幹の接合部(大伏在静脈の後方)に針を挿入する。

  • 別の選択肢としては上腕骨近位部がある。ショック心停止の際には,中心循環に近いという利点がある。穿刺部は大結節とし,患者の腕を内転させて手掌を回内させ,臍の上に静置する。

  • 成人では脛骨近位部も使用できるが,骨が厚いため,穿刺には電動式の装置を使用するのが望ましい。脛骨結節から2cm遠位の平坦な前面内側に針を挿入する。

  • 必要であれば,他の部位(腸骨稜,大腿骨,橈骨,鎖骨,踵骨,および胸骨)を使用してもよい。

小児への穿刺部位

  • 6歳未満の小児では,脛骨近位部が望ましい。脛骨結節から1~3cm遠位の広くて平坦な前面内側に針を挿入する。

  • 別の選択肢としては大腿骨遠位部がある。大腿骨外顆の2~3cm上方の正中線上で,10~15°倒して頭側へ向けて針を挿入する。この部位を覆う軟部組織および筋が厚いと,骨性のランドマークの触知が困難な場合がある。

  • より年長の小児では,足関節内果から2cm上方の脛骨遠位部内側面の方が挿入しやすいことがある。

骨髄路確保での体位

  • ストレッチャーの上で患者を仰臥位にする。

  • 脛骨近位部または大腿骨遠位部に穿刺する場合は,筒状に巻いたタオルを膝の後ろに当てる。

骨髄路確保のステップ-バイ-ステップの手順

器具の用意および穿刺部位の準備を行う

  • 全ての静脈ラインおよび接続チューブを生理食塩水であらかじめフラッシュしておく。

  • 必要に応じて手袋,マスク,フェイスシールド,およびその他の個人防護具を着用する。

  • 滅菌生理食塩水5~10mLを入れたシリンジを準備する。

  • 穿刺部の麻酔を行うため,1%リドカイン3~5mLをシリンジに吸引し,25G針を接続する。

  • 骨髄内麻酔(medullary space anesthesia)としては,保存剤を含有しない2%リドカイン静注液3~5mLをシリンジに吸引する。

  • 針(用手的手技の場合)または電動ドリルを準備する(例,スタイレットをしっかりとねじ込んでセットした針をドリルに取り付け,患者の年齢および体格に合わせて適切な穿刺深度制限を設定する)。

  • 穿刺部位周辺の皮膚に,消毒液を同心円状に外側に広げながら塗布する。小児の場合は,脛骨近位部と大腿骨遠位部の両方を消毒範囲に含める。

  • 少なくとも1分間置いて消毒液を乾燥させる。

  • この時点以降,予定穿刺部位に滅菌されていないものを使用してはならない。

穿刺部位を麻酔する

意識のある患者の場合:

  • 1%リドカイン3~5mLを,針の挿入経路(骨膜を含む)に沿って皮膚および軟部組織に注射する。

骨髄針の挿入

脛骨近位部を4本の指と母指で覆い,固定する;(針刺し事故を避けるため)挿入部位のすぐ後ろに手を置くべきではない。そのかわり,膝を支えるため,タオルをその裏側に置くことはある。針を他方の手掌でしっかりと把持し,関節腔と成長板からやや離れた点を目指す。適度な圧力と回転運動により針を挿入し,皮質を貫通した抜ける感じがしたら止める。プラスチックスリーブ付きの針もあり,スリーブを調整することで骨に深く入りすぎたり反対側まで貫通したりするのを回避できる。

骨髄針を挿入する

  • 利き手ではない方の手で穿刺部位を触診する。

  • 利き手ではない方の手を脚または腕の穿刺部位付近に巻きつけて穿刺部位を固定する。穿刺部位のすぐ裏に手を置かない(針刺し事故を避けるため)。

  • 利き手でドリルまたは針をしっかりと把持する。

  • 骨の長軸に対して垂直になるように,針の先端を穿刺部位に置く。

  • 関節腔と成長板からやや離して(10~15°の角度倒して)針の狙いをつける。

用手的穿刺

  • 針が骨皮質を貫通した時点で針の前進を止められるよう,示指を使って針の軸を皮膚表面に固定する。この目的のために,調整可能なプラスチックスリーブを備えた針もある。

  • 適度な圧力を加え,左右に回転させながら穴を穿つような動きで針を進める。穴ができるだけ小さくなるように(液体の漏出を防ぐため),まっすぐに針を進める。

  • ポンッという突然の抵抗の消失(針が皮質骨を貫通して骨髄腔に入ったことを示す)を感じたら針の挿入を止め,針が骨に深く入りすぎないようにする。

電動ドリルによる穿刺

  • 皮膚を貫通する:トリガーを強く握り,軽く圧力を加えて皮膚を貫通する。

  • 針を進める:トリガーを強く握ったまま,皮質骨の抵抗に逆らって下向きに一定の圧をかける。

  • 抵抗の突然の消失(骨髄腔に入ったことを示す)を感じたら,直ちにトリガーから指を離し,針の進入を止める。

  • 針を留置したまま,針からドリルを外す。

骨髄針が留置されていることを確認する

  • 支えなしで針が直立した状態を維持しているのは,針が適切に留置されていることを示す最初の徴候である。

  • キャップとスタイレットを取り外し,あらかじめフラッシュしておいた延長チューブを装着して吸引する。血液(骨髄)が自由に戻れば,骨髄内に正しく留置されていることが確認される。

    骨髄が吸引されない場合は,生理食塩水5~10mLを針から注入する。

    注入時に抵抗を感じ,局所の腫脹(漏出)が視認または触知される場合は,針を抜いて別の骨に穿刺する。

骨髄内輸液を開始する

  • まず,骨髄内麻酔(intramedullary anesthesia)(意識のある患者に対して)を行う:成人では,保存剤を含有しない静注用2%リドカイン2mL(40mg)をゆっくり(2~3分かけて)点滴し,痛みがなくなるまで20mgの投与を繰り返してもよい(最大容量は100mg[5mL])。小児には,0.5mg/kg(0.025mL/kg)を最大用量20mg(1mL)でゆっくり点滴する。1分間待ってから,5~10mLの生理食塩水でフラッシュする。

  • 点滴を開始する。(輸液が周囲組織に漏出せず自由に流れるのは,針が正しく留置されていることを示す1つの徴候である。)

穿刺部位をドレッシングする

  • 穿刺部位を滅菌ガーゼで多い,テープでしっかり固定する;市販の骨髄穿刺キットには専用のドレッシング材が含まれている場合がある。

  • 必要であれば,穿刺部位をさらに保護するため当該肢を固定する。

骨髄路確保のアフターケア

  • 点滴に起因する反復性の骨髄の痛みに対しては,上述のように2%リドカインの緩徐な点滴と生理食塩水によるフラッシュを繰り返し,必要に応じて1時間毎に初回用量の半量のリドカインを投与する。

  • 骨髄内輸液の器具は,穿刺から24時間以内(理想的には3~4時間以内)に,末梢もしくは中心静脈への輸液路が確保された後なるべく早く除去すべきである。針は時計回りに回転させて引き抜く。必要であれば,針のハブにロックキャップまたは空のシリンジを装着すると把持しやすい。

  • 針を抜いたら,滅菌された閉鎖性ドレッシングを行う。一般に穿刺部位にはクロルヘキシジンを含浸させた円形パッドを貼付し,その上に透明フィルムドレッシングが用いられる。

骨髄路確保の注意点とよくあるエラー

  • 骨髄針の先端が最初に骨表面に接触したとき,針の先端が骨髄腔に到達できるよう,皮膚表面から少なくとも5mm針が見えていなければならない。針がそこまで届かない場合は,より長い針が必要になることがある。

  • 針のハブが皮膚表面と接触したり皮膚に埋没したりするまでドリルを続けない。損傷および皮膚壊死を引き起こす可能性がある。

骨髄路確保のアドバイスとこつ

  • 電解質輸液(例,生理食塩水)の急速注入および粘稠液の点滴は,加圧バッグ,用手的注入,または輸液ポンプを用いて行うべきである。

参考文献

  • Panchal AR, Bartos JA, Cabañas JG, et al.Part 3: Adult Basic and Advanced Life Support: 2020 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care. Circulation 2020;142(16_suppl_2):S366-S468.doi:10.1161/CIR.0000000000000916

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