心室中隔欠損症(VSD)

執筆者:Lee B. Beerman, MD, Children's Hospital of Pittsburgh of the University of Pittsburgh School of Medicine
レビュー/改訂 2023年 4月
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心室中隔欠損症(VSD)は,心室中隔が開口している状態であり,両心室間の短絡を引き起こす。欠損孔が大きい場合,有意な左右短絡の発生につながり,乳児期に哺乳時の呼吸困難および発育不良を来す。胸骨左縁下部で粗大な全収縮期雑音が聴取されることが多い。繰り返す呼吸器感染症や心不全を来すことがある。診断は心エコー検査による。欠損孔は乳児期に自然閉鎖する場合もあれば,外科的修復が必要になる場合もある。

心血管系の先天異常の概要も参照のこと。)

心室中隔欠損症(心室中隔欠損症の図を参照)は,大動脈二尖弁に次いで2番目に頻度の高い先天性心形成異常であり,20%を占める。単独発生のこともあれば,他の先天異常を合併することもある(例,ファロー四徴症,完全型房室中隔欠損症大血管転位症)。

心室中隔欠損症

肺血流量と左房および左室容積が増加する。心房圧は平均圧である。右室圧と酸素飽和度はおそらく欠損孔の大きさに比例し,様々な程度で上昇する。

AO = 大動脈;IVC = 下大静脈;LA = 左房;LV = 左室;PA = 肺動脈;PV = 肺静脈;RA = 右房;RV = 右室;SVC = 上大静脈。

分類

心室中隔欠損症の大半は発生位置により分類される:

  • 膜様部欠損(膜性部周辺欠損とも呼ばれる)

  • 筋性部欠損

  • 肺動脈弁下部欠損(流出路,conoseptal,または両半月弁下)

  • 流入部欠損(房室中隔型,房室管型)

膜様部欠損(70~80%)は,三尖弁に隣接する膜性中隔の欠損で,様々な量の周囲筋組織に及んでおり,最も頻度の高い型は大動脈弁直下に生じる。

筋性部欠損(5~20%)は,筋組織により完全に囲まれており,中隔のあらゆる部位に生じる可能性がある。

肺動脈弁下欠損(米国では5~7%;極東地域では約30%)は心室中隔の肺動脈弁直下に発生する。この部位の欠損は,しばしば流出路,conoseptal,または両半月弁下欠損とも呼ばれ,欠損孔への大動脈弁逸脱を合併して大動脈弁逆流を引き起こす。

流入部欠損(5~8%)は,上端は三尖弁弁輪に接し,膜性中隔の後方に位置する。この部位の欠損は,ときに房室中隔型欠損と呼ばれる。

整列異常型(malalignment type)の心室中隔欠損症は,円錐中隔または流出路中隔の偏位を特徴とする。円錐中隔が前方に偏位していると,右室流出路に突出するため,しばしばファロー四徴症でみられるような閉塞が生じる。円錐中隔が後方に偏位していると,左室流出路閉塞がみられることがある。この種のVSDは,膜性部VSDと同じ場所に発生するが,流出路閉塞といった異なる生理学的特徴を有する重要なサブタイプを呈する。

VSDの病態生理

短絡量は欠損孔の大きさと下流の抵抗(すなわち,肺動脈流出路閉塞および肺血管抵抗)に依存する。

非限定的な(nonrestrictive)心室中隔欠損症では,右室圧と左室圧が等しくなり,大量の左右短絡がみられる。肺動脈弁狭窄がなければ,体循環の左室圧が右室および肺動脈に直接伝達されるため,重度の肺高血圧が存在する。最初は大量の左右短絡があり,左室および右室の容量負荷を伴う。やがて,大量の短絡によって肺血管抵抗の上昇が生じ,それに右室圧負荷増大および右室肥大を伴うようになる。最終的には,肺血管抵抗の上昇により短絡方向が(右室から左室の方向に)逆転して,アイゼンメンジャー症候群を来すことになる。

限定的な(restrictive)心室中隔欠損症では,欠損孔がより小さく,右心への血流と高圧の伝播が制限される。欠損孔が小さいVSDでは,左右短絡の流量が比較的少量であり,肺動脈圧は正常または若干高くなるのみである。心不全,肺高血圧,アイゼンメンジャー症候群は発生しない。

中等度のVSDでは,中等量の左右短絡が生じるが,肺高血圧はないか,あっても軽度から中等度にとどまる。臨床症状は最小限のこともあれば,肺血流量増加による心不全症状がある程度存在することもある。

VSDの症状と徴候

症状は欠損孔の大きさと左右短絡量に依存する。欠損孔の小さな心室中隔欠損症を有する小児は,典型的には無症状に経過し,成長および発達も正常である。欠損孔が大きい場合は,肺血管抵抗が低下する生後4~6週から心不全の症状(例,呼吸窮迫,体重増加不良,哺乳後の疲労)が出現する。下気道感染症が頻回に発生することもある。無治療の患者では,年月を経て最終的にアイゼンメンジャー症候群の症状が出現することがある。

聴診所見は欠損孔の大きさによって異なる。小さなVSDでは,典型的には雑音が生じ,1/6~2/6度の高調で短い収縮期雑音(収縮後期に非常に小さな欠損は実際は閉鎖するため)から,胸骨左縁下部で3/6~4/6度の全収縮期雑音(振戦を伴うまたは伴わない)までに及び,通常その雑音は生後数日で聴取可能となる(心雑音の強度の表を参照)。心尖拍動の亢進はなく,II音は分裂・強度ともに正常である。

中等大のVSDでは,生後2~3週までに全収縮期雑音が生じ,通常はII音の分裂が狭く,肺動脈成分が亢進する。心尖部の拡張期ランブル(僧帽弁部の流入血流増加が原因)および心不全所見(例,頻呼吸,哺乳時の呼吸困難,発育不良,奔馬調律,断続性ラ音,肝腫大)がみられることもある。短絡量が中等度から高度のVSDでは,しばしば雑音が非常に大きくなり,振戦を伴う(雑音は4~5度)。左室圧と右室圧が等しくなる大きな欠損の場合,収縮期雑音はしばしば弱まる。

VSDの診断

  • 胸部X線および心電図検査

  • 心エコー検査

心室中隔欠損症の診断は,診察で示唆され,胸部X線および心電図で裏付けを得て,心エコー検査によって確定する。

欠損孔が大きい場合は,胸部X線にて心拡大と肺血管陰影の増強を認める。心電図では,右室肥大または両室肥大のほか,ときに左房拡大も認める。欠損孔が小さい場合は,典型例では心電図,胸部X線ともに正常である。

カラードプラ法を用いた2次元心エコー検査により,診断を確定するとともに,欠損部位や欠損孔の大きさ,右室圧など,重要な解剖学的および血行動態学的情報を得ることができる。心臓カテーテル法は診断に必須ではないが,肺高血圧および肺血流増加の程度を評価し,肺血管抵抗を測定するために用いられることがある。

VSDの治療

  • 心不全に対して,内科的治療(例,利尿薬,ジゴキシン,アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬)

  • ときに外科的修復

小さな(5mm未満)心室中隔欠損(特に筋性部中隔欠損)は,しばしば生後数年で自然に閉鎖する。小さな欠損であれば,開口した状態でも内科的治療も外科的治療も必要ない。大きな欠損孔では,自然閉鎖の可能性はやや低くなる。

利尿薬,ジゴキシン,およびACE阻害薬は,心臓手術前の心不全症状のコントロールに,または経時的に自然閉鎖する可能性が高いと考えられる中等大のVSDを有する乳児の一時的な治療として有用である。内科的治療に反応しないか,発育不良がみられる乳児には,しばしば生後数カ月までの外科的修復が推奨される。

肺高血圧を伴う大きなVSDは,たとえ無症状でも,将来の合併症を予防するために,通常は1歳時までに修復すべきであり,特に遷延性肺高血圧症やアイゼンメンジャー症候群につながる肺血管疾患の予防が重要である。無症状の健康な小児で肺動脈圧の上昇もないが,左室容量負荷に至るほどの大量の短絡が持続している場合は,晩期の合併症を予防するために3~4歳までに欠損孔を閉鎖すべきである。

手術死亡率は2%未満である。手術合併症として,心室位短絡の残存,完全房室ブロックなどが生じうる。

一部の欠損孔には経カテーテル閉鎖術が可能であるが,この治療が望ましい選択肢とみなされることはまれである。

心内膜炎予防は,術前には必要ないが,修復後最初の6カ月間または外科用パッチに隣接して遺残欠損がある場合にのみ必須である。

要点

  • 心室中隔欠損症(VSD)は,心室中隔が開口している状態であり,左右短絡を引き起こす。

  • 長期的には,大量の左右短絡により肺動脈高血圧,肺血管抵抗の上昇,右室の圧負荷,および右室肥大が起こり,最終的には短絡方向が逆転して,アイゼンメンジャー症候群を来すことになる。

  • 欠損孔が大きい場合は,生後4~6週までに心不全症状が出現する。

  • 典型的には,胸骨左縁下部で3/6~4/6度の全収縮期雑音が聴取されるが,これは出生直後から聴取可能である。

  • 内科的治療に反応しないか,発育不良がみられる乳児には,生後数カ月以内に心不全の外科的修復を行うべきであり,大きなVSDは,たとえ無症状でも1歳時までに修復すべきである。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American Heart Association: Common Heart Defects: Provides overview of common congenital heart defects for parents and caregivers

  2. American Heart Association: Infective Endocarditis: Provides an overview of infective endocarditis, including summarizing prophylactic antibiotic use, for patients and caregivers

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