フォン・ヒッペル-リンドウ病(VHL)

執筆者:M. Cristina Victorio, MD, Akron Children's Hospital
レビュー/改訂 2021年 8月
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フォン・ヒッペル-リンドウ病は,複数の臓器に生じる良性および悪性腫瘍を特徴とする,まれな遺伝性神経皮膚疾患である。診断は臨床基準および/または分子遺伝学的検査により下される。治療は手術によるか,ときに放射線療法を行い,また網膜血管腫には,レーザー凝固術または凍結療法を用いる。

フォン・ヒッペル-リンドウ病(VHL)は,36,000人に1人の頻度で発生する神経皮膚症候群であり,常染色体顕性遺伝(優性遺伝)であるが,浸透度は多様である。VHL遺伝子は,3番染色体短腕(3p25.3)に位置する腫瘍抑制遺伝子である。VHL患者ではこの遺伝子に1500を超える変異が同定されている。20%の患者では,異常遺伝子は新たな突然変異とみられる。

VHLは以下を引き起こすことが非常に多い

  • 小脳血管芽腫

  • 網膜血管腫

褐色細胞腫などの腫瘍と嚢胞(腎臓,肝臓,膵臓,または性器)が他の臓器に発生する可能性がある。VHL患者の約10%には内耳に内リンパ嚢腫瘍が発生し,聴覚が脅かされる。年齢とともに腎細胞癌の発生リスクが増大し,60歳時点では70%にものぼる。

典型的には10~30歳で症候が出現してくるが,より若年で発症する可能性もある。

VHLの症状と徴候

フォン・ヒッペル-リンドウ病の症状は腫瘍の大きさと部位に依存する。症状としては,頭痛,浮動性めまい,筋力低下,運動失調,視覚障害,高血圧などが挙げられる。

網膜血管腫は直像眼底検査で検出され,視神経乳頭から怒張した静脈を伴う末梢部の腫瘍へと続く拡張動脈として観察される。これらの血管腫は通常は無症状であるが,中心部で増大した場合には,かなりの視力障害を引き起こす可能性がある。このような腫瘍は,網膜剥離,黄斑浮腫,および緑内障のリスクを増大させる。

無治療のVHLは,失明または脳損傷につながることがあり,死に至る可能性もある。通常,死亡は小脳血管芽腫または腎細胞癌の合併症によって起こる。

VHLの診断

  • 直像眼底検査

  • 中枢神経系の画像検査,一般的にはMRI

  • ときに分子遺伝学的検査

フォン・ヒッペル-リンドウ病は,以下の基準のいずれかを満たした場合に診断される:

  • VHLの家族歴があり,かつVHL腫瘍(網膜,脳,もしくは脊髄血管芽腫;褐色細胞腫;腎細胞癌;または膵内分泌腫瘍)が少なくとも1つある

  • VHLの家族歴が判明していない患者において特徴的なVHL腫瘍が2つ以上ある

臨床的特徴で結論が得られない場合は,分子遺伝学的検査でVHL遺伝子の変異を同定することによっても診断を確定できる。

患者にVHL遺伝子に特異的な変異が同定された場合は,リスクのある血縁者にもその変異があるかどうかを確認するために遺伝子検査を行うべきである。

VHLの治療

  • 手術またはときに放射線療法

  • 網膜血管腫には,レーザー凝固術または凍結療法

  • 定期的なモニタリング

フォン・ヒッペル-リンドウ病の治療としては,腫瘍が有害になる前に外科的切除を行う場合が多い。褐色細胞腫は外科的に切除する;ときに高血圧の治療を継続する必要がある。腎細胞癌は外科的に切除する;進行がんは薬物治療に反応する可能性がある。一部の腫瘍は,集中的な高線量の放射線療法で治療することができる。

経口の低酸素誘導因子2阻害薬であるベルズチファンは,腎細胞癌,中枢神経系血管芽腫,または膵内分泌腫瘍で即時の外科的切除を必要としない成人患者に対して使用可能となっている。推奨される用法・用量は120mg,経口,1日1回である。この薬剤は,疾患が進行するか,許容できない毒性が生じるまで使用することができる。

典型的には,網膜血管腫は視力を温存するためにレーザー凝固術または凍結療法により治療する。

血管腫を縮小させるためのプロプラノロールの使用が現在研究中である。

合併症のスクリーニングと早期治療により予後が改善する。

合併症のスクリーニング

重篤な合併症の予防には早期発見が鍵となるため,VHLの診断基準を満たした患者には,VHLの合併症のスクリーニングを定期的に行うべきである。

ルーチンサーベイランスに以下を含めるべきである(1):

  • 年1回の病歴聴取および身体診察

  • 網膜血管芽腫のスクリーニングのため,乳児期から年1回の散瞳下の眼科診察

  • 褐色細胞腫のスクリーニングのため,2歳から年1回の血圧モニタリング

  • 褐色細胞腫のスクリーニングのため,5歳から年1回の尿中または血漿遊離メタネフリン分画の測定

  • 中枢神経系血管芽腫のスクリーニングのため,11歳から2年毎の脳および脊髄MRI

  • 内リンパ嚢腫瘍のスクリーニングのため,11歳から2年毎の聴力検査

  • 腎細胞癌,褐色細胞腫,および膵腫瘍のスクリーニングのため,15歳から2年毎の腹部MRIまたは超音波検査

VHLの診断基準を満たさないが生殖細胞系列変異を有する個人,または検査を受けたことはないがVHL患者の第1度または第2度近親者である個人にも,以下を用いたスクリーニングを行うべきである:

  • 神経症状ならびに視覚および聴覚の問題に関する年1回の評価

  • 眼振,斜視,および白色瞳孔を検索するための年1回の眼科診察

  • 年1回の血圧モニタリング

スクリーニングに関する参考文献

  1. 1.Maher ER: Von Hippel-Lindau disease.Curr Mol Med 4(8):833–842, 2004. doi: 10.2174/1566524043359827

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