先天性トキソプラズマ症

執筆者:Brenda L. Tesini, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry
レビュー/改訂 2022年 7月
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先天性トキソプラズマ症は,Toxoplasma gondiiの経胎盤感染によって引き起こされる。みられることのある臨床像は,未熟性,胎児発育不全,黄疸,肝脾腫,心筋炎,肺炎,発疹,脈絡網膜炎,水頭症,頭蓋内石灰化,小頭症,痙攣である。診断は血清学的検査またはPCR検査による。治療はピリメタミン,スルファジアジン,およびロイコボリンによる。

(成人における See also page トキソプラズマ症および新生児感染症の概要を参照のこと。)

Toxoplasma gondiiは世界中にみられる寄生虫であり,出生10,000人当たり約1~80例の頻度で先天性感染を引き起こす。

先天性トキソプラズマ症の病因

先天性トキソプラズマ症は,ほぼ全例が母親の妊娠中の初期感染に起因するが,例外もあり,例えば重度の細胞性免疫不全のある母親では,新しい血清型のT. gondiiによる再感染時やトキソプラズマ症の再活性化時にみられることがある。T. gondiiの感染は主に,シストで汚染された加熱調理不十分な肉の摂取か,ネコの糞便で汚染された食品または水を介したオーシストの摂取によって生じる。

胎児への感染率は,感染時期が妊娠期間のより後期である妊婦ほど高くなる。しかしながら,妊娠初期に感染した胎児の方が,より重症の疾患を起こす傾向がある。全体で,妊娠中に感染した女性の30~40%で先天性感染児が生まれる。

先天性トキソプラズマ症の症状と徴候

T. gondiiに感染した妊婦は,一般に臨床的な症候を示さないが,軽度の伝染性単核球症様症候群,所属リンパ節腫脹,ときに脈絡網膜炎を来すことがある。同様に,感染した新生児も出生時は通常無症状であるが,以下のような臨床像を呈することがある:

神経系への感染がしばしば著明となり,具体的には,脈絡網膜炎,水頭症,脳内石灰化,小頭症痙攣などがみられる。脈絡網膜炎,水頭症,および頭蓋内石灰化が古典的三徴である。神経系および眼の続発症は,数年から数十年遅れて現れることがある。

先天性トキソプラズマ症の診断

  • 一連のIgG測定(母体の感染に対して)

  • 羊水PCR検査(胎児の感染に対して)

  • 血清学的検査,脳画像検査,髄液検査,眼科的評価(新生児の感染に対して),および様々な体液または組織のPCR検査

血清学的検査は,母体感染および先天感染の診断に重要である。

女性に以下のうち少なくとも1つがみられる場合,母体感染を疑うべきである:

  • 伝染性単核球症様症候群があり,エプスタイン-バーウイルス,HIV,およびサイトメガロウイルスの検査(抗体またはPCR)が陰性

  • 他の原因(例,HIV)によらない孤立性の所属リンパ節腫脹

  • 脈絡網膜炎

母親の急性感染は,抗体陽転または急性期と回復期のIgG抗体価で4倍以上の上昇を認めることにより示唆される。しかしながら,乳児では母親由来のIgG抗体が生後1年間検出されることがある。

胎児感染に対しては,羊水のPCR検査が第1選択の診断法として注目を集めている。そのほかにも多数の血清学的検査があり,その一部は基準となる検査施設でのみ実施される。最も信頼性が高いのは,Sabin-Feldman色素試験,間接蛍光抗体(IFA)試験,および直接凝集反応試験である。トキソプラズマを分離する試験法として,マウスおよび細胞培養系への接種があるが,このような試験は高価であり,感度はあまり高いものではないうえ,結果が得られるまでに数週間を要する。

先天性トキソプラズマ症が疑われる乳児には,血清学的検査,脳のMRIまたはCT,髄液検査,聴性脳幹反応検査,眼科医による徹底的な眼科診察を行うべきである。髄液の異常としては,キサントクロミー,髄液細胞増多,タンパク質濃度高値などがある。胎盤を視診して,T. gondii感染の特徴的徴候(例,胎盤炎)がないか確認する。非特異的な検査所見としては,血小板減少,リンパ球増多,単球増多,好酸球増多,トランスアミナーゼ高値などがある。感染確認のために髄液などの体液および組織(胎盤)のPCR検査を行うこともできる。

米国の一部の州では,乾燥血液を用いて特定のトキソプラズマIgM抗体を検出する,ルーチンの新生児スクリーニングが行われている。

先天性トキソプラズマ症の予後

劇症の経過をたどって早期に死亡する患児もいる一方,長期の神経学的後遺症を残す患児もいる。ときに,出生時は正常に見えた小児において,数年後に神経学的な臨床像(例,脈絡網膜炎,知的障害,難聴,痙攣)がみられるようになる。したがって,先天性トキソプラズマ症の小児には,新生児期を過ぎてからも綿密なモニタリングを継続するべきである。

感染症の重症度はPCR検査で測定した羊水中の寄生虫量と相関する可能性がある(1)。

予後に関する参考文献

  1. 1.Yamamoto L, Targa LS, Sumita LM, et al: Association of parasite load levels in amniotic fluid with clinical outcome in congenital toxoplasmosis.Obstet Gynecol 130(2):335–345, 2017.doi: 10.1097/AOG.0000000000002131

先天性トキソプラズマ症の治療

  • ときに,妊婦に対してスピラマイシン

  • ピリメタミン,スルファジアジン,およびロイコボリン

データは限られているが,妊娠中における感染女性の治療が胎児に有益となる可能性が示唆されている(1)。スピラマイシン(米国では米国食品医薬品局[Food and Drug Administration:FDA]の特別な許可により使用可能)は母子感染の予防に使用されているが,胎児の治療にはならない。最近の後ろ向きレビューでは,トリメトプリム/スルファメトキサゾールの追加により感染予防の有効性が高まる可能性が示唆されている(2)。ピリメタミンとスルホンアミド系薬剤は,感染した胎児の治療のために妊娠の後期に使用されている。

症候性および無症候性の新生児に対する治療は,転帰の改善につながる可能性がある。したがって,まずは経口ピリメタミン(初回負荷量として2mg/kg,1日1回,2日間,その後1mg/kg,1日1回,最高25mg)および経口のロイコボリン(10mg,週3回)で治療を開始する。新生児黄疸が消失したら,経口スルファジアジン(50mg/kg,1日2回,最高4g)を開始する。最初の6カ月間の治療後は,スルファジアジンロイコボリンはそれまでと同じ用量で継続するが,ピリメタミンは回数を減らして(月,水,金のみ)投与する。このレジメンを最低でも6カ月は継続する。治療は全て専門医が監督するべきである。コルチコステロイドの使用については議論があり,ケースバイケースで決定すべきであるが,活動性の脈絡網膜炎がみられるか髄液タンパク質濃度が1g/dLを超える場合には考慮してもよい。

治療に関する参考文献

  1. 1.Olariu TR, Press C, Talucod J, et al: Congenital toxoplasmosis in the United States: Clinical and serologic findings in infants born to mothers treated during pregnancy.Parasite 26:13, 2019.doi: 10.1051/parasite/2019013

  2. 2.Buonsenso D, Pata D, Turriziani Colonna A, et al: Spiramycin and trimethoprim-sulfamethoxazole combination to prevent mother-to-fetus transmission of Toxoplasma gondii infection in pregnant women: A 28-years single-center experience.Pediatr Infect Dis J 41(5):e223–e227, 2022.doi: 10.1097/INF.0000000000003469

先天性トキソプラズマ症の予防

妊婦には,ネコのトイレなど,ネコの糞便で汚染された領域に触れないよう指導すべきである。オーシストが排泄されてから感染力を獲得するまでには24時間以上かかるため,同居者がネコのトイレを扱うことができない場合は,1日1回のペースで手袋を着用して慎重にトイレごと取り替え,その後は入念に手洗いするように努めれば,この経路での感染は減少するはずである。

妊婦が摂取する肉は完全に加熱調理すべきである。果物と野菜は徹底的に洗うか皮を剥き,食品を扱った後は必ずすぐに手を洗うべきである。

初感染のリスクがある女性(例,ネコの糞便に曝露する頻度が高い女性)には,妊娠中にスクリーニングを行うべきである。第1または第2トリメスター中に感染した女性には,可能な治療法に関してカウンセリングを行うべきである。

要点

  • 先天性トキソプラズマ症は通常,妊娠中の母体初感染によって発生し,妊娠前の感染は低リスクである;以前の感染の再活性化によるリスクは低いが,易感染性患者は例外である。

  • 心臓,肝臓,肺,中枢神経系など多くの臓器が侵される可能性があり,脈絡網膜炎,水頭症,および頭蓋内石灰化が古典的三徴である。

  • 劇症の経過をたどって早期に死亡する患児もいる一方,神経系および眼の後遺症(数年,長いときは数十年にわたり発症しない場合もある)が長期的に残る患児もいる。

  • 羊水のPCR検査(胎児感染が対象),または体液(髄液など)および組織のPCR検査(新生児感染が対象)を行い,また血清学的検査も利用できる。

  • 脳のMRIまたはCTを施行する。

  • ピリメタミン,スルファジアジン,およびロイコボリンが役立つことがある。

  • 妊婦には,肉は徹底的に加熱調理してから摂取し,またネコのトイレなど,ネコの糞で汚染された領域に触れないよう指導すべきである。

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