小児の下痢

執筆者:Deborah M. Consolini, MD, Thomas Jefferson University Hospital
レビュー/改訂 2022年 11月
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下痢とは,小児の正常なパターンから逸脱した頻回の軟便または水様便の排出である。

下痢には,食欲不振,嘔吐,急激な体重減少,腹痛,発熱,または血液の排出が伴うことがある。下痢が重症で持続する場合は脱水の可能性が高い。脱水が認められない場合でも,慢性の下痢によって通常体重は減少するか,または増加しなくなる。

下痢は小児で非常によくみられる問題であり,下痢および脱水による死亡は世界で1年当たり約150~250万例である。米国では5歳未満の小児の入院の約9%を占める。

成人の下痢については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。

小児の下痢の病態生理

下痢の機序には以下のものがある:

  • 浸透圧性

  • 分泌性

  • 炎症性

  • 吸収不良性

浸透圧性下痢は,乳糖不耐症と同様に,消化管内に非吸収性の溶質が存在することによって起こる。浸透圧性下痢は2~3日間の絶食によって止まる。

分泌性下痢は,腸管内腔への塩化物イオンおよび水分の分泌を増やす物質(例,細菌毒素)によって起こる。分泌性下痢は絶食しても止まらない。

炎症性下痢は,腸粘膜の炎症または潰瘍を起こす疾患(例,クローン病潰瘍性大腸炎)に関連する。結果として生じる血漿,血清タンパク質,血液,および粘液の流出によって便の容量および水分含有量が増加する。

吸収不良は,浸透圧もしくは分泌性の機序,または腸管の表面積の縮小をもたらす疾患によって起こりうる。膵機能不全および短腸症候群などの疾患ならびに通過時間を加速させる疾患によって,吸収の減少に起因する下痢が起こる。

小児の下痢の病因

下痢の原因および意義( see table 下痢の主な原因)は,急性(2週間未満)か慢性(2週間以上)かによって異なる。大半の下痢は急性である。

急性下痢は,通常,以下が原因で起こる:

大半の胃腸炎はウイルス性であるが,あらゆる腸内病原体によって急性下痢が起こりうる。

慢性下痢は,通常,以下が原因で起こる:

慢性の下痢は,解剖学的異常および吸収または消化を妨げる疾患によっても起こりうる。

表&コラム
表&コラム

小児の下痢の評価

病歴

現病歴の聴取では,便の性状,排便回数,および便通の間隔,ならびに発熱,嘔吐,腹痛または血便の合併に焦点を置くべきである。現在または最近(2カ月以内)の抗菌薬の使用について親に尋ねる。食事内容(例,ジュースの量,糖またはソルビトール含有量の多い食品)を確認する。硬便または便秘に関するあらゆる既往に注意すべきである。また感染症の危険因子(例,最近の旅行;疑わしい食品の摂取;動物園の動物,爬虫類,または同様の症状がある者との最近の接触)についても評価すべきである。

システムレビュー(review of systems)では,下痢の合併症と原因の両方の症状を検討すべきである。合併症の症状には,体重減少および排尿回数と水分摂取の減少(脱水)などがある。原因の症状としては,食物摂取と関連がある蕁麻疹様発疹(食物アレルギー);鼻茸,副鼻腔炎,および発育不良(嚢胞性線維症);関節炎,皮膚病変,および裂肛(炎症性腸疾患)などがある。

既往歴の聴取では,患者および家族ですでに判明している原因疾患(例,易感染状態,嚢胞性線維症,セリアック病,炎症性腸疾患)を評価すべきである。

身体診察

バイタルサインを評価し,脱水を示す症状(例,頻脈,低血圧)および発熱がないか確認すべきである。

全般的な評価では嗜眠または苦痛の徴候などを調べる。成長パラメータに注意すべきである。

腹部の診察は不快感を誘発する恐れがあるため,頭部の診察から始める方がよい。診察では,粘膜が湿潤または乾燥しているかに注目すべきである。鼻茸;眼,鼻,および口周囲の乾癬様皮膚炎;および口腔内潰瘍に注意すべきである。

四肢の診察では,皮膚ツルゴール,毛細血管再充満時間,ならびに点状出血,紫斑,他の皮膚病変(例,結節性紅斑,壊疽性膿皮症),発疹,および発赤を伴う腫脹した関節の有無に注目すべきである。

腹部の診察では,膨隆,圧痛,および腸音の状態(例,高調,正常,消失)に焦点を置く。性器の診察では,発疹の有無および裂肛または潰瘍性病変の徴候に焦点を置く。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見には特に注意が必要である:

  • 頻脈,低血圧,および嗜眠(著しい脱水

  • 血便

  • 胆汁性嘔吐

  • 極度の腹部圧痛および/または膨隆

  • 点状出血および/または蒼白

所見の解釈

抗菌薬関連下痢症,感染症後の下痢,および解剖学的原因による下痢は,典型的には病歴から明らかである。経過の確認は,下痢が急性か慢性かを判定するのに役立つ。緊急度を判定することも重要である。急性下痢の大半の症例はウイルス性であり,緊急度は低く,発熱および非血性下痢を起こす。しかし細菌性の下痢は重篤な結果に至ることがあり,症状には発熱,血性下痢,そしておそらく点状出血や紫斑も含まれる。

慢性下痢に合併する症状は様々で,複数の病態による症状が重複することもある。例えば,クローン病およびセリアック病では口腔内潰瘍,また数ある疾患では発疹が生じ,いずれの疾患によっても発育不良となりうる。原因が不明の場合は臨床所見に基づいてさらなる検査を実施する( see table 下痢の主な原因)。

検査

自然治癒する急性の下痢では,ほとんどの場合検査は不要である。しかし,評価においてウイルス性胃腸炎以外の病因が示唆される場合,疑われる病因に照準を当てた検査を行うべきである( see table 下痢の主な原因)。

小児の下痢の治療

下痢の具体的な原因があれば治療する(例,セリアック病を有する患児にはグルテン除去食)。

一般的治療では脱水の治療に焦点を置くが,通常経口的に行える。輸液による水分補給が必須になることはまれである。(注意:止瀉薬[例,ロペラミド]は,乳幼児には推奨されない。)

水分補給

経口補水液(ORS)は,複合炭水化物または2%ブドウ糖およびナトリウム50~90mEq/L(50~90mmol/L)を含有するものとすべきである。スポーツドリンク,炭酸飲料,ジュース,および類似の飲み物は,これらの基準を満たさないため用いるべきではない。一般的にこうした飲料はナトリウム含有量が少なすぎ糖質が多すぎるため,ナトリウム-ブドウ糖共輸送を効果的に利用できず,過量の糖質が浸透圧に与える影響により,さらなる水分喪失を引き起こす可能性がある。

経口補水液(ORS)は世界保健機関(World Health Organization)によって推奨されており,米国内では処方箋なしで広く使用されている。大半の薬局およびスーパーマーケットで混合済みの溶液を入手できる。

小児に嘔吐もみられる場合には,少量を頻繁に投与し,5mLの5分毎の投与から始めて,耐えられれば漸増する( see heading on page 経口補水)。小児に嘔吐がみられなければ,初回投与量に制限はない。いずれの場合も一般に,軽度の脱水には50mL/kgを4時間かけて投与し,中等度の脱水には100mL/kgを4時間かけて投与する。1回の下痢に対して10mL/kg(最大240mL)を追加する。4時間後に患児を再評価する。脱水の徴候が持続する場合は同量の投与を繰り返す。

食事および栄養

急性下痢の患児は,脱水から回復し嘔吐がなくなればすぐに,年齢に応じた食事を摂るべきである。乳児は母乳または人工乳を再開してもよい。

小児非特異的慢性下痢症(toddler's diarrhea)では,食事の脂肪分および繊維分を増やし,水分摂取量(特にフルーツジュース)を減らすべきである。

他の原因による慢性の下痢では,十分な栄養,特に脂溶性ビタミンの摂取を維持する必要がある。

要点

  • 下痢は小児でよくみられる問題である。

  • 最も頻度の高い原因は胃腸炎である。

  • 急性下痢の患児では,検査が必要であることはまれである。

  • 重度または持続する下痢では,脱水を起こしている可能性が高い。

  • 大半の症例で経口補水が効果的である。

  • 止瀉薬(例,ロペラミド)は,乳幼児には推奨されない。

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