正常な陣痛の管理

執筆者:Raul Artal-Mittelmark, MD, Saint Louis University School of Medicine
レビュー/改訂 2021年 5月
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分娩は,子宮の律動的,不随意的,または医学的に誘発された一連の収縮から成り,子宮頸部の展退(菲薄化および短縮)と開大が引き起こされる。世界保健機関(World Health Organization)は,正常な出産を以下のように定義している:

  • 分娩が自然に発来し,分娩の開始時にリスクが低く,陣痛および分娩を通じてリスクが低い状態である。

  • 妊娠37~42週の間に,頭位での自然分娩で児が生まれる。

  • 出産後,母親と新生児の状態が良好である(1)。

分娩発来機序は未解明であるが,診察中に頸管を触診したり機械的に伸展したりすると子宮の収縮活動が高まるが,これは,下垂体後葉からのオキシトシン放出を刺激することによる可能性が最も高い。

正常な陣痛は通常,分娩予定日の前後2週間以内に始まる。初産婦では,分娩は通常,平均12~18時間続く;経産婦の分娩はそれより短いことが多く,平均6~8時間である。

分娩中の合併症管理には追加の対策が必要である(例,陣痛誘発鉗子または吸引器の使用帝王切開)。

分娩時の異常と合併症も参照のこと。)

総論の参考文献

  1. 1.Technical Working Group, World Health Organization: Care in normal birth: A practical guide.Birth Issues in Perinatal Care 24(2):121–123, 2008.doi: 10.1111/j.1523-536X.1997.00121.pp.x

分娩の開始

卵膜の破綻または産徴は分娩開始の診断に役立つ。

分娩が始まる72時間程度前に,産徴(頸管からの粘液分泌物の混じった少量の血液)が先行することがある。産徴は,量が少なく,典型的には粘液が混じり,常位胎盤早期剥離(早期分離)による痛みがないことで第3トリメスターの異常性器出血と区別できる。大半の妊婦では,以前に行われたルーチンの超音波検査で前置胎盤が除外されている。しかしながら,超音波検査で前置胎盤が除外されておらず性器出血が起こった場合は,除外されるまで前置胎盤が存在するものと仮定する。このような症例では指による内診は禁忌であり,胎盤の位置を特定し常位胎盤早期剥離を除外するため,できるだけ早く超音波検査を行う。

分娩は不規則で強さも様々な子宮収縮とともに始まる;収縮により頸部は軟化(熟化)し,展退および開大し始める。分娩の進行に伴って,収縮の持続時間,強度,および頻度が増大する。

分娩の過程

分娩には3つの過程がある。

第1期は,陣痛開始から子宮口の全開大(約10cm)までであり,潜伏期および活動期の2つの期に分けられる。

潜伏期では,不規則な収縮が徐々に規則的になり,苦痛は軽微で,子宮口は展退,開大して4cmになる。潜伏期の時間を正確に計測するのは困難で,持続時間は様々であるが,平均的には初産婦で8時間,経産婦で5時間である;初産婦で20時間または経産婦で12時間を超えて続いた場合,持続時間が異常と考えられる。

活動期において,子宮口が全開大となり,先進部が骨盤中部まで十分に下降する。平均では,活動期は初産婦では5~7時間,経産婦では2~4時間続く。従来,子宮口は初産婦では1.2cm/時間,経産婦では1.5cm/時間開大すると考えられていた。しかしながら,最近のデータによると子宮頸管の開大は4cmから6cmではより緩徐に進行する可能性がありそれが正常でありうることが示唆されている。(1)。分娩の進行を評価するため,内診を2~3時間毎に行う。開大および先進部下降の進行が不十分な場合,難産(胎児骨盤不均衡)が示唆されることがある。

立位および歩行により分娩第1期が1時間以上短縮し,帝王切開率が低下する(1)。

自然に破水しない場合,活動期中に人工破膜(人工的な卵膜破綻)をルーチンに行う医師もいる。結果として,分娩がより速やかに進行し,胎便で混濁した羊水が早期に検出される場合がある。この時期の人工破膜が,胎児のウェルビーイングを確認する内測法による胎児モニタリングを可能にするなど特異的適応のために必要になることがある。HIV感染またはB型,C型肝炎の女性では,胎児がこれらの病原微生物に曝露しないよう人工破膜を避けるべきである。

分娩第1期では,母体の心拍数,血圧,および胎児の心拍数を,モニタリング用電子機器により継続的に,または聴診によって間欠的にチェックすべきである(通常はポータブルのドプラ超音波診断装置を用いる)(胎児モニタリングを参照)。先進部が骨盤内へ下降するに従い,妊婦はいきみの衝動を感じ始める。しかしながら,子宮口が全開大となるまでは,頸管を裂傷させないよう,または体力を無駄にしないよう,いきまないようにさせるべきである。

第2期は,子宮口の全開大から胎児娩出までの期間をいう。平均で,初産婦で2時間(中央値50分),経産婦で1時間(中央値20分)続く。伝達(硬膜外)麻酔または強力なオピオイドによる鎮静を用いる場合,さらに1時間以上長くなる。自然な娩出のためには,子宮収縮に加え,娩出を促進する妊婦のいきみが必要である。第2期では,妊婦に常に付き添い,胎児心音を連続的にまたは各収縮後に,チェックすべきである。収縮を触診により,または電子的にモニタリングする。

第2期では,潤滑剤を用いた会陰マッサージと温罨法により会陰が柔らかく,伸展しやすくなることがあり,これによって第3度~第4度会陰裂傷の発生率が低下しうる(2)。これらの手技は,助産師および分娩介助者により広く用いられている。会陰マッサージによる感染リスクを低減するための予防策を講じるべきである。

硬膜外麻酔なしの分娩において,第2期では(第1期とは対照的に),母親の姿勢は分娩時間や分娩様式,または母体や新生児の転帰に影響しない(3)。また,いきみの方法(自発的か指示を受けていきむか,遅らせるか直ちにいきむか)も,分娩様式,母体または新生児の転帰に影響しない。硬膜外麻酔の使用はいきみを遅らせ,第2期が1時間延長する可能性がある(4)。

第3期は,児の娩出後から胎盤の娩出までである。通常は数分で終了するが,最長で30分かかる場合もある。

分娩の過程に関する参考文献

  1. 1.Lawrence A, Lewis L, Hofmeyr GJ, Styles C: Maternal positions and mobility during first stage labour.Cochrane Database Syst Rev (8):CD003934, 2013.doi: 10.1002/14651858.CD003934.pub3

  2. 2.Aasheim V, et al: Perineal techniques during the second stage of labour for reducing perineal trauma.Cochrane Database Syst Rev 6:CD006672, 2017.doi: 10.1002/14651858.CD006672.pub3

  3. 3.Gupta JK, Sood A, Hofmeyr GJ, et al: Position in the second stage of labour for women without epidural anaesthesia.Cochrane Database Syst Rev 5:CD002006, 2017.doi: 10.1002/14651858.CD002006.pub4

  4. 4.Lemos A, Amorim MM, Dornelas de Andrade A, et al: Pushing/bearing down methods for the second stage of labour.Cochrane Database Syst Rev.3:CD009124, 2017.doi: 10.1002/14651858.CD009124.pub3

破水

ときに,卵膜(羊膜および絨毛膜)が分娩開始前に破れ,頸管および腟を通じて羊水が漏出する。陣痛開始以前の段階で起きた破水は,前期破水と呼ばれる。前期破水の生じた妊婦は,腟からの液体の噴出後,絶え間ない漏れを感じることがある。

診察中に液体が頸管から漏出しているのが認められたら,さらなる確認は必要ない。判断の難しい症例では,検査が必要である。例えば,腟液のpHをニトラジン紙で検査すると,pH > 6.5で濃紺に変化する(羊水のpH:7.0~7.6);腟液に血液または精液が含まれる場合や,一部の感染症が存在する場合は,偽陽性結果が起こりうる。後腟円蓋または頸管から分泌物の検体を採取し,スライドガラス上に置き,乾燥させ,シダ状結晶形成を顕微鏡で観察してもよい。シダ状結晶形成(羊水中の塩化ナトリウムのシュロの葉状の結晶化)により通常,破水が確認される。

破水の確証がそれでも得られない場合,羊水過少(羊水の不足)を示す超音波検査により破水を示唆するさらなる証拠が得られる。まれに,羊水穿刺で色素を注入して破水を確認する;腟内またはタンポンに色素が検出されることにより破水が確認される。

妊婦は破水が生じた場合,直ちに医師に連絡すべきである。満期(≥ 37週)で前期破水の女性の約80~90%,および早期前期破水(< 37週)の女性の約50%で,24時間以内に自然に陣痛が始まる;前期破水の生じた妊婦の90%超で,2週間以内に陣痛が始まる。37週以前では破水が早期であるほど,破水から分娩開始までの時間が長引く。満期で破水したが,陣痛が数時間以内に開始しない場合,母体および胎児の感染リスクを低下させるため,通常は陣痛を誘発する。

出産の選択肢

多くの女性が病院での分娩を選択し,大部分の医療従事者もそちらを勧めるのは,危険因子のない女性においてさえも,予測できない母体および胎児の合併症が,分娩中または分娩後に起こりうるからである。病院での分娩の約30%に産科合併症(例,裂傷,分娩後異常出血)がみられる。他の合併症には,常位胎盤早期剥離,胎児心拍数パターン異常,肩甲難産,緊急帝王切開の必要性,および新生児の呼吸抑制や異常がある。

それでもなお,多くの女性が分娩に関してより家庭的な環境を希望しており,それに応えて,堅苦しさや厳密な規制を少なくしつつ,緊急時に対応できる設備とスタッフをそろえた出産設備を整えている病院もある。出産センターは独立しているものと,病院内にあるものがある;これらのセンターでのケアは類似していたり,全く同一であったりする。免許をもつ助産師が,低リスク妊娠に対するケアの多くを行っている病院がある。助産師は医師と連携し,医師はコンサルテーションおよび鉗子・吸引分娩(例,鉗子,吸引,または帝王切開)に常に応じられるようにする。出産選択肢について全て話し合うべきである。

多くの妊婦にとって,パートナーまたは他の付き添い者が分娩に立ち会うことが有益であるため,奨励されるべきである。精神的支え,励まし,愛情表現は,不安感を減らし,陣痛で起こる恐怖心や不快感を和らげる。母親教室によって,両親は正常な,または合併症のある分娩に向けて準備できる。父親と母親の間,また両親と子の間の強い絆は,分娩のストレス,我が子の姿や泣き声を共有することにより築かれる傾向にある。

両親には,いかなる合併症についても完全な情報を与えるべきである。

入院

典型的には,破水していると思われる場合や,収縮が少なくとも30秒続き,約6分またはそれより短い間隔で規則正しく起きている場合,妊婦に来院するよう指示する。病院に着いて1時間以内に,妊婦が分娩に入ったかどうかは通常は以下に基づき判断できる:

  • 規則的で持続する,痛みのある子宮収縮

  • 産徴

  • 破水

  • および完全な頸管展退

これらの基準に満たなければ暫定的に仮性陣痛と診断する場合があり,典型的には妊婦をしばらく観察し,数時間以内に陣痛が始まらなければ帰宅させる。

妊婦が入院したら,血圧,心拍数と呼吸数,体温,体重を記録し,浮腫の有無に注意する。タンパク質と糖を検査するため尿検体を採取し,血算,血液型判定,抗体スクリーニングのため採血を行う。ルーチンの臨床検査が妊婦健診時に行われていなかった場合,行うべきである;これらの検査には,HIV,B型肝炎,梅毒,およびB群レンサ球菌感染のスクリーニングを含める。

身体診察を行う。腹部診察では,レオポルド手技を用いて,胎児の大きさ,胎向,および先進部を推定する(レオポルド手技の図を参照)。胎児心音の存在および心拍数を確認し,聴診のために胎児の位置を評価する。収縮の強さ,頻度,および持続時間の予備的な推定値も記録する。

評価に役立つ記憶法として,以下の3つのPがある:

  • 娩出力(power:収縮の強さ,頻度,持続時間)

  • 産道(passage:骨盤計測値)

  • 娩出物(passenger:例,胎児の大きさ,胎向,心拍数パターン)

レオポルド手技

(A)子宮底を触診し,胎児のどの部分が子宮底を占めているか確認する。(B)母体腹部の両側を触診し,胎児の脊椎側および四肢側を確認する。(C)恥骨結合上方の領域を触診し胎児の先進部の位置を決定し,胎児がどの程度下降しているかおよび胎児が嵌入しているかどうかを決定する。(D)片手で子宮底に圧をかけると同時に,もう片方の示指と母指で先進部を触診して胎位および嵌入を確認する。

陣痛が有効で妊娠が満期の場合,医師が,手袋をはめた2本の指で内診し,分娩の進行状況を評価する。出血(特に多量)があるときは,この内診は,超音波検査で胎盤の位置を確定するまで行わない。出血が前置胎盤によるものなら,内診により大量の出血が始まることがある。

陣痛は有効でないが破水しているときは,まず腟鏡診を行い,子宮口の開大と展退を確認し,station(先進部の位置)を推定する;しかしながら指診は,分娩の活動期になるまで,または何か問題(例,胎児心音の低下)が起こるまでは行わない。破水していれば,胎児のストレスの徴候の可能性がある胎便(ウグイス色の変色を起こしている)の有無に注意すべきである。陣痛が早産期(37週未満),または始まっていない場合は,無菌的腟鏡診のみを行い,さらに淋菌,クラミジア,B群レンサ球菌に対する培養を行うべきである。

子宮頸管の開大は,センチメートル単位で円の直径として記録する;10cmを全開大とみなす。

展退は0~100%の百分率で推定される。展退は頸部の菲薄化だけでなく短縮も含むため,正常の,展退していない平均的な頸管長である3.5~4.0cmを参考に,センチメートル単位で記録する場合もある。

stationは,先進部が母体の両坐骨棘のレベルよりどれだけ上または下にあるかを,センチメートル単位で示す。両坐骨棘のレベルはstation 0に相当する;坐骨棘より上(+)または下()のレベルを,センチメートル単位で記録する。胎位,胎向および先進部を記録する。

  • 胎位とは,胎児の長軸と母体の長軸との関係を示す(縦位,斜位,横位)。

  • 胎向とは,先進部と母体の骨盤との関係(例,occiput left anterior[OLA],sacrum right posterior[SRP])を示す。

  • 先進部とは,頸管開口部に位置する胎児の部位(例,殿部,頭頂部,肩)を示す。

分娩準備

分娩まで頻繁に観察するため,妊婦を陣痛室に入れる。陣痛が有効なら,分娩中における嘔吐および誤嚥の可能性を回避するため,または全身麻酔を伴う緊急分娩が必要になる場合に備えて,妊婦には口からほとんどまたは何も与えるべきではない。

外陰部の剃毛および陰毛カットは不要であり,むしろ行うことにより創傷感染のリスクを増大させる。

手または前腕の静脈に,できれば大口径の留置静脈カテーテルを挿入し,乳酸リンゲル液の点滴静注を開始する。正常陣痛の6~10時間に,妊婦にこの輸液を500~1000mL投与すべきである。静注により,陣痛中の脱水とそれに続く血液濃縮が予防され,十分な循環血液量が維持される。このカテーテルは,薬物投与や輸血が必要となった場合の即時の経路にもなる。補液の事前投与は,硬膜外麻酔または脊髄くも膜下麻酔が計画されている場合に有益である。器械分娩や帝王切開の可能性が低いとみられる場合,妊婦は残渣のない飲み物を飲んでもよい。

鎮痛

鎮痛薬は陣痛中必要に応じて与えてよいが,鎮痛薬は胎盤を通過して新生児の呼吸を抑制する可能性があるため,母体の快適のために必要な最少量の投与にすべきである。新生児毒性が起こりうるが,その理由は,新生児の代謝および排泄過程は未熟であり,臍帯が切断された後,移行してきた薬物を肝臓代謝または尿中排泄により排出するのが非常に遅いためである。出産に対する準備と教育を行うことで不安は軽減する。

陣痛中の麻酔の第1選択として,医師は硬膜外麻酔(区域麻酔をもたらす)を勧めることが多くなっている。典型的には,局所麻酔薬(例,0.2%ロピバカイン,0.125%ブピバカイン)を,腰椎硬膜外腔に,しばしばオピオイド(例,フェンタニル,スフェンタニル)とともに継続的に注入する。初めは麻酔薬を慎重に投与し,圧迫感の自覚(いきみの促進に役立つ)を遮蔽したりしないよう,また運動神経ブロックを起こさないように注意する。硬膜外麻酔によって帝王切開のリスクが増えないことを伝えて女性を安心させるべきである(1)。

硬膜外投与が不十分である場合,または静脈内投与が望ましい場合は,フェンタニル(100μg)または硫酸モルヒネ(10mgまで)の,60~90分毎の静注が一般的に使用される。これらのオピオイドは,非常に少ない総投与量で優れた鎮痛作用をもたらす。新生児に対する毒性が発現した場合,呼吸を補助し,ナロキソン(0.01mg/kg)を特異的拮抗薬として新生児に筋注,静注,皮下,または気管内投与できる。新生児の反応に基づき,必要に応じてナロキソンを1~2分間隔で反復投与する。先に投与したナロキソンの効果が弱まるため,初回投与から1~2時間後に医師は新生児をチェックするべきである。

フェンタニルまたはモルヒネでの鎮痛が不十分な場合,解毒剤のないいわゆる相乗作用薬(例,プロメタジン)よりも,オピオイドの追加投与または他の鎮痛法を用いるべきである。(これらの薬は実際に相加的であり,相乗的ではない。)相乗作用薬はオピオイドによる悪心を減少させるため,いまだときに使用されている;低用量を採用すべきである。

鎮痛に関する参考文献

  1. 1.Practice Guidelines for Obstetric Anesthesia: An Updated Report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on Obstetric Anesthesia and the Society for Obstetric Anesthesia and Perinatology*.Anesthesiology 124:270–300, 2016.doi: 10.1097/ALN.0000000000000935

胎児モニタリング

分娩中は,胎児の状態をモニタリングしなければならない。主なパラメータは,胎児心拍数(HR)基線および胎児心拍数細変動(特に子宮収縮および胎動に反応してどのように変化するか)である。胎児心拍数の解釈は主観的になりうるため,特定のパラメータが定義されている(胎児モニタリングの定義の表を参照)。

表&コラム
表&コラム

いくつかのパターンがみられる;3段階(カテゴリー[1])に分類され,通常胎児の酸塩基平衡状態に相関がある:

  • カテゴリーI:正常

  • カテゴリーII:中間

  • カテゴリーIII:異常

正常パターンは観察時点での胎児の正常な酸塩基平衡状態を強く予測する。このパターンでは以下の特徴が全てみられる:

  • 基線の心拍数が110~160/分

  • 胎動または収縮に伴う中等度の心拍数基線細変動(6~25拍)

  • 収縮中に遅発または変動一過性徐脈がみられない

正常パターンでは早発一過性徐脈および週数相応の一過性頻脈がみられる,またはみられない。

中間パターンは正常または異常と明らかに分類されないあらゆるパターンである。多くのパターンは中間に分類される。胎児がアシドーシスであるかどうかはパターンからは判断できない。中間パターンでは,あらゆる悪化を可能な限り早期に認識するために厳重な胎児モニタリングが必要である。

異常パターンは通常,観察時点で胎児が代謝性アシドーシスであることを示す。このパターンは以下のうち1つにより特徴づけられる:

  • 心拍数基線細変動の欠如に加え,反復する遅発一過性徐脈

  • 心拍数基線細変動の欠如に加え,反復する変動一過性徐脈

  • 心拍数基線細変動の欠如に加え,徐脈(細変動のない110/分未満または100/分未満)

  • サイナソイダルパターン(1分間に3~5サイクルで5~40/分の固定した変動,正弦波に似る)

異常パターンは是正のために迅速な対応(例,酸素補充,体位変換,母体低血圧治療,オキシトシン中止)または急速遂娩の準備が必要である。

パターンは特定の時点における胎児の状態を反映する;パターンは変化しうるし,実際に変化する。

モニタリングは,胎児心拍数を聴診するための胎児心拍聴診器を用いて,用手的におよび間欠的に行うことができる。しかしながら,米国では,電子的な胎児心拍数モニタリング(外測法や内測法による)がハイリスク妊娠管理の標準となっており,多くの医師が全妊婦に対して使用している。低リスク分娩でモニタリング用電子機器をルーチンに使用することの価値はしばしば議論される。大規模臨床試験では電子的胎児モニタリングが全死亡率を減少させることは示されておらず,帝王切開の割合を上昇させることが示されており,おそらくこれは見かけ上の異常の多くが偽陽性であることによる。したがって,電子的にモニタリングされている妊婦は,聴診によりモニタリングされている妊婦よりも帝王切開率が高い。

胎児のパルスオキシメトリーが,電子的モニタリングの異常または不明確な結果を確認する方法として研究されており,胎児の酸素飽和度の状態が帝王切開の必要性を判断するのに役立つ場合がある。

分娩時の胎児のST部分およびT波の評価(STAN)を胎児心電図でのST上昇または低下を調べるために使うことができる;どちらの所見もおそらく胎児の低酸素血症を示し,胎児アシドーシスに対する高い感度および特異度をもつ。STANのためには電極を胎児の頭皮に装着しなければならない;胎児心電図のT波およびST部分の変化が自動的に検出され分析される。

胎児心拍の用手的聴診を用いる場合には,一定のガイドラインに従い分娩中を通じて行わなければならず,1対1の看護ケアが必要となる。

  • 正常な分娩で低リスクの妊娠では,胎児の心拍数を各収縮後に,または分娩第1期中は少なくとも30分毎に,第2期中は15分毎にチェックしなければならない。

  • ハイリスク妊娠では,胎児心拍数を第1期中は15分毎に,第2期中は3~5分毎にチェックしなければならない。

遅発性一過性徐脈を調べるために収縮のピークから始め,少なくとも1~2分間聴取することが勧められる。定期的な聴診の方が,持続的な電子的モニタリングよりも,異常を示す偽陽性率や介入の発生率が低く,分娩中に妊婦とより多く触れ合いの機会がもてる。しかしながら,聴診の標準ガイドラインに従うことはしばしば困難で,費用対効果もよくないことがある。さらに,正確に行わなければ,聴診により異常を検出できない。

電子的な胎児心拍数モニタリングには以下のものがある:

  • 外測法:装置を母体の腹部に装着し,胎児心音と子宮収縮を記録する。

  • 内測法:この方法では破膜する必要がある。その後,リード線を子宮頸管を通じて挿入する;電極を胎児の頭皮に装着して心拍数をモニタリングし,子宮腔へカテーテルを留置して子宮内圧を測定する。

通常,外測法および内測法によるモニタリングは同等に信頼できる。外測法は正常な陣痛の妊婦に使用する;内測法は,外測法によるモニタリングでは胎児のwell-beingや子宮収縮の強さに関する十分な情報が得られないときに使用する(例,外測法の装置が正しく機能しない場合)。

ノンストレステストは外測法による電子的モニタリングを用いて胎児心拍数と子宮収縮を記録するもので,心拍数と胎動(母親により報告される)を相互に関連づける;胎児を覚醒させるために音(例,ベル,音響刺激装置)を用いることはあるが,検査の際に胎児にストレス因子を与えないことから,ノンストレスと呼ばれる。心拍数は胎児が動いているときやその他とびとびの間隔で増加するはずである。ノンストレステストは典型的には20分間(ときに40分間)行われる。20分間に15/分の一過性頻脈が2回みられる場合は,結果はreactive(reassuring)とみなされる。一過性頻脈がみられない場合はnonreactive(nonreassuring)とみなされる。遅発性一過性徐脈の存在は,低酸素血症,胎児アシドーシスの可能性,および介入の必要性を示唆する。

nonreassuringなノンストレステストでは通常その後にバイオフィジカルプロファイルを行う。バイオフィジカルプロファイルでは,超音波検査による羊水量の計測,ならびにときに胎児の動き,筋緊張,呼吸および心拍数の測定をノンストレステストに加える。ノンストレステストおよびバイオフィジカルプロファイルは,合併症のある妊娠またはハイリスク妊娠(例,母体糖尿病や高血圧が合併,以前の妊娠で死産や胎児発育不全の既往)のモニタリングにしばしば利用されている。

コントラクションストレステストオキシトシン負荷テスト)は現在ではまれにしか行われない。このテストでは,胎動および胎児心拍数をオキシトシンによって誘発された収縮中にモニタリングする(典型的に外側法による)。コントラクションストレステストを行う場合には病院で行わなければならない。

分娩中に問題(例,胎児心拍数低下,正常心拍数細変動の欠如)が発見された場合,子宮内胎児の蘇生術を行う;ぴったりとした非再呼吸式マスクによる酸素投与または急速輸液を行ったり,妊婦を横臥位にしたりする。胎児の心拍数パターンが相応の時間が経っても改善せず,分娩の始まる気配がなければ,帝王切開による急速遂娩が必要である。

胎児モニタリングに関する参考文献

  1. 1.Macones GA, Hankins GD, Spong CY, et al: The 2008 National Institute of Child Health and Human Development workshop report on electronic fetal monitoring: Update on definitions, interpretation, and research guidelines.J Obstet Gynecol Neonatal Nurs 37 (5):510–515, 2008.doi: 10.1111/j.1552-6909.2008.00284.x

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