視神経炎

執筆者:John J. Chen, MD, PhD, Mayo Clinic
レビュー/改訂 2022年 10月
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視神経炎は視神経の炎症である。症状は通常片眼性で,眼痛および部分的または完全な視力障害を伴う。診断は主として臨床的に行う。治療は基礎疾患に対して行う;大半の例は自然寛解する。

視神経炎の病因

視神経炎は20~40歳の成人に最も多い。大半の症例は脱髄疾患,特に多発性硬化症によるものであるが,多発性硬化症の場合は再発しうる。視神経炎は多発性硬化症の最初の臨床像となることが多い。その他の原因としては以下のものがある:

鉛,メタノール,キニーネ,ヒ素,エタンブトール,および抗菌薬などの化学物質および薬物は,真の視神経炎ではなく,視神経症を引き起こす。TNF-α阻害薬および免疫チェックポイント阻害薬は視神経炎を引き起こす可能性がある。

まれな原因としては,悪性貧血および全身性自己免疫疾患などがある。徹底的な評価を行っても原因は不明(特発性)であることが多い。

総論の参考文献

  1. 1. Chen JJ, Pittock SJ, Flanagan EP, et al: Optic neuritis in the era of biomarkers.Surv Ophthalmol 65(1):12-17, 2020.doi: 10.1016/j.survophthal.2019.08.001

  2. 2.Chen JJ, Bhatti MT: Clinical phenotype, radiological features, and treatment of myelin oligodendrocyte glycoprotein-immunoglobulin G (MOG-IgG) optic neuritis.Curr Opin Neurol 33(1):47-54, 2020.  doi: 10.1097/WCO.0000000000000766

視神経炎の症状と徴候

視神経炎の主な症状は視力障害で,しばしば数日以内に最大となり,程度は小さい中心暗点または傍中心暗点から完全な失明まで様々である。患者の多くは軽度の眼痛を有し,眼球運動時により痛く感じられることが多い。

最も特徴的な所見には,視力低下,視野欠損,および色覚異常(視力障害の程度に比例しないことが多い)などがある。他眼が障害されていない,または障害されていても程度がより低い場合は,通常は瞳孔求心路障害が同定できる。色覚検査は有用な補助検査であるが,男性の10%に先天性の色覚異常があるため,偽陽性となる。約3分の2の患者では,炎症は完全に球後性であり,視神経頭部には確認できる変化を来さない。残りの患者では,視神経乳頭充血,乳頭内または周囲の浮腫,血管の怒張,またはこれらの組合せを認める。わずかな滲出液および出血を乳頭近傍または乳頭上に認めることがあるが,視神経炎の大半の症例ではこれはまれである。

視神経炎の診断

  • 臨床的評価

  • MRI

特徴的な疼痛および視力障害を認め,特に若年患者であれば視神経炎を疑う。通常,神経画像検査(脳と眼窩のガドリニウム造影MRIが望ましい)が行われ,腫脹して信号強度が高くなった視神経が認められることがある。MRIは多発性硬化症,MOG抗体関連疾患(MOGAD),視神経脊髄炎(NMO)の診断にも役立つことがある。通常,NMOおよびMOGADでは視神経のより広範な増強が認められる。視神経炎が多発性硬化症と関連している場合は,MRIのFLAIR(fluid attenuating inversion recovery)画像で脳室周囲に典型的な脱髄病変が認められることがある。脊髄病変はいずれの脱髄疾患でもみられるが,通常はNMOおよびMOGADでより広範にみられる。血清中のNMOおよびMOG抗体を検査して,非定型または重度の視神経炎がないか確認すべきである。

パール&ピットフォール

  • 眼球運動に伴う眼痛および視力障害(例,視力低下または色覚低下,視野欠損)または瞳孔求心路障害がある若年患者に対し,ガドリニウム造影MRIを施行する。

  • 脊髄病変(多発性硬化症,NMO,またはMOGADでみられる可能性がある)を示唆する神経症状のある患者では,脊髄画像検査を行う。

視神経炎の予後

予後は基礎疾患に依存する。典型的な視神経炎の大半のエピソードは自然寛解し,2~3カ月以内に視力がかなり回復する。視神経炎患者における再発率は様々であり,病因に依存する。NMOやMOGADなどの基礎疾患を有する患者では,同側眼または他眼での再発率が高く,特にNMOでは視力回復が不良となる可能性がある(1)。将来的に脱髄疾患(特に多発性硬化症)が生じるリスクを判定するためMRIを行う。

予後に関する参考文献

  1. 1.Beck RW, Cleary PA, Backlund JYC, Optic Neuritis Study Group: The course of visual recovery after optic neuritis: Experience of the optic neuritis treatment trial.Ophthalmology 127(4S):S174-S181, 2020.doi: 10.1016/j.ophtha.2020.01.027

視神経炎の治療

  • コルチコステロイド

コルチコステロイドは選択肢の1つであり,とりわけ多発性硬化症または視神経脊髄炎が疑われる場合によく用いられる。メチルプレドニゾロン(1000mg,静注,1日1回)または経口プレドニゾンの生物学的同等用量(1250mg,1日1回;[1])を3日間投与した後,プレドニゾン(1mg/kg,経口,1日1回)を11日間投与する治療により回復を早められることがあるが,多発性硬化症または特発性視神経炎では,結果的に最終視力は経過観察のみの場合と変わらない。高用量コルチコステロイドの早期投与は,視神経脊髄炎(NMO)やMOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)抗体関連疾患(MOGAD; [2])などの非定型的な原因による視神経炎の転帰を改善する可能性がある。血漿交換はNMOの発作に対してしばしば用いられるほか,ときに他の原因による重度の視神経炎に対して,高用量のコルチコステロイドを投与しても回復がみられない場合に用いられる。低用量でのプレドニゾン経口投与単独の治療では視力の転帰は改善せず,再発エピソードの割合が高まる可能性がある。ロービジョン補助具(例,虫眼鏡,拡大読書器,音声付き腕時計)が役立つ可能性がある。多発性硬化症の患者には多発性硬化症の疾患修飾療法を行うべきであり,NMOの患者にはNMOに特異的な治療法を用いるべきである。再発を認めるMOGAD患者には長期の免疫療法が必要な場合がある。NMOおよびMOGADの患者には,多発性硬化症の特定の疾患修飾薬を投与すべきではないことに留意することが重要であり,このような薬剤は無効であったり,転帰を悪化させたりする可能性がある。

治療に関する参考文献

  1. 1.Morrow SA, Fraser JA, Day C, et al: Effect of treating acute optic neuritis with bioequivalent oral vs intravenous corticosteroids: A randomized clinical trial.JAMA Neurol 75(6): 690-696, 2018.doi: 10.1001/jamaneurol.2018.0024

  2. 2. Chen JJ, Pittock SJ, Flanagan EP, et al: Optic neuritis in the era of biomarkers.Surv Ophthalmol 65(1):12-17, 2020.doi: 10.1016/j.survophthal.2019.08.001

要点

  • 視神経炎は20~40歳の成人に最もよくみられる。

  • 最も一般的な原因は脱髄疾患であり,特に多発性硬化症,視神経脊髄炎(NMO),およびMOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)抗体関連疾患(MOGAD)が多いが,そのほかにも感染症,薬物,毒素が原因である可能性もある。

  • 所見としては,眼球運動に伴う軽度の痛み,視覚障害(特に視力の程度に不釣り合いな色覚異常),瞳孔求心路障害などがある。

  • 脳および眼窩のガドリニウム造影MRIを施行する。多発性硬化症が疑われる場合は,脊髄のMRIを施行する。

  • コルチコステロイドやその他の治療を行うことができる(特に脱髄疾患が疑われる場合)。NMOの発作または高用量のコルチコステロイドに反応しない重度の発作に対しては,血漿交換がしばしば行われる。

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