鼻腔パッキングによる前鼻出血の治療

執筆者:Waleed M Abuzeid, BSc, MBBS, University of Washington
レビュー/改訂 2023年 7月
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前鼻出血は多くの場合,患部の鼻腔パッキングによってコントロールできる。

鼻出血は,鼻腔前部または後部からの出血に起因する。

前鼻出血は,鼻の下部3分の1を15分間しっかりと圧迫し続けることによる指での圧迫で治療できる。圧迫は,治療に当たる医師が加えることもあれば,医師の指示の下で患者や介護者が加えることもある。指での圧迫の代わりに,市販のノーズクリップがあれば使用してもよい。鼻腔への局所血管収縮薬の使用は,指での鼻の圧迫の有用な補助となりうる。

つまんでもうまくいかず,出血部位に到達でき,前鼻鏡検査で出血部位を同定できる場合の次のステップは,焼灼で前鼻出血をコントロールすることであり,これにより鼻腔パッキングのいくつかの欠点(例,不快感,感染のリスク,パッキング材料の移動)を回避できる。焼灼が不成功に終わった場合または禁忌の場合,次のステップは鼻腔パッキングである。

鼻の圧迫および焼灼を行っても,出血部位が同定できない前方からの出血が続く場合は,鼻腔パッキングが必要である。

咽頭後壁に出血がみられるが鼻腔前部にはみられない場合は,後鼻出血を考慮すべきである。後鼻出血では管理方法が前鼻出血とは異なるため,可能な限り,出血部位を同定することが重要である。

鼻出血およびClinical Practice Guideline: Nosebleed [Epistaxis]も参照のこと。)

パッキングによる前鼻出血の治療の適応

  • 鼻腔前部の明確に視認できない部位からの出血

  • 鼻の圧迫および焼灼による鼻出血の止血が不成功に終わった場合

パッキングによる前鼻出血の治療の禁忌

絶対的禁忌

  • 頭蓋底骨折の可能性があるか,同定された場合

  • 顎顔面または鼻骨の重大な外傷

  • コントロール不良の気道または血行動態の不安定性

ここで述べる処置法は,自然発生した鼻出血または軽微な外傷による鼻出血を対象としたものである。重大な顔面外傷がある患者の鼻出血は,専門医が管理すべきである。

相対的禁忌

  • 出血側への重度の鼻中隔弯曲症(鼻腔パッキング材料の挿入が困難になる)

パッキングによる前鼻出血の治療の合併症

  • 鼻中隔穿孔の可能性がある圧迫壊死などの鼻粘膜損傷(特に両側の鼻腔をパッキングする場合)

  • 鼻腔前部のパッキングが後方の上咽頭領域に移動するか,誤嚥されて気道内に入る

  • 副鼻腔炎やまれに毒素性ショック症候群などの感染症

  • パッキング除去時の再出血

パッキングによる前鼻出血の治療で使用する器具

  • 手袋,マスク,ガウン

  • 患者用のガウンまたはドレープ

  • 吸引装置とFrazier型吸引管および/または他の吸引管付き吸引カテーテル

  • 鼻腔パッキング機器または鼻腔パッキング材料*

  • 膿盆

  • ヘッドレスト付きの椅子または耳鼻咽喉科用の椅子

  • 光源と額帯鏡または調節可能な細い光線のヘッドランプ

  • 鼻鏡

  • 舌圧子

  • バイオネット型鑷子

  • 鼻腔ガーゼやスポンジを切断するためのハサミ

  • 抗菌薬軟膏(バシトラシン)

  • 滅菌生理食塩水5mL

  • 麻酔薬/血管収縮薬の混合外用剤(例,4%コカイン,1%テトラカイン,または4%リドカイン + 0.5%オキシメタゾリン),または血管収縮薬のみの外用剤(例,0.5%オキシメタゾリンスプレー)

  • 綿棒または綿球

*鼻腔パッキングの材料/機器にはいくつかの種類があり,以下の吸収性のものと非吸収性のものに分けられる:

吸収性のパッキング

  • ゼラチントロンビン止血材

  • カルボキシメチルセルロース化合物

  • 酸化再生セルロース

  • 合成ポリウレタンスポンジ

  • キトサン含有ポリマー

非吸収性のパッキング

  • ポリ酢酸ビニルのスポンジ(ときに内部に気道チューブを伴う),理想的には頬に固定して誤嚥を予防し,抜去を補助できる抜去用の紐が付いたもの

  • カルボキシメチルセルロース繊維で覆われた,高容量,低圧の膨張式バルーン

  • 1本または2本のバルーンカテーテル

  • 幅1.25cm(1/2インチ)のワセリンガーゼ片

吸収性パッキングは非吸収性パッキングよりも不快感が少ない。留置に関する指示は吸収性パッキングの種類によって異なるため,製造業者の指示に従う。出血性疾患の患者,抗血栓薬を投与されている患者,および血管奇形(例,遺伝性出血性毛細血管拡張症)の患者では,非吸収性パッキングの除去に伴う粘膜外傷および再出血の可能性を回避するため,吸収性パッキングの使用が推奨される。

鼻腔用の非吸収性スポンジは,挿入しやすくなるよう高度に圧縮されており,水分を吸収すると拡張し柔らかくなる。鼻腔用スポンジおよび膨張式バルーンによるパッキングは,ワセリンガーゼ片より挿入が容易で不快感も少ないため,利用可能であれば望ましい。一部の種類の膨張式バルーンパッキングは,挿入と抜去を容易にするカルボキシメチルセルロース繊維で覆われており,患者の不快感を軽減する。

ワセリンガーゼ片の挿入は不快であり,しばしばある程度の鎮痛および/または軽度の鎮静(ただし,気道障害のリスクが生じるほどではない)を必要とする。したがって,この処置は,他の方法が奏効しないか利用できない場合にのみ行うべきである。

パッキングによる前鼻出血の治療に関するその他の留意事項

  • 抗凝固薬または抗血小板薬の使用について問診する。

  • 出血性疾患の症候がみられるか,重度または反復性の鼻出血がある場合は,血算,プロトロンビン時間(PT),および部分トロンボプラスチン時間(PTT)の結果を確認する。

パッキングによる前鼻出血の治療における重要な解剖

  • キーゼルバッハ部位は,鼻中隔前部の血管分水嶺領域であり,前鼻出血が最も起きやすい部位である。

パッキングによる前鼻出血の治療での体位

  • 患者を座位にし,頭部を伸展させてスニッフィングポジションをとらせる(耳鼻咽喉科用の椅子が望ましい)。患者の後頭部を支え,突然後方に動かないようにすべきである。患者の鼻が医師の眼と同じ高さに来るようにすべきである。

  • 持続する出血や嚥下した血液の嘔吐があった場合に受け止めるために,患者に膿盆を持たせておくべきである。

パッキングによる前鼻出血の治療のステップ-バイ-ステップの手順

最初のステップ

  • 患者に穏やかに鼻をかむよう指示して血栓を除去するか,慎重に鼻腔を吸引する。

  • 患者の鼻または頬に示指を当て,鼻鏡を柄が床と平行になるように(ブレードが縦に開くように)挿入する。

  • 明るいヘッドランプまたは額帯鏡(片手が空き吸引または器具を操作できる)を使用して,ゆっくりと鼻鏡を開き鼻を診察する。

  • 視界の妨げになる血液および血栓があれば,Frazier型吸引管付き吸引カテーテルを用いて全て除去する。

  • 鼻中隔前部のキーゼルバッハ部位からの出血および鼻の奥からの出血を検索する。

  • 血管収縮薬/麻酔薬の混合外用剤を塗布する:4%コカイン溶液または4%リドカイン + オキシメタゾリン約3mLを小さな薬杯に入れ,綿球2~3個をそれに含浸させ,縦に重ねるように鼻に挿入する(あるいは,オキシメタゾリンなどの血管収縮薬の外用剤を噴霧し,表面麻酔薬のみを含浸させた綿球を挿入する)。

  • 止血または出血の軽減,麻酔,および粘膜腫脹の軽減のために,外用剤を10~15分間塗布したままにする。

吸収性パッキングの挿入

  • ゼラチントロンビン止血材およびカルボキシメチルセルロースフォーム剤は,製造業者の説明書の概要に従って,使用前に溶解する必要がある。付属の鼻腔カテーテルにアプリケーターシリンジを装着する。カテーテルを鼻腔底に沿って愛護的に鼻腔内に進めた後,カテーテルの角度をわずかに上方に向ける。シリンジを引きながら,シリンジに愛護的に圧力をかけて,鼻腔内に止血材を充填する。

  • 酸化再生セルロースは粉末または繊維として供給される。粉末製剤は,広い表面に適用でき,精密な位置への挿入を必要としないため,鼻出血のコントロールに理想的である。その粉末は,カテーテルが接続された注射器型の投与装置に充填された状態で提供される。鼻腔内にカテーテルを挿入する。止血粉末で鼻腔表面をコーティングするために,必要に応じて投与装置で送り込む。

  • 合成ポリウレタンおよびキトサン含有ポリマーは,吸収性スポンジとして提供される。挿入方法は非吸収性スポンジの留置の場合と同様である。スポンジを顔面に対して垂直に置き,鼻腔底に対して平行に前進させるが,この操作は1回の滑らかな動きで行う。挿入前にスポンジに薬剤や物質を付けてはならない。スポンジは血液を吸収すると自動的に膨張する。

  • 吸収性パッキングを留置した後は,出血がコントロールされていることを確認するために,必ず患者を少なくとも10分間観察する。

圧縮された(拡張式)非吸収性の鼻腔用スポンジの挿入

  • スポンジをバシトラシンやムピロシンなどの外用抗菌薬軟膏でコーティングする。軟膏には,スポンジを滑らかにして挿入を容易にする役割もある。

  • スポンジの長さと幅を鼻に合うように切る。市販されている典型的な8cmの鼻腔用スポンジは,調節することなく成人の鼻腔に合わせることができる。

  • スポンジを顔面に対して垂直に挿入し,鼻腔底に対して平行に前進させるが,不快感を減らすため,この操作は1回の滑らかな動きで行う。

  • スポンジを適切に挿入した後,18~22Gの留置針を用いて生理食塩水または局所麻酔薬5~10mLをスポンジに注入して,スポンジを拡張させる。

  • 紐(ある場合)をガーゼに巻き付けて後方へのずれを防ぐか,紐を頬にテープで留める。

  • 必要であれば,2個目のスポンジを挿入して鼻腔を満たす。両方のスポンジの先端が鼻孔の高さにあるか,わずかに突出していることを確認する。

  • スポンジ挿入後10分間は患者を観察し,出血がコントロールされていることを確認する。

膨張式のバルーン機器の挿入

  • バルーンの外側にカルボキシメチルセルロース繊維がついている場合は,機器を滅菌水に30秒間浸す(生理食塩水に浸してはならない)。製造業者の指示に従うこと。

  • 機器を顔面に対して垂直に挿入し,プラスチックの輪が鼻腔内に入るまで,鼻腔底に対して平行に前進させる。

  • 20mLシリンジを用いて,パイロットカフが丸く硬くなるまで機器を空気で膨らませる。水や生理食塩水で膨らませたり,機器に潤滑剤や抗菌薬軟膏を塗布したりしてはならない。

  • テープまたは透明なドレッシング材を用いて,拡張ポートを患者の顔面に固定する。

ワセリンガーゼパッキングの挿入

  • 処置に耐えられる可能性が低いと思われる患者には,低用量の鎮痛薬の静脈内投与を考慮する(例,フェンタニル0.5~1.0μg/kg,最大用量100μg,65歳以上ではより低用量とする可能性あり)。

  • ワセリンガーゼを端から約10cmの位置でバイオネット型鑷子で把持する(これによりガーゼを挿入する深さが決まる)。ワセリンガーゼ片の端が鼻孔のすぐ外にくるまで,ガーゼ片を後方へ,鼻腔底と平行に鼻腔内に進める。

  • 再び8~10cmのガーゼ片を把持し,鼻腔底と平行に挿入して鼻腔の全長にわたって伸展するように,前のガーゼ層の上にじゃばら状に重ねる。

  • 毎回,1回の動作で鼻の奥まで挿入できる長さのガーゼ片を把持する。

  • パッキングが後方に滑らないように,各層を前の層より若干前方に置く。

  • 何層か置く毎に,パッキングをバイオネット型鑷子で押し下げて圧縮する。

  • 鼻腔が充填されるまで,ガーゼ片の層を重ね続ける。全長にわたるガーゼ片(典型的には長さ180cm[72インチ])が必要になることがある。

パッキングによる前鼻出血の治療のアフターケア

  • 鼻出血の治療後4日間はアスピリンまたは非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を使用しないよう患者に助言する。

  • 前部への非吸収性パッキングは通常,3~5日間留置する。

  • 鼻腔用の非吸収性スポンジは1日3回,水または生理食塩水で湿らせるべきである。

  • 吸収性の鼻腔パッキングは湿気への曝露により溶解する。パッキングの溶解を促進し,鼻腔の痂皮形成を減少させるために,患者は鼻腔に生理食塩水のスプレーを1日3回噴霧すべきである。

  • 副鼻腔炎やまれに毒素性ショック症候群が起きるリスクがわずかにあるため,1コースの抗菌薬による治療を考慮する。

  • 非吸収性または吸収性パッキングの留置後5日以内にフォローアップを行い,パッキングの除去(非吸収性製品の場合)を可能にするとともに,鼻粘膜の適切な治癒をモニタリングする。

パッキングによる前鼻出血の治療の注意点とよくあるエラー

  • 鼻鏡を側面に向かって開いたり,支えなしで使用したりしてはならない。(鼻鏡を持つ手の指を患者の頬または鼻に当てて支える。)

  • スポンジまたはバルーンは鼻腔底と平行にまっすぐ奥へ挿入し,鼻の外形と平行になるよう上方に傾けてはならない。

  • ガーゼが鼻腔前部に集まらないようにすること;包装されたガーゼの全長の180cm(72インチ)近くまで挿入できない場合は,おそらく十分な深さまで挿入されていない。

  • 膨張式のバルーン機器を使用する場合は,鼻中隔の圧迫壊死を引き起こす可能性があるため,過度の膨張を避ける(特に両側に用いる機器)。

  • 膨張式のバルーン機器を抜去する際は,抜去前に完全に脱気する。

パッキングによる前鼻出血の治療のアドバイスとこつ

  • 術者がかがむよりも,患者の椅子を眼の高さまで上げた方が,術者の腰にかかる負担が軽くなる。

  • 必要であれば,対側の鼻腔をパッキングすることで,鼻腔パッキングを改善し鼻中隔弯曲を予防できる。

  • 圧縮された鼻腔用スポンジは,挿入前に吸収性の酸化再生セルロース繊維の層で包むことで,止血を容易にすることができる。

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